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社会福祉NOW(2016年9月)

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寄りあってともに生きる家―東京の多様な住まい方

私たちにとって、安らぎ・くつろぎの場として欠かせない住まい。

今号では大都市東京における多様な住まい方として、福祉的視点をあわせ持つ「寄りあってともに生きる家」を紹介します。

東京は進学、就職等のライフステージの変化等をきっかけに、毎年多くの転入・転出があります。

そのような中、ひとつの住まいに複数の他人が寄りあい暮らすシェアハウスが若者を中心に増えています。そこでは家族のかたちにかかわらず、人々がともに住まい、住まいづくりに参加することで、コミュニティの再生や、さまざまな住まい方を実現するための可能性が広がってきています。

高齢者と大学生のホームシェア―NPO法人 街ing本郷

住民の方(高齢の方1人と大学生2人)
地域に住むさまざまな人をまきこみ、文京区本郷地区のまちづくりをすすめているNPO法人 街ing本郷(マッチングほんごう)が行う「ひとつ屋根の下プロジェクト」は、平成22年より地域の空きアパートを活用する「書生プロジェクト」がきっかけとなり始まりました。文京区内の大学に通う学生が地域活動への参加を条件に、区内に住むシニア宅の空き部屋を3万円ほどの安い賃料で借りてともに住まうというものです。シニアと大学生は自分たちで共生のルールを決めます。具体的には一緒にご飯を食べて団欒する共通の時間を持ったり、地域の行事や清掃等の手伝いにともに参加するなどです。

街ing本郷は、面談や参加者の募集、学生とシニアのマッチング部分を担っています。現在1組のシニアと大学生がともに暮らしています。また、別のシニアと大学生それぞれ2名ずつがホームシェアを希望し、共生の準備をしています。

入居者の団欒の様子
「人の気配があるとやっぱりいいね」
「若者にちょっとしたことを頼めるから助かる」とシニアからの声

本郷の商店街で鮮魚店を営みながら法人の代表理事を務める長谷川大(はせがわ だい)さんは、地域のひとり暮らしシニアが増加する一方で、まちづくりの参加者や高齢者を見守る担い手が減っていることが地域課題のひとつであると感じていました。そこで、多くの大学がある文京区の特性を活かし、大学のそばに安い賃料で住みたい学生のニーズ・まちづくりの担い手不足という地域のニーズと、家族が独立して空き部屋が増えているシニアの住まい(=地域資源)をむすびつけてみようと考えました。

長谷川さんは、「以前、体調を崩して倒れてしまった家主を、学生が見つけて搬送し、一命をとりとめたことがあった。誰かが同じ家にいてくれるだけで、こんなこともありうるのかと驚いた」と話します。

マッチング本郷代表理事の長谷川さん
代表理事の長谷川さんは老舗鮮魚店「魚よし」の店主

街ing本郷の取組みが広まるにつれ、一緒に住まわなくても、まちづくりに興味がある大学生、若者と交流を持ちたいシニアや、「地域のために何かしたい」という住民が長谷川さんのもとに集まってきてくれるようになりました。また、民生児童委員から児童養護施設退所者の受入れについて相談を受けたり、多世代共生連絡協議会として、行政、文京区社協、住民団体、学識経験者、福祉事業者など関係機関とのつながりが生まれています。

障がいのある人もない人も安心して暮らせる家をつくる―NPO法人ぱれっと

「ぱれっとの家いこっと」表札
NPO法人ぱれっとが平成22年に渋谷区東に設立した「ぱれっとの家 いこっと(以下、いこっと)」は、知的障害のある方とない方がともに暮らす家です。福祉施設ではないので介助者はいません。一人ひとりが個室を持ち、共用のキッチンとリビングがあります。家賃は6・2~6・8万円で、「ぱれっと」の趣旨に賛同でき、就労していることが入居の条件です。

現在、知的障害がある方3名と、ない方3名がともに暮らしています。年齢層は30代が中心です。月1度の入居者ミーティングでは、どんな暮らしがしたいかを話してお互いをよく知り、共用部分の使い方などのルール決めや、備品係・会計係などの役割分担等、よりよく暮らすために、自分たちで住まい方をつくっています。

NPO法人ぱれっと・ぱれっとインターナショナル・ジャパン代表の谷口奈保子さんは「一流企業に勤めているけれど包丁にさわったことがない方がいて、料理が得意な他の入居者に教わっている。そのような入居者をみていて、障害がある・ないにかかわらず、環境の大切さを実感する」と話します。他にも、誰かとともに住むという環境によって、コミュニケーションが苦手な方が人とのかかわりを少しずつ積み重ねていけたこと、ゴミ出しなどの生活習慣が身についていったこと、係などの役割を任されることが自信になり、自信が笑顔につながっていくところなどをたくさん見てきました。

  ドアの貼紙「かいだんの歩く音もひびくのでしずかにおねがいします」「ドアの音、しずかにしめよう。」

机の上のメモ「ゴミは朝出す事 ゴミは夜出さない事」

ここで得た信頼関係と経験は自信につながり、「考え方が変わった!」と話す入居者もいます

新しい「ぱれっと」の建物を建てる際、障害のある方が出入りすることを伝えると近隣住民から反対の声があがったと谷口さんは言います。そして「障害のある方が外に出て行かなければ、地域住民はそのような方が地域にいることや、手の差し伸べ方もわからないまま。人が多いこの地域で障害のある方と直接触れ合うことはとても大切なこと。『いこっと』で障害のある方が地域につながる環境を整え、彼らも社会の中で生きていることを地域で暮らす方々に知ってほしい。そして同じような取組みがもっと広がっていってほしい。障害のある人が社会や地域につながっていくことで、彼らの住まい方やはたらき方、遊び方の選択肢がもっと増えていくはず」と話します。

若者たちがどんな家庭状況でも、学びの目標を達成できるように―NPO法人 学生支援ハウス「ようこそ」

リビング(テーブルとイス、ソファー)
北区にある一軒家。ここは、NPO法人 学生支援ハウスようこそが築60年の空き家をリフォームし、平成28年4月にオープンしたシェアハウスです。1階にはキッチンと共用のリビングと浴室、スタッフルーム、2階には4畳半の個室が5つあります。

共有スペースのピアノ
児童養護施設を退所後、進学を選んだ若者は、奨学金を受けていても、家賃や生活費、学生生活を維持するための費用などをアルバイトをして捻出しなければなりません。そして学業とアルバイトの両立が困難になった末に、誰にも頼れずに中退に追い込まれてしまう若者たちがいます。そういった過酷な状況の若者たちの学生生活を卒業まで見守り、サポートしようと、立教大学名誉教授の庄司洋子さんを中心に、学識経験者や福祉関係の専門職らが集まり、オープンに至りました。

入居条件は学校に籍がある女性で、朝夕の食事・光熱水通信費込みの利用料5万円が払えることです。女子栄養大学専任講師で、ようこそ事務局次長の深田耕一郎さんは、入居条件が女性である理由について「生活困窮に陥ったとき、より危険な状況に置かれやすいことから、まずは女性から支援していくことにした」と話します。

現在4名の学生が入居しています。アルバイトのために朝早く出かける学生もいれば、夜遅く帰ってくる学生もいます。ホワイトボードにハウスを出る時間と帰宅時間、夕飯の有無を書くこと、門限は0時で、遅くなるときは連絡することがルールです。ようこそには、ハウスアテンダントと呼ばれるスタッフが夕方から朝まで泊まり込みで常駐しています。児童養護施設や母子生活支援施設で長く働いていた経験があり、週5日、入居学生の食事作りや見守りをしているハウスアテンダントの木幡万起子さんは「学生たちにとって自分が帰れる家があって、『おかえり』と待っていてくれる大人がいることは大切なこと。『病気になったとき、そばに人がいてくれてありがたかった』と学生たちからの声がある」と話します。学生たちの生活時間はそれぞれですが、木幡さんはいつも帰ってくる学生たちの表情や様子を気にかけています。木幡さんのように信頼できる大人がいつも家にいて見守ってくれていること、ちょうどよい距離感で接することで、学生は「私は大切にされている」「ここは安全な場所だ」と感じることができるのです。

ハウスアテンダントの木幡さん
ハウスアテンダントの木幡さん

深田さんは「施設退所後の若者たちへの就学支援は少しずつ広がってきたところ。ここを就学支援型のモデルとして発信していきたい。その際には、ハウスアテンダントの存在や役割の大切さをしっかりと伝えていきたい」と話します。

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福祉の視点をもった住まいとして、生きづらさを抱えた方の多様化・複雑化したニーズへ対応するための住まい支援が取組まれています。私たちは、地域の一員として、どこで・誰と・どのように生きていくかを選び、自分たちで住まい方をつくっていくことができるのです。

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月刊「福祉広報」

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