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社会福祉法人新田保育園(足立区)
保育園に常設の子育てサロンを設置し、子育て中の親子の「居場所」をつくっている足立区の新田保育園「子育てサロン新田 ひまわり」を紹介します。足立区内に63か所ある子育てサロンのうち、保育園に設置し、その保育園の職員が担当として行っているのは「ひまわり」のみです。保育園の環境と、保育士の専門性を十分に活かし、子育てに悩む親たちの"心"の居場所となっています。
福祉広報2014年08月号
新田保育園は昭和22年に青空保育としてスタートし、創立67年を迎えた歴史ある保育園です。子育て支援事業を始めたのは平成17年、子育て広場という名目で、週に1度園内のホール・園庭を使って開催していました。
足立区新田は、隅田川と荒川に挟まれた地域です。環状七号線が近く、以前は工場や倉庫が多くありました。平成17年頃は子どもの数も少なかったため、「保育園を地域に知ってもらい、園児を増やしたい思いから始めた」と、主任保育士の村越さんは振り返ります。その後、新田地域の再開発で大型のマンションが続々と建設され、子育て世帯が増えました。今では新田地区が、足立区の中で一番出生率が高い地域となりました。また、転居してきた子育て世帯が多いため、親族などが近くにおらず、孤立して子育てをしている世帯が多い現状があります。
そして、平成20年に新田保育園は新園舎となりました。それに伴い地域のニーズに応えて、園舎の3階に週5日開所の「子育てサロン新田ひまわり」と、「一時保育室たんぽぽ」を設置しました。
週5日開所のサロンには、主に0~3歳の子どもとその母親が、常時おおよそ15組前後が訪れます。「いつでも行ける場所ということに意味がある。子どもたちはこの広い空間でおもいっきり遊んで、そして家でぐっすり寝る。それがお母さんのストレス軽減にもなる」と、村越さんは常設の利点を話します。地域住民同士の関わりが薄くなっている中、困った時にすぐに相談できる場はとても貴重です。
室内遊びの様子
また、サロンには子どもとどのように遊んでいいのかわからない親が多く来ます。保育園で行っている遊びを紹介したり、保育園の行事で参加できるものには積極的に誘ったりしています。保育士が見本となって遊ぶ姿を見せることで、親子ともにだんだん自分から遊べるようになっていきます。また、離乳食の相談に乗ったり、毎月身体計測を行う日を設け、発育相談に乗ったりと、様々な悩みに対応できる体制を整えています。
いつ行っても担当保育士の村本さんがいることが、親子が安心して利用ができ、相談しやすいポイントとなっています。「安心して来てもらうことが継続につながる。そして、また来てくれた時には、前回の話をして、ちゃんと覚えていることを伝えるようにしている」と、村本さんは話します。
このように、同じ職員が対応する必要性を感じ、新田保育園ではサロンに正規職員を1名配置しています。しかし、区から子育て支援事業として出ている補助金だけでは難しいため、園の自助努力で補っています。
以前、周りの子にすぐ手が出てしまう子どもがサロンに来ていました。母親はそれに悩み外に遊びに行くのが嫌になっていました。しかし、それではその子にとって友達との関わりを学ぶ大事な機会が失われてしまいます。村本さんは「子どもなら誰もが通る発達の姿」だということを、この母親だけではなく周りにいる親にもあえて伝えました。みんなで共通認識を持てるようにし、親同士のトラブルを回避できるように対応しました。
また、大人が関わり方の手本を見せる中で、子どもが言葉で気持ちを伝えることができた時に、共に子どもの成長を喜び合ったというケースがありました。同じような悩みを持った親がサロンには多く来ます。それに対して保育士の経験を生かしながら対応できることは、保育園でサロンを行っているからこその利点です。
また、保育士だけではなく、食事の相談に栄養士からの意見を伝えることもあります。年に1回のミニ遠足では給食室と連携し、参加する親子のお弁当を用意します。
近くの土手でミニ遠足
在園児との交流も利点の1つです。母親は行事などを通して園児と関わることで、「自分の子も大きくなったらこういう風になる」と、発達の道筋が見えます。また、保育園の5歳児がサロンに来て、優しく思いやりのある姿を見せてくれました。在園児にとっても良い経験となっています。
在園児と交流を行う上で、交流するクラスの担任との連携が重要です。以前、保育園の子どもたちが落ち着いている1~3月頃にクラス担任の保育士に、実際にサロンに入ってもらう機会を設けました。今後もサロンの保育士と、クラス担任の保育士が相互理解をした上で、連携を深めながら在園児との交流を増やしていきたいと考えています。
サロンの評判が口コミで広がり、登録者数は年々増加して、現在では年間100組以上の親子が登録しています。保健所から紹介された親子が来るようにもなりました。時には、母親に一時保育を利用してリフレッシュしてもらう提案をしています。また、サロンでつながった親同士でママサークルができたという嬉しい知らせもありました。このように地域での子育て支援を工夫しながら行っていく中で、「サロンに来ていた親子が、保育園に入園してくるケースが年々増えている」と村越さんは嬉しそうに話します。サロンに来て、保育園の行事に参加するなどして、園の雰囲気や良さを体感してもらうことが、一番の宣伝になっているのです。
親子にとっては馴染みのある保育園に入園することで、入園時の不安が軽減され、保育士にとっても自園の良さを知っている安心感があります。また、担任となる保育士がサロンでの子どもの姿を事前に把握できる利点もあります。
子育てサロン新田ひまわりでは、保育士の専門性を活かし、サロンで出会った親子が地域に仲間を作っています。子育てに困った時にはいつでも頼れ、「心」の居場所を求める親子を支えています。これは、孤立して子育てをする親子の居場所づくりとしての役割を担っています。
地域にはさまざまな親子がいて、ニーズもそれぞれ違います。特徴の異なるサロンが地域で役割分担し、厚みをもった支援を行うことが必要です。親子のニーズに合わせて子育てサロンを選べることが、より子育てのしやすい地域を作り上げます。
Ikuyo Murakoshi 村越いくよ(左)
新田保育園 主任保育士
Miho Muramoto 村本美穂(右)
子育てサロン新田 担当保育士
〒123-0865 東京都足立区新田2-1-10
TEL:03-3911-0977
http://www.shinden-ad.or.jp/
昭和22年より青空保育としてスタート。昭和26年12月に東京都の認可。昭和43年9月3日社会福祉法人の認可取得。定員91名、職員数39名。