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【コラム】このヒトに会いたい

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渋谷 行成

YUKINARI SHIBUYA

新宿区立かしわヴィレッジ施設長

ただなんとなく語り合う場所
渋谷行成さんは、母子生活支援施設の施設長です。子ども達の心に沈んだ「不信感」を人と人との関係の中で修復していくために、学習支援や食事会などを通して入所中・退所後の子どもや地域の子どもの居場所作りをしています。

福祉広報 2013年6月号 明日の福祉を切り拓く

 

同じ釜のご飯を食べるという「チャーハンの会」

母子生活支援施設である新宿区立かしわヴィレッジでは、毎週月曜日に思春期の子どもたちが同じ時間に同じ場所に集まり、同じ釜のご飯を食べるという「チャーハンの会」を数年前から実施しています。毎週月曜日、午後4時頃から子どもたちは、学童保育が行われている集会室に集まります。小学生の学習指導を手伝ったり一緒に遊んだりする子どももいれば、集会室には入らずゲームをしながら、「チャーハンの会」が始まるのを待っている子どももいます。学童保育が終わる6時になるのを待って「チャーハンの会」が始まります。それから、私が作った料理を囲んで、特別なことは何もしない、なんとなく語り合うという時間を過ごしています。ただそれだけのために10名程の思春期の子ども(なぜか男の子ばかり)たちが、1時間もかけて、かしわヴィレッジに通ってくるのです。その中には、長い間、ひきこもり状態や不登校の子どももおり、この場所がなかったら、部屋から一歩も出ることもなく、唯一の外出が「チャーハンの会」への出席だという子どももいます。

「チャーハンの会」は、ひきこもりだったA君(かしわヴィレッジの退所者)を部屋から誘い出すために、皆でA君の家の近くのラーメン屋さんへ行き、「近くのラーメン屋さんに皆でいるからおいでよ」と誘ったのが始まりでした。その店で一番安かったチャーハンを7人前頼んだことから、「チャーハンの会」と呼ばれるようになりました。その後は施設で私の手作り料理を囲んで、なんとなく語り合う場所(時間)となっていきました。

何かあったら駆けつける、それは所属感

参加している子どもたちは、かしわヴィレッジや「チャーハンの会」のことを非常に大切にしています。その想いは、私以上だと感じることがあります。子どもたちは、仲間の突然の引越しや職員の結婚等、施設や仲間に何かあった時には、律義に必ず駆けつけてきます。何かあったら駆けつける、それは所属感ともいえます。その律義さは、私には、どこにも所属していないことへの恐怖心から、必死にどこかに所属していることを証明しているようにも映ります。不登校やひきこもりの子どもたちの多くは、「どこにも所属していないことへの不安」と「所属することへの不安」を心の中に同居させています。ひきこもり状態から抜け出せない部屋か学校(社会)の二者択一ではなく、その間に存在する場所で、二つの不安の軽減を図っています。ここに集まる10名程の子どもたちにとって、部屋でも学校でもない場所として、人とのつながりに慣れていく場所として、「チャーハンの会」は細々とではありますが存在しています。

「チャーハンの会」には、虐待の影響を受けた子どもや「家での記憶は恐怖でしかない」、「ご飯の時間が最も緊張した」と言う子ども、過去にホームレス状態だった子どももいます。その中には、同じ場所に集まり、手作りの料理を食べながら、なんとなく語り合うという体験さえ、ほとんど経験してこなかった子どもたちもいます。そうした子どもたちに、「楽しい食事の時間」を体感してもらう、それが「チャーハンの会」のもうひとつの役割でもあります。

突然、遠くに引越しをしたB君から電話があり、「そういえば今日は月曜日だね、渋ちゃん今日のチャーハンの会のメニューは何?」と聞かれ、その日のメニューを答えると「いいなぁ、僕も行きたい」と羨ましげな声が返ってきました。そんなB君が引越前日、私に最後にリクエストしたのも「チャーハン」でした。B君だけではなく、チャーハンの会を懐かしく思い出してくれる子どもたちがいます。その中には、「ご飯の時間が最も緊張した」、「家での記憶は恐怖でしかない」と語っていた子どもたちも含まれています。

児童福祉施設は、子どもたちが今まで出会ってきたことのない大人や環境と出会う場所だと私は考えています。辛い体験をしてきた子どもたちが今まで出会ったことがない大人と出会い、他愛もない共通の思い出を積み重ねながら、「人間不信」を「人って優しい」に、「大人不信」を「大人って面倒くさいけど信頼できる」に変えていく、それこそが私たちの仕事であり、児童福祉施設の存在意義と言えるでしょう。

しぶや ゆきなり 

1958年生まれ。かしわ塾(無料の学習塾)の実施や施設内メンタルフレンド(DVを目撃した子ども等へのこころへの支援)を配置、不登校やひきこもりの子どもへの支援として「チャーハンの会」(毎週月曜日、不登校やひきこもりの子どもへの支援)を実施する等、「人間関係は捨てたもんじゃない」と利用者に感じていただけるよう支援を展開。退所後も年間延べ数で約2千名以上の子どもたちやお母さんが遊びにきている。

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