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アクティブ福祉 Digital特集

「福祉・介護職場への就職や福祉を学ぶ学生のいま~コロナ禍の影響や現状」

2020年に日本で新型コロナウイルス(以下、コロナ)が流行して以来、福祉や介護を学ぶ学生を取り巻く環境は大きく変化しました。本特集では、養成校教員と施設の人事担当者によるオンライン座談会を通じて、コロナ禍がもたらした学生への影響と、学生支援のために教育機関と施設が取り組むべきことなどをお伝えします。
※本座談会は令和4年10月31日にオンラインで開催されました。発言や肩書は当時の状況に基づきます。

参加者(敬称略)

永嶋 昌樹(ながしま まさき)

日本社会事業大学 社会福祉学部 准教授

細野 真代(ほその まよ)

日本福祉教育専門学校 介護福祉学科 学科長

関澤 孝文(せきざわ たかふみ)

特別養護老人ホームひのでホーム 広報戦略課 マネジャー

德山 滋久(とくやま しげひさ)

特別養護老人ホームはるびの郷 副施設長

秋元 拓(あきもと たく)

特別養護老人ホーム第二光陽苑 生活相談員

進行:大住 優(おおすみ まさる)

特別養護老人ホームあかね苑 施設長

 

オンライン座談会の様子
オンライン座談会の様子
 

コロナ禍による学生への影響

大住 福祉教育の現場に対し、コロナ禍がどのような影響を及ぼしたか聞かせください。

永嶋 昌樹氏

永嶋 コロナ禍により、授業のオンライン・オンデマンド化を余儀なくされました。現在は学年全員が出席する授業はオンライン、少人数での実習指導などは対面など、授業規模によって形式を使い分けています。通学日数も、感染状況や社会の捉え方に応じて変更されています。

カリキュラムの進行では実習時期が半期遅れるなどの影響が発生しています。また、授業の前後の雑談、先輩後輩とのつながり、サークル活動など、人とふれあう大切な機会が少なくなってしまったと感じています。

細野 本学では一昨年はほぼオンライン授業、昨年はハイブリッド、本年は基本的に対面授業となりました。感染状況に応じて実習時期をずらすことがあり、カリキュラムの変更が頻繁にありました。

実習に行くタイミングで受け入れ施設でコロナが発生し、実習にいけなくなるケースもあります。その場合の対応は、延期、中止のケースがそれぞれ半分程度で、3割程度の学生に履修の遅れが出ています。中止の場合は新たな実習受け入れ先を、時間の限られている上の学年から優先して調整します。学生は実習、カリキュラム変更、国家試験対策など様々なことに不安を感じている印象です。

施設での実習受け入れへの取り組み

​大住 施設での実習受け入れでは、学生とそのご家族、養成校など様々な方面との調整が必要となります。養成校を対象としたアンケートでも、実習を断られたことがあるという回答は97%に達していました。実習受け入れにおける取り組みや工夫をお聞かせください。

関澤さん

関澤 孝文氏

関澤 次年度の実習の相談を頂いた際には、基本的には受け入れを行っています。また、ある学生の別施設での実習3日目に施設内でコロナが発生した際に、当施設にて1か月程度で準備して受け入れたケースがあります。実習では、コロナ禍における介護の現場のリアルな状況や対応を学んでもらうようにしています。イベントを工夫して実施したところを見てもらうなどにより、充実した実習が出来たという養成校からの報告もありました。

秋元 当施設では実習受け入れの時期に施設内でクラスターが発生し、養成校にご迷惑をおかけしたこともありました。学生やそのご家族は不安があったと思います。受け入れに際しては、健康チェック表への記入やPCR検査、コロナ発生時には実習中止とする対応の了解をいただくなど、学生にも負担をおかけしたと感じています。
 

德山 当施設では養成校からの依頼を受け、代替実習という名称で、施設の介護ノウハウを動画にして、質疑応答を行う形式のオンラインでの受け入れを行いました。また、養成校へ2名程度の職員を派遣する代替実習もありました。

一昨年には独自のコロナ禍における実習受け入れ基準を作成し養成校へ連絡しました。その基準がかなり厳しく、先生方も苦労されたと思います。本年は基準を緩めて幅広く受け入れを行えるよう取り組んでいます。

実習中にコロナが発生したケースでは実習を延期しました。対策は尽くしたものの、結果として学生に1週間授業を休ませてしまったことは申し訳なく感じています。
 

感染症に対する学生の学びと意識の変化

大住 コロナ禍の実習に対する学生の意見・動向や、養成校での支援についてお聞かせください。

永嶋 コロナ禍の実習で学生は様々な制約を受けましたが、新たな気づきもあったと思います。現場の素早く的確なコロナへの対応を見ることができたというポジティブな意見もあります。コロナ以外の感染症リスクへの意識づけにもつながっています。

細野 真代氏

細野 真代氏

細野 オンライン授業をしていた昨年、一昨年は学生に就職への不安が見られましたが、本年度からはそのような相談は少なくなりました。コロナ禍に協力いただいている受け入れ先は、柔軟で協力的な対応をいただいています。実習中の丁寧な指導に好感を持ってか、この数年は実習先に就職するケースが多くみられます。

ネガティブな部分では、本来老健に行きたいが実習先が特養のみとなってしまい、就職先の選択肢が絞られてしまっていたケースも考えられます。

ご利用者の家族面会の様子を見て、家族の重要性の理解や、自身の支援方法や役割などの介護観の確立につながっていると感じるような生徒の声もありました。

 

オンライン化のメリットを学生の学びへ活かす

大住 コロナ禍で発展したオンラインの手法は、今後はどのような活用が考えられますか。

細野 今後は対面実習が主となると思いますが、オンラインには様々な可能性が見えてきています。例えば、多数の施設の雰囲気をオンラインで比較できることや、利用者とのオンライン交流などがあります。

今後はオンラインを活用して、介護職の関わり方、施設種別による特徴、ご利用者の様子を通じた介護過程や疾患症状などの理解につなげられる授業ができればと思います。

德山 滋久氏

德山 滋久氏

德山 オンラインにより多数の施設を見学できることは、学生にとって大きな糧になると思います。養成校への出張授業などの代替実習も学生は楽しんでいただけたようです。様々な形式をハイブリッドして、それぞれのメリットを活かせる授業や実習の新たなスタンダードを作れるよう、施設側も協力していきたいと思います。

 

学生へ伝えたい施設の地域との関わり

秋元 拓氏

秋元 当施設では実習生に、近隣の小中学校での車いす体験や認知症サポーター養成講座に参加いただきました。コロナ禍で滞っていた地域と特養のかかわりを、ようやく実習の過程で紹介できたと思います。また、子どもが施設に来て参加するような相互交流までは今も至っていませんが、施設の様子や、小学校の歌の発表を相互に配信するオンライン交流の取り組みもスタートしました。

これらの取り組みは実習生に好評ですが、裏を返せばコロナ流行前に当たり前に行っていた地域との関わりが、コロナ禍の学生には認識されていなかったということです。今後、積極的に施設の地域交流の在り方を学生に伝えるべきだと思います。また、学生はオンラインに慣れていますので、それを活用したつながりの構築方法も考えていきたいと思います。

関澤 当施設は徐々にボランティアの受け入れを始めていますが、感染を恐れて自宅にこもっている元ボランティアの高齢者の方もいます。そうした方々が外部とつながる方法を考えることも、社会福祉法人として取り組むべきだと思います。私たちが地域に出て福祉を担うことが必要となるでしょう。

リアルな人とのつながりやイベントの体験からの学びを

大住 優氏

大住 優氏

大住 最後に、養成校から施設への要望をお聞かせください。
 

永嶋 コロナ禍によりオンラインツールは様々な形で発展しました。コロナ禍が去ったとしても、このノウハウは学生教育に活かしていきたいと思います。

授業の中で学んでいても、いざ実習に入ってみると、どのように対応してよいのかがわからない場面があります。また、施設の空気感や生活で生じるにおいなども、実習施設という現場の中でこそ気づき、学ぶことができます。学生はベテランの実習指導者の方から、様々なスキルを学びます。そして、適時のフィードバックが、本人の大きな成長につながります。コロナ感染により、そうした指導が受けられないことは大きな損失ですので、日ごろからの感染対策を引き続きお願いします。対面実習の重要性は語るに尽くせません。福祉教育は、施設と養成校の両輪で成り立っていると思います。これからも相互に連携して後進を育成していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 

細野 新カリキュラムでは地域における生活支援が重要視されていますが、コロナ禍の実習ではそれを体感することは難しい状況でした。就職後の活動のためにも、地域に対する施設の取り組みはオンラインを活用して伝えていただきたいと思います。

また、現在養成校に通う学生は、高校時代からを通じてグループワークやイベントの開催など、仲間と話し合う機会が少ない状況です。介護職には仲間と話し合い、イベントを企画し実践する仕事もあり、そのような体験は重要です。施設でイベントを実施の際には、学生に見学・体験のお誘いを頂けると嬉しいです。

 

大住 直接人と接する福祉業界において、学生時代に人との関わりが少なくなることの影響は大きいと思います。後進育成や地域の活性化のためにも、施設でもそのフォローに取り組みたいと思います。本日はありがとうございました。

 

 

2022年12月(アクティブ福祉 第51号掲載)

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