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アクティブ福祉 Digital特集

災害想定ゲーム「KIZUKI」・避難所運営ゲーム「HUG」開発者から学ぶ 〜福祉施設・事業所における平時からの災害訓練の必要性と意義〜

いつ発生するか予測の出来ない災害。その対応のためには、BCP(業務継続計画)の策定など書面での準備のみならず、災害時のシミュレーションを平時から実施することが重要です。本特集では災害想定ゲーム「KIZUKI」と避難所運営ゲーム「HUG」の開発者と、熊本地震で被災した施設長、高齢協の災害対策委員長に平時の災害訓練の必要性を伺いました。

参加者

老人総合福祉施設 グリーンヒルみふね 施設長 吉本 洋(よしもと ひろし)氏

平成28年の熊本地震で施設が被災したことをきっかけに、KIZUKIとHUGを導入。全国で防災に関する講演会を行う。

HUGのわ 主宰 倉野 康彦(くらの やすひこ)氏

静岡県職員として勤務する中、平成19年に避難所運営ゲームHUGを開発。退職後はHUGのわを主宰、福祉施設用にカスタマイズしたHUG社会福祉施設バージョンの開発などを行う。

NPO法人高齢者住まいる研究会 理事長 寺西 貞昭(てらにし さだあき)氏

福祉施設のBCP策定支援を目的として、9年前に法人を設立。研究を通じて、災害想定ゲームKIZUKIを開発。現在はグリーンヒルみふね職員も兼職。

高齢協災害対策委員会 委員長(2021年4月~) 中村 正人(なかむら まさと)氏

特別養護老人ホーム神明園 施設長。2019年、羽村市3特養の防火管理者の協働による災害対応力向上の研究をスーパーバイズし、KIZUKIやHUGの活用状況を小村方氏(むさしの園防火管理者)がアクティブ福祉’19に発表。介護福祉士会会長賞を受賞。
2021年、神明園でのBCP実効性を高める取り組みについて職員(神明園防災委員)がアクティブ福祉’21で発表し優秀賞を受賞。

 

災害想定ゲーム「KIZUKI」と避難所運営ゲーム「HUG」

―― はじめに、KIZUKIの開発経緯と、ゲームの特徴をお聞かせください。

寺西  福祉施設のBCP策定支援の研究を行う中で、通所系の施設を対象とした地震直後をリアルに再現したシミュレーションゲームとしてKIZUKIを開発しました。
3対3のチーム対戦で行うカードゲームです。災害によっておこる火災や避難者対応など、数々の困難を記載した「イベント」系のカードに、職員や備品など「資源」系のカードを対応させる形で進めます。職員には限りがあり、すべての状況には対応できないため、チームで相談して優先順位を考えなければならないことが特徴です。ゲームをプレイすることで発災時に何が起こるかのイメージ構築につながると思います。

吉本  「町内会長からの支援依頼」や「法人代表の自宅が火事」など、どんどんイベントカードが出てきます。対応できる職員(資源)が減っていきあたふたするなど、実際に発生しうる状況に対する心理を疑似体験できます。90分程度の短時間で体験でき、楽しく学べることも特徴です。

――HUGの開発経緯と特徴をお聞かせください。

倉野  静岡県で防災の担当をしていた際に、能登半島地震や中越沖地震が発生し、避難所の運営や要援護者への対応が注目されました。また、当時改定された静岡県の避難所運営マニュアルを参考にするとともに、さらに実践的なものにするために、平成19年にHUGを開発しました。
ゲーム内容としては、避難所の体育館や教室の図面を作り、そこに避難してきた健常者や要配慮者を示すカードをそれぞれの事情に応じて配置していきます。例えばお年寄りの方ならトイレに行きやすい出入り口付近がよいのか、寒さをしのぐため壁から離れたほうが良いかなどの様々な要素を考えながらプレイヤーが配置していきます。また、校庭の図面に炊き出し場や仮設トイレの設置場所等を記入していきます。ゲームとして評判がよく、これまで約一万セット販売され、全国で推定100万人ほどがプレイしています。
社会福祉施設向けのバージョンも吉本さん達と共同で開発しました。避難者だけでなく職員や入居者の状況などの要素を盛り込んでいます。

吉本  プレイを通じて福祉避難所の設営準備のために必要なことがわかります。例えば九州でよく起こる台風に対して担当者は無意識に準備していますが、人事異動後などは混乱するため、誰でも対応できるようにしておかなければなりません。HUGでは発生しうる事態を可視化し、地域にどのようなリスクがあるか参加者で実体験できます。
私の施設ではHUG体験を行っていたことにより、SNSでの写真などによる被害状況報告グループと、本部からの指示を伝えるグループを構成するという実際の備えにもつながりました。これからプレイする施設では、ゲームの図面を自施設の平面図に置き換えるとより実践的になると思います。

 

体験を通じて災害発生時のイメージづくりを

――ゲームなどによる訓練の重要性をお聞かせください。

吉本  計画書などの書面だけの対策では実際をイメージできず、様々な情報に対して優先順位をつけられない状況になりがちです。例えば通勤途中にある危険なども把握しづらいため、ゲームや訓練を通じた実体験こそが本当に重要だと思います。
机上訓練も、ぜひ繰り返して行ってください。参加者によって、毎回異なる状況が出てきます。たった一つの判断により、深刻な事態も発生します。イメージを養うために、施設のリーダーがしっかりと引っ張っていくことが重要です。

倉野  実地訓練は有効ですが、負担がかかります。図上訓練でも実際の災害を疑似体験できます。一度体験しておけば、発災時にゲームで経験したことを参考に適切な対応が取れるようになります。
訓練では地図、掲示板、一覧表を意識して情報共有を行うことが大切です。HUGをプレイすることは災害対策本部運営の訓練になります。災害本番では練習したこと以上のことはできません。ぜひゲームをやってみてください。

寺西  訓練はイメージを構築できることが最も重要です。大事なことは自施設に置き換えて考え、備えが実際に機能するか訓練を通じて確認することです。訓練で出た課題に修正を加えながら災害に備えてください。

 

ゲームプレイによる参加者の意識の変化

――KIZUKIやHUGを通じて現れる参加者の変化をお聞かせください。

吉本  震災の記憶は次第に薄れていきます。また、現在のコロナ禍もそうですが、災害は複合的に起こるため、それにも備えなければなりません。定期的な訓練は記憶の風化を防ぎ、備えのブラッシュアップにつながります。先日、震度5弱の地震があった際、すぐに職員にSNSで安否確認をすると、20分以内に全員から回答がありました。これは訓練による意識向上の効果だと感じています。

中村  当施設において、2018年に吉本さんに熊本地震の実体験をご講演頂いた際に、職員の意識の高まりを感じました。効果を体感して、寺西さんの承認を得て羽村市の3特養の防火管理者が知恵を出し合い、特養向けにKIZUKIをカスタマイズしました。KIZUKI特養夜勤Ver.実践後のアンケートでは、職員の78%が災害をイメージできた、67%が実際の震災で役に立つと思うと回答しています。BCPの理解の向上に役立っていると思います。
新入職員に最初にKIZUKIをプレイしてもらいます。年に1回は羽村市内の3施設合同でプレイし、環境に変化を加え興味を促すようにしています。
また、HUGに関しては、参加者は、避難所運営の想定に役立つと言っています。

倉野  HUGは一度体験するだけでも、東日本大震災や熊本地震などの実災害時にある程度対応できたという声もいただいております。また、プレイのたびに新たな気づきやうまくなっている感覚があるという感想も聞かれます。

寺西  ゲーム開発のコンセプトでもありますが、「防災」は本来は楽しくないテーマです。しかし、取り組まなければならない課題です。ゲームを通じた防災の学びはコミュニケーションを取りながら行うため楽しく体験を共有でき、話のきっかけになります。

 

ゲームを通じてBCPの理解促進を

――今後、KIZUKIやHUGをどのように活用してほしいでしょうか。

倉野  2024年までのBCP策定義務化に際し、お困りの担当者もおられると思います。その一番の要因は、実体験が無く、施設内で相談できることも少ないことが挙げられます。
KIZUKIやHUGを実施して職員に災害に対する共通認識ができれば、施設内で意見交換ができ、話が進みやすくなると思いますので、ぜひ活用してください。

寺西  私たちの持つ災害のイメージは、現実のほんの一部分でしかありません。想定外の事態が常に発生します。ゲームの活用はその想定外を可能な限り少なくすることにつながります。また、被災時に災害対応するのは現場職員ですが、BCPの必要性や内容を普段から認識できている方は少数だと思います。現実の災害対策とBCPがリンクしないのです。それをリンクさせるために、ゲームというツールは使えるのではないかと思います。

 

施設間の相互連携で迅速な支援を

――皆様の日ごろの関わり、活動についてお聞かせください。

寺西  コロナ禍となってからは、月に一度2時間程度、お互いの活動状況をオンラインで共有しています。また、2019年には日本福祉防災楽会を立ち上げ、ネットワークの構築、防災の啓発やKIZUKIやHUGの利用推進などを行っています。

吉本  現在の話題の一つに災害時の連携があります。熊本地震で最も大変だったのは最初の一週間で、水も食料もなく途方にくれました。全国や県の老人福祉協議会からは、被災に際して大きな支援をいただきましたが、組織の大きさゆえに支援までのタイムラグもありました。当施設と神明園は災害時の相互応援協定を結んでいますが、こうした知っている者同士の関係が、発災直後の深刻な時期の迅速かつ柔軟な支援につながると思います。
協定は同じ地域で結んでいても、同時に被災する可能性があるため、県をまたいで行うべきです。理想は全都道府県で支援の拠点となるハブ施設を設けて、そこが県内の人材や物資などを取りまとめ相互に支援できる体制です。

中村  「支援」だけでなく「受援」のあり方も重要なテーマですが、語られることが少ないと感じます。BCPでも受援の仕方が書かれているケースは聞こえてきません。この点は実際に被災施設を訪れた経験がないとイメージできないことだと思います。DMAT(災害派遣医療チーム)などの支援の派遣には少し時間がかかります。その期間の補完のためにも、離れている地域とのネットワークの構築が必要だと吉本氏と同じ考えです。しかし、隣県の施設でも協定締結は難しいため、全国老施協や高齢協のフォローがあればと思います。

寺西  実際にグリーンヒルみふねはコロナのクラスターが発生し、感染防止用のマスクが不足した際、神明園に支援を依頼したところ、すぐに送っていただけました。

 

被災時、受援のために取り組むべきこと

中村  物資支援は比較的簡単に行えます。しかし、人的な支援においては、受援の際に職員が施設の構成や介助の方針などを教えなければならず、難点もあります。広島の水害時には人員の派遣もしましたが、資材置き場やトイレなどの場所もわからず、派遣先施設が忙しそうにしているのに一つ一つ聞けず、思うように動けない状況もあったようです。

吉本  ボランティアの方に介助を依頼する場合、初めて会う入所者にどう対応すべきか伝えなければなりませんが、それは難しいことです。来てもらった方に何をしてもらうのか、改めて考える必要があります。
当施設の被災時にはボランティアの方には職員の自宅の片づけを依頼しました。それにより職員の家の心配が少なくなり、施設での介助にある程度、集中できました。BCPの実行も福祉避難所も全て職員ありきですので、第一に職員が安心安全に勤務できる態勢を整え、生活を早期再建できるよう管理者が指揮することが重要だと思います。

倉野  吉本さんは受援に向けて、災害時の施設案内用のビデオを作成されていましたね。これにより散発的に訪れるボランティアの方に、繰り返し説明する手間が省けるでしょう。
また、図面も大きく作られていて、何がどこにあるかといった情報も入れれば活用の場面が広がります。

寺西  グリーンヒルみふねでは熊本県のボランティア団体と協定を結び、平時から災害時にどうするかという相談を重ね、災害時の具体的な協力の内容を定めています。これにより発災から支援までの手間を最小化しています。また、例えば県内の他施設が被災した際に、当施設がボランティア派遣調整できるような枠組みも考えています。施設間のつながりの構築により、ボランティアの方が力を発揮できる環境を整えていきたいと思います。

――最後に、高齢協における今後の災害対策への取り組みをお聞かせください。

中村  東京都は全国一の都会から自然豊かな山間部、島しょ部まで、様々な特徴を持つ地域で構成されています。そのため一律で災害対策を考えることは難しく、地域特性に応じたブロックごとに細分化した対応を考え実効性を高めることができるのが理想ですが、現実的にはなかなかハードルの高い問題もあります。
まずは、各施設でハザードマップを確認し、完全でなくともとりあえずBCPを作成することが原点です。そのうえで施設のハードやソフト、地域の特色を加味してBCPをひな形から起こしたステレオタイプのものからカスタムしてゆくことが大事です。その過程で様々な問題に気づきますので、その思考過程が災害対応力の向上につながるのではないでしょうか。また、繰り返しになりますが災害は疑似体験しなければ、起こりうる事態を実感できません。各施設長は何かしらのツールを活用して、まずは職員に体験を促してほしいと思います。
下半期には介護職員研修委員会が吉本さんを講師に災害をテーマにした研修を予定していると聞いています。災害対策検討委員会においても引き続き取り組みを進めますので、関心をもって活動にご参画いただき、各施設の取り組みにつなげていただきたいと思います。

 

左上)吉本氏、右上)倉野氏、左下)寺西氏、右下)中村氏

 

2022年9月(アクティブ福祉 第50号掲載)

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