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アクティブ福祉 Digitalうわさの施設

東京都高齢者福祉施設協議会の数ある会員(約1200施設・事業所)のうち、表彰や推薦など、名誉ある経験をもつ施設を紹介するコーナー。毎回‘うわさ’の施設を東京ケアリーダーズが訪問し、お話を伺います。

2021年開催 第16回高齢者福祉実践・研究大会「アクティブ福祉 in 東京‘21」優秀賞

社会福祉法人積善会 特別養護老人ホーム長渕園 特養で身寄りがない利用者への在宅復帰支援

身寄りと帰る家のない入所者の在宅復帰の望みを叶えるため、リハビリ訓練に努め、関係機関との連携により在宅復帰を実現した長渕園。自分らしく生きることを支援した在宅復帰支援の好事例である点が評価され「アクティブ福祉’21」で優秀賞を獲得しました。

今回は、発表者である生活相談員の鈴木 謙太郎(すずき けんたろう)さんと共同研究者で介護職員の力丸 仁美(りきまる ひとみ)さんにお話を伺いました(※肩書は当時)。

 

利用者の望みの実現を目指す

――今回の取り組みのきっかけをお聞かせください

鈴木 生活相談員として利用者相談をした際、本人は生まれ育った地域へ帰りたいという言葉を口にされました。帰る家もなく頼れる身内もいないという状況で難しさも感じましたが、支援が必要な方の望みを叶えるという初心に立ち返り、取り組んでみようと考えたことがきっかけです。

――差し支えない範囲で、ご本人の状況をお聞かせください

力丸 取組開始前の要介護度は4でした。認知症はなく、入所時は車いすを利用していましたが、本人はしっかりと生活できている様子でした。介護士として接する中で、潜在的には一人暮らし出来る力があるのではないかと感じていました。

――特養から一人暮らしで退所することはなかなか見られない事例だと思います。取り組みの具体的な進行をお聞かせください

力丸 はじめに機能回復のため、フロア内の歩行訓練や生活・金銭管理のための計算訓練などリハビリに取り組みました。本人の意欲がとても高く、毎日自ら取り組んでくれました。その結果、車いすから歩行器を併用できるようになり、要介護度も2へ改善しました。自力で生活したいという思いが機能回復のモチベーションになったと感じます。

 

外部組織と協働で在宅を実現

――機能が回復したのち、自宅に戻る際にはどのような支援をされましたか

鈴木 家探しの選択肢としてはサービス付き高齢者向け住宅、都営住宅、一般アパートがありましたが、自由に暮らしたいという本人の意向をくんで一般アパートを選び、4軒の内見に同行しました。また、引っ越し作業では家電家具の購入、電気ガスなどの契約、手すりや段差のスロープ設置などのバリアフリー化も支援しました。

――今回の取り組みで大変だったことをお聞かせください

鈴木 健康な方にとって引っ越しは大変な作業ですが、高齢者にとってはより大変な作業です。それを身寄りもなく元のご自宅もない状況からスタートすることが困難でした。家具の購入など時間のかかる支援もありましたが、上司の理解に助けられた部分も大きいです。
また、担当者会議で在宅復帰を進めたいと伝えた時、自宅での転倒などの危険さを考慮して、否定的な意見を発する職員もいました。

――否定的な意見の職員に対してどのように説得しましたか

鈴木 本人の願いを最も大事にして、それを支援することが最も重要だと訴えを続けました。

――家探しや環境調整について、外部の方とはどのように連携しましたか

鈴木 高齢者など契約が困難な方の支援を行う居住支援法人には、家探しの面で協力をいただき、大家を紹介いただいたことでスムーズな入居につながりました。また、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)も活用し、主に金銭管理の面で支援いただきました。退所後の担当ケアマネジャーからは見守りとして夕食の宅食サービスが有効と提案され、利用しています。

――ご本人の様子はいかがでしたか

鈴木 元々希望されていたことですが、実現できる段階に入ってくると期待とともに不安感も出てくる様子でした。それに対しては、本人と同じまたはそれ以上の困難な状況で在宅生活している方の例も相談員として経験していましたので、退所後も様々な方の支援がありますので、安心してくださいと励ましました。

――研究およびアクティブ福祉受賞に対する周囲の反応はいかがでしたか。

鈴木 受賞については、周囲からのお祝いの言葉や、高齢者住宅新聞の取材があり、いろんな方に取り組みを知って頂けてうれしく思いました。また、施設内では在宅復帰に否定的な方もいましたが、結果的に取り組みは良い結果を生みました。今後も類似事例に取り組もうという施設全体のモチベーション向上につながったと感じます。

 

利用者本位の取り組みを

――今回の研究から見えてきた課題と、今後の目標についてお聞かせください

力丸 今回の取り組みでは本人の希望を叶えて在宅復帰することができましたが、そこで終わりではなく、自宅生活を続けるためには地域の理解が必要だと思います。
初めて研究に関わり、本人が喜ばれたことが私もうれしく感じます。今後も利用者本位で仕事に取り組みたいと思います。

鈴木 道路の段差やお店の入り口など、地域でのバリアフリーはいまだ整備が不足していると感じました。障害などを持つ社会的弱者に対する理解が今も不足していると感じます。インフラの改善は容易ではありませんので、まずは在宅復帰の全体数を増やすことと、相談員として地域の理解を広めることを目指します。

――お話を伺い、本研究は介護の役割を伝えるメッセージ性がある取り組みだと感じました。在宅復帰に関する取り組みは、法人内だけでなく外部の方との連携が必要になり、実現は大変だと思います。本人の意向や心身機能による部分もありますが、この研究を手本として、業界全体での在宅復帰が推進されるといいですね。本日はありがとうございました。

 

 

上段左から 長渕園 鈴木謙太郎さん・力丸仁美さん、下段 東京ケアリーダーズ 広瀬史夏さん

 

社会福祉法人積善会 特別養護老人ホーム 長渕園

所在地:〒198-0052 東京都青梅市長淵5-1421-14  電話:0428-23-6776

  • 取材:東京都高齢者福祉施設協議会 東京ケアリーダーズ 広瀬 史夏(ひろせ ふみか)(白十字ホーム)
  • 記録・編集:東京新聞 木下 聡文
  • ケアポート板橋ホームページ

2022年9月(アクティブ福祉 第50号掲載)

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