うわさの施設
東京都高齢者福祉施設協議会の数ある会員(約1200施設・事業所)のうち、表彰や推薦など、名誉ある経験をもつ施設を紹介するコーナー。毎回‘うわさ’の施設を東京ケアリーダーズが訪問し、お話を伺います。
今回は、高齢者福祉施設での日常のさまざまな場面にスポットライトを当てながら、介護の魅力を発信する「東京の介護ってすばらしいグランプリ(以下、東すば)」2023において、コラム部門の最優秀賞を獲得したほうらい地域包括支援センターの羽部清久(はべきよひさ)さんにお話を伺いました。
2023年度開催 「東京の介護ってすばらしいグランプリ2023」『コラム部門』最優秀賞
東京の介護ってすばらしいグランプリ2023 コラム部門 最優秀賞 作品名:Nさんとのヒ・ミ・ツ(ほうらい地域包括支援センター・羽部清久さん)
2023年の東すばコラム部門では、関係性を築く介護の面白さを軽快でユーモアある文体で表現した点などが評価された当作品が最優秀賞を受賞しました。
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「東京の介護ってすばらしいグランプリ2023」特設サイト
左から ほうらい地域包括支援センター 羽部 清久さん、癒しの里南千住 成田 雲乃さん(東京ケアリーダーズ)
――作品を拝読し、二人の関係の特別感が素敵で、声を聞けた瞬間のうれしさを共有できるコラムだと感じました。作品が生まれたきっかけをお聞かせください。
グランプリ募集メールを見て、これまでの20年の介護経験の中で、改めて自身の経験を思い返したときに、もっとも印象深かった本エピソードを作品にしました。
――ご利用者の魅力を見つけられたときや喜ぶ姿を見られたとき、やりがいを感じますね。受賞の感想や周囲の反応をお聞かせください。
何よりまず受賞に驚きました。周囲では家族や友人、Nさんがいらした前職の特養の施設長などに報告しました。前職の施設長からは「職場体験に来てくれた中学生に渡して読んでもらっています」と返信をいただきました。可能であればNさんのご家族にも受賞報告ができればうれしく思います。
――学生の方にも将来この作品のような「特別感」を経験してほしいですね。Nさんとの関りはどのようなものでしたか。
私が介護現場で最初に担当した方の一人です。当時私は新人で仕事を覚えることに必死で、ご利用者に弱音を言ってしまうような職員でしたが、逆にそれがNさんが心を開くきっかけになったのかもしれません。
――業務に追われ発話のない方のアプローチが後になりがちな中、業務と関りのないご自身の発言があったからこその反応かもしれませんね。現場での介護で心がけていたことをお聞かせください。
私は特養・老健などでの勤務も経験しましたが、現場では常に「ここに来てよかった」と本人とご家族に感じていただけることを心がけ、ふだんの接し方を意識しました。特別な出来事がなくても、日常から介護のすばらしさを伝えることができると思います。
――羽部さんの意識や日常で築いた関係性があったこそNさんの優しい言葉があったんだと思います。コラムの構成で意識したことはありますか?
全体の流れは意識しました。私は読書が好きなので書くこともできるかなと思ったのですが、書くことはとても難しく感じました。現代ではWEBの普及で読み飛ばしに慣れられている時代ですので、流し読みできるよう固すぎない文体で楽しい気持ちになれるような展開を心がけました。
――経験や気持ちを文章にまとめることは難しいですね。流し読みができる構成にすることがすごいと思います。
過去に介護記事を書いていたことがありましたが、WEBだと先に結論を書かないと離脱されてしまうので、結論→理由→例示→結論の流れを意識しました。
――今後グランプリに応募される方へのアドバイスをお願いします。
私が言うのも僭越ですが、何かを伝えるためには素直な想いを発する事が大事だと思います。また、不特定多数の人ではなく、たとえば今回ならNさんのご家族など、伝えたい特定の誰かが喜ぶイメージを持って書くとよいかと思います。
――今後どういう発信をされていきたいですか。
現在地域包括支援センター(以下、包括)で働いていますが、今もなお包括の認知度が低いと感じています。台東区では独自の介護用品の支援などがあることなどを発信していきたいです。また、家族介護を強いられる方が増加していますが、介護の仕事を選んだ私たち職員とは異なり、家族介護では介護者が強い負担を感じられると思います。時に反応がなく辛いと思いますが、反応がなくても声は届き感謝されていること、献身的な介護が命も心も救っていることを伝えたいと思います。
――ご利用者だけでなくご家族のことも考えることはとても大事だと思います。ご家族と接するときに意識していることはありますか。
ケースバイケースですが、私が責任をもってケアをしますので安心してくださいと伝えるようにしています。ご本人に対しては人生の最後の時間を満足ゆくものとできるよう接するようにしていました。
――私の長期的な目標は介護の魅力を発信することで、その裏付けとなるキャリアを重ねていきたいと思います。羽部さんのキャリアについてお聞かせください。
特養での勤務の後、老健に勤めました。そこでは居宅支援事業所の立ち上げを行い、ケアマネとして5年ほど勤務した後、包括に異動しました。包括ではフレイル予防などの地域活動を行い、大きなやりがいを感じました。その後は特養の施設長も務めましたが、私の中で最もやりがいを感じた包括に戻る形で現職場に勤めています。
――仕事が大変だと思ったとき、どのように乗り越えましたか。
誰かに相談するようにしていました。答えがでなくても楽になり、救われたことは数えきれないほどあると感じています。成田さんの場合はいかがですか。
――私だけ、あるいは勤務先だけが大変なわけではないことを意識しています。また、落ち込んで投げ出してもまた同じ壁にぶつかるので、大変なことを一旦乗り越えてから再検討するようにしています。包括から、現場に期待することはありますか。
よいケアの提供のためには職員間の仲の良さ=チームワークが必要です。仲良く楽しく意見をぶつけ合い、意見が異なっても排除せずにすり合わせ、互いに高め合ってほしいと思います。それがご利用者や家族にも還元されると思います。自分たちの誇り高い介護の仕事で、それぞれの自分の良さを出してほしいです。
また、一つ一つのケアの基本を守り、ご利用者が何かを選択できる場面があれば職員が決めるのではなくご本人の選択を尊重してほしいと思います。
――私自身、介護の魅力の発信を目指していますが、大変参考になることを学ばせていただきました。様々な経験・キャリアを重ね、発信の裏付けを重ねていきたいと思います。本日はありがとうございました。
社会福祉法人清峰会 ほうらい地域包括支援センター
所在地:〒111-0022 東京都台東区清川2-14-7 電話:03-5824-5626
- 取材:東京都高齢者福祉施設協議会 東京ケアリーダーズ 成田 雲乃さん(癒しの里南千住)
- 記録・編集:東京新聞 木下 聡文
- ほうらい地域包括支援センター ホームページ
2024年8月(アクティブ福祉 第58号掲載)