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アクティブ福祉 Digitalうわさの施設

東京都高齢者福祉施設協議会の数ある会員(約1200施設・事業所)のうち、表彰や推薦など、名誉ある経験をもつ施設を紹介するコーナー。毎回‘うわさ’の施設を東京ケアリーダーズが訪問し、お話を伺います。

2025年開催 第20回高齢者福祉実践・研究大会「アクティブ福祉 in 東京‘25」
第6分科会「日常ケアの向上」優秀賞

「アクティブ福祉 in 東京'25」第6分科会優秀賞 社会福祉法人台東区社会福祉事業団  特別養護老人ホーム谷中 最後まで経口摂取にこだわり、誤嚥予防に取り組んだ20年

平成14年より長期にわたり歯科医師や歯科衛生士学生と協働して経口摂取の維持に取り組んできた特別養護老人ホーム谷中。介護職とご利用者の日常的な関りについて多職種で細やかに情報共有し、最期まで経口摂取を達成したことが評価され、「アクティブ福祉’25」で優秀賞を獲得しました。今回は、発表者である小松志帆(こまつ しほ)さんと天野由貴(あまの ゆき)さんにお話を伺いました。

 

 

最期まで経口摂取にこだわり、誤嚥予防に取り組んだ20年
~歯科医、歯科衛生士及び口腔ボランティアとの協同による科学的根拠に基づく支援の効果とは~

 
右から小松志帆さん、天野由貴さん、田名部周悠さん(東京ケアリーダーズ)

――研究を始めたきっかけと、現在に至るまでの流れをお聞かせください。

小松 平成14年、歯科衛生士養成校の教員の方からご利用者の口腔ケアの協力のご相談を頂きました。外部の方が突然入るとご利用者が戸惑う懸念があったため、通常のボランティア活動を通じて施設になじんでいただき、次第に口腔ボランティアの実践に至りました。平成29年からは歯科医師による口腔カンファレンスも実施するようになり、現在まで経口摂取を推進する活動を続けています。

――今回の研究で使用したSOAP、KTバランスチャート、歯科衛生士によるオリジナル表等の指標の導入で、どのような成果がありましたか。

小松 口腔状態はその時々で変化しますが、指標により数値化や統計的比較ができるようになりました。それを基にした歯科医からの指導で口腔ケアを適宜実践しています。

――経口摂取の実現で大変だったことはありますか。

小松 ご利用者の自分で食べたいという意思に対し、どこまで介助をするかが難しかったです。ご自身で食べる行動を阻害しないよう、声掛けのタイミングで工夫をしました。例えば手が進まなくなる、疲れて体が傾いてくるなどの変化に応じて声掛けを行いました。また、目の不自由な方でしたのでスプーンの長短、器のサイズ・深さ・取っ手の形状、それに応じた自助具など、食器の選定でも数多くの試行錯誤がありました。

――意思表出が難しい方にはどのように支援すればよいでしょうか。

小松 顔をしかめたり背けたりするなどの言葉以外の意思表示や、家族からの情報を相談員から現場に共有してもらい、そこからヒントを探ります。そのうえで例えば好きな味の飲み物や提供するタイミングなど、様々なことを試してみるのが良いと思います。個人の尺度もありますが、感じたことは積極的に共有するとよいでしょう。

――多職種および外部との連携はどのように進めましたか。

天野 フロアの職員の意見をまとめたうえで歯科医や看護師に相談しアドバイスを頂くのですが、時間が足りないなど現実的に実践が難しい場合には別の方法を相談し調整しています。

普段歯科医と職員が直接相談する時間はあまりないのですが、ミールラウンドや月に1回の口腔カンファレンスでの会話の中で助言を頂け、口腔状態がいかに重要かを学べる貴重な機会になり大変ありがたかったです。

――私の施設では治療を中心とした訪問歯科がほとんどですので、口腔ケアにまで及んでいることにレベルの高さを感じます。歯科医と直接お話される中で、どのような学びがありましたか。

小松 例えば最初に認知症について教えていただきました。認知症の方はスプーンを鉄の棒と認識してしまい、食事のスイッチが入らないことがあるので、後ろから手元にスプーンを持っていき一口だけ食べさせてあげるとか、食事を載せないで口をちょっとだけ刺激する、一口目に香りの強いものを提供する等工夫することで食事モードに入りやすくなります。

 天野 ミールラウンド開始時に歯科医からの講習がありましたが、これを通じて食事場面における施設内外の各職種・主体の役割を明確にしました。看護師は体調面の管理や医師との連携、管理栄養士は栄養やカロリーのモニタリングといった分担です。

――知識として持っていても実践しきれないこともある中で、しっかりと現場で実践につなげているのが素晴らしいですね。

天野 食事体勢は体幹を垂直にすることを意識して現場は行っていましたが、ミールラウンドで相談する中でこのぐらいまでは倒して大丈夫というアドバイスがありました。それを現場で確実に実践するために、車いすに「ここまで倒すよ」という目印のテープを張り付ける、ベッド上の介助では角度を明示する等、やるべきことの見える化に取り組みました。

◀車いすの目印確認の場面

――細やかなところまで情報共有をされているのがとてもすごいと思います。情報共有の工夫をお聞かせください。

小松 PC上でワードの連絡ノートを作成し、毎日変わるケア内容を共有しています。チェック後のサイン欄とコメント欄を設けて各職員が必ず見るようにしています。以前は紙媒体でしたが、デジタルにしたことで看護師や相談員も見るようになり、積極的にコメントをもらえるようになりました。

――私の施設では今も紙媒体ですが、デジタルはコメントできるのがいいですし、情報共有力が高まりますね。

小松 ケース記録に書くほどでもないことも連絡ノートには記入され、細かな情報共有につながっています。外国籍の職員向けに漢字をなるべく使わない専用のノートも作成しました。情報共有の輪に入れることが本人の自信にもつながっているようです。

         ◀連絡ノートの作成

――取り組みに対してご利用者の反応はいかがですか。

天野 ご利用者の口腔衛生の意識が上がり、口腔ケアがしっかりできるようになり、口臭や口腔内出血、歯肉の腫れがなくなりました。

 小松 食事がしやすくなったという声もあがっています。以前麵が食べられなかった方が、ミールラウンドでの歯科医の指導を通じて食べられるようになり、家族からも終末期に好きなものを食べさせてもらえたことにとても感謝していただけました。

――今回の研究から見えてきたことをお聞かせください。

小松 終末期の経口摂取は嚥下状態の低下や誤嚥のリスクもありますが、ご利用者の食べたいという意思は大事だと改めて思いました。また、最期まで自分で食べることにこだわるのではなく、ご利用者が満足するまで支援する視点が大事かなと思います。

天野 終末期で経口摂取を望まれる方には、安全と尊厳を踏まえてどこまで介助するかを判断する必要があります。その判断を適切にするために、多職種連携して見極めていかなくてはならないと思います。

――全体としてとてもレベルの高い取り組みだと思います。また、細やかな情報共有や食事手法など、本研究では連携の詳しい状況も書いてあるので、再現性が高く他の施設で取り入れられそうですね。私も施設で取り組んでいきたいと思います。本日はありがとうございました。


右から天野さん、小松さん、田名部さん

 

社会福祉法人台東区社会福祉事業団 特別養護老人ホーム谷中

 

所在地:〒110-0001 東京都台東区谷中2-17-10                    
電話:03-3824-1094

  • 取材:東京都高齢者福祉施設協議会 東京ケアリーダーズ 田名部 周悠さん(うきま幸朋苑)
  • 記録・編集:東京新聞 木下 聡文 

2026年2月(アクティブ福祉 第64号掲載)

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