うわさの施設
東京都高齢者福祉施設協議会の数ある会員(約1200施設・事業所)のうち、表彰や推薦など、名誉ある経験をもつ施設を紹介するコーナー。毎回‘うわさ’の施設を東京ケアリーダーズが訪問し、お話を伺います。
今回は、高齢者福祉施設での日常のさまざまな場面にスポットライトを当てながら、介護の魅力を発信する「東京の介護ってすばらしいグランプリ(以下、東すば)2025」レシピ部門で最優秀賞を獲得した大田ナーシングホーム翔裕園にお話を伺いました。
2025年度開催 「東京の介護ってすばらしいグランプリ2025」『レシピ部門』最優秀賞
東京の介護ってすばらしいグランプリ2025 レシピ部門 最優秀賞 作品名:「筑前煮まんじゅう」(社会福祉法人長寿村 大田ナーシングホーム翔裕園)
2025年の東すばレシピ部門では、見た目のワクワク感や作り手の細やかな配慮、世代を超えて同じものを食べられ家族で笑顔になれることなどが評価され、筑前煮まんじゅうが最優秀賞を受賞しました。
今回は大田ナーシングホーム翔裕園の管理栄養士の正者成美(しょうじゃなるみ)さんにお話を伺いました。
<東京の介護ってすばらしいグランプリ2025 レシピ部門 最優秀賞受賞作品「筑前煮まんじゅう」>
――この度は受賞おめでとうございます。受賞の感想をお聞かせください。
率直にうれしく、数多くのレシピがある中で評価を頂いた審査員の方々に感謝しています。募集テーマが「介護現場やご家庭で笑顔が生まれた、とっておきのレシピ」でしたので、どこかの食卓で笑顔が生まれていたらいいなと思います。
――受賞作品のレシピのコンセプトをお聞かせください。
笑顔が生まれるよう、高齢者が食べやすいもので、さらに家族全員がと同じものを食べられるレシピにしたいと考え、手軽に作れて日常にすぐに取り入れられるものにしました。
――施設ではミキサーを使用しがちですが、受賞したレシピは自宅の包丁とまな板で、日常の食事をアレンジして作れるのがいいですね。色合いもきれいです。今回のレシピ作成の経緯をお聞かせください。
レシピを考えていた時期は里芋が旬で自宅では筑前煮がちょっとしたブームになっていましたが、お代わりの際に子供は肉ばかりをとり、根野菜が残りがちでした。施設でも残りやすい食材ですので、これを食べてもらう方法はないかと考えました。里芋をマッシュしたり、野菜を刻んだり、とろみをつけたりすると食べやすいのではないか。このアイデアをベースにして再現しやすくできるようにブラッシュアップしました。出来合いの筑前煮から再現もできます。
――日ごろから食べやすさや残りやすい食材の活用を考えているからこそのレシピですね。家族で年齢を問わず同じものを食べるという難しい課題も解決されています。高齢者の健康面への配慮はありますか。
食べにくい食材は刻んで卵焼きやハンバーグの種に入れたり、食べ物の組み合わせで少量でも栄養価の高いものを選ぶ工夫をしています。普段の食事でも栄養面を考え、豚肉の照り焼きにごまを加えてごま照り焼きにするなど、複数の食材を組み合わせるようにしています。水分補給や持病をお持ちの方への配慮も行っています。
――食べる意欲を引き出すことと敬遠されがちな食材を使うことを両立されてますね。料理の見た目で気を使っていることはありますか。
私たちも外食で料理が提供されるとはワクワクしますが、その気持ちが大事で笑顔や会話が増えることにつながり、そこから食べる量も増えていくと感じています。イベント食では彩りがある見た目や普段と違う食器など演出の工夫で視覚的に楽しめることを心がけています。今回のレシピでも筑前煮まんじゅうに人参と絹さやをちらすことで見た目のインパクトを出しています。

<取材の様子>右から住岡仁子さん、泉沢周佑さん、正者成美さん、平井洋子さん(品川区立戸越台特別養護老人ホーム)
――東すば応募の際に気を付けた点がありましたら教えてください。
手順を紹介する写真は5枚なので、わかりやすいようどのタイミングで写真を撮るべきかを意識しました。調理工程が分かるように材料の配置を揃えました。また、完成写真では料理の中身がわかりづらいので、最後の写真に半分に切った写真も添えました。
――イベント食はどのようなものを提供していますか。
暦の季節料理、ご当地や海外の料理、薬膳料理などですね。老健・特養が併設で厨房は一つですので、特養と老健で話し合って献立を決めています。
――薬膳料理は珍しいと感じますが、どのような経緯で実施されるようになりましたか。
数年前に法人の栄養士が集まって薬膳料理を学ぶ機会があり、法人内で薬膳料理を取り入れようという方針になり、それ以降定番にしています。食材の持っている性質や食べ合わせを考えながら献立作成し提供しています。
――どのような料理から会話が生まれることが多いでしょうか。
昔ながらの郷土料理を出すと、そこの出身者や旅行に行かれたことのある方からの思い出話から会話が弾んでいくと感じています。
――回想法のようで、思い出を引き出し、交流と笑顔が生まれますね。食事の効力を感じます。食事提供では他職種の方とどのように連携されていますか。
ケアワーカーとの伝達漏れは摂取量の変化などに気付けない問題が出るので、常に情報は共有しています。記録に注意するだけでなくミールラウンドで直接聞くこともあります。例えば朝なら覚醒状態、夕方は多少の不穏等、時間帯による状態の違いも意識します。ご利用者は私たち栄養士やケアワーカーに遠慮して言えない方もいますが、リハビリスタッフには食事と関係ない場面で1対1で向き合うからか食事に関する本音を言ってくださることがありますので、そこから情報をもらうこともあります。
――違うセクションだからこそ本音を言いやすいのでしょうね。日常の食事提供で心がけていることをお聞かせください。
安心安全が第一ですが、「食を通じて笑顔にさせたい、幸せにしたい」が私のテーマです。ご利用者の声を大切にして食べたい気持ちを持ち続けられるような献立を考えています。また、作っている音や香りを感じて笑顔になっていただけるよう、握りずしやおでん屋さん、おやつ作り等、定期的にフロアでのライブキッチンを企画しています。国際人材もここ数年増えたため、今年度はお互いの食文化を知り、食が人と人を結びつけるイベントを企画しています。
――今後、グランプリに応募される施設へのアドバイスをお願いします。
テーマを把握してコンセプトをしっかり決めることかなと思います。また、調理工程が多く意気込んで作るものは真似しづらいので、手軽に真似できることも大事だと思います。私個人の話ですが、以前の受賞作品を見ると影響を受けるので、あえて見ないようにしていました。
――今後の目標をお聞かせください。
食を通じての幸せを念頭に、施設だけでなく家庭での介護の参考になるような、日常に取り入れやすいレシピや献立を考えていきたいと思います。
――ただ食べるというだけでなく、そこからの喜びや驚き、コミュニケーションや団らんを常に意識されていることに感銘を受けました。また、手軽さも頭に入れておくべきことなのだと思います。本日はありがとうございました。

【インタビュー付記】
取材ではコラム部門に入賞した副施設長の住岡仁子(すみおかきみこ)さんも同席され、お話を伺いました。
コラム部門入賞「奇跡の焼き鳥屋さん」
――最期が近いご利用者に対し、好きなものを召し上がっていただくだけでなくそこに至る過程で施設では難しい炭火を起こしたことに、人のつながりを大事にしてご利用者に寄り添う介護職の皆様の想いを感じられました。この作品はどのようにして生まれましたか。
作品でエピソードの詳細は記載していますが、医師から先は長くないと診断され、私たちも長くて2週間程しか持たないと感じられた方が、焼鳥屋の妻として働いてきた思い出の味を最後に再体験していただくイベントをきっかけに、それから1年以上が経過した現在でもご健在で、発話もできるようになったことが奇跡だと感じ作品にしたいと思いました。
――炭火にこだわった理由はありますか。
最初はホットプレートの案もありましたが、香りや音が絶対的に違いますし、そこから呼び覚まされる記憶もあると考え、テラスのあるベランダで行いました。他のご利用者も一緒に参加され楽しまれていました。
――文章の構成で意識されたことはありますか。
興味を引けるストレートなタイトルをつけることを意識し、文字通り奇跡が起こったことを伝えられるものにしました。また、限りある文字数の中でイメージがしやすい文章を心がけました。
――今後どのようなことを発信していきたいですか。
介護業界は人材不足の問題にあえいでいるうえ、報じられるニュースはネガティブなものが表に出やすい傾向があります。その中でも、高齢者の方々が生きがいを感じられるよう職員たちが働きかけて実現していること=介護職として働く魅力が伝わればと思いますので、魅力あるエピソードや写真などを通じて発信していきたいと思います。
――レシピ部門とコラム部門で同時受賞され、法人全体で介護の魅力を伝えようという意識を感じますが、機運醸成のためにどのようなことをされていますか。
グループで「感動介護の実現」を理念として掲げていて、常にこの意識を共有できるようにしています。看取りの時にだけ頑張るということではなく、普段から元気な方もあまり動けない方もやりたいことを叶えられるよう取り組んでいます。
――常日頃から一人一人のご利用者としっかり向き合うことが大切なんですね。本日はお忙しいところお時間をとっていただきありがとうございました。
社会福祉法人長寿村 大田ナーシングホーム翔裕園
所在地:〒144-0046 東京都大田区東六郷1-12-11 電話:03-3736-1240
- 取材:東京都高齢者福祉施設協議会 広報戦略推進委員会(品川区立戸越台特別養護老人ホーム) 平井洋子 氏
- 記録・編集:東京新聞 木下 聡文
2026年6月(アクティブ福祉 第65号掲載)