公正取引委員会「介護分野に関する調査報告書」に対する意見
東社協 東京都高齢者福祉施設協議会(会長・西岡修)は、公正取引委員会が9月5日に公表した「介護分野に関する調査報告書」に対する意見をまとめたので、その内容を発表します。
2016年9月21日
各 位
社会福祉法人 東京都社会福祉協議会
東京都高齢者福祉施設協議会 会長 西岡 修
公正取引委員会「介護分野に関する調査報告書」に対する意見
時下、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて、公正取引委員会は本年9月5日、「介護分野に関する調査報告書」を公表し、特別養護老人ホームへの株式会社等の参入規制緩和等に関する提言を行いました。
特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人は、後述する事後規制ルールはもとより、「事前規制」とも言うべき法人設立時の厳しい規制が課せられる他、所轄庁による原則年1回以上の検査を受けなければなりません。これらは、社会福祉施設が提供すべきサービスの質を担保するための要件とも言えますが、提言の求める規制緩和によって低下しかねないことを遺憾に思います。
2006年の改正介護保険法では、指定取消処分の増加に伴う「サービスの質」への社会的関心を受け、事後規制ルールの強化が盛り込まれました。一方、東京都福祉保健局高齢社会対策部の「介護サービス事業所の取消事業所一覧」によれば、2006年以降の取消処分について、株式会社等営利法人の割合は全体(155件)の95%(143件)を占めています。なお前述一覧によれば2000年の介護保険制度施行以降、社会福祉法人の指定取消処分はありません。
また最近では、貧困や虐待等、介護保険事業の範囲では対応がむずかしい課題が増加しています。特別養護老人ホームをはじめ高齢者福祉施設には、老人福祉法第4条に「老人の福祉が増進されるように努めなければならない」として、社会福祉事業に取組む責務が示されています。しかし提言は、老人福祉法の特別養護老人ホームと、介護保険法の介護老人福祉施設それぞれの役割が十分整理されていません。介護サービスの量的拡大に重点がおかれた内容が、2006年の改正介護保険法で提起された量から質への改革に逆行しかねないことを危惧します。
東京には優良な株式会社等営利法人も数多くありますが、介護保険事業の場合、それらに課せられる規制は事後規制ルールのみです。一方で社会福祉法人には、前述の規制に加え、本年の改正社会福祉法により、ガバナンス強化や事業運営の透明性の向上、財務規律の強化、地域における公益的な取組みを実施する責務が求められることになりました。
今回の提言に対して、利用者本位の福祉・介護サービスを実現する観点より懸念を示すとともに、東京の特別養護老人ホームをはじめ高齢者福祉施設は、複雑化・多様化する利用者のニーズに応えるべく、社会福祉法人に課せられた責務を果たすとともに、「サービスの質」の向上への一層の取組みをすすめることについて、改めて表明する次第です。
このことにつきまして、関係各位のご理解をいただきますよう何卒お願い申し上げます。
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