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アクティブ福祉 Digital特集

アクティブ福祉 第50号発行記念座談会「東京都高齢者福祉施設協議会の歴史と今後の広報活動への期待」

2009年に創刊され、本号で紙齢50号を迎えた広報誌「アクティブ福祉」。これを記念し、歴代の東京都高齢者福祉施設協議会(以下、「高齢協」という。)会長による座談会を2022年8月9日に開催しました。本特集では座談会で語られた高齢協のこれまでの歩みと、今後の広報活動への期待を紹介します。

記念座談会 参加者

髙原 敏夫(たかはら としお)

2007~2012年度 高齢者施設福祉部会部会長

西岡 修(にしおか おさむ)

2013年度 高齢者施設福祉部会部会長、2014~2020年度 高齢者福祉施設協議会会長

田中 雅英(たなか まさえ)

2021年度~ 東京都高齢者福祉施設協議会会長

町 亞聖(まち あせい)

フリーアナウンサー 現在は自身の介護経験を活かし医療・介護に関する情報発信に取り組む。高齢協アンバサダー。

 

会長在任中の介護保険制度の動きとその対応

 アクティブ福祉50号の発行おめでとうございます。私が2015年より高齢協のアンバサダーを務めさせていただいてから7年となりますが、その間にも様々なことがありました。
はじめに、介護保険制度の変遷を踏まえた会長任期中の高齢協のあゆみと取り組みについてお聞かせください。

髙原 敏夫氏

髙原 私が高齢者施設福祉部会の部会長に就任した当時、介護保険制度が導入され高齢者福祉が大きく動く時期でした。措置時代に出ていた東京都からの人件費補助がなくなり、施設経営が難しくなることが懸念されました。
この問題に対処するためには、経営の実態を伝えて制度を改善する提言をしなければならないと考え、会員施設の経営分析に会長就任初年度から取り組んできました。当時、東京がいかに大変かということはその調査データなしには立証できませんでした。今にして思うと、これが現在の高齢協の活動の基本となっていると感じます。
しかし、都内のデータだけがあっても地方との比較ができません。そのため、関東圏で働きかけ、神奈川県を皮切りに少しずつ波及していきました。また、首都圏協議会を立ち上げ、広域で経営実態を話し合う場を作りました。

 首都圏の声をまとめ、処遇改善の署名活動や政策提言を行ったのですね。

髙原 いろいろと試行錯誤もしましたが、制度は最終的に政治で決着するということに難しさも感じました。また、処遇改善を訴えることは、国民の保険料を上げて負担を増やすことにつながることも悩ましく思いました。

 西岡さんが部会長に就任された2013年は、本人の残存機能を活かし自立支援を求められるようになる介護の過渡期でしたが、その時代はどのような取り組みをされていましたか。

西岡 修氏

西岡 2013年の就任時は介護人材不足の問題が深刻さを増していた時期でした。行政の委託を受けて高齢者福祉・介護の事業を行っていた措置制度から介護保険制度に移行し、社会福祉法人は事業者として自立すべきという声が盛んに上がっていました。しかし、東京は福祉を必要とする高齢者人口が多く、人件費も土地も生活費も高いため、施設経営はとても困難です。その中で、東京の福祉・介護をいかに維持し発展させるかが当時の大きな課題でした。
また、介護保険制度では支援できない部分を、社会福祉法人としてどのようにフォローするかも課題でした。そうした課題に対する一つの指針として「アクティブ福祉グランドデザイン」をまとめ、実践に向けて動いてきました。

 東京都高齢者福祉施設協議会が発足した2014年度も西岡会長の任期中でしたね。施設と在宅の連携は今後もより強く求められますが、そのあたりはいかがでしたか。

西岡 高齢者施設福祉部会と別組織だった在宅サービス領域のセンター部会を統合したことは大きな変化でした。以前は在宅と施設事業は別と考えられていましたが、やはりつながっている部分も多々あります。
私の施設もかつては遠方からの入所者がほとんどでしたが、今では東村山市内の入所が9割を占めます。地域の方々は、在宅から施設までシームレスにサービスを利用しており、双方を一体的に捉える時代になってきています。

 任期中には若手の介護職員ユニットである東京ケアリーダーズも立ち上げられましたね。メンバーが自分たちの言葉で介護を語ることはとても大事なことだと思います。この取り組みについてはいかがですか。

西岡 若手介護職が主体的に活動することには大きな意義があります。様々な地域で同じ仕事をする仲間と情報交換し企画を実現していくことは、メンバーの成長につながり現場でも活かされると感じます。コロナ禍で学生や地域への直接のPR活動は止まってしまっていますが、その間介護の魅力を伝える冊子を発行しました。

 東京ケアリーダーズも結成時から見ていますが、介護の魅力を語る彼らの言葉には力があります。経験を重ねて成長する姿を頼もしく感じています。医療・介護の勉強会等では、理想はあれども現場ではなかなか叶えられないという複雑な思いを抱える方もいますが、他の現場でできていることを知ることは重要です。他施設と自施設の違いを分析し、どうしたらできるようになるかをみんなで考えれば、前進につながると思います。
田中会長は2021年から現職ですが、介護保険制度は事業者に厳しい改正が続いていると感じます。この点にどのようにチャレンジされていきますか。

田中 雅英氏

田中 介護報酬は介護保険制度創設時と比べると下がっています。一方、最低賃金は50%近く上がっています。最低賃金の上昇は、労働集約的産業である介護業界にとって影響が大きく、経営は厳しくなっています。特に、人件費も物価も高い東京都の高齢者施設は困難な状況に置かれています。この状況を打破するためには、介護報酬を引き上げる必要があります。 ただし、介護報酬を引き上げると介護保険料の負担が増えるという指摘があります。しかしながら、介護保険料には地域格差があります。例えば大阪市では月額8000円を超えますが、東京都千代田区は5400円ほどです。東京都の平均は約6000円です。一方、平均所得は大阪市の400万弱に対して、港区や千代田区は1000万円を超え、23区内の平均は約500万円です。つまり、東京都は全国に比べて所得が高く、保険料は低いです。都内に限れば、保険料を引き上げても負担感は比較的少ないのではないかと思います。
また、東京都は23区から中山間部、離島までが存在し、いわば日本の縮図ともいえる自治体です。介護報酬の地域加算についても1級地からその他地域まで8地域の全てがあります。問題は、介護報酬には財政中立の原則があり、ある級地の地域加算を上げようとすると、他の地域を削らなければならないことです。つまり、ゼロサムなので、都内で財源の取り合いとなる切ない状況になっています。これを解決するためには、東京都で介護報酬と地域加算を決められるようにするしかないでしょう。また、地域ごとに課題は異なります。こうしたさまざまな課題の解決に力を尽くしていきたいと思います。

 今後、介護保険料を払えない人が出てくることも予想され、そうなると財政にも影響が出てきます。東京都で予算を決められる形はハードルも高いですが、良い仕組みだと思います。今後の政策提言の方針をお聞かせください。

田中 介護保険制度と介護報酬改定は原則3年ごとに行われます。毎回現場目線ではなく国の財政の視点で見直しがされてきました。そのたびに事業者と利用者の負担が増えてきた印象があります。これからは我々のほうから見直しを提言し、介護現場の環境の改善につなげることが必要です。髙原さんは経営実態調査を、西岡さんは外国人材、建て替えなどの諸問題の調査に取り組まれ、それを論拠に政策提言をされてきました。今年度からは、必要に応じて随時行ってきた調査を毎年定時に基礎的調査を実施するようにしました。必要な時に適正なデータを用いて、タイムリーに説得力のある提言ができるからです。効果的にデータを活用していきたいと考えています。

 

地域における認知症高齢者や生活困窮者、身寄りのない方への支援

町 亞聖氏

 認知症の方や生活困窮者、身寄りのない方など地域でお困りの方への支援も社会福祉の役割として必要です。この点についてはどのように取り組まれましたか。

髙原 私の時代は施設に入った方へのケアがメインでしたが、今の時代はそれだけではいけません。私は毎年の法人での新人オリエンテーションで「利用者は大きなリュックを背負って入所される。その中身を点検しなければその人のニーズはわからない」とお話しています。ニーズは家族環境、過去の育成歴など、様々なものがあり、そこに目を向けないと必要なケアはできないと伝えています。

 老々介護や認々介護、8050問題といった言葉も出ていますが、これらの課題は表面化しにくいと感じます。支援を求めづらい方々へのアプローチ方法も考える必要がありますね。

西岡 自立支援の推進やLIFE(科学的介護情報システム)の枠組みを見ていると、近年の介護保険は身体機能に焦点が当たっていると感じます。しかし、介護保険だけでは支援しきれない生活などの面は、私たちが社会福祉の事業として支えることが重要です。一人一人の生活の文化や歴史などを踏まえた人格の尊重など、身体機能以外の面も重視して支援をすべきだと思います。
こうした社会福祉に取り組むためには、人材が充足していなければなりません。人材育成には、時間とお金をかけて、一緒に働いて経験を共有して技術を継承することが必要です。
地域の高齢者の支援においては、社会福祉法人の役割は大きくなっていくでしょう。

 身体的な介助だけでなく、暮らしをサポートし人生に伴走することが求められますね。施設の人材育成の面では、高齢協の支援も活用していけると思います。

田中 地域の福祉ニーズに応えることは社会福祉法人の使命です。しかしながら、健全な経営なくして福祉サービスを充実させることはできません。まずは、経営基盤を安定させなければなりません。福祉ニーズの発見は包括支援センターの役割です。その解決・緩和は特別養護老人ホーム(以下、「特養」という。)の役割です。特養でニーズを発見することもあると思います。お困りの本人だけを支援するのではなく、その世帯を丸ごとケアするという気持ちが必要です。
高齢者、子ども、障害者を一緒にケアする富山式デイサービスが全国で広まり始めています。人材を確保しづらい島しょ部や中山間部ではこうした分野を超えた取り組みが必要となるでしょう。近い将来には全ての地域で分野を超えた福祉サービスをしなければならなくなるかもしれません。対応策を練っておく必要があります。

髙原 視野を広く持つことで成功する取り組みがあると思います。地域包括センターでは、犬の散歩をしている方々を貴重な資源とらえ、地域の見守り隊にしたというケースもありました。福祉は地域のニーズに誠実に応えることから始まると思います。
現在、入所の要介護度の要件やケア付き住宅が出来てきた影響で、入所施設としての特養のニーズは減少傾向かもしれません。一方、特養の本当の使命は地域のセーフティネットだと考えており、その役割を重視すればまだまだ大きなニーズがあると思います。地域で取り組めていない社会福祉を特養が担っていくべきだと思います。

 

福祉人材の確保・育成・定着への取り組み

 特養入所者の平均年齢は上昇傾向にあり医療的なケアを必要とする人も少なくありません。
介護職の領域は広がりと専門性の向上が求められています。人材確保・育成・定着についての取り組みをお聞かせください。

髙原 新入職員をどう育てるかと、既に現場で働いている職員をどう育てるかという二つの視点があります。しかし、現在では新人を採用することも難しくなっているため、外国人材に頼らざるを得ない状況です。その人材確保のために、東京都の介護職への住宅支援制度がとても役立っています。これは高齢協の政治的な活動で実現したものですが、こうした支援を拡大してもらえれば、人材確保問題も前進すると思います。

西岡 地域ごとに福祉のニーズが異なるため、施設の運営には多様性があります。また、社会福祉法人は地域福祉の核となる役割も担うべきだと思います。そのため、多様なニーズに応えられる力量のある人材育成が求められます。専門性のある人材を育てて、様々な職場を経験してステップアップする形もよいかもしれません。育成については、高齢協の研修なども活用できます。また、優秀な人材を正しく評価できるシステムを作る必要があります。
会員施設の人材不足の影響もあり、東京ケアリーダーズのメンバーの補充も課題です。様々な活動を通じて見識を広めるチャンスを逃してしまっていると思います。施設経営者の捉え方はいろいろあると思いますが、そういった学びの機会を提供する人材マネジメントを考えてほしいと思います。
人材確保においては、介護福祉士は10年来、近年は社会福祉士の専門学校でも定員割れが発生し、学校自体も減少しています。それを補うため外国人材にも入ってもらっています。外国人材が活躍をしているという施設の話も聞きますので、そういった事例を共有し、外国人材が力を発揮できる方式を都内でも広めていくべきだと思います。

田中 第一に取り組むべきは介護人材の量の確保です。まずは人数を増やさないと、質の話にたどり着けません。人材不足では、育成どころではないです。都内の介護人材は2025年までに31,000人、2040年には80,000人が不足すると試算されています。これは日本人だけでは到底足りません。日本の人口は減少一方ですから。外国人にも頼らなければなりません。外国人に日本での介護の仕事を選んでもらえるよう、日本語教育や住宅確保など生活を含めた定着支援の必要があります。
育成については、大学などの教育機関で介護の専門課程が少ないことを改善すべきではないかと考えています。例えば東京であれば都立大学で専門課程を設定し、アカデミックな視点でも介護の魅力を発信していくことが大事だと思います。

 日本は超高齢社会を世界中でいち早く迎えており、多くの介護事例を積み上げています。それを学術的に研究し、日本の介護モデルとして海外に輸出する時期に来ているとも感じます。
また、アカデミックな介護の研究においては、経験と感覚で行っている介護を数値化し、データを蓄積することにデジタル技術が活用できるのではと思います。

 

今後の高齢協の活動と広報への期待

 高齢者福祉施設が地域福祉の核となることや人材育成についてもお話しいただきました。それを世間に知ってもらいより広く展開していくためには、広報がとても重要です。
今後の高齢協の活動と、広報への期待をお聞かせください。

髙原 私たちが広報で目指すべきは、地域のセーフティネットを守るという意識を現場で働く職員に根付かせることだと思います。人手不足だから地域の困っている人を受け入れられないということはあってはなりません。内外に対して、セーフティネットの役割を担うことを発信し続けてほしいと思います。

西岡 福祉・介護を通じた自己実現が達成できることが重要です。さらにそれを別の領域に活かせれば、社会に福祉のことや介護をよりPRできます。大学の話では、介護福祉士や社会福祉士の採用に興味を持つ企業もあると聞きます。福祉知識や技術が求められているのです。
福祉・介護人材不足の背景には、私たちの事業のありようや魅力・発展性、それらを通じた自身の成長や力を発揮するといったやりがいが知られていないという要素もあります。そういった要素を深堀して、アクティブに情報発信することを広報に期待します。
私たちの仕事は人の暮らしを支え地域の暮らしを支えることです。ぜひそれを世間が認知し、体感してもらえるようになればと思います。

田中 福祉の仕事は地域のセーフティネットです。地域に不可欠の仕事です。職員はその仕事を通して自己実現を達成しています。こうしたことを社会に広く伝え、介護報酬引き上げの必要性を理解していただかないと人材不足は根本的には解決しないのではないでしょうか。介護の仕事はきついわりに給与が安いというイメージが定着していますから。そういう意味で広報の役割は今後ますます重要になってきます。
また、次世代の方々に介護福祉の魅力や重要性を伝えていくことも広報の使命です。その点を意識して取り組んでいきたいと思います。

 病院で回復を見込めなかった方が介護施設で適切なケアを受けることで命を救われ暮らしを取り戻したというケースもよく伺い、介護や福祉の持つ力の可能性を常々感じています。しかし、今もなおそれが世間に広まりきっておらず、自身や家族が介護に直面しなければその尊さが認識されづらいとも感じます。また、お1人お1人の課題やニーズと向き合い生き辛さを解消していくという介護の現場で当たり前に実践されていることは、世の中の全ての人の暮らしをよくするために応用できると思います。
私も出来る限りお手伝いしますので、ぜひ、アクティブな広報を推進してください。

(※当日は新型コロナウイルスへの感染対策の元、座談会を開催しました。)

 

2016年夏発足「東京ケアリーダーズ

2017年に都民への7つの宣言を取りまとめて発信
アクティブ福祉グランドデザイン

 

2022年9月(アクティブ福祉 第50号掲載)

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