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つながる笑顔のかけはし

東京都社会福祉協議会

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福祉広報 2023年4月 771号 テキストデータ

【表紙】
栃木県 下都賀郡
黒川両岸にソメイヨシノが咲き誇るこの季節は
花見客で一気に活気づく。
さぁ、お弁当食べていっぱい遊ぼう

【社会福祉NOW】

課題解決のための想いを発信!
福祉施設によるクラウドファンディング

 商品開発や社会課題の解決など、新たな取組みへのチャレンジをインターネットで広く発信し、想いに共感した人たちから寄附を募るクラウドファンディングが広がっています。資金調達の側面が注目されがちですが、福祉分野においては通常の取組みでは接点の少ない幅広い層へ向けた情報発信の効果も高いようです。実際に取り組んだ2つの法人の事例を紹介します。

 

法人全体で支援者を増やす取組みを推進ー社会福祉法人共生会

葛飾区の児童養護施設「希望の家」を中心に複数の施設を運営する共生会では、これまでに2回、クラウドファンディング(CF)に挑戦しています。一度目は希望の家の卒園児を支援するため、二度目は新たに開設する「江戸川つむぎの家」の家具や生活用品の購入費用に充てるために実施しました。

2人のファンドレイザー(資金調達やそのための広報活動等の専門家)と契約し、理事長も関連資格を取得するなど、情報発信を強化して多くの支援者を集める取組みを推進する機運が高まっていた共生会では、課題解決のためにCFに取り組むことは自然な流れだったといいます。ファンドレイザーの助言を受けて希望の家でプロジェクトを開始したところ、4日目で当初の目標金額を達成。早々にネクストゴール(さらに高い目標値)を設定することになりました。担当した施設長の佐藤孝平さんは「目標を達成できたことも良かったが、機会があれば社会的養護の子どもたちに手を差し伸べてくれる人がこんなにたくさんいるんだと実感できたことが嬉しかった」と話します。

たくさんの人が関心を持ってくれることが分かった一方で、施設への来訪者や実習生であっても、社会的養護の必要な子どもたちへのイメージには未だに偏りがあることも感じていました。江戸川つむぎの家の施設名を公募するなど、みんなでつくり上げていく施設をめざして取組みをすすめていた統括施設長の齋藤美江子さんは、「新しくできる施設のことやそこで暮らす子どもたちのことも多くの人に知ってもらいたかった」と、CFを通じた情報発信のねらいについて話します。

社会全体で子どもを育むために

プロジェクトは2つとも目標達成に至りましたが、CFサイトやSNSの運営は大変だったそうです。希望の家の通常勤務と江戸川つむぎの家の開設準備に加えてCF業務を担当していた小栗山千晶さんは、「目の前の子どもへの対応が最優先なので、それにプラスしてどれだけできるか。またサイトで何を報告すれば良いか悩むこともあったが、子どもたちにとって社会的養護のイメージが悪くならないように、明るいページにしようということは決めていた」と話します。

佐藤さんも応援コメントへの返信や近況報告の更新は一人で担っていたため、業務時間内では追いつかないこともあったといいます。「一人きりではリスクもあるので、もっと職員を巻き込んで分担したり、CFチームをつくっても良かったかもしれない」と振り返ります。

同じくCF業務を担当していた山﨑明夫さんは「通常業務と並行してすすめるのは大変だったが、自分の視野が広がるとても良い経験だった。何より寄附してくださった方々のメッセージが本当に力になった」と話します。地域支援として行っていたホームスタート(※)を過去に利用した人が寄附をしてくれたり、寄附者がその後マンスリーサポーターになってくれたりするなど、つながりを感じる場面もあったといいます。

佐藤さんは「『社会全体で子どもを育む』ことが社会的養護の理念の一つなので、もっと発信をしていかなくてはと常々思っていた。今回のCFによって多くの人に知ってもらえたり、応援していただけたりすることができ、理念の実践につながっていくと実感した。もっと発信力をつけていきたい」と今後について話します。

(※)…研修を受けた子育て経験のあるボランティアが未就学児のいる家庭を訪問する活動

 

現場の気づきを社会的な発信につなげるー社会福祉法人奉優会

都内を中心に100を超える高齢分野の事業所を運営している奉優会では、居宅介護支援事業所で働くケアマネジャーたちの想いがCFに取り組むきっかけになりました。介護者として利用者宅に伺う中で、気になる子どもの存在を見かけることがあったといいます。プロジェクトを担当した川口有美子さんは「支援が終了すると関わりがなくなるため、後になって『あの子はどうしているんだろう』と思うことがあった」と言います。「ヤングケアラー=かわいそうな子」というイメージが広がっていることも気になっていて、「家族としてできることをやっている子どもたちがどんな想いでいるかが心配で、子どもの状況を知るためのツールをつくろうということになった」と話します。

その後、より多くの人にヤングケアラーのことを知ってもらうため、ツールだけでなくヤングケアラーの概要や支援事例、現場発の政策提言も加えた自費出版としてまとめることを決定。出版社との打合せの中で「広く発信したいならCFを活用しては」という提案があり、詳しい人を紹介してもらいました。川口さんは「CFサイト利用者は20代~30代がメインとのことで、これから親になる世代にもヤングケアラーの存在を知ってもらえると考えた」と話します。

CFに取り組むにあたり、「とにかくスタートダッシュが大事」と助言されていたため、法人ウェブサイトの各事業所ページで周知したり、チラシを作成して来所者や関係者に配布したり、ケアマネの口コミで広げたりするなど、CFサイトを見てもらうための周知にも力を入れました。幸い、スタートから数日で目標額の3分の1に達することができました。さらに、その後はテレビなどのマスメディアに取り上げられる機会もあり、幅広い発信につながりました。

CFをきっかけに新たなつながりへ

出版物の制作と同時並行で取り組んだプロジェクトは、居宅介護支援事業所のケアマネ約20人が役割分担をしてすすめました。絵が描ける人はイラストやマンガを、パソコンができる人は動画を、調べてまとめることが好きな人は本の原稿を書くなど、それぞれが得意なことを担ってもらったそうです。川口さんは「CFも出版も初めてのことで大変だったが、同じ目標に向かって取り組むことができ、チームワークの向上につながった」と職員への効果について話します。

CFに取り組む以前からヤングケアラーについて発信していた奉優会ですが、今回のプロジェクトを経て、新たな展開もありました。その一つが、学校や公立図書館向けに発行されるヤングケアラーに関する出版物への取材協力です。テレビ取材に協力したことがきっかけで、監修を務める学識経験者から声がかかったそうです。「ヤングケアラーの当事者にも届けたいという思いがあったので、子どもが相談できる機関の一つとして協力することができて嬉しかった」と川口さんは話します。

また、2022年12月には、世田谷区主催の「ヤングケアラー・若者ケアラー支援シンポジウム」にもパネリストとして参加しました。そのほか、ケアマネの勉強会・学習会などでもヤングケアラーについて伝える機会が増えたといいます。川口さんは「ガイドブックは完成したが、子どもの想いを地域で支えるために、いかに普及していくかが大切」と今後の取組みを見据えています。

【TOPICS】

国籍や国境を超えて、人と人とがつながり、ホッとできる図書館をめざして
―新宿区立大久保図書館

 

新宿区の人口は、2023年1月1日時点で、34万6279人、そのうち外国籍住民の人口は4万279人で、約11%を占めています。特に、新宿区立大久保図書館がある大久保二丁目は、人口の31・7%、隣接する大久保一丁目は38・5%が外国籍住民と、非常に高い割合になっています。コロナ禍前は、その割合が40%を超えていた時期もありました。国籍別に見ると、中国人と韓国人が約6割ですが、ネパール人やベトナム人など、さまざまな国籍の人が生活しています。

館長の米田雅朗さんは「図書館の利用状況を数年前に集計してみたところ、外国籍の人の利用が全体の約3割だった。利用者カードをつくらずに図書館を利用している人もいる。日本に来たばかりの人が来館することもあり、図書館の情報が口コミで広がっているのではないか」と言います。近隣の日本語学校からは図書館の見学ツアーを受け入れており、伝えたい情報を簡潔にまとめて、ふりがなをつけた利用案内も作成しています(写真1)。

 

本を通じてさまざまな活動を展開

このような地域の特性に対応するため、韓国語や中国語を話すことができる職員が勤務しているほか、「多文化サービス」を多岐にわたって推進しています。その一つは、外国語資料の収集です。30言語以上の一般書籍や絵本を約2800冊取り揃えています。購入することが多いですが、中には寄贈されたものもあります(写真2・3)。図書館に置いてほしい本をリクエストできる「多文化コーナー図書推薦カード」も多言語で用意しています(写真4)。

もう一つは、一冊の絵本を外国語と日本語で交互に読み上げる形で読み聞かせを行う「おはなし会」です。英語や韓国語で開催することが多いですが、随時ネパール語やベトナム語、アラビア語などさまざまな言語で読み聞かせをしています。当初は毎週土曜日に行っていましたが、コロナ禍で中断となり、21年秋頃から月一回のペースで再開しました。読み手は、フリーランスの通訳者や地域の子育て支援団体とつながっている外国籍のお母さんたちなどです。米田さんは「ボランティアでお願いすることも考えたが、きちんと謝礼をお支払いしている。読み聞かせをしてくれたお母さんたちからは『母語を話せて良かった』といった反応をもらう。こちらとしても嬉しい」と話します。

以前は日本語学校の学生が話し手となるおはなし会も行っていて、参加者のほとんどは日本人のこどもたちでした。「小さな集いかもしれないが、幼い頃から外国籍の人と接する経験をした世代が大人になっていくことで、自然な多文化共生社会がつくられると思う」と、米田さんは言います。

ほかにも、日本語を使う機会として「ビブリオバトル」も開催しています。好きな本について、日本語でプレゼンをし合い、どの本が一番読みたくなったかを決める、本を使ったコミュニケーションゲームです。年一回の実施で、10年ほど続いています。米田さんは「当初は集客が大変だった。SNSやホームページにも載せているが、近隣の日本語学校を回ったり、図書館に来た人にチラシを渡したりして、直接声をかけることが最も効果的だった」と振り返ります。

 

団体同士の輪も広がる

「ゼロから始める楽しい日本語多読」と題した日本語支援も行っていました。現在はコロナ禍で中断していますが、23年度から再開できるよう調整をすすめています。外国語習得を支援する団体の協力で実施に至り、多くの外国籍住民の参加があったため、イベントではなく、図書館の日本語支援として定着していきました。米田さんは「これはデンマークの図書館が、移民を対象に行っているデンマーク語で交流するトーククラブの取組みを参考にした。移民にとって図書館がホッとする場所になっていることを知り、大久保図書館もそうでありたいと思った」と言います。

多文化共生のイベントは、さまざまな団体と連携・協力してできるもので、図書館単独ではできません。「館長になった頃は、人脈がなくて大変だったが、地道にいろいろな人と会っていくことから、だんだんと『面白いことをやっている図書館があるらしい』と広まっていった」と、米田さんは振り返ります。続けて「協力してイベントができれば図書館に多くの人が訪れ、それぞれの団体も新しい人とのつながりができる」と、連携の意義を話します。

 

人と人とがつながる図書館に

大久保図書館の理念は「国境を超え、人種を超え、差異を認め合い、尊重する」ことです。その一歩として、図書館の職員は来館した人に必ず「こんにちは」と笑顔で声をかけています。あいさつをすることで「ここにいていい」というメッセージや安心できる場所であることを伝えるためです。「日本人や外国人といった○○人という概念を超えて、人と人とがつながり合っていく場所であることが私たちの役割」と、米田さんは図書館がめざす形を話します。

ただ、「こうした取組みについて、来館するすべての人の理解が得られているわけではないことも事実としてある」と感じています。米田さんは「私たちや協力してくれる団体は、楽しんで活動をしている。その雰囲気がだんだんと伝わって、『楽しそうなことをしているな』と思ってもらえたらいい」と言います。そして「『何かしてあげる』という姿勢ではなく、自然な交流で、みんなが笑顔で関わることが、多文化共生への一番の近道。目の前の人を大切にすることをこれからも忘れずにいたい」と、館長としての思いを話します。

 

【連載】

災害からいのちとくらしを守るための指針
――災害時のための市民協働 東京憲章

「地域を知る、災害を知る」「つながりをつくる」「課題を解決する」という視点で事例を紹介してきた本連載は、今回が最終回です。これまでの事例を振り返りながら、多様な団体や個人が平時や災害時に連携・協働するための指針「市民協働 東京憲章」についてお伝えします。

 

◆「東京憲章」の作成経緯

100年前の9月1日、関東大震災が発生し、10万人を超える方が家屋の倒壊や火災で亡くなりました。こうした過去の痛ましい災害を繰り返さないよう、私たちは、改めて自分自身を含め一人ひとりの「いのち」と「くらし」をどのように守れるか、考えなければなりません。

首都直下地震や江東5区大規模水害などの想定されている大規模災害は被害が甚大で、私たち市民にできることは限られていると感じてしまいます。しかし、何もできないわけではありません。自助はもちろんのこと、多様な人や多様な団体が平時から手を取り合い、つながることによって、被害を減らすことができます。

「災害時のための市民協働 東京憲章」(以下、東京憲章)はこうした認識の下、平時や災害時に多様な団体や個人が連携・協働するための指針として東京ボランティア・市民活動センター(TVAC)が事務局となり、多様な団体とともに作成しました(※)。

 

◆東京憲章の「2つの視点」

東京憲章には大切にしたい「2つの視点」があります。

①多様性

1つ目は多様性です。東京には多様な人、多様な価値観やくらしがあります。この一人ひとりが持つ多様性を災害時という厳しい状況だからこそ、尊重し合える関係をつくっていくことが大事だと考えています。「こんな大変な時にあなただけ配慮できない」「みんな大変だから我慢してくれ」。過去には避難所でこうした言葉をかけられてショックだった、避難所にいたら死んでしまうと思った、などの声もありました。外国人が暴動を起こしている、というデマが流れたり、路上生活者を避難所に入れるな、という声が出たり、子どもたちの遊びは我慢させるしかない、という意見が出たりすることもありました。こうした事態を繰り返さないため、市民一人ひとりが多様性を意識できるような防災・減災の取組みが非常に重要です。

品川区(連載第2回)での防災まちあるきの事例では、ベビーカーの子どもと親、聴覚障害者、外国人など多様な方が一緒に街を歩く取組みが紹介されています。また、江東区(第3回)での事例では車椅子ユーザーや視覚障害者、聴覚障害者などと一緒にワークショップを企画する中で「一人ひとりが対話すること」の重要性を訴えています。さらに、中野区鷺宮西住宅(第6回)では外国籍住民と顔の見える関係を築き、互いを理解することの大切さを強調しています。多様性とは、多様である一人ひとりの尊厳を尊重することにほかなりません。多様な人たちと同じ時間を過ごし、対話し、交流し、理解しあうことこそが、尊厳の多様さに気づく一歩ではないでしょうか。

②平時からの取組み

2つ目は「平時からの取組み」です。災害が起きた後はできることが限られてしまいます。平時にできていないことは、もちろん災害時にもできません。逆に、平時にできていることは、災害時にもできる可能性があります。東京憲章では「平時にあるさまざまな格差や差別、社会構造の中に被害を拡大させる要因があると考え、そこにアプローチしていくことで、災害時のさまざまな困難を少なくします」と記載されています。

災害が起きた時に、一番被害の影響を受けやすい人は社会の中で弱い立場にある人たちです。東日本大震災や熊本地震では多くの方が「震災関連死」として亡くなりました。炊き出しが食べられない、困っていても相談できない、トイレを我慢して身体を壊すなど、配慮が必要な方々へ配慮がされない事態が起きてしまいました。配慮が必要な方が近くにいても気づかなかったり、気づいても声がかけられなかったりしたのかもしれません。

首都直下地震時には最大で300万人が避難者になることが想定されています。先のような状況を生み出さないためには、普段から地域や社会の中でつながりを増やし、お互いに声をかけあい、心配しあったり、励ましたりできる関係をつくっておくことがとても重要です。

国立市(第1回)では緩やかなつながりの中で「ここに来たら防災について聞いたり話したりすることができる」場所づくりを心掛け、平時から防災に触れられる工夫を行っていました。日野市(第4回)や八王子市(第5回)の取組みでは、個別避難計画をすすめる中で、普段のつながりがあるからこそ災害時にも声をかけることができる、と私たちに訴えています。

災害時に突然、さまざまな配慮ができるようになったり、声がかけられるようになったりすることはありません。まさに平時からの関係性が災害時に浮き彫りになります。

 

◆平時・災害時 共通の基本方針

東京憲章では先の2つの視点に基づいた「平時・災害時 共通の基本方針」を定めています。項目だけご紹介します。

 

①被災者一人ひとりの尊厳を尊重します。

②支援や配慮が必要な方々に寄り添い、「いのち」と「くらし」を、みんなで支えます。

③支援者は、情報を交換し、ともに支援活動に取り組みます。

④支援者となる方々へのサポートも重要な支援の一つとして取り組みます。

⑤過去の被災の教訓から学び、平時・災害時の活動に活かします。

 

2019年の台風をきっかけに、地域レベルでの取組みに加え、自治体のエリアを超えて連携・協働をすすめる動きも出てきています(第7回)。TVACでは、福祉施設・事業者、相談支援機関、民生児童委員、当事者団体、町会・自治会、ボランティア・市民活動団体、企業、その他さまざまな団体や市民一人ひとりと共に多様な団体・人の連携・協働による防災・減災の取組みをすすめていきたいと考えています。

【東社協発】

○2023年度 東社協事業計画・予算

○【寄付のカタチ】文化学園大学服装学部学生製作 ファッションと福祉をつなぐマルチガウン

○福祉広報のテキストデータを公開しています

自分の考えを言葉にして利用者と向き合い、やりたいことを引き出していきたい

 

【福祉のおしごと通信】

特別養護老人ホームあかね苑の介護職員として10年目を迎え、現在はユニットリーダーを務める荒井裕介さんに仕事の魅力や利用者との関わりへの思いなどについて伺いました。

 

未経験から福祉の仕事へ

大学時代は経営学を専攻していました。しかし、同じ学部の人たちのように大学で学んだことを活かして、一般企業に就職することは考えていませんでした。中学校の頃から母親に「どんな形でも良いから、社会の役に立ちなさい」と言われ、その言葉がずっと心に残っていたからです。人の役に立つ仕事をしたいと考えていた時、介護福祉士になった友人を思い出し、福祉・介護の仕事について調べはじめました。

介護職は、社会貢献ができる「かっこいい仕事」と以前から思っており、身体を動かすことが好きな私に適職だと感じました。また未経験でも働きながら国家資格を取ることができます。調べていく中で、介護を必要とする方が多くいる特別養護老人ホームで働きたいという思いがわきました。新卒応援ハローワークを訪れ、一番初めに面接したのが、あかね苑です。採用が決まり、介護職として働くことになりました。

 

発想を転換し、利用者目線の介助につなげる

入職時、同年代の職員がほとんどいなかったので、悩みを打ち明けられず、不慣れな仕事に戸惑いもありました。初めての夜勤で、利用者に迷惑をかけてしまいました。自分の失敗に周りの職員は「この経験を次に活かそう」と温かい言葉をかけてくださったのですが、利用者に申し訳ないという思いと同時に、なぜミスをしたのだろうと自分を責めました。

指導担当の先輩からは「この仕事は、経験を重ねて学ぶことで成長できる仕事だよ」とアドバイスを受け、次は絶対失敗しないように、利用者目線で行動しようと決意しました。介護についての基本的な知識を学習し、目の前にいる利用者の日常生活が充実するために何ができるか考えるようになりました。

それ以降、利用者の行動から思いを汲み取ったり、利用者の言葉の背後にある思いを考えたりして、利用者の立場から自立支援をふまえた介助を行っています。また介助の一部を工夫することで、職員の負担も減らせるよう日々励んでいます。

あかね苑で働きながら経験を積み「介護福祉士実務者研修」を受講し、介護福祉士の国家試験にも合格しました。

2022年4月には介護職員の班長(ユニットリーダー)の役職に就きました。班員の育成や利用者ケアの責任者として、生活相談員や医療スタッフ、他の介護職員とコミュニケーションを取り、利用者ケアを検討しています。班員が思っていることを先に聞き、自分の意見はその後で伝えるようにするなど、仕事をすすめていく上で、周囲との関わり方も工夫するようになりました。

 

興味を持ったら勇気を持って飛び込んでほしい

コロナ禍で、クラスターが出た施設も多く、大変な数年間だったと思います。コロナ禍前は、家族が施設に出入りしていたので、顔を見て安心される利用者も多くいらっしゃいました。今は、そのような日常に戻るための充電期間だと思っています。新型コロナが収束したら、家族も施設内のイベントなどに参加していただき、一緒に過ごせる機会を増やしてほしいです。

介護職は、人の温かさに触れることのできるとてもやりがいのある仕事なので、今後介護職になりたいと思う人がもっと増えるように、自分なりに介護の魅力を伝えていきたいです。

 

【くらし今ひと】

辛い時こそプラス思考で

 

小平市にある、あさやけ風の作業所で働いて11年目となる岩田ななみさんに、いつもの暮らしを伺いました。

 

◆お客さんの反応がやりがいに

もともとお菓子づくりが好きで、高校卒業後から、あさやけ風の作業所のお菓子づくりの班で働いています。こすもす班といいます。スコーンやビスケット、ケーキ、パンをつくっていて、一番の人気商品はスコーンです。

お菓子づくりで一番難しいのは、計量です。お砂糖や小麦粉を慎重に量りで量っています。そう言いながら、こぼしちゃうことも結構あるんですけどね(笑)。でも、こすもす班の皆はやさしくて、私が失敗してしまった時も「大丈夫だよ~」と声をかけてくれます。仕事の間は、黙々と集中してつくっていますが、雰囲気が良いです。

休憩の時間には、音楽をかけたりしながら他の班のメンバーとも一緒に過ごします。最近は演歌をかけて歌いました。

仕事をしていてうれしいのは、やっぱりお客さんに「おいしかったよ」と言ってもらえることです。声をかけてもらうと「頑張ろう」とやる気も出ます。つくっているお菓子は作業所の中にある「CAZECAFE」でも食べられるのですが、コロナ禍でカフェの営業ができなかった時はお客さんに会えなくて残念でした。

 

◆休日の楽しみはハンドサッカー

平日は15時半に仕事が終わって帰ります。家に帰ると、タブレットでYouTubeを見たり、ツイッターで友達のツイートを見たりして過ごしています。時々、オンラインで友達と話すこともあります。コロナ禍で外に出られなかった期間もあったので、会わなくても友達とつながれるタブレットとスマホは私にとって大事なものです。

一番楽しみにしている休みの日の予定は、月に一度のハンドサッカー(※)クラブです。もともとアウトドア派で、外に出たり体を動かしたりすることが好きです。

ハンドサッカーを始めたのは、中学生の時に「やってみようかな」とハンドサッカー部に入部したことがきっかけでした。それから今もずっと続けています。都内の特別支援学校が集まる大会で優勝したこともあるんですよ。

学校を卒業した後は、地域にハンドサッカークラブがなくて、友達とつくりました。今、ボランティアの方も入れて30人くらいメンバーがいます。つくるのは大変だったけど、友達がたくさんできたので良かったなと思っています。

これまで国立市にあるスポーツセンターで活動していたのですが、コロナ禍で、予約が取りづらくなってしまって、各地の体育館を転々として練習しています。ハンドサッカーの大会にも出ます。でも、勝ちにこだわるのではなくて、楽しく勝つということを目標にしています。

 

◆コロナ禍で気づいたこと

大切にしているのは、プラス思考でいることです。コロナ禍に散歩に出かけたことをツイートしたら、「コロナ禍なのに何してるの」と友達に怒られてしまいました。すごく落ち込んだけど、「友達には、友達の考え方があるな」とも思ったんです。マイナスなことばかり考えていると心が沈んでいってしまうので、できるだけ良い方向に考えていこうと思うきっかけにもなりました。

 

(※)ボールを手に持って運び、相手ゴールにボールを入れて合計得点を競う競技。選手の運動機能によりボールの保持時間や方法等は異なる。

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