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東京都社会福祉協議会

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福祉広報 2023年8月 775号 テキストデータ

【表紙】(写真)

すっかり日焼けした地元の子供たち
残り少ない夏休みの
何やらお楽しみ相談中

【目次】

1社会福祉NOW
2TOPICS
3連載 ネットワークを活かした地域公益活動(4)
4み~つけた
5おしごと通信
6 東社協発
7くらし今ひと

「*見出しの頭には「--(半角で2つハイフン)」の記号が挿入されているので、検索機能を使って頭出しをする際にご利用下さい。また検索の際、目次でご紹介した数字を続けて半角で入力すると、その項目に直接移動することができます。
(例)1をご希望のときは、「--(ハイフンハイフン)1(すべて半角)」と入力。」

--1【社会福祉NOW】


一人ひとりの尊厳が守られる社会に
~障害者の権利擁護から考える

2014年に障害者の権利条約を批准してからまもなく10年。制度的な改善はすすむ一方、障害者に対する権利侵害や虐待事案は減っていません。障害者をはじめ、子どもや外国籍、高齢者などを含め一人ひとりの尊厳が守られる社会の実現に私たちが求められていることは何か。今回は、東洋英和女学院大学名誉教授の石渡和実さんと知的発達障害部会人権擁護委員会に取材を行い、障害者の権利擁護から考えていきます。

 

すべての人の尊厳が守られるために社会に求められていること

障害のある人の人権や自由を守ることを定めた「障害者権利条約」。2014年の条約批准を機に、日本の権利擁護の取組みは大きく転換してきました。本条約は障害分野以外にも大きく影響し、「法律の前にひとしく認められる権利」を謳った12条は、高齢分野や終末期ケアにおける〝当事者の思いや願いをどれだけ尊重するか〟という意思決定支援の流れに寄与しているといいます。
22年8月、批准後初めて日本政府の取組みに対する国連障害者権利委員会の審査が実施され、9月に勧告が公表されました。勧告の冒頭では津久井やまゆり園事件が言及され、事件以降の日本の障害者政策の変化が問われました。事件の検証委員長も務めた石渡和実さんは本勧告について、「『パターナリズム』という言葉が改めて今回注目された。支援が必要な人たちを私たちの視点から守ろうとしていたのではないか。安全や管理を重視するばかりで知的障害の人たちをはじめ、色々な人の可能性を奪っていたのではないかと勧告を受けて再確認をしている」と話します。障害者権利条約や事件をきっかけに「当事者の思いを尊重し一緒に歩む」という流れが社会にできつつある一方、障害者差別解消法の社会認知が依然すすまないことや障害者への厳しい虐待や権利侵害が明らかになる現実を石渡さんは指摘します。

◆人権を考えることは当事者の声から始まる

施設入所者の声を聞くオンブズマン活動の経験や津久井やまゆり園事件等を通じて、石渡さんは「人権擁護において、人権が侵害される側の人の声をしっかり受け止めることが大切。人権を考えることは当事者の声からスタートする」と考えています。本事件の裁判では、支援者や家族が語る機会はありましたが、被害者は匿名で本人の声を聞かないまま事件が語られ、「本人不在」と指摘がされました。事件をきっかけに、神奈川県では「当事者の望みや願いを尊重」していくために、23年4月より当事者目線の障害福祉推進条例が施行されています。
これからは当事者の思いや声を受け止める支援が大切になってくるとともに、第二期成年後見制度利用促進基本計画が示すように、その人を取り巻くさまざまなネットワークが重なり合いながら支援することができる地域づくりが必要になってきます。

◆一人ひとりの人権が当たり前に守られる社会には

22年の勧告を経て、障害者権利条約の「人権モデル(注1)」という視点が一層注目されています。「このことは障害者観の転換に留まらず、虐待されている子どもや認知症のお年寄りも含めた『人間観の転換』を日本社会に生み出しているように思う」と条約の意義を石渡さんは改めて感じ、当事者を中心に地域全体がさまざまな支援ができるようにネットワークが構築されることで社会が変わる流れもできてきているといいます。
一方、SNSの誹謗中傷などをみると、障害者や外国籍、LGBTQなど人権侵害を受けやすい人に対する社会の理解は十分であるとはいえません。そうした現状について、石渡さんは「小さい時から共に学んだり、共に生きるという経験をすることが大人になってからも差別や偏見を持たない、一人ひとりを尊重する社会をつくっていく」と強調します。すべての人の尊厳が当たり前に守られる社会に向けて、制度や環境整備がすすみゆく中、まさに私たち一人ひとりの意識が問われているといえます。

 

ネットワークだからできる取組みを~それぞれの声を聞くことから

東京都社会福祉協議会の知的発達障害部会(以下、知的部会)は、およそ480の知的障害児(者)の施設および事業所から構成されます。さまざまな事業所が集まる知的部会では、「人権擁護委員会」が20年以上前に発足し、人権意識を高め、利用者の権利擁護を考えるべくその時勢に応じた多様なアプローチを継続してきました。
広報誌「じんけんBoard」(注2)の発行のほか、講師を招いた研修や委員による出張研修など必要な取組みを模索してきました。近年は、新型コロナの影響を受けながらもオンラインを活用し、年4回にわたる虐待防止・権利擁護研修や、人権フォーラムを開催するなど、利用者の権利擁護について部会全体に問い続けてきました。

◆本人の声を聞くことが私たちの原点

これまで委員会として大切にしてきた取組みの一つに〝人権フォーラム〟があります。講演やパネルディスカッションを通して、「利用者の権利をどう大切にしていくか」を考える機会としてきました。感染対策に追われ2度の延期が続いていましたが、コロナ禍でフォーラムの意義を委員はより強く感じ、23年1月に第24回人権フォーラムを開催しました。
2年ぶりのフォーラムは、新たな試みとして各施設の利用者による知的部会の「本人部会」と合同で行いました。企画に至った経緯について、長く委員を務める髙橋加寿子さんは「本人部会からの発信も増えてきてはいるが、『私たちは利用者の本当の気持ちをちゃんと聞けているのか、吸い上げられているのか』とどこかひっかかっていた。人権擁護について支援者が集まって話す中で、私たちは本当に利用者が見えていたのか」と思いを明かし、委員長の渡辺和生さんも、「私たちの仕事は相手を幸せにもできるし不幸にもしてしまう。支援者の原点はご本人の声をしっかりと聞いていくこと。それが本当の仕事だと改めて思った」と続けます。フォーラムは配信で開催し、多くの施設に利用者の声、そして委員の思いが届くことをめざしました。

◆日々の小さな積み重ねが変化につながる

これまで20年以上にわたり、必要な取組みを模索し続けている人権擁護委員会ですが、今なお権利侵害や虐待事案が生じる現状に活動の難しさを感じているといいます。委員の今永博之さんは「だからこそやはり利用者の声を届けることが大切だと思う。誰だって自分が罵られたり、お金を使われたりすることは嫌だと分かっているのに、支援や支援者との関わりの中で利用者が嫌な思いをすることが実際に起きている。今回のフォーラムのように、利用者本人に声を上げてもらい、多くの人に届けることが私たちに求められているのでは」と実感しています。利用者の中には声を上げることが難しい、権利侵害や虐待自体を認識できない人も多くいます。委員の市川順子さんは「私たち職員が、利用者の日々の変化をどれくらいキャッチできるかが大切。難しいことだけれど頭の片隅にその意識があるだけで変わってくる」と話します。

◆人権擁護委員会が考える権利擁護の取組み

23年度も始まっている虐待防止・権利擁護研修では、毎回多数の応募の中から当選した70人が参加し、グループワークの時間は職員の悩みや声を共有する場になっています。コロナ禍を経てようやく研修を再開した際には、グループワーク終了後に参加者から自然と拍手が沸き起こったといいます。その光景が印象的で、「思いや悩みを共有する場が求められていることを改めて感じた。部会というネットワークだからこその強み」と委員の皆さんは振り返ります。
「『丸丸をやっちゃいけない』といった虐待や権利侵害を起こさないための研修ではなく、みんなで利用者本人の権利について改めて考えていくこと。一人ひとりの心に響くような取組みをしていきたい。それが人権擁護委員会としての使命だと思う」と委員長の渡辺さんは考えています。今後は、本人部会とコラボした企画や研修アンケートを通じて現場職員の声を聞き、活動に反映するなど、それぞれの「声」を大切に人権擁護委員会だからできる取組みを模索し続けていきます。

 

(注1)…障害は社会のさまざまな障壁によるという「社会モデル」を補強するのが「人権モデル」。人権モデルでは、誰もが生まれながらにして尊厳を有することを強調し、障害があっても権利や自由を等しく享有する社会をめざす。
(注2)…現在、「じんけんBoard」は知的部会広報誌「かがやき」の紙面の一部として掲載しています

(写真 東洋英和女学院大学名誉教授 石渡和実さん)

(写真 人権擁護委員会メンバー
    左から(社福)文京槐の会 は~と・ピア サービス管理責任者 市川順子さん
       (社福)滝乃川学園 グループホーム部 寮長 今永博之さん
       (社福)みずき福祉会 八王子平和の家 施設長 渡辺和生さん
       (社福)田無の会 たんぽぽ 施設長 髙橋加寿子さん

(QRコード 知的部会ページでは第24回人権フォーラムの様子や広報誌「じんけんBoard」を掲載しています)


--2【TOPICS】

第58回関東ブロック児童養護施設研究協議会 東京大会レポート

2023年7月7日(金)、TKP市ヶ谷カンファレンスセンターにて、「第58回関東ブロック児童養護施設研究協議会 東京大会」が開催されました。今回は会場参加とオンライン参加のハイブリッド形式で行われ、合わせて約310名の児童養護施設関係者が集まりました。現在、児童養護施設では、多機能化・高機能化をふまえた施設運営や組織づくり、人材確保と育成等の重要な課題が山積しています。その中で質の高い養育を提供し続けるため、本大会では「新たな時代を迎える社会的養護~変容を求められる児童養護施設~」をテーマに、これからの社会において必要な児童養護施設の経営や運営について協議しました。

こども家庭庁行政報告

午前の部では開会式と総会に続き、23年4月に創設されたこども家庭庁から行政報告が行われ、こども家庭庁支援局家庭福祉課分析評価指導専門官の末武稔也氏が登壇しました。
行政報告ではまず末武氏より、こども家庭庁の必要性とめざすものについて「これまで縦割りであった施策をこども家庭庁で一括し、厚生労働省や文部科学省とも密接に連携しながらすすめていく」と説明がありました。また、末武氏はこども家庭庁の機能の特徴として、各省大臣に対する勧告権等を有する大臣を必置としたことを挙げ、「今後はこのような強い司令塔機能を活かしながら、国の子ども・家庭施策の推進をめざしていきたい」と述べました。
次に、社会的養護を必要とする児童の現状について、末武氏は「平成28年度改正児童福祉法」の概要にふれつつ、「里親養護をすすめるとともに、施設においても、より家庭に近い環境での養育の推進を図ることが必要」と強調しました。さらに、厚生労働省の「平成30年児童養護施設入所児童等調査結果」を用いて、障害等のある児童は里親家庭で24・9%、児童養護施設で36・7%と、全体的に増加している現状を伝えました。
続いて、「令和4年度改正児童福祉法」の概要や、改正法施行に向けたスケジュールについて話がありました。それに伴い、末武氏は全ての妊産婦・子育て世帯・子どもの包括的な相談支援等を行う「こども家庭センター」の設置を説明しました。
自立支援の充実については、18歳以上の退所者のアフターケアについて言及し「施設を出て1~2年で連絡が途絶えてしまうという声も聞かれる。SNSなどを活用した個人と施設がつながりやすいシステムづくりをしていけたら良い」と話しました。

4つのテーマを協議した分科会

午後の部は、会場を分けて4つのテーマで分科会が行われました。分科会では、発題者が自施設での取組みについて説明した後、参加者は5~6名のグループに分かれディスカッションをしました。分科会終了後は全体で共有の時間がとられ、各分科会の座長が発表を担当しました。
第1分科会は、新日本学園の鈴木寛理事長が座長を務めました。鈴木理事長は、参加者全員がテーマについて共通認識を持つことを目的に、グループディスカッションの後、シンポジウムを行ったことを説明しました。第1分科会テーマに関する取組みについては「各施設でさまざまな要素があり、発題者の2施設のようにさらに要素をのばしていきたいという声が聞かれた」と述べました。続けて「そのような状況の中でも先駆的な取組みをしている発題者2名に、取組みのコンセプトや人材育成のノウハウなどを聞くことができ、実りある分科会になったのではないか」と語りました。
第2分科会は権利擁護をテーマに行われ、座長は望みの門かずさの里の戸波宏幸施設長が務めました。戸波施設長は初めに、グループディスカッションは意図的に施設長と現場職員に分けてグループ編成をしたことを挙げ、それぞれの視点で使命や悩みを話し合っていたことを報告しました。また、戸波施設長は「すでに各施設で権利擁護の取組みをされてはいるが、形骸化してしまうかもしれない。日々の支援の中で子どもたちの権利を職員が意識していくこと、そして取組みが生きた実践になるよう常に見直すことが大切」と話しました。
第3分科会で座長を務めた聖母愛児園の髙野善晴施設長は、分科会テーマについて「成人年齢が18歳になったことで、進学や就職に向けた社会的養護の猶予期間が短くなったことを実感した。そのため、児童という括りにこだわらず、若者や青年に向けた視点の支援も必要になってくるのでは」と今後求められる支援について述べました。
第4分科会では、日照養徳園の大谷恭久施設長が座長を務めました。大谷施設長は「グループディスカッションでは特に人材確保安定に至るまでの工夫について活発に話し合われていた。『情報発信は都や県レベルでの取組みも必要』、『定着を大事にしていかなければ確保にもつながらない』などの意見が出ていた」と分科会の様子を伝えました。

閉会式では、次期開催を担当する静岡県を代表して静岡県児童養護施設協議会の石川順会長が挨拶し、今回の東京大会は終了しました。

 

(図 分科会テーマ)

(写真 こども家庭庁行政報告の様子)


--3【連載 ネットワークを活かした地域公益活動】

検討と試行錯誤を積み重ねながらすすめる参加支援の取組み
 

立川市社会福祉法人地域貢献活動推進ネットワーク(以下、ふくしネットたちかわ)は、2015年の発足以降、「災害時の地域活動への支援」をはじめ、地域課題の解決に向けた取組みを推進しています。今回は、20年から検討を行っている「参加支援」の取組みについて、事務局を担う立川市社会福祉協議会にお話を伺いました。

立川市社協では、市内6つの生活圏域ごとに2名の地域福祉コーディネーターを配置しています。ふくしネットたちかわでも、その6圏域を活かし、近隣の社会福祉法人が集まり、地域課題の解決に向けたアイディア出しや情報共有を行う「地域懇談会」を開催しています。これまで、この地域懇談会を通して、清掃活動やフードドライブなどの活動も生まれてきました。
新型コロナの感染拡大以降、幹事会や全体会などはオンラインにて可能な範囲で続けていましたが、地域懇談会は多くのエリアで中止となりました。コロナ禍の各法人の状況を知ることが難しくなり、地域福祉コーディネーターが担当地区ごとに各法人を訪問し、状況を把握するとともに、改めてふくしネットたちかわの目的や役割などを伝えていました。

◆検討を積み重ねた参加支援の取組み

参加支援の取組みのきっかけは、19年に、参画法人から寄せられた意見でした。障害者の就労体験から雇用につながった例があり、「社会福祉法人として就労支援の場の提供ができるのではないか」という内容でした。
20年からは、関連するテーマの学習会を開催したり、取組みに関するアイディアをアンケートで募るなど、丁寧に検討をすすめました。重層的支援体制整備事業の動きもあり、参加の対象を、障害のある人から「制度の狭間にある人」としました。21年には、さまざまな分野の法人から選出された4名でワーキンググループをつくり、22年度からの実施に向け、基本的な考え方などを整理しました。幹事会や全体会を通して、取組みへの共通認識を持つことを意識し、参加支援の全体の流れ(図)も共有してきました。
参加者は、制度の狭間にいて何らかの支援や参加の場を必要とする人を想定しています。支援者とは、地域福祉コーディネーターや相談支援包括化推進員(注1)等の相談業務を担う人などを指します。支援者が活動メニューを紹介し、本人の意向と合えば、施設側との調整を行い、受入れが始まるしくみです。メニューは、施設内での清掃や消毒作業などで、施設が随時、変更や更新ができるようになっています。現在は、6施設から9つの活動メニューが寄せられています。
参画法人の一つで、幹事会メンバーの至誠学舎立川法人本部相談役の橋本正明さんは、参加支援の取組みについて「働く場の提供が地域への貢献の大きな柱。対象はさまざまでも、就労体験から一般就労につながっていくと良い」と言います。

◆検討を続けながらより良いしくみに

活動メニューをもとに実際に参加支援につながったケースはまだありませんが、検討を続ける中で、新たな気づきや発見があります。例えば、相談を受けた相談支援包括化推進員が、活動メニューを紹介しようとしたところ、「気軽に参加できる地域のボランティア活動から始めたい」といった反応をもらったことがあり、段階的な支援や対象者に合わせてカスタマイズすることの必要性が見えてきました。
地域福祉コーディネーターの池谷宥さんは「受入れにつなげていくことの難しさはある。しかし、参加者本人の思いを一番に考え、寄り添いながら支援することがやはり大切で、そこへの理解については、幹事会や全体会で各法人の皆さんに丁寧に伝えていきたい」と話します。
ほかにも、立川市内の通信制高校では、進路先や就労先が決まらないまま卒業してしまう生徒が一定数いる現状を知り、この参加支援の取組みのニーズがあることも分かりました。現在は、学校の先生にもこの活動があることを知ってもらうために周知を行っています。
地域づくり係係長の小山泰明さんは「参加者が安心して活動できるような伴走支援をしていきたい。他団体ともニーズや支援のノウハウを共有し、つなぎ手となる支援者のネットワークづくりも必要」と言います。23年度も引き続き、受入れ先と支援者両方への周知と共通理解の醸成を丁寧にすすめていきます。

◆ふくしネットたちかわへの思い

参加支援の取組みの検討と周知をすすめながら、コロナ禍で開催が難しくなっていた地域懇談会も徐々に再開していく予定です。
地域づくり係主任で地域福祉コーディネーターの田口美幸さんは「同じ市内でも6圏域の地域の状況はそれぞれ。ネットワーク全体として取り組む参加支援に加えて、地域の特性や状況にあわせた取組みを展開していくためにも、地域懇談会は大事にしたい」と言います。続けて「当初からの理念として法人全体で取り組むことを大切にしているが、それぞれの忙しさもある中で、このネットワークが現場から離れた活動になってしまうことは気を付けたいと思っている。研修会などにも法人内のさまざまな職員に参加いただけるよう工夫していきたい」と、今後への思いを話します。
池谷さんは「コロナ禍を経て、つながりを継続することの大切さを強く感じた。法人間でつながり続けられる運営を意識し、何かあった時に相談し合える関係性を構築していければ」と言います。
小山さんは「市内の社会福祉法人同士が出会うきっかけになったふくしネットたちかわのつながりを、これからも大切にしていきたい。施設数や職員数などさまざまな規模の社会福祉法人が集まっている。どんな法人でもネットワークに参加できるしくみを考え続けることも必要。社協が事務局を担う意味だと思っている」と話します。
分野の異なる市内の社会福祉法人が連携・協働することの意義について、橋本さんは「法人それぞれに歴史がある。しかし、制度で定められた事業の運営だけにとどまらず、福祉実践主体である社会福祉法人としての誇りを持っていきたい」と思いを語ります。

 

(注1)相談支援包括化推進員…複雑化・複合化した困りごとについて、分野を超えて専門機関等と連携し支援を行う専門職

(写真 左から (社福)立川市社会福祉協議会 地域活動推進課 地域づくり係
           主任 田口美幸さん
           係長 小山泰明さん
           主事 池谷宥さん)

(ロゴ 希望・家族や仲間・情報・アイディア・資源を表したロゴマーク)

(図 参加支援の流れ 立川市社協の資料をもとに作成)

(図 立川市社会福祉法人地域貢献活動推進ネットワーク)

 


--4【み~つけた】

「LET,S朝活」
デイケアの機能訓練室を、平日朝に無料開放
~社会福祉法人東京聖新会

 

東京聖新会では、ハートフル田無(老人保健施設/西東京市)のデイケアで使用している機能訓練室を、平日のデイケアが始まる前の40分間「朝活」として地域の方たちに無料開放しています。
「朝活」では、機能訓練室にあるトレーニングマシンはどれでも自由に使用することができます。理学療法士が常駐し、一人ひとりに合った運動の助言を受けることもできます。
ハートフル田無は、介護保険で利用する事業所なので、普段は要介護(支援)者の方たちの利用が中心となっていますが、この「朝活」は介護保険制度とは関係なく、地域の誰もが利用できます。利用にあたっては年齢も居住地も一切関係ありません。ただし、送迎はないので、自力で来られる方たちが中心です。

利用者にとっての「朝活」効果

取材当日も、散歩の延長で立ち寄った方や週3回自転車で通っている方、年齢が若いリハビリ中の方など、さまざまな方たちが三々五々集まり、それぞれがマシンを活用して「朝活」をしていました。
利用者の方たちは「ここで体を動かした後、家に帰って朝ご飯を食べるととてもおいしい」「コロナ禍で運動不足になり眠りが浅かったが、運動することで体調が良くなった」「他愛のない会話があるだけでも気持ちが軽くなる。1日中気分が沈むことなく健康で充実した時間を過ごせるようになった」と「朝活」の効果を話してくれました。

施設にとっての「朝活」効果

2017年4月に、「朝活」はスタートしました。この「朝活」の責任者である理学療法士の飯泉亮さんは「機能訓練室の空き時間にマシンを地域へ無料開放すること、それがここの理学療法士たちの共通の思いだった。私たちの地域公益活動であり、地域のフレイル予防に効果があると確信していた」と話します。当初は限られた理学療法士で対応していましたが、勤務体制を整備し、今ではすべての理学療法士の協力を得て実施しています。さらに飯泉さんは「負担の大きい自己流のトレーニングや頑張りすぎている方が多くいることが分かった。理学療法士の立場から動きのポイントや生活上のアドバイスを行っているが、リハビリ専門職がいる『通いの場』の重要性を再認識している」と話します。
ハートフル田無と同じ敷地内にある、向台町地域包括支援センターのセンター長を務める近藤崇之さんは「地域包括支援センター利用者の方たちにも活用してもらいたくて『朝活』のチラシを配った。その後、口コミで広がっていって、さまざまな方に来てもらえるようになった」と言います。「地域の方たちは、ここに高齢者の施設があることは知っていても、中はどうなっているのか、どんな人がいるのかを知らなかった。『朝活』で気軽に施設に出入りができるようになり、施設の機能や役割を体験してもらうことで、地域との信頼関係が構築できてきたと感じている」と話します。
さらに「地元の西東京市がすすめる自立支援の取組みである『短期集中予防サービス』などの一助にもなっている」と市の施策との連携についても話してくれました。

 

(写真 「朝活」の様子)

(図 「朝活」の概要)

(写真 右)向台町地域包括支援センター センター長 近藤崇之さん
    左)ハートフル田無 理学療法士 飯泉亮さん)

 

--5【おしごと通信】


謙虚な気持ちを忘れず利用者と職員の想いに寄り添う

更生施設ふじみの生活相談員として8年目を迎え、現在は副主任を務めるギャヴィン・麻衣さんに仕事の魅力や利用者、職員との関わりへの思いなどについて伺いました。

 

実習での出会いが今の自分につながる

1年間アメリカの高校に通っていた時、友人がドラッグ所持で警察に捕まるのを見て、育った環境によって犯罪に手を染めてしまう心理を知りたいと思い、犯罪心理学に興味を持ちました。その後、福祉系の大学で社会福祉学を専攻し、加害者支援と被害者支援について学びました。
在学中、社会福祉士の実習で児童養護施設に行った際、生活困窮家庭で育った子どもと出会ったことが、更生施設ふじみ(注1)に入職したきっかけとなりました。「人生」が周りの環境や人からどのような影響を受けてできているのか、もっと知りたいと思うようになり、さまざまな背景を持った人の支援に関わる仕事に就くことを決めました。

初心を忘れず利用者に向き合う

1年目は常に緊張感を持って仕事をしていました。仕事に慣れてきた3年目、利用者から私への不満の声が聞かれました。自分では丁寧に接しているつもりでしたが「言い方が強い」と受け止められてしまっていました。人によってそれぞれ感じ方や受け止め方は異なるので、どの利用者にも「対等」と思ってもらえるよう、自分の発する言葉にそれまで以上に気をつけるようになりました。当時はかなり落ち込みましたが、この出来事があったから自分自身の行動を省みることができたと思っています。それ以降の私のモットーは「常に初心を忘れない」こと。利用者に注意をしなければいけない時でも、一方的に伝えるのではなく、「自分のことをちゃんと考えてくれている」と思ってもらえるよう、相手の想いに寄り添った声かけを心がけています。また「一緒にあなたのことを考えたい」という思いを伝えるようにしています。

職員のやりたい支援もサポートしていきたい

副主任になってからは利用者を数名担当する以外に、福祉事務所や病院の主治医と連絡調整も行っています。
副主任になるまでと大きく変わったことは、休暇明けには自分の担当以外の引継ぎ内容にもすべて目を通し、気になったことは職員に確認するなど、常に現場全体の状況を把握するようになったことです。
また、職員が利用者への対応に迷った時には、アドバイスをしたり、施設長と一緒に解決策を検討したりしています。職員が働きやすい環境をつくることが、利用者への支援の向上につながると思うので、職員の悩みごとも受け止め、やりたいと思っている支援の実現に向けたサポートができるようになりたいです。

周りへの感謝の気持ちを大切に仕事と育児を両立

私には2歳と0歳の子どもがいて、現在2人目の育児休業中です。体力面や子どもの送迎などの時間管理の面で、育児しながらフルタイムで働くことは、正直大変です。一人目の子の育児をしながら職場復帰した時には「もう無理かも」と思ったこともありましたが、職場では子どもの迎えの時間に間に合うように、他の職員が配慮してくれることもありました。家族は、育休明けでも夜勤ができるようサポートしてくれました。育児をしながらもこうやって働き続けられているのは、周りの理解や協力があってこそだと思っています。初心を忘れず、利用者と職員の想いに寄り添うことを大切に、常に感謝の気持ちを持って、仕事も育児も頑張りたいです。

(注1 都内11か所のうち、単身女性を対象とする施設は3か所で、ふじみはそのひとつ。都内全域より措置された人が入所。)

(写真 ギャヴィン・麻衣さん
     Mai Gavin
     社会福祉法人新栄会
     更生施設 ふじみ
     生活相談員 副主任)

 

--6【 東社協発】

西脇基金チャリティーコンサート2023を開催します


【西脇基金チャリティーコンサートとは】

西脇基金は、西脇和昭氏のご遺志によりご遺族からの寄附を受け、 東社協に設置されました。
児童養護施設や自立援助ホーム等の児童福祉施設、里親のもとで暮らしている子どもたちが、大学・短大・各種学校等に進学した際の学費等の補助として奨学金を給付しています。
基金創設以来36年間で、延べ1,500名以上の子どもたちを支援してきましたが、給付件数の増加等により、その運用益だけでは必要な給付財源の確保が難しくなっています。そこで、1997年に発足した「西脇基金を支える会」により、毎年チャリティーコンサートを開催していただき、全収益を 東社協にご寄附いただくことで、西脇基金の給付に充てさせていただいております。


【コンサート概要】
〈西脇基金チャリティーコンサート2023〉
日 時:9月20日(水)18時開演(17時30分開場)
場 所:なかのZERO 大ホール
(中野駅南口より徒歩10分)
入場料金:(前売り券)自由席:3,000円、指定席:3,500円
(当日券)自由席:3,500円
出 演:鈴木直樹BAND&富岳太鼓
【チケットお問い合わせ・お申込み先】
西脇基金を支える会 (TEL)03-3256-3674

 

ゲンキノカタマリ展を開催しました

 東社協知的発達障害部会では、知的障害や発達障害のある方が利用する福祉施設で制作された作品の展示会「ゲンキノカタマリ」を7月7日(金)~9日(日)にたましんRISURUホールで開催しました。今年度は37施設より絵画や立体作品など、152の個性あふれる作品が揃いました。
なお、同部会では、11月26日(日)~28日(火)に、お菓子や制作物などを販売するイベント「Session!TOKYO2023」を開催予定です。飯田橋セントラルプラザにぜひお越しください!

 

寄附のカタチ

東京ヨットクラブ
「子どもたちに東京湾を体験してもらいたい」

東京ヨットクラブより、1993年から児童養護施設の子どもたちを、ヨットで東京湾を遊覧する「子どもの日クルージング」に招待いただいています。コロナ禍の影響で4年ぶりの開催となった今年は、総勢約100名のボランティアスタッフ協力のもと、140名の子どもたち・職員が24艇に分乗しました。下船後には、イベントや食事も用意され、当日参加できなかった子どもたちにもお菓子が送られました。開催後、子どもたちから乗船した感想や絵がたくさん届いたそうです。
 

(写真)

(写真)


--7【くらし今ひと】


アートワークショップを
コミュニティづくりのきっかけに

三鷹・武蔵野地域をベースに、目の不自由な方と楽しむ対話型絵画鑑賞などに取り組んでいるNPO法人クリエイティブライフデザイン代表の林賢さんにお話を伺いました。

◆「対話型絵画鑑賞」との出会い

ファーストキャリアではオフィス総合提案企業でオフィス・インテリアデザインやコンサルティングの仕事をしていました。定年後のセカンドキャリアではデザインやアートを生かした活動をやってみたいと思っていて、市民活動の勉強会などに参加していました。
ちょうどその頃、2017年のことですが「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」を行っていた、全盲の難波創太さんのことを偶然ラジオで知りました。「ぜひ話を聞かせてください」と思い切って連絡をしてみたら、「とりあえず美術館に行きましょう」と。それで何回か一緒に行ってみたら、私は目が見えているのにアートがみえておらず、彼と対話をしながらだと作品がみえてきたという面白い体験があって、「人が喜ぶ活動をやりたい」と価値観を変えてもらうきっかけになりました。そして心が定まり、活動を始めました。
対話型絵画鑑賞は、1980年代にニューヨーク現代美術館で始まった教育プログラムで、グループで同じ作品を見ながら感じたことを話し合うものです。私たちは目の不自由な方と見る対話型鑑賞スタイルをソーシャルアートビュー(SAV)と呼んでいます。

◆アートワークショップを地域に

SAVでは、目の不自由な方と晴眼者が対話することにより絵画鑑賞をします。またアイマスクをつけて目の不自由な方の感覚を疑似体験しながら作品を見るというアートワークショップもやっています。難波さんにはよくアドバイスをいただいています。実際にやってみると面白いもので、絵を説明するにもうまく言語化できないもどかしさがあったり、説明を聞いてイメージしていた絵と実物のギャップに驚いたり、色々な気づきがあります。
こういったワークショップを地域の皆さんがゆるくつながるためのツールにしたいと思っています。今やりたいことは2つあって、1つは三鷹や武蔵野の地域の文化芸術資源や観光資源をアートカードにして、それをベースにしたワークショップをつくること。もう1つは、これらの地域でワークショップの企画ができる人材を養成することです。
地域まるごとミュージアムのようなコンセプトで、地域でボランティアの方々と一緒にモノを見て、対話して、ランチでもして帰ろうかとなったら、地域経済の活性化につながるし、やっている人も楽しいかなと思います。取組みを広げていくために、教育関係者や福祉関係者にもアプローチしています。

◆企画を考える過程も楽しい

定年後は改めて絵を描きたいと思っていたのですが、「人はなぜアートを創るのか?」「イメージはどのように脳内で創られるのか?」という問いがの裏テーマにもなっていますね。
市民活動の勉強会では「できること、好きなこと、やりたいこと(ちょっと良いこと)」が活動の原理原則だと学びました。今の活動にはすべての要素が入っているので充実しています。
最近、2歳半の孫と一緒に美術館に行き始めたのですが、子どもでもしっかり作品を見ています。それもきっかけになり、SAVを一つの型として、子どもや軽度の認知症の方など対象者別のワークショップデザインにも興味が出てきました。「その人たちが喜んでくれるのはどんな絵だろうね」と、宝探しをするように仲間と話し合う時間がとても楽しいです。

 

(写真 アイマスクをつけて作品を見るワークショップの様子。目の不自由な方と晴眼者が対話することで、お互いの視点を知ることができる)


以上で、福祉広報2023年8月号を終わります。

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