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福祉広報 2023年10月 777号 テキストデータ

【表紙】(写真)

国の伝統工芸品にも指定されている丸亀うちわ。
職人のセンスで様々なうちわが作られている。

【目次】

1社会福祉NOW
2TOPICS
3連載 ネットワークを活かした地域公益活動(6)
4明日の福祉を切り拓く
5福祉のおしごと通信
6 東社協発
7くらし今ひと
 

「*見出しの頭には「--(半角で2つハイフン)」の記号が挿入されているので、検索機能を使って頭出しをする際にご利用下さい。また検索の際、目次でご紹介した数字を続けて半角で入力すると、その項目に直接移動することができます。
(例)1をご希望のときは、「--(ハイフンハイフン)1(すべて半角)」と入力。」

 

--1【社会福祉NOW】
より良い人材確保と働き続けられる魅力ある職場のために
~人材紹介の実情から考える

福祉分野では、種別を問わず、人材確保難が続いています。多くの施設・事業所では、職員採用にあたって人材紹介会社や派遣会社に頼らざるを得ない状況です。特に、人材紹介会社の利用をめぐっては、紹介手数料や職業紹介の条件について、トラブルも報告されています。
今号では、2023年2月に都道府県労働局に設置された相談窓口に寄せられている声と、介護分野の人材確保等の状況についてお伝えします。

◆国が求人者向け特別相談窓口を設置
「職業紹介」とは、求人および求職の申込みを受け、求人者と求職者間の雇用関係の成立をあっせんする制度です。有料と無料の職業紹介事業があり、どちらも厚生労働大臣の許可がないと、事業を行うことはできません。許可された職業紹介事業者が法令を遵守して業務にあたることが前提である一方で、紹介手数料などの職業紹介の条件等に関するトラブルが起きており、対策の検討がすすめられてきています。
この間、主に求人や職業紹介等について定めている「職業安定法」の改正や関係指針の改定など、職業紹介事業者への規制は、福祉分野に限らず行われてきました。23年2月には、都道府県労働局に「『医療・介護・保育』求人者向け特別相談窓口」が設置されました。この窓口では、医師・看護師などの医療従事者や介護従事者、保育士などの採用にあたって、人材紹介会社を利用し、トラブルが発生した際の相談を受け付けています。東京労働局需給調整事業部需給調整事業第二課課長補佐の竹内典子さんは「『紹介手数料が高い』『紹介された人材が早期に退職してしまう』『この請求は違反ではないのか』など、さまざまな相談が寄せられている。内容に応じて情報提供や適切な窓口の案内をするほか、違反が確認された場合には適正に指導をしていく」と話します。
また、この窓口は、実際にトラブルが発生した時だけでなく、人材紹介会社とのやりとりにおいて、分からないことや不安なことの問い合わせも受けています。「『この会社が言っていることは本当?』などの心配事も寄せていただきたい。トラブルを未然に防ぐための正しいルールをお伝えできる」と、竹内さんは窓口の役割について話します。東京労働局では、人材紹介会社への指導監督を適切に実施するとともに「医療・介護・保育分野における適正な職業紹介事業者の認定制度」を周知するなどして、「有料職業紹介事業のさらなる透明化」などの対応にも力を入れています。

◆介護分野での人材確保と定着の状況
東京都高齢者福祉施設協議会(高齢協)の人材対策委員会では、派遣・紹介職員について、「特養における介護職員・人材確保状況に関する調査報告」を22年12月に公表しています。
この調査によると、高齢協会員の特別養護老人ホーム510施設のうち、回答が510施設(分析可能率59・2%)で、21年中に新卒を採用した施設は44・4%で、中途採用を行った施設は78・5%と、半数以上の施設で新卒を採用できておらず、派遣職員等に頼らざるを得ない状況がうかがえます。また、人材派遣・紹介会社を利用する目的として「募集をしても応募がないため」と回答した施設は71・9%。利用する上でのリスクについては、「直接雇用に比べてコストが高くなる」が79・1%、次いで「短期間で退職してしまう」が53・3%となっています。
至誠ホームミンナ園長で、人材対策委員会の委員長を務める諏訪逸(いつ)さんは「調査からは、採用目標人数や施設規模を考慮していないため、充足状況などのより詳しい現状は見えてこない。しかし、多くの施設が人材確保難の状況で、派遣会社や人材紹介会社を利用せざるを得ないことは明らか」と言います。しかし「人材紹介会社等の利用に頼りすぎることは、自法人における採用に関するノウハウが蓄積されず、施設のPR方法などの工夫をしなくなる恐れもある」と危惧しています。
また、職員が離職しない職場づくりに取り組み続ける必要性にも触れ、「厳しい人員体制の中でも離職者が少ない施設はある。給与や処遇面での課題は引き続きあるが、職場の風通しの良さや明確なキャリアパスなど、職員一人ひとりが働きがいを持ち、高いモチベーションを維持できる環境の整備も求められている」と、諏訪さんは話します。
本調査で、人材の確保・定着をすすめるための取組みについて、60・9%の施設が「法人・施設の存在感のさらなるアピール(情報発信・認知度アップ)」が必要と感じています。諏訪さんは「福祉を学んでいない人や小学生、中学生を含めた若い世代にどうアピールしていくのか具体的な検討が必要。あわせて、人材の定着については各施設の取組みを参考にしながらすすめていく。この調査も、採用状況の厳しさや、増え続ける派遣・人材紹介会社への費用などをより具体的に示せる内容に見直し、さらには、職員不足により人員基準を満たせず、事業規模を縮小せざるを得ない施設もあるといった現状も訴えていく材料にしていきたい」と、人材対策委員会の今後の展開についても話します。

◆意思疎通をして、求める人材像を共有する
より良い人材確保のために、人材紹介会社等と施設側双方ができることは何かを考えていくことが求められます。諏訪さんは「人材紹介会社等には、法人や施設の事業内容を事前にリサーチしてもらいたい。一方で、我々も自分たちがどのような事業を行っていて、どんな強みがあるのか、そして求めている人材像を具体的に伝えることが大切だと思う」と言います。「この部分を丁寧に行うことで、マッチングの不具合等による早期退職を防止し、採用側からも『また紹介してほしい』と思う機会が増え、双方に信頼関係が生まれると考えている」と続けます。
竹内さんも「日々忙しい中では、人材紹介会社・施設がコミュニケーションに時間を割くことは難しいかもしれない。しかし、施設側は、ほしい人材のイメージを確定させた上で、どのような人を今求めているのかをしっかりと人材紹介会社に伝えきり、両者が共通認識を持つことが大切」と、意思疎通の重要性を話します。また、求人をする際は「業務内容や賃金などの求人条件に加えて、施設の特徴や雰囲気、職員の声を載せるなど、求職者が情報を見ただけで、職場環境や求められる仕事の内容がイメージできるとやはり良い」と言います。
そして、人材紹介会社等の利用にあたっては、「まず許可を受けている会社かどうかを確認することが第一。その上で、どんなサービスが受けられるのか、料金はどのような設定になっているのかを確認すること。この認識が両者でずれていることがトラブルにつながる一要因。人材紹介会社はこれらの内容を明示することが決められているため、万が一説明がない場合に要求するのは正当。そのほか、会社のホームページを確認したり、相談窓口を活用したりしていただきたい」と強調します。

(図 職業紹介制度(厚生労働省ホームページをもとに作成))

(QRコード 『医療・介護・保育』求⼈者向け特別相談窓口)

(QRコード 高齢協ホームページ 人材対策委員会 調査)

(写真 東京労働局需給調整事業部 需給調整事業第二課課長補佐 竹内典子さん)

(写真 社会福祉法人至誠学舎立川 至誠ホームミンナ 園長 諏訪逸さん (高齢協 人材対策委員会 委員長))


--2【TOPICS】
大島土石流災害から10年
― 大島の地域福祉活動のいま

2013年10月16日、台風26号の影響による記録的な豪雨が引き起こした土石流災害は、東京都大島町に死者36名、行方不明者3名、家屋等の物的被害約400件という甚大な被害をもたらしました。発災直後から復興期に至るまで継続して被災者支援活動に取り組んできた大島社会福祉協議会に、当時の取組みや現在の地域福祉活動について伺いました。

地域の助け合いが機能した
大島社協が発災2日後に立ち上げた災害ボランティアセンターには、延べ8千人のボランティアが参加し、そのうち3分の1が島内の人でした。センター長を務めた藤田好造さんは「中学校も高校も協力的で、生徒を集めて参加してくれるなど、地域のまとまりがあった。進学して島外へ出た大学生たちもたくさん応援に来てくれた」と話します。事務局長の鈴木祐介さんは「地元の人が多く参加していることが大島の特徴ではないかと、他の地域の人に言われたことが印象に残っている。地域の助け合いがうまく機能していたということだと思う」と振り返ります。
当時はいくつかのボランティアグループが生まれ、住民自身による復興に向けた取組みが始まるなど、被災経験は島内でボランタリーな活動が芽生えるきっかけにもなりました。13年当時の経験や意識が定着したことも影響し、19年の台風災害で災害ボラセンを開設した際も、島内の人だけで無事に活動を終えることができました。
鈴木さんは、「『お年寄りのために何かやっている団体』と思われていた社協が、災害支援によって、『ネットワークを活かしていろんな活動をする団体』と広く認知されるようになった。地域課題を解決するといっても伝わりにくいが、活動を通じて目に見える形で住民に届けられたことが一つの大きな節目だった」と話します。

「大島食堂」で新たなつながりを
大島社協では、高齢者を対象にしたサロン活動を30年近く続けています。身近な地域で参加できるよう島内を13か所に分け、地域ごとに会食などをしてきましたが、新型コロナの感染拡大以降は中止せざるを得なくなりました。
22年11月に感染対策をして再開し、その後も感染状況を注視しながら、お弁当を持ち帰りにしたり、おしゃべりするだけにしたりと、試行錯誤を続けています。それでも参加者や担い手の皆さんはとても楽しそうにしているといいます。
また、22年度からは、認定NPО法人全国こども食堂支援センター・むすびえのバックアップにより、子どもから高齢者まで誰でも参加できる「大島食堂」を始めました。島内各地を巡回しながらこれまでに4回開催しており、回を重ねるごとに参加人数が増え、少しずつ認知度が高まっているそうです。鈴木さんは「開催場所近くの保育園や小学校、老人クラブに重点的に声掛けをしている。この間、人が集まることが少なかったので、みんなで楽しめる良い機会になっている」と手応えを語ります。
運営の担い手も広く一般に呼びかけており、20代から70代まで幅広い層から協力を得ているといいます。鈴木さんは「福祉活動の担い手の減少や高齢化に危機感があり、これまで社協と関わりがなかった方にアプローチできないかと思っていた。大島食堂も今は社協がプラットフォームになっているが、運営についてはボランティアの主体性を大事にしながら、より活発化していければ」と目標を話します。

10年が経過して
コロナ禍になる前は、島内の福祉施設と一緒に年に一度「福祉まつり」を開催していましたが、現在は中止しています。福祉施設では依然としてクラスターが発生することがあるほか、ここ数年は人材確保難がさらに深刻化していることもあり、交流を再開する状況にはなっていません。また、現在の島の人口は7千人余りで、この10年で約千人減少しました。社協以外の団体による催し物の参加者も減っており、コロナ禍と人口減が島の雰囲気に大きく影響しているといいます。
藤田さんは「高齢化がすすみ、町が主催する土石流災害の追悼式も参加者が減っている。ついこの間のことだと思っていても、被災された方の状況もどんどん変わっており、やっぱり10年経ったんだなと感じる」と、時の流れの速さを実感しています。鈴木さんは「災害時に地域の助け合いの力が発揮された時には、『こんなにできるんだ!』と感動を覚えた。他の課題に対しても関心を持ってもらえるように働きかけたい。いろいろな課題に大島一丸となって取り組んでいきたい」と、住民とともにすすめる地域福祉を見据えています。

(写真 大島社会福祉協議会 事務局長 鈴木祐介さん(右) 主幹 藤田好造さん(左))

(写真 2013年の災害ボラセンには島内外から延べ8,000人が参加。地域の力が発揮された)

(写真 大島食堂は会食だけでなく、ボードゲームで一緒に遊ぶなど多世代交流の場になっている)

(写真 島内各地を巡回している大島食堂は子どもから高齢者まで地域の誰もが参加できる)


--3【連載 ネットワークを活かした地域公益活動】
〝孤立〟や〝困窮〟の地域課題に、各法人が力を合わせて、ネットワークで取り組む

世田谷区社会福祉法人地域公益活動協議会(以下、せたがや公益協)では、コロナ禍で福祉施設が地域に直接関わることが困難な中、世田谷区社会福祉協議会(以下、区社協)が事業を通じて把握した地域課題を区内の社会福祉法人と共有し、相談支援型フードパントリーや、就労準備支援に取り組んでいます。各法人の力を活かしたネットワークによる取組みについて、お話を伺いました。

◆新型コロナを機に動き出す
せたがや公益協は、世田谷区内に法人本部がある36の社会福祉法人が加入し、地域課題の解決をめざして16年度に設立されました。区内を5地域に分け、地域で各法人が持つ「場所」「モノ」「人」などの社会資源を地域住民にも活用してもらうための情報ガイドブックを作成したり、地域課題についての情報共有を図りながら、せたがや公益協として取り組んでいくことを模索していたところ、20年に新型コロナの流行が始まりました。世田谷区では生活福祉資金特例貸付の申請件数が4万5,000件を超え、窓口業務を担う区社協では、区内における困窮の実情を徐々に把握していきました。区社協連携推進課長の山本学さんは、「特例貸付の利用者はこれまで日中働いていたため地域とのつながりが薄い人が多かった。そうしたコロナ禍での生活困窮の具体的な課題を肌身で感じたことが、この間のせたがや公益協としての取組みを始めるきっかけとなった」と当時を振り返ります。コロナ禍でオンライン会議を重ね、せたがや公益協では食支援を入り口として各法人が持つソーシャルワーク機能を活用するために、相談支援型フードパントリーを試行することとなりました。

◆相談支援型フードパントリーの試行開始
21年度は、70歳以上の生活福祉資金特例貸付利用者381世帯を対象とし、相談支援型フードパントリーを試行しました。できるだけ対象者の身近な場所で配付ができるよう、せたがや公益協の会員法人だけでなく、行政や企業、区社協からも場所を提供し、区内23か所に配付拠点を設置しました。各会場では、せたがや公益協の会員法人職員や区社協職員らが、団体・企業などから寄附を受けた食料品を来場者に手渡し、併せて生活上での困りごとを聞き取りました。経済的な困窮だけでなく、「何か月も会話をしていない」といった声も聞かれ、コロナ禍における孤立の課題などが見えてきました。
取組みを始める上での当時の思いについて、区社協連携推進課副参事の遠藤慧さんは「どの法人も地域のためにできることをしたいという思いは強かったが、同時に、何から取り組めば良いか分からないという声も多かった。そこで、社協が把握した地域ニーズを共有し、とにかく取組みを前に動かすことで、できると
ころから関与してもらえるようなしくみをつくった」と語ります。

◆各法人のできることを活かして
22年度は、食を介した相談支援の取組みのさらなる拡充を図るため、せたがや公益協の参加法人に、図の通り4つの役割分担を提案しました。
そして23年1月~3月、区内4か所で相談支援型フードパントリーの継続実施を試行しました。「相談から支援へとつながったケースもある一方で、参加した法人からは『2~3回の実施だけではなかなか支援につなげられない。つなげるには信頼してもらうことが必要で、関係構築のためにも今後も定期的に継続していく必要がある』との声も上がった」と遠藤さんは話します。
また、食の提供だけでは根本的な課題解決にはならないと考え、せたがや公益協では就労準備支援にも取り組み始めました。さまざまな事情で働きにくさを抱える人を対象に、就労体験の前にまずは見学から始め、スモールステップで就労へとつなげることを目標としています。せたがや公益協の会員法人からは15事業所が就労準備支援の受け皿となり、ぷらっとホーム世田谷の就労準備担当と連携し、見学から実習、体験、そして就労へと結びついた事例もあります。「フードパントリーの来場者の中には、健康上の理由などにより、働きにくさを抱えている高齢者の方も多く、関係機関が連携してもう一度働けるように支援する必要を感じた」と遠藤さんが話すように、複合化する地域課題に対しても、社会福祉法人が持つ力を活かして工夫を凝らしています。

◆地域課題へのさらなる挑戦
こうしたせたがや公益協の挑戦はまだまだ続き、区内5地区に1か所ずつ、相談支援型フードパントリーの常設をめざしています。また、児童館やこども食堂等と連携し、課題やニーズが見えにくくなる中高生を対象とした相談支援型フードパントリーにも取り組んでいくことを予定しています。区内で複数の保育園を運営する杉の子保育会の理事長で、せたがや公益協の企画委員を務める星野八重子さんは、「新型コロナの類型も変わり、福祉施設も人の出入り制限がようやく緩んできた。今後は各法人からも取組みを広げていけるようにしたい」と展望を話します。
区社協がコーディネート役を担い、各法人の強みを活かして、コロナ禍で顕在化した地域課題に取り組んできたせたがや公益協。地域課題やニーズに対し、ネットワークで取組みをすすめていきます。

(写真 左から
(社福)世田谷区社会福祉協議会 山本学さん 遠藤慧さん
(社福)杉の子保育会 理事長 星野八重子さん
(社福)世田谷区社会福祉協議会 小齊平正一さん 三浦慎爾さん)

(図 社会福祉法人による食を介した相談支援の拡充
*杉の子保育会は昨年よりフードキャリーに取り組んでいる)

(写真 相談支援型フードパントリーの食品配付の様子)


--4【明日の福祉を切り拓く】
就労に困難を抱える人が当たり前にいる居場所づくりのモデルに

NPO法人わくわくかんは、北区で20年以上、主に精神障害のある方に対する就労支援などを行っている団体です。2021年12月、東京都のソーシャルファーム(注)支援事業を活用し、カフェとリサイクルショップからなる新事業「しげんcaféわくわく」を始めました。立ち上げを担当したお二人にお話を伺いました。

Shoji Wakahata
若畑 省二さん
研究職、大学教員を経て、学生時代の友人、湯浅誠氏の影響を受け「企業組合あうん」の活動に参加。09~18年あうん代表理事として社会的企業の運営に携わる。12年にわくわくかんに入職。

Seitaro Fujii
藤井 晴太郎さん
高校を中退後、音楽活動を通じたさまざまな人との出会いから復学を志す。
医療ソーシャルワーカーを経て、12年にわくわくかんに入職。精神保健福祉士・社会福祉士。

◆自分たちなりのソーシャルファームを検討
若畑さん もともと社会的企業に関心があり、就労に困難を抱える人が社会参加できるように、働く場所を提供する取組みの必要性を感じていました。障害のある人が社会参加できる場はまだまだ限定されているので、障害福祉支援の枠を超えた新しい事業に取り組みたいと思い、その実現に向け「わくわくかん」で新規事業立ち上げのためのチームに加わりました。

藤井さん 地域での支援に興味があり、都内で新しい仕事を探している時に、地域交流の拠点形成や社会的企業の普及・拡大に努め、精神障害のある方の就労支援に取り組むわくわくかんに出会いました。障害の有無に関わらず「共に生きていく社会」の理念に感銘を受け、入職後は就労移行支援事業所などを経験し、新規事業の立ち上げチームの一員になりました。働きづらさを抱えている人が長く安心して働き続けられる職場になるようなしくみをつくろうと、若畑さんと議論を続けました。

若畑さん ミーティングを重ね、自律的な経済活動を行いながら、就労に困難を抱える従業員と共に働く〝コミュニティカフェ〟と、業務内容が多様でそれぞれの従業員に合った仕事がつくりやすい〝リサイクル〟を組み合わせた「しげんcaféわくわく」の開業を決定しました。リサイクルショップにいらなくなったリユース品や古紙、古着などの資源を持ち込むとポイントが付与され、貯めたポイントはカフェで利用することができる運営方法を、名古屋の「しげんカフェ」にならいました。
19年に東京都でソーシャルファーム条例が成立すると、21年3月に予備認証を受け、本格的に開業準備を開始しました。
現在、従業員6人のうち、就労に困難を抱える精神障害者保健福祉手帳等を持った4人がカフェの接客や、リサイクルショップの受付、商品の値付けなどをしています。

◆地域に開かれた場づくりを
藤井さん カフェを訪れる人は、わくわくかんの就労移行支援の元利用者や関係者が多かったので、カフェで地域の交流の拠点をつくりたいと考え、就学前の子どもたちや小学生向けに工作のワークショップ、高齢者向けには健康麻雀などを行うようになりました。また、地域の店と連携したイベントや、月に一度カフェの前で開催しているミニ縁日には、地域の高齢者や親子連れも参加してくれています。
従業員が地域の人々に笑顔で接している様子を見ると、この事業の「障害に関わらず、共に働く」という目標が実現できたかなと、嬉しく感じます。

若畑さん 現在の課題となっている自律的な事業運営のための新しい取組みとして、22年の夏から、地域の高齢者宅に伺い、部屋の片付けや不用品の処分を行う「片付け事業」に積極的に取り組んでいます。地域のリサイクル拠点として認知されるためにSNSでの情報発信や、地域包括支援センターや保育所などにチラシのポスティングも行っています。ソーシャルファーム支援事業を利用しながら、カフェが今後地域でどのように根づき確立していくかが課題です。そのために、社協をはじめ、地域包括支援センター、障害者団体など事業活動を応援してくれる地域の仲間とどう連携を図っていくか、今後はその土壌づくりが必要だと思っています。これからも社会的就労の環境づくりに努めたいと思います。

(注) 自律的な経済活動を行いながら、就労に困難を抱える方が、必要なサポートを受け、他の従業員と共に働いている社会的企業のこと

(写真「しげんcafé green」と「リサイクルショップわくわく」の店内の様子。)

(QRコード Instagram
【営業時間】カフェ:10時~17時(土曜は18時まで)
リサイクルショップ:10時~18時
*どちらも水曜定休)


--5【福祉のおしごと通信】
子どもたちの背中と共に、私も成長していく

聖友乳児院で保育士として働いて今年で6年目になる根本華さんに乳児院で働くことを
選んだ理由や、日々の中で感じてきたことや思いなどについてお話を伺いました。

根本 華さん
Hana Nemoto
社会福祉法人聖友ホーム
聖友乳児院 保育士

寄り添った支援をしたい
高校卒業後、保育士の資格をとるために進学しました。ボランティアサークルに入り、生活保護世帯の子どもたちへの学習支援や病棟保育士の手伝いなどをする中で、自然と福祉の道にすすむことを考えるようになっていきました。実習先として乳児院を訪れたことで、施設保育士になって子どもたちに「寄り添った支援」をしたい気持ちが生まれ、就職先として考え始めました。
都内ではなく地元で乳児院の求人を探していたのですがなかなか見つからず、ボランティア経験があったことも後押しし、医療型障がい児入所施設で働き始めました。肢体不自由児をはじめ、幅広い年齢層の子どもたちの生活を支える支援をしていました。4年が経つ頃、乳児院で「寄り添った支援」をしたい自分に改めて気づき、上京を決意。色々と情報を探しながら、実際に足を運んだ聖友乳児院の雰囲気が気に入り、入職を決めました。「古き良き(笑)」というのか、アットホームな雰囲気に居心地の良さを感じたことを覚えています。

一人ではなく、意識してチームで取り組んでいく
聖友乳児院では2クラスに分かれて子どもたちが暮らし、一人ひとりに担当職員がつきます。私も1年目から担当したのですが、とにかく初めてのことばかりで、さまざまなことを吸収する日々が続きました。初めは担当としての責任から「自分一人で頑張らなきゃ……」と思っていたのですが、先輩保育士が多職種と連携しながら働いている姿を目にしたり、仲間と話をする中で新たな気づきを得たりすることで、乳児院は「チームで養育する場」だと実感しました。
乳児院で働いてから、コミュニケーションの大切さを最も痛感します。子どもたちに安心感を覚えてもらうには、職員同士が普段から悩みや不安を共有できるような、まずは職員にとっても乳児院が〝安心できる場所〟であることが前提だと思います。

自分の経験をヒントに、できることを考え続ける
3年が経過すると仕事や環境にも慣れ、気持ちに余裕が生まれ始めました。これまでの経験を何か活かせないかと、前職で障害のある子どもたちへレクリエーションを企画したことやボランティア経験をヒントに、乳幼児がどうやったら多様な体験をしてもらえるかを積極的に考えるようになりました。特にコロナ禍では、子どもたちと一緒にご飯を食べることができなくなったり、 宿泊などの外出しての活動が難しかったため、院内で子どもたちが楽しめるイベントを中心に「思い出作り」という要素をはじめ、子どもたちが普段とは違う刺激を受けることができるように企画してきました。

保育士として乳児院で働くこと
集団で暮らす乳児院という場で、どれだけ家庭に近い環境を子どもたちに届けることができるかは常に課題です。聖友乳児院は前回の改築から50年以上が経ち、児童養護施設が合築された新たな施設に引っ越しを予定しています。現在よりも小規模な環境での養育となるので、これまで以上に子どもたち一人ひとりの声に寄り添い、共に考えることで、子どもたちには色々な経験を積んでもらいたいです。
担当する子どもたちとは短くて半年、長いと3年の月日を共に過ごしてきました。それぞれ乳児院に来る年齢や背景も異なる中、多様な職種が一緒に考えながらその成長を支えていきます。何気ない日々の中で、子どもたちが自分の存在を頼りに、辛くても一歩踏ん張ってみたり、勇気を出して一歩踏み出す背中を見ると、「寄り添う支援」がしたかった自分がここにいる理由を再確認できます。子どもたちにとって〝安心できる存在〟になれるよう、これからも自分にできることを問い続けます。

 

--6【 東社協発】
福祉の仕事就職フォーラムのご案内
福祉系合同就職説明会「福祉の仕事就職フォーラム」を東京国際フォーラムにて開催いたします。福祉の仕事に興味がある方は多くの法人に出会う機会ですので、特設サイトをご確認の上、ぜひご参加ください。
《イベント概要》
日 時 11月23日(木・祝)13時~16時
出展数 160法人(都内の福祉関係施設・事業所運営法人)
会 場 東京国際フォーラム
地下2階ホールE
《主な内容》
①法人ブース
各ブースにおいて法人の事業や仕事の内容、採用に関する説明などを直接聞いたり、質問をすることができます。
②福祉のしごと相談コーナー
専門の相談員が福祉の仕事、資格等についての相談を受けたり、会場の周り方等のアドバイスを行います。

(QRコード特設サイト *10月10日頃公開予定)

(図 東京都福祉人材センター キャラクター フクシロウ)

 

東京の寄附のカタチ
東京善意銀行への寄附をご紹介します。(不定期連載)
コラボレーション募金 ~募金で「推し活」~
女子プロレス団体SEAdLINNNGでは各大会に福祉施設の方々を招待しています。8周年記念の大会ではリング上で東京善意銀行感謝状贈呈式が行われました。また、会場に設けた東京善意銀行ブースで募金活動を行い、募金にご協力いただいたファンの皆様には「SEAdLINNNG選手イラスト×東京善意銀行キャラクターともしびちゃん」コラボのオリジナルポストカードを進呈しました。


 東社協中期計画レポート 5 ~東京の多様性を活かした“地域共生社会”を一歩前へ~

「令和4~6(2022~2024)年度 東社協中期計画」の中から、重点事業⑥「社会福祉法人の地域ネットワークの機能・活動支援等を通じた地域公益活動の強化」について進捗をお伝えします。

 東社協では、社会福祉法人による地域公益的な取組みを推進し、広く発信するため、2016年に「東京都地域公益活動推進協議会」(以下、地域公益推進協)を設立しました。22年度からは、 東社協会員の社会福祉法人が全加入となる「オール東京」体制で地域公益活動を推進しています。
地域公益推進協ではこの間、都内の社会福祉法人が行っている地域のさまざまなニーズや課題に対応した取組みを「見せる化」するため、ホームページやSNS、YouTube等による情報発信を強化してきました。22年度に公募により決定した、マスコットキャラクター「つつまる」を活用しながら、福祉系学生や学識経験者を含むより幅広い層に向けた分かりやすい情報発信に取り組んでまいります。
今後も、情報発信や区市町村社会福祉法人ネットワークの支援、事業開発などを通じて、東京の地域公益活動を推進していきます。


--7【くらし今ひと】
ありのままの自分を認めて、新しい自分に

摂食障害の自助グループ「NABA」のメンバーのかなさん(40代)に、摂食障害の症状が出てからの思いや、現在のくらしについてお話を伺いました。

◆相談できなかった学生時代
摂食障害の症状が出始めたのは、中学生の頃でした。摂食障害にも拒食や偏食などさまざまな症状がありますが、私は過食から始まりました。気づいたら「これ以上食べたくないのに止められない」という状態で、過食で太った自分が嫌になり、下剤の乱用を繰り返しました。次第に、学校生活に支障をきたすほど体調も悪化していきました。
そして「吐いてしまえば太らなくて済む」という考えが生まれ、次は自己誘発嘔吐と言って、自分から意思を持って食べたものを戻すようになりました。そんな日々が続き「自分はおかしいんじゃないか」と思うものの、当時は摂食障害の情報はほとんどなく、太っていることを恥じていた私は、人に相談することもないまま大人になりました。

◆診断が出た時の思い
12年前、私は出産や育児で気持ちが塞ぎ込んでいて、うつ病を発症しました。摂食障害と診断されたのはその頃です。私は他の当事者のブログなどから情報収集をしていて、そこに書かれている内容と自分の状態を比べて、「私の症状くらいでは摂食障害とは言えないんじゃないか」という気持ちになっていました。そのため、摂食障害と診断された時は率直に「やっとお墨付きをもらえた」と、嬉しさを感じたのを覚えています。
その後、デイケアやカウンセリング、認知行動療法などさまざまな治療法を試しましたが、あまり効果は見られず、残された道は自助グループだけでした。

◆自助グループの活動に参加して
NABAのミーティングに初めて参加した時は、食べ物や症状の話より、人間関係のことを話す人が多いことに驚きました。でも私も話をするうちに、食べ物を通して誤魔化してきた感情に気づき始めました。そこで初めて、子どもの頃から親との関係が上手くいかず葛藤が多かったことや、自分を大切にできない〝思考の癖〟が、摂食障害の症状につながったのだと考えるようになりました。
ミーティングでは泣いたり、家族や友人の前では出せない弱い部分もさらけ出すことができます。ミーティングに出ることで、ありのままの自分を認めて、新しい自分を育てているような感覚です。

◆くらしのなかで感じていること
最近は「美味しいもの巡り」にも行きます。あんこにハマって、大福やたい焼きの有名店を巡っていて、衝動的ではなく計画的に食べ物を楽しむのが新鮮で、幸せを感じる時間です。ただ、この趣味も「あんこ依存なのでは」と思ってしまう自分がいて、友人に話したら「〝食べ歩き〟しているなら安心した」と言われました。「そうか」と納得したのと同時に、何事も捉え方次第で変わるのだと気づいた出来事でした。
世間では、「摂食障害は女性や若者の問題」というイメージが広がっているように感じますが、NABAのメンバーには男性もいますし、世代もさまざまです。私も、ずっと摂食障害だけに苦しめられてきたわけではありません。そんな風に、摂食障害の人も一人ひとり背景があって、それぞれの人生があることに、関心を持ってもらえたらと思います。
その一方で、摂食障害や病気について、家族や友人に理解を求めるのは難しいとも感じています。「なんで分かってくれないんだろう」と思う時もありますが、周りに変わることを期待するよりも、自分の内面を変えていけたらと思っています。

(写真 NABAメンバーが使うNABAノート)

 

グループナビ NABA
正式名称は「日本アノレキシア(拒食症)・ブリミア(過食症)協会」。摂食障害の自助・ピアサポートグループ
(QRコード NABAホームページ)

 

以上で、福祉広報2023年10月号を終わります。

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