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福祉広報 2023年11月 778号 テキストデータ

【表紙】(写真)

旧庄屋毛利家屋敷では、囲炉裏を囲んだ民話の会や四季折々の風景が楽しめる。
さぁみんな、昔にタイムスリップだ。 

【目次】

1社会福祉NOW
2TOPICS
3連載 ネットワークを活かした地域公益活動(7)
4み~つけた
5 東社協発
6くらし今ひと
 

「*見出しの頭には「--(半角で2つハイフン)」の記号が挿入されているので、検索機能を使って頭出しをする際にご利用下さい。また検索の際、目次でご紹介した数字を続けて半角で入力すると、その項目に直接移動することができます。
(例)1をご希望のときは、「--(ハイフンハイフン)1(すべて半角)」と入力。」

--1【社会福祉NOW】
一人ひとりが安心して暮らし続けるために
~住宅確保要配慮者に対する取組みのいま

これまで高齢者や障害者、低額所得者や子育て世帯等の住宅の確保に配慮が必要な人(住宅確保要配慮者)に対して、「住宅セーフティネット制度(注1)」をはじめ、住まいの確保に向けた取組みがすすめられてきました。一方、さまざまな要因から入居に抵抗のある大家や不動産会社(以下、賃貸人)も依然として多く、住まいの確保が困難な状況は続いています。今回は都内にある2つの居住支援法人(注2)に取材し、その実態と必要な取組みを明らかにしていきます。

高齢者が〝安心〟できる住まいを探し続けて ~株式会社R65
今年で立ち上げから8年目となる株式会社R65(以下、R65不動産)は、2022年より居住支援法人に指定されています。65歳以上の高齢者の住まい探しを中心に、対象物件を集めたポータルサイトを運営するなど、住まいを探す高齢者だけでなく、賃貸人に対しても取り組み続けてきました。代表取締役の山本遼さんが不動産会社の社員時代に、「年齢」を理由に入居を断られ続けた相談者に対応した経験から〝高齢者の住まい〟に取り組む必要性を感じたことが始まりです。
R65不動産には高齢者本人から住まいの相談があるほか、社会福祉協議会やケアマネジャーから連絡が入ることもあります。相談に来る高齢者は、取り壊しにより立ち退きが数か月後に予定されている人から数日以内に退去が求められるような緊急性の高い人など、状況はそれぞれです。そうした高齢者の住まいを一緒に探していく上で、山本さんは「まず断らない。そして、〝高齢者〟と一括りにせず、当たり前だがその人の希望を聞いていくことを大切にしている」と言います。


◆それぞれの〝安心〟につながるために
高齢者の入居が断られる背景には、残置物の処理や死後の手続き等が主に挙げられます。山本さんが対象物件を探す際にも、「入居者が孤独死したらどうしたら良いのか」「身寄りのない高齢者の残置物の処理が不安」との声が賃貸人から聞かれるといいます。R65不動産では、住まいを探す段階から、賃貸人が不安に思うことをしっかりとヒアリングしていきます。さらに、電気の使用量を利用した入居後の見守りサービスに加え、残置物の処理に関する契約書を設けるなど、入居者だけでなく賃貸人の安心につながる取組みもすすめています。
また、入居後に認知症が進行したケースを挙げ、山本さんは「その人は周囲に家族がいたが、身寄りのない高齢者だったらどんな対応が求められたのか。居住支援法人として身寄りのない高齢者の住まい探しをすることも増えた今、入居後に認知症がすすむ場合等の対応を考えていくことが喫緊の課題」と話します。


◆高齢者が安心して暮らし続けていく方法を地域と共に模索していく
現在、賃貸住宅で暮らす高齢単身者世帯は200万世帯に上り、30年には800万世帯になることが見込まれています。そうした状況下で、高齢者が安心できる住まいを確保し、暮らし続けていくためには、「高齢者本人の状況をしっかりと把握し、段階的なリスクを分解して、対応していくことが重要」と、山本さんは考えています。また、事故物件となる懸念から高齢者が立ち退きを求められたりするケースに触れ、山本さんは「高齢者に立ち退きを求めたり、空き室のままにするのではなく、見守りサービス等をつけて住まいを提供し続けることも考えてほしい」と、高齢化に対する賃貸人の〝準備〟の大切さを指摘します。
8年以上にわたり〝高齢者の住まい確保〟に取り組み続けてきたR65不動産ですが、多くの人に知ってもらい、地域の支援者と共に〝高齢者の住まい〟を支えていくことをめざしています。山本さんは「立ち退きの数日前の相談や、別の不動産で断られた後にうちを訪れることがある。早期に連絡をもらえれば状況をふまえて住まいを探すことができる。また、身寄りのない高齢者等への対応は自分たちだけでは限界があるので、地域の福祉関係者と連携しながら生活面の多様なサポートに取り組んでいきたい」と、今後について話します。

一人ひとりの〝あんしん〟に寄り添う ~社会福祉法人悠々会
町田市で高齢者福祉事業を展開している社会福祉法人悠々会は、住宅確保要配慮者に向けて2016年から「あんしん住宅事業」に取り組んでいます。地域包括支援センターとして、地域住民とトラブルになって引っ越しや立ち退き等を求められる相談に対応する中で、悩みや課題を早期に把握していればトラブルに至らなかった事例が重なり、法人として取り組む必要性を感じたといいます。理事長の陶山慎治さんは「こうしたトラブルに発展しないためには、病院からの退院や転入といった引っ越しのタイミングで、その人の状況把握や地域との関係づくりをしていく必要があると思った。法人として住まいを探すことに取り組めば、予防につながると考えた」と、事業に至った思いを話します。
東京都のモデル事業から始まった「あんしん住宅事業」は、住宅の確保が難しい人から相談を受けて一緒に住まいを探し、悠々会が部屋を借り上げて低価格な家賃で貸し出す〝サブリース〟の方式をとっています。入居後も必要な支援を行い、安心できる住まい、そして暮らしを支える取組みを7年間続けてきました。


◆専門領域を持たずに、目の前の人に必要なことに取り組む
住まいに不安や悩みを抱える本人だけでなく、民生委員や自治体等の地域の関係機関や支援者からも相談が悠々会に寄せられます。職員2名が〝居住支援コーディネーター〟としてまずは話を聞き、住まい探しから入居後の対応まで行っていきます。〝住まい探し〟という共通の入り口でも、相談者一人ひとりの状況は異なり、立ち退く部屋の大掃除や家具の購入をはじめ、公的支援や必要な関係機関につなぐなど、その対応は多岐にわたります。現在90名近くが本事業を利用していて、年齢層は20代~90代と幅広く、それぞれが抱える課題も複合的であるといいます。こうした年齢や世帯構成、状況が異なる人の安心できる住まいを考える上で、悠々会の皆さんは「専門領域を持たないプライド」を大切にしていると繰り返します。
安心できる住まいを共に探すことに加え、「あんしん住宅事業」を通じて、相談者や入居者間のつながり、それから地域との接点が生まれることもめざしています。例えば、事業を利用している若者が高齢者にスマホの使い方を教える場を設けたり、子育て世帯や高齢者を子ども食堂に案内したりなどです。また、入居後は職員だけで対応するのではなく、「移動支援」や「フードバンク」などのボランティアグループを地域に形成し、入居者の安心した暮らしを協力して支えていきます。居住支援コーディネーターとして事業当初より関わる共生社会推進室室長の鯨井孝行さんは「自分たちがハブ機能としてどれだけ地域の支援者を募っていけるか、資源とつなげていけるかが求められる。日頃から地域にネットワークをつくっていくことが大切になる」と話します。


◆地域の住まいの支え手として
悠々会は「あんしん住宅事業」を運営するほか、町田市の「住まいの電話相談窓口」も担っています。緊急性の高い相談から、ちょっとした住まいの不安や悩みなど相談内容はさまざま。平均1日1件相談があり、全体の3割が事業につながり、そのほかは継続して話を聞くことや適切な機関を案内するなどの対応をしています。陶山さんが「住まいの確保につなげることも重要だが、地域住民のさまざまな住まいに関する相談を日ごろから聞くことが大切」と強調するように、悠々会は入居者だけでなく、相談を通じて広く地域の住まいの〝あんしん〟を支えています。
カテゴリー化ができない、複合的な課題を抱える住宅確保要配慮者が地域で安心した住まいを確保し、暮らし続けていくために、居住支援法人であり社会福祉法人の立場として、陶山さんは「住まいがあってはじめて、どう生きようかを考えられると思う。認知症になりつつある人が賃貸契約をすることも増えている。成年後見制度をはじめ、種別を超えて社会福祉法人が居住支援に対して共に取り組んでいくことが必要」と話します。悠々会は一人ひとりが〝あんしん〟できる住まいに向け、専門領域を決めずに多様な取組みを考え続けています。

(注1)民間の空き家や空き室を活用して住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅の供給を促進することを目的に創設
(注2)2017年の改正住宅セーフティネット法に基づき、住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅の円滑な入居促進を図るために、住まいの情報提供や相談、見守りなどの生活支援等を実施する法人で、都道府県が指定

(写真 株式会社R65 代表取締役 山本 遼さん)

(写真 左から
(社福)悠々会
共生社会推進室室長 鯨井 孝行さん
理事長 陶山 慎治さん
居住支援コーディネーター 西島 麻里さん)


--2【TOPICS】
新宿区に多文化共生コミュニティスペースが開設
~認定NPO法人シャプラニール=市民による海外協力の会

2023年9月2日(土)、新宿区大久保地域で「多文化共生コミュニティスペース マザリナ」のオープンイベントが開催されました。ここは、日本に住む外国人と地域の人が出会い、交流できる場所で、外国人が日本で暮らす上での困りごとを気軽に相談でき、必要な情報を得られる場所でもあります。
マザリナを開設したのは「認定NPO法人シャプラニール=市民による海外協力の会」です。1972年に創立されたシャプラニールは、バングラデシュやネパール、日本で貧困問題解決に取り組む国際協力NGOです。22年度ごろから、コミュニティスペースの開設に向けて準備をすすめてきました。

コロナ禍を経て開設に至ったマザリナ
事業推進グループの宮原麻季さんは「コロナ禍前から、在住外国人に対する支援の必要性は感じていた」と言います。団体で何かできることはないかと取組みを検討していた時に、新型コロナが流行しました。その際には、フードパントリーを実施し、困りごとを聞いたり、オンラインイベントで主にネパール語で生活情報を発信したりしていました。また、在住外国人支援を行う団体をはじめ、さまざまな団体から多くの問い合わせがありました。宮原さんは「新宿区社会福祉協議会にも多くの外国人が相談に来たと聞いた。『地域の中で福祉的な支援を必要としているのは、日本人だけではなく外国人も多いのではないか』という新宿区社協の方の言葉は、私たちにとっても発見であり、学びだった」と振り返ります。
続けて、「フードパントリーなどの働きかけももちろん必要だが、対症療法的でしかない。外国人一人ひとりは地域に住んでいるので、同時に地域にも働きかけていかないといけない。外国人から教わることと日本人が教えられることがお互いにあり、持ちつ持たれつの関係で地域が形成されていくことが、今の社会に必要なことだと考えている」と、マザリナへの思いを話します。

多くの人の協力があって迎えた当日
オープンイベント当日の前半は、地域の関係者に向けて、スペースの趣旨や運営について説明が行われました。新宿区社協や地域で多文化共生に取り組む団体、東京都や新宿区、ハローワークの担当者など、多くの人を招待しました。
宮原さんは「この場所のオープンには、たくさんの方々に力を貸していただいた。私たちは、50年以上新宿区にオフィスを構えているが、地域に密着した活動を十分にはできていなかった。特に新宿区社協の皆さんには、地域で活動しているさまざまな団体や会議の場を教えていただき、ありがたかった」と、感謝の気持ちを口にします。
後半は、今後スペースを利用する外国人や日本人同士が自己紹介を行い、好きな映画や夏の思い出などを語り合い、大盛況でした。コロナ禍でつながりができた周辺の日本語学校の学生などが主な参加者で、韓国や中国、ネパール、ベトナム出身の方々でした。「日本語学校側は『留学生は学校で日本語を学んでいるのに日本人と話す機会がない』という課題を持っていて、ニーズがマッチしたのだと思う。ただ、参加対象を学生に限定していないので、今後は色んな方々に参加いただきたい」と宮原さんは言います。
「マザリナ」という名前は、オープニングイベントの参加者みんなで決めました。「外国人だけではなく地域の人も集い、さまざまな人が混ざって交流する場」という意味が込められています。

誰も取り残さない社会に向けて
マザリナのもう一つの重要な機能として、情報アクセスへのサポートがあります。まずは、イベントを開催して、在住外国人にとって必要な情報を発信していく予定です。宮原さんは「彼らは日本の生活情報にアクセスすることが難しい。特に家族滞在などで日本に暮らしている場合は、日本語が分からず孤立している人も多い」と言います。「そういった人たちにマザリナの存在を届けることが今の課題。コミュニティスペースは、給付金などと異なり、すぐに生活に直結するわけではない。安心できる場所であることを本人や身近にいるキーパーソン、支援団体の方々にも伝えていきたい」と、課題にも触れます。
マザリナは、誰でもふらっと来られて、学校や職場、家でもない「第3の居場所」をめざしていきます。試行錯誤を重ねながら、いずれは参加側と運営側の関係ではなく、地域の中に吸収されて、みんなでつくりあげていくことを目標にしています。
宮原さんは、コミュニケーションの大切さを改めて強調し、「日本人として何か特別なことをする必要はなく、ゆっくり話を聞くだけでも十分。外国人に限ったことではなく、障害のある方や高齢の方などにもそれぞれのスピードに合わせて寄り添う姿勢が大事。こうした姿勢が『誰も取り残さない』社会の実現につながると信じている」と語ります。

(写真 オープニングイベント集合写真)

(写真 参加者の日本人とネパール人学生の交流の様子)

(写真 スペース名は参加者みんなで投票して決定)


--3【連載 ネットワークを活かした地域公益活動】
コロナ禍も、「おたより」で広げた地域のつながり

中央区社会福祉法人連絡会は、2016年の発足以来、地域福祉への理解促進や多世代交流を目的とし、地域のニーズに沿ったさまざまな取組みを実践してきました。今回は、コロナ禍で始動した「おたよりでつなぐ〝まごころ〟プロジェクト」について、お話を伺いました。

◆コロナ禍だからこその新たな取組み
中央区社会福祉法人連絡会は、現在、区内の21法人が参加して活動しています。発足当初は、年2回行う全体の連絡会のほか、地域公益活動見学会や地域ニーズ等について学ぶ勉強会を行い、地域社会に貢献する取組みにつなげてきました。具体的な取組みとしては、小中学生を対象に福祉職場体験を行う「福祉体験合宿」や、多世代交流と連絡会参加法人職員への相談ができる「ボッチャ体験会&ちょこっと福祉相談会」があります。新型コロナ感染拡大後の20~21年度は、対面での取組みは中止せざるを得なかったものの、連絡会の開催はオンラインで続けていました。
事務局を務める中央区社協管理部の明石まことさんは「参加法人がオンライン会議ツールのライセンスを提供してくれて、なんとか連絡会を開催することができた。参加法人の協力があって活動が途絶えることなく続けられた」と振り返ります。
20年の連絡会で、地域ニーズや各法人の状況を把握するため情報交換をした際、高齢者施設を持つ法人からは「外部との交流ができなくなったことで、高齢者はフレイル(虚弱)がすすんでいる」という声が多くあがったといいます。また、保育園・幼稚園からも「刺激がなくなり子どもたちの育ちに懸念がある」「園外との関わりを経験しないまま卒業させることに不安がある」という声が聞かれました。さらに、区内の小学生から中央区社協に、「高齢者にお手紙を送りたい」という旨の電話が入りました。これらのニーズを受け、連絡会で何かできないかと意見を出し合い、「おたよりでつなぐ〝まごころ〟プロジェクト(以下、おたプロ)」が始動しました。
おたプロは、保育園・幼稚園の園児から高齢者施設や障害者施設の利用者におたよりを届け、そのお返しとして施設の利用者からも園児たちにおたよりを届けるという内容です。始まった当初は、第1弾は敬老の日に合わせて、お返しの第2弾はクリスマスを目安におたよりを届けていました。社会福祉法人だけでなく、株式会社が運営する施設等も参加対象になっています。おたよりの形式はさまざまで、ビデオレターや余暇時間に作成したクリスマスの飾りなどを贈り合います。

◆取組みの中で現れた課題
双方向の交流をめざし始まったおたプロでしたが、「高齢者施設ではプレゼントする作品制作が難しい」という声もありました。そのほか、保育園からの「オンラインで交流したい」という要望に対し、高齢者施設側からは「テレビを見ている感覚になってしまうので、オンラインの交流は難しい」という意見が出て、ニーズがマッチしないという課題もあったため、事務局と法人で相談し、試行錯誤を重ねて取組みをすすめてきました。
また、連絡会の参加法人は、施設を持たず福祉活動への助成事業等を実施する法人も多く、どのような形でプロジェクトに関わるかという点で、難しさもありました。しかし、おたよりをやりとりする様子を取材したり、おたプロを発信するためのリーフレット作成に携わるなど、どの法人もそれぞれ強みを活かして参加してきました。朝日新聞厚生文化事業団の古屋厚子さんは「取材に行った際、障害者施設の職員からは『子どもたちからのビデオを見て、表情が明るくなり受注作業が捗った』など、生の声が聞けた。今後も活動の枠組みづくり等で貢献していきたい」と語ります。
月島聖ルカ保育園園長の高久真佐子さんは、おたプロについて「交流したからこそ『何かしてあげたい』という思いが生まれる。子どもたちが『自分も地域の一員』と意識できるようになったり、〝ふるさと〟という感覚が子どもたち一人ひとりに芽生える取組みだと思う」と話します。

◆ニーズに合わせて変化していく
初めは施設職員が手紙を届ける役を担っており、子どもたちや施設の利用者本人が直接会う機会はなかったものの、23年度は、保育園の園児たちが高齢者施設に出向きお遊戯を披露するなどして、対面で交流する法人も増えています。知的障害者生活支援施設レインボーハウス明石施設長の田村克彦さんは「外部との接触に対しては判断が難しく、一歩踏み出せない時期が続いたが、今後は対面でやりとりして、利用者が練習しているダンスなども披露できると良い」と言います。
そして23年度からのおたプロは、交流時期や形式、回数などを指定せず、事務局を介さない、より自発的な交流ができるしくみになりました。これにより、利用者の誕生日祝いのために、毎月おたよりを渡しに行くことにしたという法人もあり、継続した交流につながったケースも出てきました。また、連絡会で「施設だけでの交流はどうなのか」という意見があり、22年度から高齢者向けサロンも対象にするなど、さらに地域で交流の輪が広がっています。

◆中央区らしい取組みに向けて
高久さんは「園の職員からは『もっと子どもたちが高齢者と交流し、昔遊びなどを体験できると良い』という声があがっている。地域に色んな人がいることを知り、自然に『この人たちを知りたい』と思えるような機会を増やしていきたい」と言います。田村さんは、コロナ禍で新入職員が外部の研修や交流に参加する機会がなくなっている現状にふれ、「職員育成という意味でも、地域での活動を増やしていきたい」と話します。
中央区社協管理部の千代倉志甫さんは「おたプロは、園児が福祉施設の利用者と関わる機会となる点で、長い目で見たら福祉人材の育成にもつながると思う。今後は区内の小中学生を対象にした、施設職員の目線を学べる、福祉教育につながるような取組みができたら良い」と、展望を語ります。
中央区社協在宅福祉サービス部推進課長の安部信之さんは、「コロナ禍でどの法人・施設も外部との関わりがなくなってしまった中で、この連絡会があったから地域とのつながりが途絶えることなく、新しい取組みに向けて動き続けられた。今後は施設を利用していない高齢者など、より広い地域とのつながりづくりに力を入れていきたい」と話します。
中央区はマンションや集合住宅に住む世帯が多く、近隣住民同士のつながりが希薄になりやすいといいます。そうした課題に焦点を当てた中央区らしい取組みをめざし、中央区社会福祉法人連絡会は、今後も地域ニーズに沿った地域公益活動に取り組んでいきます。

(写真 左から
(社福)中央区社会福祉協議会 千代倉志甫さん、 安部信之さん
(社福)朝日新聞厚生文化事業団 古屋厚子さん
(社福)東京都手をつなぐ育成会 レインボーハウス明石 施設長 田村克彦さん
(社福)ひかりの子 月島聖ルカ保育園 園長 高久真佐子さん
(社福)中央区社会福祉協議会 明石まことさん)

(写真 おたプロの交流時の集合写真)


--4【み~つけた】
子どもたちが安心できる切れ目のない居場所
石神井・小さなおうち

石神井・小さなおうちは、2023年5月、不登校児のための居場所や老若男女、誰でも来られるみんなの居場所、そして地域交流の場としてオープンしました。練馬区の石神井公園のすぐそばにある元民家の木造一軒家で、家の中は、システムキッチンが備えられた明るい洋室、奥には本棚や押入れのある和室が続きます。ラグが置いてある秘密基地のような浴室も備えられています。
さまざまな事情から学校へ行かない選択をしている子どもたちの登録者数は、現在32人。練馬区のほか、杉並区や板橋区からも登録があり、毎日6~8人が参加し、半数以上が一定の頻度で通っています。子どもたちは、それぞれの部屋で思い思いに過ごすほか、昼食時はボランティアの人の調理の手伝いや、天気の良い日には、庭で思い切り体を動かしたり、畑で農作物の収穫を体験したりしています。夏休みには不登校の子どもたちを中心に「お泊まり会」を実施し、流しそうめんや工作、夜の散歩を楽しみました。
ここで出会い顔見知りになり、次に会う約束をするなど、子どもたち同士のコミュニティが生まれ、閉まる時間になっても帰りたがらないことも多いといいます。定期的に来室している子どもの保護者からは「明日が来ることを嫌がっていた子どもが、翌日を楽しみに眠りにつくようになった」、「自分で考えて行動する機会が増えて、活き活きしている」などの声が聞かれます。

人と人との縁で描いていた夢が実現
小さなおうちの共同代表で、2004年から石神井公園で開催している冒険遊び場「石神井プレーパーク」の代表でもある長谷部暢子さんは「20年間プレーパークで活動をする中で、色々な子育て相談を受けるようになった。共働き世帯が増える中、子どもを自宅に残して出勤することへのためらいから、休みを取ったり仕事を辞めざるを得なかったりする親もいる。子どもが不登校になり悩みを抱えている保護者と、学校生活になじめず、ふさぎ込む子どもたちに『大丈夫だよ、ここにおいで』と、伝えられる場所をつくりたかった。自分たちを支援してくれる人たちと巡り合い、まとまったお金の寄附や、民家を譲り受けたことで、子どもたちの居場所を開設することができた」と言います。

子どもたちの孤立感を取り除きたい
共同代表の吉岡未歩さんの小学生の2人の子どもたちも小さなおうちに通っています。「長男が1年生になる頃、新型コロナが蔓延し休校になった。緊急事態宣言が明けた6月から登校予定だったが、ほとんど学校に行くことができなくなり、通える場所を探したがコロナ禍でどこも開いていなかった。不登校の子どもたちのための居場所を早くオープンしたいと思っていた」と話します。
1クラスに1人以上は不登校の児童がいるという調査結果(注1)はあるものの「自分だけ登校できていないのでは」と劣等感を抱え、孤立する子どももいます。長谷部さんは「小さなおうちの核にあるのは〝子どもの権利〟。子どもたちの希望を叶えるために、それぞれの意見を聞き、一緒に取り組むことを大事にしたい。子どもも大人も元気と笑顔を取り戻すことを大切にしている」と話します。

他機関との連携であらゆる問題に対応
吉岡さんは、学校での不登校児童の教育体制について「子どもの人口が多い地域では、授業でちょっとつまずいてしまうとフォローが行き届かないこともある。教育支援センター(適応指導教室(注2))に通うことで学校への出席日数としてカウントできる場合もあるが、欠席数が不足していたり自宅から遠かったりすると、通えない場合もある」と話します。
小さなおうちは、練馬区社会福祉協議会の大泉ボランティアセンターの支援もあり、区内にある子どもの居場所や学習支援教室などのさまざまな団体と関わっています。情報交換や意見交換など相互に協力して活動をしており、子どもたちに適切な場所を紹介しています。
例えば、石神井公園近くで不登校の居場所として30年以上活動している姉妹団体「なゆたふらっと」とは、互いの運営状況に合わせて子どもたちが行き来できるよう連携しています。さまざまな場所に通うことで子どもたちの選択肢が広がり、学校での出会いにとどまらない友達を地域につくることができるといいます。
長谷部さんは「困った時の相談先となる地域の団体の情報をもっと保護者に周知したい。子どもを持つ保護者が、必要な時に必要な機関に問い合わせられるようになり、問題解決の糸口を見出すことにつながる」と話します。
小さなおうちは、DVなどの多様な相談が増えていて、連携をとっている団体では対応しきれないケースもあるといいます。長谷部さんは「あらゆるニーズに対応できるよう、支援のネットを拡大することで解決方法を模索したいと思っている。セーフティネットとしての機能も持ち合わせた居場所をめざし、子どもたちへ切れ目のないサポートができるように、活動を続けていきたい」と今後を語ります。

(注1)文部科学省「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」2023年10月
(注2)区市町村教育委員会により設置された小・中学校における不登校児童・生徒の学校復帰等を支援するための学校外の施設

(写真 石神井・小さなおうち
(左から) 共同代表 長谷部暢子さん、吉岡未歩さん)

(図 小さなおうち レイアウト図(ホームページより引用))

(写真 畑で芋掘りの仕方を教わる子どもたち)

(写真 遊びの幅が広がる庭)

(写真 子どもたちは自由にやりたいことができる)


--5【東社協発】
地域公益活動実践発表会2023パート2を開催します!
東京都地域公益活動推進協議会では、地域の課題やニーズに応じて行っている地域公益活動について、毎年、実践発表会を行っています。
今回は、数年ぶりに東京都内の社会福祉法人から発表者を公募し、6つの法人に実践発表をしていただくことになりました。どの発表も、地域に根ざして積極的に取り組まれているものばかりです。ぜひふるってお申し込みください。
【概要】
開催日:12月6日(水)
時 間:13時~16時30分
*見逃し配信あり
(12月20日頃配信開始)
会 場:研究社英語センター大会議室
申込み締切:11月24日(金)

(QRコード 参加申込みはこちらから▼)

福祉の取組み・活動の情報を募集しています
福祉広報では、福祉に関する取組みを掲載しています。
東京都内のさまざまな主体による取組みの情報をお持ちの方は、ぜひお寄せください! 社協や施設・事業所、市民活動団体、個人など、活動の形態は問いません。
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1週間単位での情報収集にご活用いただけますと幸いです。

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--6【くらし今ひと】
地域活動を通じてたくさんの人と関わり続ける

児童の登校時見守りやさまざまなサロンなど幅広い地域活動に取り組み、スクーターで元気に江東区内を駆け回る中沢幸子さんにお話を伺いました。

◆区報を見てボランティアに
私は浅草で生まれ、4人姉妹の次女として文京区で育ちました。活発なタイプで、家族で唯一、車の運転免許を持っていたこともあり、父からはよく「お前が男だったら良かったのに(笑)」と冗談めかして言われたものです。26歳で江東区の中華料理店に嫁いだのですが、結婚して8年目に夫がALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症。その後は3人の子育てをしながらお店を続けました。
30年間頑張ったお店を閉めてから何をしようかと考えていた時に、区報でボランティアを募集していることを知って、やってみることにしました。1つは消防庁の災害時支援ボランティアで、もう1つは町の美化活動です。そこからいろいろな活動を始めるようになりました。
朝のラジオ体操・太極拳サロンや子育てやカラオケのサロン、公園の花壇整備、小学校の出前授業、夜間のパトロールなど、現在約20の活動に携わっています。一日に7か所回る日もあって、朝6時に家を出て帰宅が夜の9時ということもありました。それでも、膝や腰が痛いということもなく元気です。やっぱり日課のラジオ体操がいいんじゃないかな。

◆一人暮らしの人が集まれる場を
私は音楽や歌うことが大好きなので、月に2回、カラオケサロンを企画しています。誰でも日頃から声を出した方が良いと思っているので、お茶やお菓子を用意して、みんなで集まって好きな歌を歌っています。参加者は5人から10人くらい。旦那さんと一緒に来る方もいますが、ほとんどは一人暮らしの高齢女性です。
ある時、いつもサロンに参加されていた方が2回連続でお休みしたことがありました。これは絶対おかしいと思って警察と消防に連絡したところ、すでにご自宅で亡くなられていたそうです。また、近所に住む方がお風呂場で倒れて亡くなっていたのが発見されたこともあり、最近は孤独死をなくすにはどうしたらいいのか考えるようになりました。
周りを見てみると、私と同じようにすでに夫を亡くして一人暮らしをしている高齢女性が多いので、そういう人が集まれる場をつくることが大切だと感じています。

◆改めて感じる両親の影響
近くの小学校の登校時の見守り活動もボランティアでやっています。孫の入学がきっかけで始めたので卒業に合わせてやめようと思ったのですが、学校からぜひと言われて続けることになり、通算で11年目になります。通りがかった人があいさつをしてくれたり、町中で子どもたちと顔を合わせた時に「(登校時見守りの愛称の)ストップさんだ!」と声をかけてくれたりするのが嬉しいですね。
いろいろな活動をしていますが、改めて考えてみると両親の影響があると思います。父は私のことをよくかわいがってくれましたし、戦争に行った時の話などもしてくれました。子どもや孫を大切にしていた母は歌や踊りが大好きで、老人会のお世話役を長く務めていました。
私も子育てサロンで泣いている赤ちゃんを笑わせたり、子守唄を歌って寝かしつけたりした時などは「やったー!」と思います。子どもたちの笑顔は本当に良いものですね。

(写真(左)ラジオ体操・太極拳サロンの仲間と(右)登校時の見守り活動)

 

以上で、福祉広報2023年11月号を終わります。

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