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福祉広報 2024年2月 781号 テキストデータ

【表紙】(写真)
八戸海洋少年団の子供たち
夏は海で鍛え、冬は全力で雪遊びだ
ー青森県 八戸市ー

 

【目次】

1社会福祉NOW
2TOPICS
3連載 次世代リーダーを育てる①
4明日の福祉を切り拓く
5福祉のおしごと通信
6東社協発
7くらし今ひと

「*見出しの頭には「--(半角で2つハイフン)」の記号が挿入されているので、検索機能を使って頭出しをする際にご利用下さい。また検索の際、目次でご紹介した数字を続けて半角で入力すると、その項目に直接移動することができます。
(例)1をご希望のときは、「--(ハイフンハイフン)1(すべて半角)」と入力。」

--1【社会福祉NOW】
地域福祉権利擁護事業(日常生活自立支援事業)とキャッシュレス化への対応

インターネットバンキングやキャッシュレス決済の利便性が高まる中、障害者や高齢者の身の回りにもその活用が広がるようになってきました。一方、デジタルデバイド(情報格差)が生じたり、障害の特性によっては「見えないお金」がイメージしづらく、気づかないうちに使いすぎてしまうこともあります。
本号では、本人ができることを支援する「地域福祉権利擁護事業」の実践を通じて、キャッシュレス化への対応が苦手な方への支援のあり方を考えます。

―「キャッシュレス決済では個々の支出が見えにくく、後からまとめて請求が来るので、気がつくと高額になっている」、「通帳を発行しない銀行もある。クレジットカードも紙で利用明細が発行されず、本人のスマホで確認する形になると一緒に収支を確認する支援がしにくい」、「ネット関係で何かの引き落としがあるようだが、カード会社に問い合わせたくてもWEB上でしか確認できない。高齢者である本人もIDやパスワードを忘れている」、「電気、ガス、携帯電話がセットの契約では、キャッシュレス決済の使い過ぎで滞納するとリスクも大きい」―
これらは、地域福祉権利擁護事業の専門員がキャッシュレス決済を使う利用者を支援する際の課題を挙げたものです。ネットバンキングやキャッシュレス決済が手軽で便利になる一方、気づかないうちに使いすぎてしまい、その結果、生活費が残らず年金や保護費が入る前の週には食べる物にさえ困るといった方もみられます。

関わりを通じて自らできることを支える
都内では、判断能力が十分ではない方で、日常生活を営むのに必要なサービスを利用するための情報の入手、理解、判断、意思表示が本人のみでは適切に行うことができなくても、そのことに手助けがあれば自立した生活を送ることのできる方を支援する「地域福祉権利擁護事業(注1)」の実施体制を全区市町村に整えています。本人と区市町村社協等の実施団体が契約を結び利用します。2023年10月時点の利用者は4127人。図1のように、主に認知症高齢者や精神障害者、知的障害者が利用しています。
利用に至るきっかけの多くは、福祉事務所や地域包括支援センター、居宅介護支援事業者、障害者相談支援事業者からの「公共料金や家賃を滞納している」、「通帳や印鑑を管理できていない」といった相談です。専門員が本人宅を訪問してみると、それらに加えて「年金等の手続きができていない」、「必要な福祉サービスに結びついていない」という課題がみえてきます。
専門員に対して、最初は「通帳や印鑑のことなら、自分でできるからいらないよ」と話す方は多く、そうした場合にも、例えば「そうですね。必要になったらお手伝いできますからね。ところで、役所からの手紙は難しい書類が多いですよね。一緒に確認しましょうか?」と声をかけると、「それならお願いしようか」と、郵便物の確認から支援が始まることも少なくありません。この事業の特徴は、人との関わりを通じて本人が自らできることはできるように支援することです。そのため、図2のように、「福祉サービス利用援助」が基本であり、「日常的金銭管理サービス」、「書類等預かりサービス」は必要に応じて実施します。例えば、現金の払戻しに支援が必要な方にもできるだけ金融機関まで「同行」して支援を行い、歩行が困難などの事情で金融機関へ行くことが難しい場合は本人が書いた払戻票を預かっての「代行」、払戻票の書字が難しくなった場合に本人との間で定めた範囲での「代理」により支援を行います。


近年、ネットバンキングが普及する中、地域では金融機関の窓口の統廃合がすすんでいます。そのため、これまで「同行」で支援ができていた方も窓口が遠くなり、「代行」「代理」に変更せざるを得ないことも増えました。コロナ禍以降は外出の機会が減った利用者も多く、本人の日中活動を広げる支援が大切になっています。

何にお金を使うべきかの管理ではなく
キャッシュレス決済の利用に課題のある方を支援する際、地域福祉権利擁護事業では具体的にどのような工夫をしているのでしょうか。
精神障害のある利用者が多い実施社協の一つ、A社協のセンター長は「若い方はほぼ何らかのキャッシュレス決済を使っている。携帯電話に紐づいたものが多く、何に使ったか分からなくなり使いすぎてしまう。それを可視化して自分で管理できるようになれば良いが、まずは食事や公共料金、家賃などの必要不可欠な生活費を確保することが大切」と話します。
何に使うべきかを管理するのが地域福祉権利擁護事業の目的ではありません。同センターでも、例えば、口座を分けて生活費を単独の口座から引き落とす環境を整えた上で、残りの収支を自分なりに管理できることを支援するといった工夫に取り組んでいます。大切にしたいのはやはり利用者本人の自立を支援する視点です。

一人ひとり本人の特性に合わせて工夫
「障害の特性もあり、どんな方法が分かりやすいかは人によって異なる」。キャッシュレスを使う利用者が増えてきたB社協の専門員はそう話し、次のような事例を挙げてくれました。
「携帯電話に紐づいたキャッシュレスを利用し、生活費を使い果たして食事もとれなくなり、フードドライブによる食支援でしのいだ。その際、彼女は『だから、使い過ぎを周りが心配してくれていたんだね』と話し、同じことを繰り返さないよう努力しようとした。そんな折、趣味でほしいグッズが新しく発売されることを知り、『お金を貯めたい』気持ちが高まった。本人と話し合い、3日おきにチャージした範囲でお金を使ってみることに。チャージ日を色分けしたカレンダーをつくり、その日にだけ決めた額を本人が自身でチャージ。うまくいかないこともあったが、グッズは買うことができた」。時間はかかっても信頼関係を築きながら、本人自身が目標を持ってできるようになった事例です。
そして、B社協の専門員はもう一つの事例を話してくれました。「知的障害のある利用者。キャッシュレス決済でお金を使いすぎてしまっていたが、話し合って次のような工夫に取り組んだ。同行による支援でお金を下した後、一緒に駅の券売機へ行き、下したお金のうち、生活費を交通系ICカードにチャージする。その際、カードを4枚用意し、それぞれに『○○費』『◇◇代』『□□費』『予備費』と書いておく。彼はこうすることで、生活費を自分なりに管理できるようになった。次の支援日までに『予備費』を使わず過ごすことができると、嬉しそうな顔をみせてくれる」。本人なりにできるようになるための工夫を一緒に考えた事例です。
これら二つは、キャッシュレス決済を止めさせるのではなく、使いながら工夫に取り組んだ事例です。さまざまな方法を試してようやくできた工夫であり、自分に合った可視化になかなか出会えない事例の方が多いのも実情です。
そして、スマホを持つ高齢者が増えています。今後、さまざまな手続きがネットを活用することで利便性が高まる一方、判断能力の十分でない方もその人自身に分かるよう、手続きをどのように支えるかを考える必要があります。

2024年1月に施行した「認知症基本法」は、認知症になってからも自らの意思で日常生活を営むことができる「共生」の視点を重視しています。同法では、地方公共団体や保健医療・福祉事業者の責務とともに、金融機関や小売事業者などにも「事業遂行に支障のない範囲内での合理的な配慮」を求めています。
本人のできることをできる限り活かした支援は、キャッシュレス化への対応でも大切な視点と考えられます。地域福祉権利擁護事業に限らず、福祉施設・事業所でもキャッシュレス化をめぐる課題は少なからずあると思われます。本人自身が課題を解決することを支援するための工夫を広く共有していくことが必要です。

注1 他道府県では、「日常生活自立支援事業」と称している
図1 地域福祉権利擁護事業利用者
図2 地域福祉権利擁護事業の事業内容


--2【TOPICS】
焼き芋で地域とつながり、まちの人たちと一緒に健やかな暮らしをつくっていく

診察室ではつくれない健康づくりのために
国分寺市が行う協働事業「こくぶんじカレッジ(以下、こくカレ)」から誕生したプロジェクト「医師焼き芋」は、2023年12月で活動開始から2周年を迎えました。医師焼き芋代表の平沼仁実さんは、普段は国分寺市にあるクリニックで勤務するまちのお医者さん(家庭医)です。「クリニックで働く中で、病気や障害の有無だけでは、人の健康・不健康は計れないと感じていた。医師の仕事は病気の治療・予防だが、診察室ではつくれない健康がある。もっと広い意味でまちの人の健康に貢献したいという思いがずっとあった」と、平沼さんは言います。そんな思いが、「医師や看護師が診察室から飛び出し、『芋』と『お節介』を焼く」というコンセプトにつながり、こくカレでさまざまな業界の人と出会ったことで、医師焼き芋のプロジェクトとして実現しました。

焼き芋を介して広がっていくコミュニケーション
医師焼き芋は、医師や看護師、ヨガのインストラクターなどが集まって焼き芋を販売しながら、地域の人たちと交流する場をつくっています。地域のイベントなどに参加する形で、焼き芋を買いに来たお客さんと雑談をしつつ、暮らしの中で健康や介護の悩みを抱える人の相談に乗ることもあります。活動は不定期で、概ねイベントの主催側から声がかかった時に開催しています。拠点はなく活動場所は限定していませんが、国分寺市内のパン屋の窯で芋を焼いてもらっているため、焼き芋を運べる場所が活動範囲です。
なぜ〝焼き芋〟にしたのか。始まりは広告業界で働くプロジェクトメンバーの発想からだといいます。「『石』と『医師』をかけた、要は〝ダジャレ〟だが、子どもからお年寄りまでお芋が好きな人は多くて、人を選ばず気軽に買える焼き芋は、コミュニケーションの入り口に適していると思った」と、平沼さんは話します。
医師焼き芋は一年を通して活動しているため、夏は芋の供給量が少なく、なかなか活動ができない時期もありました。暑い日には冷やし焼き芋を販売したりと、工夫して活動を続けてきました。

医療関係者と患者ではなく一緒に楽しめる関係をめざして
活動を開始した当初は、焼き芋の販売だけでなく、医療関係者が〝健康相談〟を行うことを前面に押し出して広報を行っていました。そのような呼びかけで集まった人は、必然的に、真剣に健康問題で悩んでいる人が多くなり、診察室で問診をするのと変わらない状況になってしまったといいます。しかしメンバーには、医療関係者と患者ではなく、〝人〟として出会い、みんなが楽しめる場所をつくりたいという思いがありました。そこで活動のスタンスを考え直し、まずはただの焼き芋屋として周知し、相談したい方がいれば話を聞くという方向性に変えたといいます。そうすることで、相談したいことがなくてもふらっと立ち寄るお客さんが増え、焼き芋を売る人と買う人として対等なコミュニケーションができるようになり、メンバーも活動を楽しめるようになりました。現在は、メンバー共通の姿勢として、その場で問題の解決をめざすのではなく、雑談をする中で一緒に何ができるかを考えていく、ということを大切にしています。

まちと医療を身近にする医師焼き芋
このプロジェクトは、地域の中で医療との接点を病院以外につくることができる場にもなっています。平沼さんは、クリニックの患者が家庭の問題などで悩んでいると、「今度焼き芋を売るからおいで」と声をかけるようになりました。さらに、病院嫌いの患者さんが『焼き芋を買うだけなら』と、医師焼き芋に来てくれることもあったといいます。平沼さんは「クリニックと医師焼き芋という、地域との関わりの場を2つ持ったことで、診察や治療以外のプライベートの困りごともゆっくり聞けるようになった。地域の人がクリニックと医師焼き芋を行き来してくれるのが嬉しい」と、この活動だからこその成果を実感しています。また、地域の人からも「医師焼き芋を通して医師や看護師が身近になり、まちの中に安心して相談できる場所ができたのがありがたい」という声が聞かれています。

〝楽しい〟で生まれるプラスのエネルギーを地域に広げる
芋の仕入れや、医師焼き芋のロゴやキャラクターのデザインは、こくカレで出会ったメンバーや知り合いからつながった人に依頼をしているといいます。プロジェクト立ち上げからこれまでを振り返り、「私が持っていた漠然としたビジョンをこうして形にできたのは、多くの人との出会いがあったから。戦略など何もなかったが、結果的に、アイディアを持った人や力を貸してくれる人が周りに集まってくれた」と、平沼さんは話します。
今後もプロジェクトを長く続けていくために、〝無理しない〟ことを意識しています。なるべく義務感が出ないよう、メンバーとはミーティングなどで集まることはなく、共有などは会った時に雑談を交えてするようにしているといいます。平沼さんは「メンバーにとっても、来たいと思った時にふらっと来られるような場でありたい。その時できる人ができることをやって、楽しんで活動することで、その〝楽しい〟で生まれるプラスのエネルギーが地域にも広がっていったら良い」と言います。
医師焼き芋は、これからも焼き芋を介してさまざまな人とつながり、みんなが楽しめる活動を続けていくことで、まちの人の健康をつくっていきます。

写真1 医師焼き芋 代表 平沼仁実さん
写真2 メンバーはお揃いのエプロンを着て焼き芋を販売している
写真3 焼き芋を買ったお客さんが雑談や相談をできるスペース

写真4 キャラクターの「Dr.焼き芋」
QRコード ホームページはこちらからご覧いただけます


--3【連載 次世代リーダーを育てる②~福祉人材の確保・育成・定着に向けた取組み~】
2022年度に東社協が実施した福祉人材の確保・育成・定着に関する調査では、多くの福祉職場で、主任やリーダー層の人材育成に問題意識を持っている現状が明らかになりました。この結果から、東社協では、主任やリーダー層の育成に取り組んでいる施設・事業所へのヒアリングを行い、冊子としてまとめ、取組み事例を広く発信することを予定しています。本連載では、冊子の内容の一部を先行してご紹介します。

事例1 子どもたちの安心・安全な生活の実現のために、人材育成に取り組み続ける
~児童養護施設 聖ヨゼフホーム
◆チームを支えるリーダーに求められること
聖ヨゼフホームは西東京市にある児童養護施設で、子どもたちは本園とグループホームのユニットに分かれて生活しています。医療的ケア児も受け入れているほか、ショートステイ事業なども行っています。ユニットごとにリーダーが1名ずつ配置され、「幼児」や「学齢期」、「グループホーム」などと、特性ごとにユニットを5つのブロックにまとめ、ブロックの管理や運営等を担う「運営員」という指導的立場の職員を置いています。
聖ヨゼフホームでは、子どもたちの安心・安全な生活を第一に、チーム支援を大切にしており、組織として人材育成を行う体制を整えてきました。
人事異動で職員が変わっても、子どもたちへの支援は積み重ねていく必要があり、ユニットごとにリーダーを中心にチームをつくり上げることが必要になります。チームづくりにはリーダーシップだけでなく、チームの効果を最大化するために主体的に周りへ働きかけを行う「フォロワーシップ」が欠かせません。そのため、フォロワーとして何をすべきか、新任の頃から伝えるようにし、チームとして動く意識が浸透するよう努めています。
現場の職員をまとめるリーダーや運営員には、組織を理解していることはもちろん、ケアワーク、ソーシャルワーク、マネジメントの3つの役割を担ういわゆるジェネラリストであることが求められます。運営員の山田正明さんは、日ごろ仕事をする上で意識していることについて、「自分一人で行う業務ももちろんあるが、できるだけメンバーやフォロワーと一緒に行う、もしくは見せる、説明する、ということを意識的に行っている。〝自分がやる〟というよりも、〝周りの人ができるようになる〟ための環境や状況をつくるよう心がけている」と言います。

◆分かりやすく「見える化」し、共通の理解を浸透させていく
「組織とは何か」を職員一人ひとりが理解することも聖ヨゼフホームは大切にしています。法人の理念を実現するために、施設は何が求められているのか。そのために、それぞれの部門やブロック、それからユニットや職員個人には何が求められているのかを構造的に把握できていることで、一人ひとりの毎日の仕事が児童福祉の向上にどうつながっているかが意識できるようになります。新任の頃に組織について丁寧に伝え、意識して仕事ができるよう、理念や事業計画、組織図を分かりやすく「見える化」しています。
新任職員を中心に活用するOJT振り返りシートには、「子どもたちとの関わり方」や「環境整備」などさまざまな項目を設け、それらの評点をレーダーチャートで表せるようにしています。職員本人や先輩、施設長など誰が見ても分かるようにすることで、自身の強みや苦手な部分を多角的に評価することができます。これも「見える化」の一つです。
施設長の鹿毛弘通さんは「各ユニットの目標を達成するために、個人個人が無理な努力をするのではなく、半歩ずつ頑張って、チームとして最大限の効果を出してほしい。そしてリーダー層の職員には、東京の児童福祉を背負っているという意識を持ってもらい、それを楽しんでくれたら嬉しい」と話します。
聖ヨゼフホームはこれまで、人事考課制度における面談や評価、OJTマニュアルの作成などに取り組んできました。2023年度はそれらを一度止め、人材育成に関するプロジェクトチームを立ち上げ、社会の環境や職員構成などの変化を考慮した人材育成の枠組みを改めて整備しているところです。チーム支援をベースとする組織として、今後も子どもたちの笑顔を一番に考え、職員育成をすすめていきます。

(写真 左から 運営員 山田正明さん 施設長 鹿毛弘通さん)

事例2 対話を重視し、職員の成長につなげる
~うらら保育園
社会福祉法人清遊の家は1987年に設立し、保育園や学童クラブ、高齢福祉サービスを展開してきました。葛飾区にあるうらら保育園は、特別養護老人ホームすずうらホームと西新小岩在宅サービスセンターが併設しており、自然を感じられる園舎が特徴的な施設です。

◆評価と面談を丁寧に行う人事考課制度へ
法人として人事考課制度は設けていましたが、経験年数に応じて一定の評価を上げた場合に昇給するなど、大まかな内容のものでした。そこで、年功序列をなくし、客観的な評価指標を取り入れるため、2017年頃から新たな人事考課制度の作成に取り掛かりました。具体的には、経験年数で区分していたところを、職種別に階層を4つに分け、各階層に担ってほしい役割を設定しました。リーダー層にあたる3階層以上の職員には園全体のことを考える役割を明示して、それに沿って評価軸を決定していくシステムです。
上半期と下半期に直属の上司が面談を行い、評価している点やより力を入れてほしい点を伝えた上で、リーダー層とは園全体の強みや改善すべきことなどを意見交換しながら、相互に確認しています。考課表は自己評価を記入できるようになっています。常務理事の塚田剛士さんは「職員が自分自身のことを客観視できていることで、考課者は課題を明確に伝えられるようになり、双方にずれのないフィードバックができるようになったのではないか」と話します。
また、当該年度の振り返りにもなる「自己研修計画」もあります。次年度に向けて、受けたい研修や学びたいことを記入するもので、自分の決めたことに対してどれだけ取り組んできたかを評価できるようになっています。

◆その場にいる誰もが対等だと感じられる場を大切にする
園長の齊藤真弓さんは、このような取組みの中で工夫してきたことは「〝とにかく聞く〟こと」だといいます。「本人の話はもちろん、言語化できていないことをどれだけ園長や主任が受け取れるか。できるだけ緊張感を取り除き、安心して自分の気持ちや意見を表現できる空間となるよう、日々気にかけている」と話します。
対話を大切にしているうらら保育園では、チーム活動を円滑にすすめ、最大限の成果を出すための技法「ファシリテーション」のスキルやマインドを保育現場で用いる「保育ファシリテーション」を取り入れています。リーダー層になる人はファシリテーションに関する研修を必ず受講し、会議や日々の対話で実践しています。齊藤さんは「そうすることで、誰か声の大きい一人の意見に左右されるのではなく、その場が公平公正で、安心して意見を表明することができるようになる。また、新任職員は、リーダー層が保育ファシリテーションを用いて対話の場づくりに取り組んでいる様子を見ているので、『自分も数年後に経験するかもしれない』といった当事者意識が生まれてきている」と言います。続けて「職員が保育ファシリテーションのマインドで子どもたちと常に関わることができるようになれば、いずれ公平公正で平和な世界につながるのではないかと信じている」と、思いを話します。主任の阿部友美さんは「何か事象が起きたときは、その背景や気持ちが大きく関わっていると思う。起きたことだけに着目するのではなく、背景や気持ちを丁寧に聞き取ることを心がけている。今後、対話の時間を日々の業務の中にもう少し増やしていきたい」と言います。
今後も、人事考課制度をより時代に合わせたものに更新し、職員一人ひとりの特性に応じた指導ができるようにしていくほか、創造力とコーディネート力を持った保育士の育成に取り組んでいきます。

(写真 左から 法人理事長兼園長 齊藤真弓さん 主任 阿部友美さん 常務理事 塚田剛士さん)


--4【明日の福祉を切り拓く】
見えなかった虐待を、社会に伝えていくことから
丘咲つぐみさんは、当事者としての立場から虐待を受けながらも生き抜いた〝虐待サバイバー〟に向けて必要な支援を行うほか、社会に対してその実態や支援の必要性を提起し続けています。

丘咲 つぐみさんプロフィール
税理士をしながら、当事者の一人として感じた生きづらさをきっかけに、2018年に「児童虐待ゼロ協会」を発足し、22年には(一社)Onaraを設立。虐待サバイバーへの支援を続けながら、地域の子ども食堂にも携わり児童虐待防止に取り組んでいる。

◆虐待から生き抜いた一人として、支援する日をめざして
子ども時代に虐待を受けながらもなんとか生き抜いて大人になった〝虐待サバイバー〟。虐待から逃れた後も、複雑性PTSDや摂食障害などさまざまなかたちでその後の人生も大きく影響を受け、生きづらさを抱えている人が多く存在します。私自身もまた、周囲に虐待を気づかれることや置かれている状況に疑問も抱かずにただ生き抜いてきた一人であり、心身ともに一番辛かった30歳の頃に、虐待サバイバーへの支援の必要性を強く感じました。
当時は精神疾患や摂食障害が深刻だったほか、脊髄の難病により車いすにも乗れず寝たきりの状態で過ごす時期が多くありました。そんな私が子どもを一人で育てながら、社会でどう生きていったらいいのか。とにかく情報を集め、母子世帯向けの貸付や生活保護などに頼りながらギリギリのところを生き延びていました。その一方で、自分はなんとか制度や支援に行き着くことができたけれど、虐待で心に深い傷のある人がこうした一連の手続きを自力で行うにはあまりにもしんどく、酷だなと思いました。いつか自分の状態を回復できたら、支援者として虐待防止や被害者支援に取り組みたい。そんな思いを胸に、その後、税理士になり生活を安定させながら、支援する日に向けて走り続けてきました。

◆児童虐待防止に向けて私が取り組むべきこと
2018年の「児童虐待ゼロ協会」発足から、22年に一般社団法人「Onara」の設立に至る4年間は、資格もない自分が、どこに焦点を当てて活動していくべきなのかを模索する日々でした。地域で見守り活動をしてみたり、子ども食堂に関わってみたりなど探り探りだったと思います。そのような中、活動の原点であった問題意識に立ち返りながら、同じ虐待サバイバーでも児童養護施設や里親家庭などの社会的養護に至るかどうかで受けられる支援に大きな差がある現状を知り、支援につながることなく生きてきた人に対して取り組む意義を感じました。
Onaraではこれまで10代~70代の約1300人に対して、それぞれの状況に応じた伴走支援を行ってきました。団体の公式LINEやオンラインを中心に話を聞き、支援の手続きを一緒にすすめることや就職支援のほか、地域のフードバンクにつなぐこともしています。一人ひとりが好きなタイミングでいつでも帰ることのできる、そんな実家のような存在をめざしてきました。

◆社会から見えなかった虐待へ、一人でも多くの意識を
活動を続けてきて、多くの人が子ども時代に〝虐待〟と意識していない、または周囲に助けを求めても状況が変わらないまま大人になり、その後も一人で生きづらさに耐えながら、誰かに話すことや、話せる場所すらなかったことを実感します。社会的養護に至らなかった虐待サバイバーを対象にアンケートを実施した際には、3週間で600件以上の回答が集まり、「初めて自分のことを聞いてもらえた」との声が多く寄せられました。そうした虐待サバイバーの実態を発信し、支援の必要性を問いかける活動も伴走支援とともに続けています。設立してもうすぐ2年になりますが、今後は常設の拠点を設けるなど新たな取組みを構想中です。
児童虐待への社会認知が高まる一方で、社会には見えなかった虐待があって、大人になってからも苦しんでいる人が数多くいます。一人でも多くの人がそのことに意識を向け、虐待を受けてきたすべての人が〝生きていて良かった〟と思える社会になるよう、当事者の一人として声を上げ続けます。

(写真 食料を届けるなど、一人ひとりの状況に応じた支援を行っている)
(QRコード (一社)Onaraホームページ)
団体名には、「悩みや生きづらさを一人で抱えて苦しくなる前にちょっとでも吐き出してほしい」という願いが込められている。


--5【福祉のおしごと通信】
利用者の笑顔をもっと見たいからスキルアップして日本で働き続けたい
EPA制度で来日し、秋津療育園で介護福祉士として働くハリー・イクバル・レザさんに、介護福祉士の資格取得で苦労した点や、仕事への想いなどについてお話を伺いました。

(写真ハリー・イクバル・レザさん
Harry Iqbal Reza
社会福祉法人天童会 秋津療育園 介護福祉士)

介護福祉士として日本で働くことを決意
母国のインドネシアでは、病院やクリニックで看護師として働いていました。もともと人と関わることが好きで看護師になりましたが、仕事をする中で福祉事業者とも関わるようになり、次第に福祉の仕事に興味を持つようになりました。ある時、友人が日本とインドネシアとの「EPA(経済連携協定)に基づく外国人介護福祉士候補者プログラム(注1)」に応募することを知り、自分もチャレンジしてみようと思いました。
EPAプログラムに応募して日本の受入れ施設が決まった後、来日前に日本語研修を受けました。それまで日本語を知らなかったので一生懸命勉強しました。特に漢字が難しく、一つの漢字でいろいろな意味があるので苦労しましたが、研修の時間以外でも、日本の映画やマンガなども参考にしながら発音や単語を必死に覚えました。

猛勉強の末、念願の介護福祉士資格取得へ
2018年に来日し、同年の12月に現在の職場である秋津療育園で働くことになりました。秋津療育園では、EPAプログラムで来日した外国人のために、園の近くに寮をつくっていただき、そこに住みながら仕事と介護福祉士の資格を取るために勉強する日々が3年間続きました。仕事では、必ず日本人の先輩が何人かついてくれて、分からないことを質問するとすぐに教えてくれるのでとても助かりました。
介護福祉士の国家資格を取るために一番大変だったのは、仕事と勉強の両立です。仕事で疲れてしまって勉強に身が入らないこともありましたが、そういう時は、EPAプログラムで一緒に来日した友人と出かけたりおしゃべりをしたりして、リフレッシュしながら頑張りました。また、試験の内容に漢字の専門用語がたくさん出てきたのも苦労しましたが、秋津療育園が日本語教師の方を派遣してくれたり、日本語学校に行かせてもらったりと、たくさんサポートをしていただき、とても感謝しています。そして、22年4月に介護福祉士の資格を取得することができました。

利用者の皆さんの笑顔がかけがえのない宝物
今は介護福祉士として、利用者の生活全般の支援をしています。基本的に全介助の人が多いので、食事・入浴・排せつの介助から、利用者と一緒に体を動かしたりレクリエーションをしたりなど、一日中関わっています。一人ひとり状況が違うので、利用者に合わせた支援をすることは大変ですが、とてもやりがいがあります。申し送りや日誌などで難しい医療用語なども出てきますが、先輩に教えてもらいながら頑張っています。
この仕事をしていて何より嬉しいのは、介助をした時に利用者がふと見せてくれる笑顔です。ほとんど言葉を発しませんが、介助をしていると笑顔を見られる時があって、心と心が通じ合った気がします。職場の皆さんもとても仲が良く、いろいろなことを教えてくれるので、日本で介護福祉士になって本当に良かったと思います。将来は、もっと日本語を勉強して仕事もスキルアップし、これからもずっと日本で働き続けたいです。
私のように、日本で介護福祉士として働くことを目標にしている人には、「ぜひ日本に来て一緒に頑張りましょう!」とエールを送りたいです。仕事と勉強の両立は難しいですが、不安に感じたりせず、チャレンジしてほしいと思います。

(注1) EPA(Economic Partnership Agreement=経済連携協定)に基づいた、インドネシア人・フィリピン人・ベトナム人の介護福祉士候補者の受入れプログラム。日本の介護施設で働きながら介護福祉士国家資格の取得をめざす


--6【東社協発】
「福祉広報」リニューアルのお知らせ
日頃より「福祉広報」をご覧いただき、誠にありがとうございます。このたび、2024年4月号より本誌をリニューアルすることになりました。
リニューアルに伴い、アンテナ・資料ガイドコーナーおよび広告掲載募集を終了いたします。また、近年の広報誌制作コストの増加などにより、以下の通り、本誌の価格を改定させていただきます。
今後とも、皆さまのお役に立つ紙面づくりに努めてまいりますので、ご理解・ご協力のほど、よろしくお願いいたします。
■主な変更点
・ページ数:全8ページ
・紙面:全ページカラー
・価格:1部 330円(本体300円+税10%)/年間定期購読料 3960円(税込・送料サービス)

令和6年能登半島地震に対する支援金・義援金情報
以下の通り受け付けています(2月1日時点)。
詳細は受付団体のホームページをご確認ください。
本会ホームページでは、このほかにも関連情報を掲載していますので、あわせてご活用ください。
支援金(被災地で活動するボランティア団体等を支援)
■中央共同募金会〔ボラサポ・令和6年能登半島地震〕
―6月30日まで(予定)
■日本財団〔災害復興支援特別基金〕
―3月31日まで(予定)
義援金(被災者を支援)
■中央共同募金会〔令和6年能登半島地震災害義援金〕
―6月28日まで(予定)
■日本赤十字社〔令和6年能登半島地震災害義援金〕
―12月27日まで
東社協が発信する災害関連情報
東社協ホームページ(災害関連情報)
東京ボランティア・市民活動センター

エンタメ・ギフト 『訪問らくご』 ~特別養護老人ホームに真打、登場!~
《Shibahama》は、エンターテインメントを通じて、すべての人が笑顔になる一瞬を届けていくことをテーマに活動しています。江戸落語4団体の協力により、特別養護老人ホーム4施設を訪問する落語会〔訪問らくご〕が開催されました。第一線で活躍する真打の落語家がやって来て、施設が寄席空間に早変わり。当日は師匠の熱のこもった話芸に引き込まれ、入居者の方と職員一同大いに盛り上がりました!
本格的な高座が設置され寄席に早変わり(写真:三遊亭小圓楽師匠)

 

--7【くらし今ひと】
自分らしく生きるのは悪いことじゃない。みんな違って大丈夫!
音楽を通してろう者と聴者をつなげたいという思いで、歌詞を手話に変えたパフォーマンスや映画、舞台、講演活動など他方面で活躍するKAZUKIさんにお話を伺いました。

◆障害関係なく多くの人に勇気と希望を届けられる人になりたい
耳が聞こえないと診断されたのは3歳の時です。中学校までは普通学校に通い、口話でコミュニケーションを取っていました。聴者との会話のずれから人の輪に入ることができなかったり、耳が聞こえないという理由だけでいじめにあったり、辛い時期もありました。
高校からはろう学校に通い、手話を習得。目を見てコミュニケーションが取れる手話は耳で聞くよりずっと充実感がありました。聴覚障害者などが通う大学を卒業後は、サラリーマンとして働いていたのですが、目に見えないコミュニケーションの壁にぶつかり、生きることが苦痛になっていきました。人生から這い上がるきっかけとなったのが「音楽」でした。「音楽を通して聴者とろう者をつなげたい、手話に興味を持ってほしい」という思いから、6年間勤めた会社を辞め、歌詞を手話に変えパフォーマンスを行う「サインパフォーマー」という仕事を始めました。自分がやりたいことやアイデンティティに迷った時期もありましたが、今はろう者としての自分に誇りを持っています。

◆との出会いから学んだこと
ろう者でもいろいろな仕事ができることを聴者やろう者の人たちに知ってもらいたいと思い活動を広げ、2021年には東京パラリンピック開会式に出演。多くの人と出会いました。その時、共演者から誘われて聴覚や視覚、身体にさまざまな特徴を持つメンバーで構成されるダンスカンパニー「Mi‐Mi‐Bi(みみび)」に入りました。
『旅する身体』の公演に向けた稽古では、移動や会話のサポート、体力面の違いがあるので、集まってすぐにダンスを揃えるのではなく、お互いを知ることから始まりました。演技をしている時は、振動以外どんな曲が流れているか全く聞こえないので、周りの人と呼吸や動きを合わせて踊ります。練習後は毎回疲れ切っていましたが、学ぶことが多く、とても充実した時間でもあります。
Mi‐Mi‐Biを一言で表すと「爆発」。これまで生きてきた中で、経験してきた差別や苦労、悲しいこと、辛かったことを全身で表現しています。私は、メンバー全員が社会を変えられる力を持っていると思っています。「障害者は踊れない」と思われがちですが、Mi‐Mi‐Biの世界観に触れて〝障害者〟のイメージが少しでも変わったらいいなと思います。

◆障害があっても夢をあきらめない世の中にするために
若いろう者のロールモデルになりたいと思い、22年1月には全員ろう者のダンスチーム「VAchement(ヴァッシュモン)」を立ち上げました。ろう者はどうしても、聴者との日々のコミュニケーションの中で孤独を感じることがあります。このような場所があることで、障害があってもあきらめず他の世界でも頑張れるのではないかと思います。頑張っているろう者の心の居場所となり「自分らしく生きていくことは悪いことじゃない。みんな違って大丈夫!」と伝えていきたいです。
日ごろから大切にしていることは、思いやりの気持ち。みんなが思いやりを持つことで、自然に障害を持った人のサポートができたり、手話に興味を持ったり、理解し合える世の中になるんじゃないかなと思います。

映画『旅する身体~ダンスカンパニー Mi-Mi-Bi~』
デビュー公演までの“軌跡”に密着したドキュメンタリー映画がTBSドキュメンタリー映画祭にて上映!2024年3月15日(金)より全国6都市にて順次上映
(QRコード TBSドキュメンタリー映画祭2024)

以上で、福祉広報2024年2月号を終わります。

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