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福祉広報 2024年3月 782号 テキストデータ

【表紙】(写真)
保育園児の楽しいハイキング
見事な菜の花畑に
埋もれてしまいそうだね
ー山梨県 北杜市ー

【目次】

1社会福祉NOW
2TOPICS1
3TOPICS2
4連載 次世代リーダーを育てる①
5東社協発
6み~つけた
7くらし今ひと

--1【社会福祉NOW】
担当者任せにせず、組織として人材の定着・育成を考える
~「新任職員の定着・育成入門研修」の活用事例~

東京都福祉人材センター研修室(以下、研修室)では、「令和4~6(2022~2024)年度 東社協中期計画」の重点事業の一つとして、2023年度より「新任職員の定着・育成入門研修」を実施しています。今号では、本研修の企画の経緯や内容、実際に研修を活用した事業所の取組み等をお伝えします。

◆自組織の課題を考えるきっかけに
研修室では、福祉施設・事業所の人材定着・育成につながる多様なテーマ型の研修(採用・広報/OJT/コーチング/職場内研修/育成面談など)を実施してきました。その中で、受講者から「職員の定着・育成に関する取組みは、担当者任せにされがちで困っている」「研修内容はどうしても標準的な内容になるので、自事業所の組織体制・現状では現実的に取り組むことが難しい」といったご意見をいただくことが多々ありました。
採用や職場内研修の担当者がテーマ型研修を受講するだけでは、こういった課題の解決は難しく、組織全体で自組織の人材定着・育成の課題について考えてもらうことが必要だと考え、そのきっかけになればと本研修を企画しました。

◆課題の幅広さと整理手法を学ぶことが目的
本研修は、人材の定着・育成を組織として考える立場にある管理職員やチームリーダー、職員の定着・育成を担う担当者を対象とした150分程度(個人ワーク含む)のオンデマンド型の研修です。23年度は2回実施し、合計で157名の受講がありました。受講者の役職は図1の通りで、業務の担当者だけでなく、管理者も一緒に受講した方からは「内部の職員からの発言では管理者層に響かないことも、外部の講師からの指摘で、今後の担当者としての取組みが展開しやすくなった」との声もありました。
研修の目的は「職員の定着・育成に必要となる課題の幅広さとともに、自組織の課題を整理するための手法を学ぶこと」です。まず、職員の定着・育成には多様な課題があることを講義・個人ワークを通じて理解していただきます。次いで、個人ワークを中心に、課題の整理手順と優先順位のつけ方を学び、実際に自職場の人材定着・育成における課題を洗い出し、取組みの優先順位付けを行うという構成です。ただの研修受講だけで終わらせず、受講者が研修成果を職場に持ち帰り、実際に職員の定着・育成に向けた取組みにつなげることが最大の狙いです。そのため、研修受講後、実際に他の職員を交え、職場全体で本ワークを行えることが理想的です。
多様な課題を、自職場の実際の状況を踏まえ考えていただくため、ケーススタディを取り入れました。例えば『求人を出してもなかなか応募者がいないA事業所。やっと1名の入職希望者が現れたが、面接の結果、福祉職への適性に疑わしさを感じる部分があった。しかし、背に腹は代えられず、採用の方向で検討することに。このような状況をあなたはどのように考え、どう行動しますか』といった内容です。受講者からは「自分なら、自職場ならどのように対応するかをリアルにイメージした上で、講師から課題のとらえ方や検討のポイントの講義があり、より実践的な学びが得られた」といった感想がありました。

◆本研修受講後の受講者の取組み
本研修の受講後、実際に自職場で課題の構造化ワークを実施した、医療法人永寿会 陵北病院 看護部 介護主任の山本紗織さんにお話を伺いました。陵北病院看護部では、職員の定着・育成を図るための担当者は定めてはおらず、主任層が全体でその役割を担っています。今回は、上司から本研修の情報提供があり、介護主任8名が受講しました。受講後、上司を含む9名で実施したワークの結果、優先度の最も高かった課題は「求める職員像や組織像の明確化」でした。この理由は「これがぼやけていると、育成の目的やゴールが中途半端になる。まずは組織として何を大事にするのかを職員全体で共有することが最優先だと考えた」と言います。
その後、介護主任が中心となり、求める職員像・組織像の具体案を考え、どれが良いか全職員で投票し、求める職員像を「利用者を第一に考えられる誠実な人」、「暮らしを支えるための知識と技術をもつ人」などの5つに定めました。また、看護部のめざす姿や組織像は「その人らしく豊かな時間が過ごせる陵北病院」に決定したそうです。そして、現在はこれを念頭に、個々の職員の状況に応じた人材育成ができるよう、業務の標準化やマニュアルの整理といった取組みをすすめているとのことでした。
また、同僚の職員と先述のケーススタディに取り組んでみると、山本さんは「入職後の指導方法でフォローする。疑問があればすぐに言えるような環境をつくる」と回答したのに対し、別の職員は「求人に応募がない理由や、正しく自職場の理念や魅力を伝えられているかを考える」という意見を挙げました。「入職後のサポートだけでなく、幅広い視野で、職員の定着・育成を考えることの大切さに気づいた」と、山本さんは話します。
こういった取組みについて、研修講師で、(社福)東京聖新会 向台町地域包括支援センター センター長の近藤崇之先生からは「職員一人ひとりが組織の理念やビジョンをしっかり捉えられると、一体感のある組織を築くことができる。また、職員の経歴・経験年数や現在の役職・立場等によって、その考え方には違いが生じる。管理者層がこの違いをきちんと理解できていると、個々の職員に応じた定着・育成のフォローや、チームマネジメントの参考にできるのではないか」とのコメントがありました。

◆受講者アンケートからみる現場の課題
本研修の受講者に「実際に自職場で、職員の定着・育成における課題の構造化のワークは実施できそうか」と尋ねたところ(図2)、「不可能だと思う/分からない」と回答した理由として①人手不足で余裕がないので時間が割けない、②管理職や他の職員の理解を得るのに時間を要するといったご意見が目立ちました。このように「現に絶対的な職員数が足りない→組織として人材の定着・育成まで手が回らない→職員が定着せず、離職してしまう→現に絶対的な職員数が足りない…」という悪循環が大きな課題になっています。
この課題について、近藤先生は「忙しいから『大きな絵』が描けないのではなく、『大きな絵』が描けていないから振り回されていることはよくある。何を大事にしたいか、どのような方向にすすみたいかを先に整理することが大切」と指摘します。加えて「その過程を通じて、職員が安心して働ける組織風土が醸成され、結果的に人材の定着・育成がすすむ。まずは、スモールステップでも取り組み始めることが重要」と言います。人手不足や職員間のコミュニケーションに悩む事業所こそ、本研修を活用し、課題の構造化のワークに取り組むことを期待しています。

◆定着・育成の好循環をつくり出すには
福祉業界に限らず、人材不足が深刻な社会情勢の中、定着・育成の好循環をつくり出すことは喫緊の課題です。そして、そのための取組みは各施設・事業所の規模感や組織体制等によって大きく異なります。だからこそ今、組織を支えている人たちが共に考え、話し合いながら、この課題の解決に挑む姿勢が求められています。支援の要が「人」である福祉事業所こそ、職員全体でこれに取り組む必要があるといえます。

このような福祉従事者の皆さまの取組みがすすむよう、研修室では、今後も福祉現場のニーズを踏まえた研修を実施していきます(本誌9ページ「令和6年度研修一覧」参照)。

図1 受講者の役職の割合(アンケート回答数157)
図2 実際に自職場で課題の構造化ワークに取り組めるか(アンケート回答数116)


--2【TOPICS1】
日本で暮らす同世代として、〝ともに生き、ともに学び合う〟

技能実習生として日本へ来ている外国人は約36万人となり、ベトナムを中心に、アジア圏の若者がその大多数を占めています。そんな実習生の失踪や関連する事件が近年報じられ、その背景にある制度の問題点や劣悪な労働環境などが明らかになりました。日本を選んで来てくれた実習生が安心して働き続けるために何ができるのか。今回は、NPO法人Adovoの取組みから考えていきます。

〝自分でも何かできるんじゃないか〟、ただその思いから
高校生や大学生を中心に技能実習生の支援に取り組むAdovoは、コロナ禍の2020年に活動を始めています。代表の松岡柊吾さんが技能実習生の保護活動を知り、「高校生の自分でも何かできることがあるのでは」と思ったことがきっかけ。そこから試験的に日本語教室をオンラインで開き、仲間を募って活動方針を明確にしていったといいます。1人の学生から始まったAdovoは、3年の月日を経て、今では120名以上の学生が全国から参加しています。

自分たちの言語や文化を伝えるために、相手のことをまずは知る
オンラインや対面による日本語教室と交流会を活動のベースに、来日前の実習生に向けた講習会も行っています。交通ルールをはじめ、習慣や文化等の日本で暮らす上で大切な情報を伝えることで、実習生が地域で安心して暮らせることをめざしています。松岡さんは「勤務先と寮の往復で終わる実習生も多い。日本に来たのだから、日本語を話せるようになってほしいし、地域に触れてほしい。Adovoが地域に出るきっかけになっていたら嬉しい」と話します。
参加する学生は活動をする前に、外国人技能実習制度やその現状、それから実習生が来日する背景等を研修で学ぶことになっています。「価値観の違いといった、外国を相手にする難しさがある。私たちが必要だと考えていることが必ずしも彼らのニーズでないこともあるし、だからといってこちらが引きすぎてもまた違うと思う。だからこそニーズを擦り合わせていくために、相手の国の政治や文化を知る必要がある」と、松岡さんは話します。

同世代の一人として、ともに生き、ともに学び合う
「教えるというスタンスではなく、自分たちも勉強させてもらっているという気持ちは持っていなければならない」と松岡さんが繰り返すように、Adovoは〝ともに生き、ともに学び合う〟ことを大切に活動してきました。先生と生徒ではなくて、あくまで同世代の友人のような関係性を築き、その過程で言語や文化を相手に伝えていく。そんな関係性だからこそ、実習生は言いにくいことも打ち明けることができるし、話も広がってコミュニケーションも活発になっていくといいます。
制度創設から30年が経過し、各地で技能実習生が暮らしています。日本の暮らしを楽しみながら働く実習生がいる一方で、失踪や、犯罪事件に巻き込まれる実習生が数多く存在します。そうした背景に〝社会的な孤立〟を松岡さんは挙げ、「社会から孤立しないように地域の人が支えていかなければならない」と強調します。
今後は技能実習生への妊娠トラブル防止に向けた啓発など、新たな取組みを構想しているAdovo。彼らだから生まれる気づきやアイデアを大切に、日本で暮らす同世代の一人としてAdovoは動き続けています。

日本語教室の先生になるメンバーは最低1か月以上のトレーニングを受講。教室が終われば一緒にご飯に行ったりして、同世代として過ごす
地域のイベントに参加し、活動を伝えることにも取り組んでいる

NPO法人Adovoホームページ QRコード

--3【TOPICS2】
2024年度国および東京都予算案固まる
2024年度国予算案
政府は、2024年度の国予算案を2023年12月22日に閣議決定しました。社会保障関係費は33兆5,046億円で前年度から2.1%の増となっています。
地域共生社会の実現に向けた地域づくりについては、実施区市町村の増加が見込まれる重層的支援体制整備事業や、その構築に向けた都道府県後方支援事業等が拡充されています。
また、生活困窮者自立支援では、専門人材育成のため、体系的なキャリアラダーとそれに応じたステップアップ研修のカリキュラム作成に係る調査研究事業が新たに実施されます。
成年後見制度や権利擁護支援関係では、「都道府県・市町村・中核機関の権利擁護支援体制の強化」や、「新たな権利擁護支援策構築に向けた『持続可能な権利擁護支援モデル事業』の実施」などが拡充となっています。
女性支援関係では、「女性相談支援員活動強化事業」や支援連携強化モデル事業が拡充されるほか、新たに「女性自立支援施設通所型支援モデル事業」が始まります。
福祉・介護人材確保対策等の推進では、介護職が主体となってやりがいなどを発信する「介護のしごと魅力発信等事業」などが拡充されます。
災害福祉支援ネットワーク関係では、保健医療との連携強化に主眼を置いた取組みが拡充されます。
民生委員関係では、地域の実情や課題に応じた担い手確保対策として、地方自治体が実施する民生委員の「業務負担の軽減」「理解度の向上」「多様な世代の参画」に資する事業の実施が新規で挙げられています。

厚生労働省 2024年度厚生労働省所管予算案関係 QRコード

2024年度東京都予算案
東京都は2024年1月26日に2024年度の予算案を発表しました。「福祉と保健」は、前年度比4.7%増の1兆6,105億円です。
高齢・障害分野に共通する事項として、居住支援特別手当を支給する介護保険サービス事業者や障害福祉サービス事業所を支援する事業が新たに実施されるほか、職員宿舎借り上げ支援事業の一部が拡充されます。また、DXをはじめとする生産性向上の取組みを推進するリーダー職員を配置・育成して手当を支給する事業者の支援も新規事業になっています。
高齢分野では、介護支援専門員の専門性を発揮できる環境整備のための「居宅介護支援事業所事務職員雇用支援事業」や、人材不足が深刻化している訪問介護事業所を支援する「地域を支える『訪問介護』応援事業」、外国人介護従事者の受入れ支援等に関する事業などが新規事業になっています。また、認知症関連施策でも地域づくりや社会参加促進につながる取組みが新たに始まります。
障害分野では、工賃向上をめざす作業所を伴走支援する「就労継続支援B型作業所マネジメント事業」や、人材確保・定着に向けて業務効率化やDX化推進に取り組む事業所を支援する「障害福祉人材の確保・定着に向けた事業所等支援事業」が新規事業になっています。
児童分野では、子ども食堂等を通じて状況把握し必要な支援につなぐ取組みを行う区市町村を支援する「子供食堂推進事業」や、子ども家庭支援センターの機能強化を含む「都児童相談所と子供家庭支援センターの連携強化」、幼児専用の受入ユニット設置により受入促進を図る「乳児院の一時保護委託受入促進事業」などに新たに取り組みます。

東京都 2024年度予算QRコード


--4【連載 次世代リーダーを育てる③~福祉人材の確保・育成・定着に向けた取組み~】
2022年度に東社協が実施した福祉人材の確保・育成・定着に関する調査では、多くの福祉職場で、主任やリーダー層の人材育成に問題意識を持っている現状が明らかになりました。この結果から、東社協では、主任やリーダー層の育成に取り組んでいる施設・事業所へのヒアリングを行い、冊子としてまとめ、取組み事例を広く発信することを予定しています。本連載では、冊子の内容の一部を先行してご紹介します。

事例1 密なコミュニケーションを大切に、広い視野で施設全体を考えられる職員を育てる
~特別養護老人ホームつきみの園
◆さまざまな工夫でコミュニケーションの時間を確保
つきみの園は、(社福)東京聖労院が運営する特別養護老人ホームで、2000年に小金井市に設立されました。居宅介護サービス事業所を併設し、小金井市より地域包括支援センターを受託しています。日々利用者へのケアにあたっている現場職員を一般職、係長や主任など、各現場の業務調整を担う職層を指導職、指導職を取りまとめる職層を管理職(課長・部長・施設長)としています。
さらに職員数の多い特養では、一般職の中に「リーダー」をつくり、指導職と一般職をつなぐ役割を担っています。以前は、指導職が中心となって施設全体や日々の業務のことを考える体制だったのが、リーダーという役割をつくったことで一般職中心に業務を考えていく体制に変化していきました。10年以上前からこの形を取り入れ、フロアミーティングなどをリーダーが行い、一般職からの意見をすくい上げるしくみができています。生活課課長の三浦成雄さんは「リーダーを経験することで、フロア全体を見られるようになり、現在は管理職についていたり、主任の立場で頑張っている職員もいる。一方で、さまざまな視点から物事を考え、判断しなければならない時もあるため、負担感もある。希望者や担い手が少なくなっているのが現状」と課題にも触れます。
フロアミーティング以外にも、さまざまなミーティングがあります。毎日行う短時間のものから、主任以上の介護職員による主任係長会議や多職種連携のためのチームケア会議など、コミュニケーションの場を多く設け、情報共有や業務改善の検討をしています。そのほか、人事考課制度による面談の時間も大切にしています。施設長の榎本光宏さんは「日々の仕事の中で一人ひとりとじっくり話をするのはどうしても難しい。そのため、必ず直近の上長と面談する時間を意識して設定している」と話します。
ミーティングや面談でのコミュニケーションを大切にするつきみの園。シフト勤務体制でもその時間を確保していくために、三浦さんは業務のスリム化の必要性を挙げ、「より効率的な業務のすすめ方を日々検討している。ただ、感染症対策や社会の状況の変化によって継続が難しいこともあるので、一度改善したら終わりではなく、取り組み続けなければならない」と話します。ICTの導入もその一環であり、榎本さんは「ICTを取り入れると人員削減の話になりがちだが、本来は職員間や利用者との時間をつくるためのものではないか」と言います。
◆職員一人ひとりが主体的に動き、チームワークの質を向上
日頃からコミュニケーションをとれていることが、チームワークの発揮にも影響してきます。主任の野口泰男さんは「チームで仕事をするので、業務について伝えるべきことははっきりと伝えられ、分からないことを聞きやすい関係性が大切。主任として的確な判断をすることで、利用者も職員も安心して負担のない1日が過ごせればと思っている」と話します。
そして、看護師や栄養士など多職種間の連携も必要不可欠です。「お互いの専門性を理解し、認め合い尊重し合う。広い視点で全体のことを考えられる職員が増えれば、施設全体のチームワークの質も高まると考えている」と、榎本さんは言います。
職員それぞれにケアに対する考えがあるように、利用者にも一人ひとり思いがあり、誰一人同じ人はいません。榎本さんは「職員一人ひとりが考えを巡らせ、行動できるような職場をこれからもめざしていきたい」と話します。事業の継続を見据えた時に、若い職員が活躍でき、その若手を引っ張る指導職の育成が大切だと考えるつきみの園は、これからもリーダー層を育成する取組みをすすめていきます。

(写真 左から 生活課主任 野口泰男さん 施設長 榎本光宏さん 生活課課長 三浦成雄さん)

事例2 リーダー層の育成を通して、職場全体でステップアップをしていく
~特別養護老人ホーム栄光の杜
◆職員育成の取組みを通して全員が成長する
(社福)ほうえい会が運営する栄光の杜は、1996年に設立された特別養護老人ホームです。数年ほど前に、介護現場の要を担う主任層の職員の離職が相次ぎ、新たな職員が入職しても、日常業務に関する最低限の指導しか行うことのできない状況でした。その当時に入職した職員も数年間経験を積んできて、後輩職員の育成も担ってほしいという介護係長の三瓶歩さんの思いから、23年度より「育成担当者」という役割を各フロアに2名ずつ設けました。2か月に1回、育成担当者が集まる「育成担当者会議」を実施しています。三瓶さんは「教えることでの学びもたくさんある。育成を任せっきりにするのではなく、育成の過程で悩んだことやぶつかった壁を共有し、成長していけるような勉強会の場をつくった」と話します。
こうした会議の場は、これまで育成の方法にばらつきがあったことや、共通認識を持って育成に取り組むことの必要性を再確認する機会となっています。三瓶さんは「育成担当者としての役割をつくり、これまで任せてこなかった育成の部分を任せたことで、仕事に対する意識や視点が変わってきた職員もいる。少しずつ変化が出てきている」と感じています。
始めたばかりの取組みで課題も多い中、施設長の三鴨香奈さんは「試行錯誤しながら取り組んでいる様子が伺える。今の私たちに必要な取組みだと職員から発案があったものは大切にし、支えていきたい」と語ります。会議の積み重ねによって、職員一人ひとりが自ら考えて行動できるようになっていったら良いと期待する三瓶さん。「フロアで起こった問題に気づき、解決に向かって何をすべきかを主体的に考えられる職員が多い組織になったら嬉しい」と話します。
◆ケアへの思いをつなぎ、自ら考えて動ける職員を育成する
「育成担当者会議」とは別に、「ケア検討委員会」にも取り組んでいます。目の前の業務を優先せざるを得なかった数年を経て、改めて入居者の生活に目を向け、どのように関わっていったら良いかを考えられる職員の育成を目的に設置した、ケース検討や話し合いができる場です。さまざまな年数の職員が集まるので、先輩の経験談やケアへの思いなどを伝えられる機会にもなっています。また、フロアや係で生じた問題に対して、どのように解決に向かって取り組んでいけば良いかなど、業務改善のノウハウなどを先輩職員から教えられる時間にもなっているといいます。三瓶さんは「こうしたら上手くいくということはなく、Aの方法が合わないならBにしてみようと考え続けるのが介護の仕事ではないか。職員が持つ〝引き出し〟を共有し、各職員が使える数を増やしていきたい」と言います。三鴨さんは「入居者は身体の状態や症状も違うし、生活歴も楽しいと感じるポイントもさまざま。一人ひとりをきちんと考えたケアができると、入居者も『栄光の杜』で良かったと感じられるし、職員も楽しく毎日の仕事に取り組めるのでは」と話します。
最後に、三瓶さんは、係長や統括といった現場に入る機会が徐々に少なくなる指導的立場を担う職員が入居者へのケアについて後輩に思いを伝えることの大切さについて触れました。「年数を重ねるにつれ、日々仕事で接する相手が対入居者ではなく対職員になっていく。高齢者への支援がしたいという気持ちで施設に就職する人が多い中、このような変化はジレンマを抱える部分ではないか。『栄光の杜でこんなケアがしたい』といった思いを伝えられ、安心して任せられる後輩を育成することが必要だと感じている」と話します。
栄光の杜は、入居者と職員一人ひとりの思いを大切に、これからも職場全体でステップアップしていきます。

(写真 左から 介護係長 三瓶歩さん 施設長 三鴨香奈さん)

 

--5【東社協発】
「令和6年能登半島地震」に対する東社協における支援活動
(2月15日現在)
1月1日に発生した能登半島地震により、被害に遭われた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
現在、東社協では、ネットワークの力を活かして以下のような支援活動を行っています。

【災害ボランティア活動等による被災者支援】
東京ボランティア・市民活動センター(TVAC)が、災害協働サポート東京(CS-Tokyo)と連名で都内一斉募金活動を提案。多くの関係団体が募金活動を実施しました。
TVACは、CS-Tokyoなどの関係団体とともに、災害ボランティア活動等に関する現地調査を実施しました。
石川県内社協への応援職員派遣が全国の社協ネットワークにより実施されており、2月12日から18日までかほく市(瑞穂町、東京都 各1名)および内灘町(調布市、小平市 各1名)の災害ボランティアセンターへ都内社協職員を派遣しています。

【都内避難者への対応】
東京都が「能登半島 都内避難者総合相談窓口」を開設。この窓口を地域福祉部地域福祉担当が担っています。
区市町村社協事務局長会幹事会で相談事例を共有し、ケースに応じて区市町村社協に相談をつなぐための取組みを始めました。

【生活福祉資金の対応】
都内避難者への対応として、「生活福祉資金緊急小口資金(災害時特例貸付)」が実施されており、区市町村社協で相談受付をしています。

【施設部会における取組み】
厚生労働省の依頼により、東京都災害福祉広域支援ネットワーク(福祉部経営支援担当)から会員施設に対し、社会福祉施設等に対する応援職員派遣に関する調査を実施しています。
知的発達障害部会、東京都高齢者福祉施設協議会は、義援金の募集を会員に呼びかけています。
災害福祉支援ネットワーク中央センター(全社協)の依頼により、都道府県DWAT事務局(福祉部経営支援担当)から東京DWATチーム80名に派遣可能人数調査を実施しています。
全国老人福祉施設協議会の依頼により、東京都高齢者福祉施設協議会が2月5日から9日まで石川県内施設に合計6名の職員を派遣しています(宝達志水町の施設に2名、金沢市内の施設に4名)。

【東京都民生児童委員連合会における取組み】
東京都民生児童委員連合会は、義援金の募集を区市町村民児協に呼びかけています。

能登半島地震に関する情報はホームページ QRコード


東社協中期計画レポート 7 ~東京の多様性を活かした“地域共生社会”を一歩前へ~
「令和4~6(2022~2024)年度東社協中期計画」の中から、重点事業①・⑧の進捗をお伝えします。
2021年度に実施した、コロナ禍における地域課題に関する調査から「これまでは把握されていなかったが、コロナ禍で顕在化した新たな地域課題」と「地域活動の担い手と今後の活動のあり方への影響」が明らかになりました。そして、それらの現状と主な取組みを把握・共有するために、翌年22年9月に「コロナ禍で顕在化した地域課題への区市町村社協の取組み状況アンケート」を行い、報告書を作成しました。
このアンケートで得られた結果の中から、23年度は「外国籍居住者への支援」、「子育て、子ども・若者支援」、「複合的課題への対応」、「大学・企業等との連携」、「次世代育成や福祉教育」について、10地区の取組み事例をヒアリングし、ホームページなどで発信しています。さらに、22年のアンケートから得られた取組みを、地域づくりをすすめるコーディネーター連絡会で共有するほか、研修の内容にも活かしてきました。
地域課題を、地域の関係機関にいかに可視化していけるか。地域に関心を持つ新たな担い手に対しても地域での取組みをどう発信できるか。多様な主体による地域課題の解決への支援に取り組み続けます。

【取組みの方向性1】自立生活を支援するためのしくみづくり
①特例貸付の借受世帯のニーズをはじめコロナ禍で顕在化する地域課題の把握と、地域内での情報共有・発信・支援・解決の取組み推進
【取組みの方向性4】幅広い市民参加・多様な主体の協働の推進による地域づくり
⑧地域コミュニティの再構築に向けた、地域づくりをすすめるコーディネーターの地域の状況や課題の把握と新たな担い手の参加に向けた支援
東社協中期計画はこちらからご覧いただけます
ヒアリングの内容はポータルサイトでお読みいただけます

令和6年度 東京都福祉人材センター研修室 研修日程一覧


--6【み~つけた】
人と環境にやさしい「福祉型家族風呂」
誰でも安心して利用できる銭湯をめざす ~御谷湯

御谷湯は、1946年創業の墨田区にある銭湯です。黒みを帯びたお湯が特徴の、源泉かけ流しの黒湯温泉が楽しめます。創業から墨田区を代表する老舗の銭湯として地域に愛され続け、2015年にリニューアルオープンしました。リニューアルに至るまでの背景について、3代目の片岡信さんは「御谷湯を引き継いだ頃、建築法や消費税の税率が変わるタイミングでもあり、リニューアルを決めた。その時に、先代と大事にした想いが、『地域の人を助け、愛される浴場』だった。浴場として地域への貢献を考えた時、高齢者や障害を持つ方でも、いつでも安心して浴場を使ってほしいと思った」と話します。
そして、高齢者や障害を持つ方でも気軽に利用できる銭湯として、墨田区内初の「福祉型家族風呂」を新設し、オールバリアフリーの銭湯としてリニューアルしました。

障害者も高齢者も気軽に楽しめる
今までの平屋造りから、5階建てのビルに建て替えをし、1階は入口と休憩場、3階は機械室、4~5階が浴室になっています。
リニューアルにあたり新設された「福祉型家族風呂」は、要支援または障害者手帳を持った方が対象で、介助する家族と合わせて4名まで入浴できる完全個室の貸し切り浴場です。総ひのきづくりの浴槽は2つあり、お湯はかけ流しの黒湯温泉を使用しています。洗い場には特注の回転イスを置き、介助しやすいつくりになっていて、浴槽には高さが調節できる板を施すなど、介助する方もされる方も人目を気にせず、ゆっくりと温泉が楽しめるようになっています。個室内にトイレも完備しています。
片岡さんは「『福祉型家族風呂』は、高校生から高齢者まで幅広い年代にご利用いただいている。都内だけでなく日本全国から、観光がてらフランスから来ていただいた方も。こういった福祉型の銭湯は、まさに求められているんだと実感している」と語ります。

地域に愛され続ける銭湯をめざす
「福祉型家庭風呂」以外の浴場も、バリアフリー対応としてリニューアルしました。浴槽の縁を低くして入りやすくしたり、段差をなくし脱衣場や洗い場には手すりを付けたりと工夫がされています。
また、雨水を屋上で貯め、トイレ洗浄や入口付近の植物に利用するなど、先代から福祉だけでなく環境にも配慮した銭湯経営にも力を入れてきました。これも先代の〝地域に何が恩返しできるか〟という思いを具現化したものだといいます。
片岡さんは「障害を持つ方たちは、遠方にはなかなか行けない。だからこそ、うちと同じような銭湯が地域の中にもっと増えたら嬉しい。人にも、環境にもやさしい、誰でも楽しめる銭湯として、これからも地域の皆さんに愛され続ける存在になっていきたい」と話します。

(写真 片岡信さん)
(写真 福祉型家族風呂は回転イスや高さを調整する板を完備)
御谷湯 ホームページ QRコード

御谷湯 福祉型家族風呂
(要予約制)
営業:平日・土曜日、祝日 15:30-26:00(最終入場25:30)
日曜日 15:00-24:00(最終入場23:30)
利用料:90分1500円(1人あたり)1日3組限定
場所:墨田区石原3-30-10
問合せ先:TEL 03-3623-1695

 

--7【くらし今ひと】
自立援助ホームで前向きに生きる子どもたちをもっと知ってほしい
クラウドファンディングで資金を募り、自立援助ホームを題材にした絵本制作を行う大学3年生の人見玲奈さんに、絵本づくりをめざしたきっかけや想いを伺いました。

◆子どもの福祉に対して偏見や認知度の低さに葛藤する日々
大学進学を機に上京し、都内の私立大学で学んでいます。東京生活もようやく慣れてきて、趣味の料理や友達とのカフェ巡りを楽しんでいます。福祉に関心があり、現在は福祉社会研究ゼミで学んでいますが、入学当初から「たくさん勉強していい大学に入ればいい会社に入れる」といった能力主義や自己責任論を周囲から感じるようになりました。同時に、勉強なんてしている暇がない、生きるために働かなくてはいけない子どもたちへの偏見や理解がすすまない状況に、だんだんと「もやもや」がたまっていきました。
そこから「生まれ育った環境」に振り回される子どもに対してや、その子どもたちを支援する自立援助ホームに関心を向けるようになりました。そして、実際に現場で働くことで何かできるのではないかと思い、大学に在籍しながら千葉県にある自立援助ホームで働くことに決めました。

◆絵本づくりのきっかけとなる一人の男の子との出会い
働き始めた当初は、スタッフの中で自分が最年少だったのもあり、子どもたちとすぐに打ち解けたのですが、そこから信頼関係を築くまでに時間がかかりました。もどかしい日々が続きましたが、子どもたちと接する機会を多くしたり、根気よく寄り添ったりしていくうち、子どもたちから自分の境遇や本当の気持ちを話してくれるようになったのです。
ある時、一人の男の子が自分の話をしてくれました。壮絶な生い立ちを経てホームに入居したのですが、「家族への想い」や「生きている意味」について悩んでいるようでした。同時に、自分の過去と向き合いながら、これからの人生を前向きに生きていこうとする姿に、「生きる強さ」や「たくましさ」を感じ、心を打たれました。
この男の子がきっかけで、親からの支援もなく、自分の力で生きていこうとする子どもたちの姿をたくさんの人に知ってほしいと思うようになり、自立援助ホームをテーマにした絵本づくりを決意しました。「絵本」にした理由は、事前に知識がないどんな年齢層でも、絵があるので分かりやすいと思ったからです。勤務先の自立援助ホームのスタッフや周囲に相談しながら、約1年かけて構想を練り、制作費はクラウドファンディングで資金を募ることにしました。

◆誰もが自分で選択した道を生きられる世の中であってほしい
クラウドファンディングでは、開始から1週間ほどでファーストゴールの100万円を達成することができました。ご支援くださった方々に感謝の気持ちでいっぱいです。
絵本制作を始めてから、全く違う境遇や立場の方たちが同じ方向を向いて一つのものをつくり上げることの面白さをひしひしと感じています。これから、絵本が色々な人の手に渡り、少しでも自立援助ホームのことを知ってもらえる機会が増えることに、ワクワクで胸がいっぱいです。
絵本制作活動を通じて改めて思うことは、厳しい境遇の中でも必要な支援を受けながらたくましく生きていこうとする子どもたちに、もっと目を向けてほしい。生まれた環境に制限されず、自分が選択した生き方を、誇りをもって誰もが生きられる、そんな社会になったらいいなと思っています。

(写真 絵本の内容の一部)

以上で、福祉広報2024年3月号を終わります。

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