【表紙】(写真)
西新宿にある一軒家「れもんハウス」は、子どもから大人まで幅広く過ごせる場所。新宿区が実施する子どもショートステイ等の受入れも行っています。安心して羽を休める場所として、また新しい出会いが生まれる場所として、地域にひらいています。
p.2 ●社会福祉NOW
法人間で連携し、福祉の未来を創造していく
~社会福祉連携推進法人WTBASEの取組み~
p.4 ●み~つけた
人と人とが出会い、関わり合う。誰もが自分らしくいられる、安らぎの場所
れもんハウス(新宿区)
p.5 ●連載 安心できる生活を“すまい”から【第4回】
社会福祉法人として地域の居住支援ニーズに応えていく
社会福祉法人 大三島育徳会
p.6 ●福祉のおしごと通信
子どもと職員の心に寄り添い、同じ目線で動ける心理士でありたい
児童養護施設クリスマス・ヴィレッジ 主任・心理療法担当職員/公認心理師・臨床心理士・社会福祉士 長澤 克樹さん
p.7 ●Information
東京の寄附のカタチ/マンスリーニュース/ 東社協トピックス/ 東社協の本
p.8 ●くらし今ひと
重なる生きづらさに目を向けて 支援が届きづらい人も安心できる社会のために
「中野みんなのスペースIrys」ボランティアスタッフ かなでさん
【目次】
1社会福祉NOW
2み~つけた
3連載 安心できる生活を“すまい”から 第4回
4福祉のおしごと通信
5Information(東京の寄附のカタチ/マンスリーニュース/ 東社協トピックス/ 東社協の本)
6くらし今ひと
--1【社会福祉NOW】
法人間で連携し、福祉の未来を創造していく
~社会福祉連携推進法人WTBASEの取組み~
社会構造の変化に伴い、多様化・複合化する福祉ニーズ。
地域福祉の中核を担ってきた社会福祉法人もまた、人材不足や物価高、頻発する災害等により、その経営環境は大きく揺れ動いています。
そうした社会変化に応じながら、各法人が経営基盤強化を図り、地域の福祉ニーズに応え続けるために求められる法人間の連携。
今号では、西多摩地域の4法人が社員として参画し設立した「社会福祉連携推進法人WTBASE(ワットベース)」の取組みから、法人連携の今をみていきます。
(写真:今回お話をお聞きしたのは、左から… 社会福祉連携推進法人WTBASE 業務執行理事 事務局長 五箇 忠司さん、社員 三鴨 香奈さん(〈社福〉ほうえい会 特別養護老人ホーム栄光の杜 施設長)、代表理事 中村 正人さん(〈社福〉亀鶴会 特別養護老人ホーム神明園 施設長)、社員 小山 雄也さん(〈社福〉瑞仁会 特別養護老人ホーム良友園 施設長)、社員 窪島 裕也さん(〈社福〉福信会 特別養護老人ホーム麦久保園 施設長))
2025年時点で社会福祉法人の数は2万超えと微増傾向にあるなか、人材不足、人件費や物価高騰等の影響を受け、全体の3割超、とりわけ介護主体の法人の4割が赤字経営を強いられる厳しい状況にあります。社会変化に応じながら、各法人が経営基盤の強化を図り、地域ニーズに応え続けるために大切になってくるのが横のつながり。東京都内でも、福祉人材の確保や育成、災害等非常時の体制整備、地域に向けた取組みなどにおいて、小規模法人による連携をはじめ、各地域の社会福祉法人によるネットワークや都域での業種ごとの部会といった多様な取組みが展開されてきました。国としても、今年5月の「地域共生社会の在り方検討会議」中間まとめにおいて、法人間連携の重要性を改めて強調。2022年には、法人間の円滑な連携、協働をすすめるしくみとして、「社会福祉連携推進法人制度」が創設されています。同じ目的意識を持つ社会福祉法人等が社員として参画し、新たな法人を設立する制度。それぞれの自主性を保ちながら、連携規模を活かした法人運営が可能になることを意図したものになります。2025年3月末時点では全国で30法人、そのひとつである「WTBASE」は2024年12月に連携推進法人として認可を受けました。
西多摩で生まれた社会福祉連携推進法人WTBASE
西多摩地域で高齢事業を主体とする4つの社会福祉法人(亀鶴会、福信会、ほうえい会、瑞仁会)が社員として参画するWTBASEは、“西多摩から信用ある魅力的な未来に繋がる高齢者福祉を創造する”ことを理念に設立されました。認定されてからわずかですが、設立につながるきっかけはコロナ禍前に遡ります。ともに特別養護老人ホームの施設長である、WTBASE代表理事の中村さんと窪島さんが今後の持続的な施設経営に危機感を覚え、その具体策を模索する中で、社会福祉連携推進法人制度に行き着いたことが始まり。中村さんは当時を振り返り、「将来的にどの施設も老朽化したり、人材面だったりいろいろなところで経費が膨らんでいきます。そうした時に、自分たちが支援において譲れない部分を守りながら、経営を続けていくには今何ができるのか。法人間で合理化できるところは、一緒に考え、取り組んでいくことができたらという思いでした」と話します。続けて窪島さんは、「経営や運営面でどの施設も共通の課題を抱えています。その課題を乗り越えていくには1法人や1施設だと限界があって、結果として取り組めるキャパも決まってきます。連携というかたちでその大枠を広げることで、創意工夫が可能となり、取組みの幅も広がっていくと感じました」と背景に触れます。その後、同じく特養の施設長である小山さんと三鴨さんに声がかかり、2023年度から4法人による協議を開始。2024年6月に一般社団法人を立ち上げ、12月の認可につながりました。
(図:WTBASEロゴマーク)
ビジョンをともにし、お互いの内情を明かすことから
施設の開設年度も、置かれている状況も似ているという4法人。一方で、もともとゆかりのない4法人がわずかな期間で連携のかたちを築き、それを活かした実践を可能としている理由に、「ビジョンをともにしていること」が挙げられます。設立準備段階から参加法人の管理者層による定例会が月1回以上開かれ、WTBASEの目標や取り組む内容、設立に向けた進捗状況を確認しながら、法人間での意思疎通がしっかりと図られてきました。そうした中で、各法人の内情を共有してきたことも大きかったと中村さんは言い、「合意形成ができていたとしても、法人間で細かい部分をすり合わせていかないと、一歩踏み込んだ取組みを考えることができません。表向きの情報だけじゃわからない、恥ずかしいところも見せ合いながらすすめてきました」と話します。
そうした法人間の調整で大きな役割を担っているのが、WTBASEの専任職員である五箇さん。参画法人の職員が兼任して取り組むケースもあるなか、いずれの法人にも属さない、フラットな立ち位置から各法人に関わる存在は、法人間の連携をすすめていく上で欠かせなかったといいます。
つながることで、本当の課題に取り組んでいける
WTBASEが現在取り組んでいる業務は、社会福祉連携推進法人に求められる6業務のうち、貸付業務を除く、5つの業務(主な内容は下図)になります。
(図:WTBASEの主な取組み)
そのなかでも、単なる仲の良い施設ではなく、連携というかたちだからこそ一歩踏み込むことができたものに、経営支援業務があります。それぞれが実情を明かすことから、加算算定状況の確認や取得、規程、契約関係の見直しなどが図られ、各法人の経費削減や体制強化につながっていきました。今後は、バラつきが大きい顧問契約を中心に、契約をまとめていくことが課題であるといいます。五箇さんは「複数だからこそ、他法人や、さらには社会一般と比較して変えていくことができます。法人内では当たり前になっていて自施設では変えにくいことも、WTBASEとして取り組んでいければ」と複数法人による連携の重要性に触れます。
また、こうした経営面とともに、連携の効果が発揮されているものとして“人材”への取組みが挙げられ、三鴨さんは「職員体制が厳しくなった時に、連携推進法人に誘われて、アドバイスを受けたり、実際に人も紹介してもらったりして、行き詰まりを感じていたところでとても助かりました。WTBASEに参画したのもそうですが、柔軟性を持って、自分たちも変化していくことが重要」と話します。
人材にまつわる具体的な取組みとしては、外国人材や採用担当などのカテゴリー別の月1回の情報交換会や職種別の研修の実施、他施設への出向など、職員が自施設以外を知ることにつながる取組みが次々と生まれています。小山さんはこうした動きについて、「1法人だと職員が人間関係等を理由に辞めたいと思った時に異動先が限られますが、そんな時に法人間で調整することができれば、その人が福祉で働き続けることができます。また、実際に他施設の業務に入って体験することで、異なる視点を経て自分たちの業務を見直すことができます。ただの近隣施設ではない、この距離感だからこそできる一歩踏み込んだ取組みといえます」と話します。法人間でダブルワークをする職員や、非常時における小規模な職種の体制確保のしくみも模索されるなど、連携により働く人を支える選択肢が広がっています。
将来を見据えながら、今できることにコミットしていく
設立から半年が過ぎるWTBASEですが、今年度はより「人」にフォーカスし、出向による法人間の職員の行き来や、管理者層の採用・育成などに注力していきたいといいます。窪島さんは、「取組みを通じて、職員が自身の強みや可能性を発揮できる機会や、働き続けられる選択肢を生み出していきたいです。『どうやったら働く人を守り切れるか』を常にイメージしながら、課題を口にするだけでなく、アクションをしていきたい」と思いを明かします。最後に、中村さんはWTBASEについて、「前例のない取組みですが、1人じゃなくて、みんなとだから考えていけます。制度上の課題もありますが、誰かがやらないと課題もみえないし、すすんでいきません。私たちの取組みが他法人の糧になることができたら」と話します。
新たな取組みもすでに動きだしているWTBASE。その関係性を大切にしながら、これからも福祉の未来の創造に向けて、前例にとらわれることなく、西多摩地域からチャレンジしていきます。
(QRコード WTBASEのHP)
--2【み~つけた】
人と人とが出会い、関わり合う。誰もが自分らしくいられる、安らぎの場所
新宿区 れもんハウス
“ちょっと休憩”できる場所をつくりたい
西新宿の雑踏の先にひっそりとたたずむ一軒家「れもんハウス」。ここでは、子どもショートステイをはじめとした短期宿泊事業と居場所事業を行っています。
れもんハウスの運営を担う(一社)青草の原代表理事の藤田琴子さんは、母子生活支援施設で社会福祉士として働く中で、子育てに行き詰ってしまう母親を多く見てきたといいます。「母親や子どもが夜、事務所に泣きながら駆け込んできたこともありました。入所中だと職員が仲介に入ることができますが、退所後はなかなか難しい。一時保護とまではいかないけれど、親だけでなく子どももクールダウンしたいとき、気軽に休憩できる場所が必要だと思い、れもんハウスをつくりました」と話します。
れもんハウス流ショートステイとは
れもんハウスでは、新宿区が実施する「子どもショートステイ事業」の協力家庭として、有志のチームメンバーが子どもを受け入れています。受け入れるチームメンバーはシフト制で複数の大人が関わるため、子どもはさまざまな価値観や多様性に出会うことができます。
制度を利用しなくても、家族と少し距離を置きたい子どもや親がここに来て、チームメンバーと話をしたり泊まったりすることもあり、そんな柔軟な過ごし方ができるのは、れもんハウスならではだと藤田さんは話します。「ここで知り合った親御さんに夕食に誘われてお宅にお邪魔したことも。支援する、されるという関係性があいまいになり、ご近所づきあいのようなゆるく温かなつながりに発展しています」。
もうひとつの事業である居場所事業では、「イルひと」と名付けた10人のメンバーがご飯会をしたり、イベントをしたりと主催者となって場づくりをすすめています。ショートステイを利用した子どもが親と一緒にイベントに参加するなど、新たなつながりや可能性がここから生まれています。
しんどくなる前に、気軽に利用してほしい
児童虐待相談対応件数が増加の一途をたどる中、子どもたちの一時的な保護所の整備が課題になっています。れもんハウスのようにショートステイもできる地域にひらかれた場所があったら、虐待を未然に防ぎ、安心して子育てができるのではないかと藤田さんは力説します。「子どものショートステイの認知度はまだまだ高くありません。れもんハウスのような多様な受け皿が地域にもっと増えたらいいなと思います。別の地域でもれもんハウス流のショートステイを広めていけたら。そのための仕掛けもいろいろと考えていきたい」と藤田さんは語ります。
子どもも親も、誰もが羽を休め、新たなつながりを生む場所として、れもんハウスはこれからも訪れた人を温かく迎え入れます。
(写真 れもんハウス)
(QRコード れもんハウスホームページ)
--3【連載 安心できる生活を“すまい”から 第4回】
社会福祉法人として地域の居住支援ニーズに応えていく
社会福祉法人 大三島育徳会
(写真 左から 地域公益活動室長 坂井 祐さん、副理事長/統括副本部長兼特別養護老人ホーム博水の郷施設長 田中 美佐さん、法人事務部 副部長 中田 真子さん)
(QRコード 大三島育徳会)
2021年9月に東京都内の社会福祉法人として2番目に居住支援法人の認定を受けた大三島育徳会。認定から約4年、コロナ禍もあり当初思い描いたようにはすすまないこともありながら、それでも居住支援を続ける矜持を伺いました。
地域公益活動から見えた住まい支援の必要性
(社福)大三島育徳会が居住支援を開始したきっかけは、約10年前から取り組んできた地域公益活動でした。法人の統括本部内に設けられた『地域公益活動室』が中心となって取組みを推進しています。「私たちの法人は『地域に根ざした社会福祉の実践』を理念に掲げ、中間的就労をはじめ要保護児童の居場所づくりや食支援などさまざまな支援に取り組んできました。活動を積み重ねる中で、支援をすすめるにはまず『住まいを確保することが欠かせない』と感じました。世田谷区は空き物件の数も多く、その物件を活用して住まいの支援を行いたいと思いました」と坂井祐さんは話します。また、世田谷区社会福祉法人地域公益活動協議会の取組みとして住まいの支援を行うことを参加法人で話し合い、大三島育徳会が居住支援法人の認定を受けることとなりました。
相談を受ける中で把握した現状とは
大三島育徳会では法人が物件を借り上げ、借主にサブリースするしくみをとっています。これにより貸主にはきちんと家賃が支払われ、借主は法人による見守り等の支援を受けられ、安定した住まい支援につながると考えました。しかし、実際に住み替えまで至るケースは限られます。その背景にある現状として、田中美佐さんは次のように語ります。「実際に住むのは住宅確保要配慮者であることから、それを理由に不動産事業者やオーナーに断られることもあります。一方、借主側も立地や金額面が希望に沿わないなどの理由で断ることもあります。また、もともと空き物件を活用できないかという思いで始めた居住支援ですが、実は入居者を募集している空き物件はそれほど多くなく、生活保護制度の住宅扶助の金額内で借りられる物件が少ないことなども一因として考えられます」。大三島育徳会では住み替え後も見守りや支援を続けるために、居住支援を担う法人本部がある「特別養護老人ホーム博水の郷」周辺の、世田谷区砧(きぬた)・玉川地域にある物件を対象としています。長年暮らした場所への愛着がある方、環境が変わることが負担になる方にとっては、慣れ親しんだ地域からの住み替えを躊躇されるのかもしれません。
国や東京都による広報の効果もあり、専用の電話から相談を受けるほか、地域包括支援センターから相談が寄せられるなど問合せは年々増えているそう。「生活が困窮し家賃の支払いが滞っている、建物の建て替えにより退去を迫られているので住み替えたいという相談があります。しかし最終的に住み替えに至らなかった相談者とはつながり続けることは難しく、どうしたのかなと気になっています」と話す皆さんの言葉からは、住まいの支援と福祉的な支援が不可分であることが伺えます。住み替えに至らなくても、相談者が抱える悩みや困りごとに寄り添い、解決につなげるしくみが必要とされています。
社会福祉法人としての居住支援のこれから
実際に借り上げ物件に住み替えをされた方とは定期的に連絡をとり、食料品支援も行うなどきめ細やかなかかわりを続けています。相談者や入居者への対応には多くの労力がかかりますが、「やはり住まいは、あらゆる支援を続けるためのセーフティネットです。住まい支援から関わり始め、相談者のさまざまなニーズに気づき、必要な福祉サービスにつなげていくことで、その人らしい生活のための切れ目のない支援ができると考えています。併せて、近隣の社会福祉法人と協力することで相談者が住み替えた後の生活支援の体制づくりもすすめていきたいと思っています」と坂井さんは話します。
これからも住民が地域で暮らしていくために居住支援に取り組むこと。そういった支援が地域からの信頼につながってほしいという思いで、大三島育徳会の居住支援は続いていきます。
--4【福祉のおしごと通信】
子どもと職員の心に寄り添い、同じ目線で動ける心理士でありたい
社会福祉法人友興会 児童養護施設クリスマス・ヴィレッジ 主任・心理療法担当職員/公認心理師・臨床心理士・社会福祉士 長澤 克樹 さん
児童養護施設で心理職として働く長澤克樹さんに、子どもの心と向き合う際に大切にしていることや、主任として組織への想いなどをお聞きしました。
大学では心理や福祉など幅広い分野を学ぶ
私が中学生くらいのころ、少年による凶悪犯罪が立て続けに起きた時代で「自分と同じくらいの年の子が、なぜそんな事件を起こすのか」と疑問に感じていました。それから人の内面や心に対して関心を持ち始め、大学では臨床心理学のゼミに入って心理を学びました。同時に、人の役にも立ちたいと思っていたので、児童福祉の分野も学びながら、臨床心理学系の大学院に入り、2009年にクリスマス・ヴィレッジに心理職として入職しました。
生活をともにして子どもの心を理解していく
児童養護施設では、子どもの背景や生活する姿などをしっかり理解した上で、衣食住の基本的な生活を支えながら、日々の何気ない温かな関わりを積み重ねていきます。加えて、個々の子どもに必要な心理的なケアを盛り込みながら、一人ひとりの自立支援計画書をつくっていきます。実際に子どもを支援するのは生活をともにするケアワーカーですが、心理職だからといって心理室に閉じこもっているわけではなく、生活場面で子どもと一緒に遊んだり、食事をしたりしながら子どもの状態の理解に努め、ケアワーカーとともに子どもを支えています。
また、日々の生活の中で子どもの気持ちをダイレクトに受けとめているケアワーカーを黒子のように支えることも大事な姿勢です。生活をする中で、時に暴言を吐いたり、望ましくない行動を起こしたりしてしまう子どももいます。「何がそのような行動を引き起こしているのか」「心の内はどうなっているのか」を冷静にアセスメントし、生活の場で実践的にどう関わればいいのかをケアワーカーと一緒に考えて、時にアドバイスしています。生活の中に入っていき、子どもの声に耳を傾け、ケアワーカーとコミュニケーションを取りながら同じ目標を持って子どもを支える心理士でありたいという想いは、常に持ち続けています。
「葛藤力」を持ち続けながら支援していく
心理士の仕事のほか、心理士や自立支援担当職員、里親支援専門相談員などの専門職で構成される部署と、幼児と小学校低学年の子どもたちが生活するグループホームの主任としての仕事もしています。一人ひとりの子どもの自立支援計画書の進捗確認やファミリーソーシャルワーク(※)などを担当しています。職員から相談を受けたり、助言したりしながら、職員をエンパワーメントして生き生きと働ける環境づくりをめざしています。
大学時代の恩師から言われて今も大切にしているのが「心理士として、悩まなくなったらおしまい。悩み続けられる力=葛藤力を持て」という言葉です。その言葉のとおり、常に悩み、葛藤しながらここまで来ました。とはいいながらも前向きに、ユーモアを持って子どもたちと接することも大切です。悩み続けられるしなやかさとバランス感覚を持ち、楽しみながら子どもたちと関わることが専門職として求められる姿勢なのかなと思っています。
クリスマス・ヴィレッジの理念は「子ども時代をかけがえのない大切なものと考え、一人ひとりの子どもが『愛されている』という実感を持てる関わりを追究していく」です。これからも「ここで育ってよかった」と思ってもらえる施設をめざして、心理職としても主任としても成長し続けたいです。
(※)児童養護施設で暮らす子どもの家族に対して、相談や援助を行うこと
--5【Information(東京の寄附のカタチ/マンスリーニュース/ 東社協トピックス/ 東社協の本)】
東京の寄附のカタチ
世界を越えてご寄附をいただきました
国際自動車連盟が主催する世界選手権「フォーミュラE」の東京開催に伴い、5月にフォーミュラE様より25,000ユーロ(約400万円)のご寄附をいただき、児童養護施設に物品購入のための助成をしました。また、6月には、台湾と関わりの深い神戸学園様を通して台湾バナナ11万本をご寄附いただき、465施設に甘いバナナをお届けしました。
東京善意銀行は、世界を越えた温かい心もつないでいきます。
(写真 左)フォーミュラE様は、施設を訪れ遊ぶ機会もあり、子どもたちは大喜びでした。 右)甘くて濃厚な台湾バナナをパクリ!)
(QRコード 東京善意銀行へのご寄附はこちらから)
マンスリーニュース 2025.6.26~7.25
ピックアップ
(7/16)医療的ケア児在校者数1万1,259人
文部科学省の調査結果によれば、2024年5月時点で医療的ケアが必要な児童の数は、特別支援学校(8,700人)と幼稚園・小中高校(2,559人)を合わせて1万1,259人に上っている。そうした中で、特別支援学校を除く幼小中高校において、保護者等の12.7%が学校生活に付き添っている現状が明らかになり、家庭の負担軽減が課題。
(6/25)障害者の解雇が過去最多
厚生労働省によると、2024年度にハローワークが解雇届により把握した障害者の解雇者数は、前年度から6,905人増の9,312人で過去最多であった。理由は「事業廃止」が5,863人と最も多く、次いで「事業縮小」が3,195人と続いた。一方でハローワークを通じた障害者の就職者は11万5,609人でこちらも過去最多。
(7/4)介護福祉士国家試験に「パート合格」導入
厚生労働省は、第38回介護福祉士国家試験に「パート合格」(合格パートの受験免除)を導入すると発表。受験者数が第31回試験以降、減少傾向にある中、受験のための学習への取り組み易さ、受験者の利便性の両側面から受験しやすいしくみを目的としている。
東社協トピックス
● 東社協 新会員のご紹介
保育部会:練馬区立旭町保育園/愛光みなみ保育園サンクレール/同援いぐさ保育園/樫の実幼稚園
知的発達障害部会:まんまるちとせ西葛西
児童部会:楓の家/コレクティブハウスくにたち/東京サレジオ学園小金井
東京都高齢者福祉施設協議会:台東区立特別養護老人ホーム竜泉/中村かしわ地域包括支援センター/みどり地域包括支援センター
東京都介護保険居宅事業者連絡会:ケアマネジメントセンターりゅうせん/デイサービス こころ
情報連絡会員:新宿区立富久町児童館/新宿区立中町児童館/新宿区立早稲田南町児童館/特定非営利活動法人エイドセンター本町子育て世代包括支援センター/学童クラブ さくらっこ/社会福祉連携推進法人WTBASE/かもめ第一工房/森前障害者福祉施設/かもめ第三工房/目黒区家庭福祉員 川端/相談支援センターポピー/特別養護老人ホームたまプラーザ倶楽部/デイサービスちろりん村横須賀/就労継続支援B型 びーぷらす/相談支援事業所こうとうケア/子育てサロンひだまり
東社協の本
ご注文は 東社協図書係まで 電話03-3268-7185
12/62もっともっと知りたい 東京にくらすⅡ
-12社協の取組み・東京都内62区市町村社協-
東社協では都内62区市町村社協が地域課題にどのように取り組んでいるのかアンケートを行いました。この本では、それらの地域課題への取組み実践、東京の多様性を顕著にあらわしている島しょ部の実践、能登半島地震の避難者支援に取り組んでいる実践も含め、12社協の詳しい取組み内容をヒアリングし、まとめています。
◆規格 A5判・68頁
◆発売 2025.6.2
◆定価 770円(本体700円+税10%)
(写真 12/62もっともっと知りたい 東京にくらすⅡ 表紙)
災害時要援護者支援ブックレット7
『災害に強い福祉』 要配慮者支援活動事例集Ⅱ
災害時にダウンする供給力を補う視点の一つでもある事業所再開や一般避難所における要配慮者支援などに着目し、事例を集めました。
◆規格 A5判・250頁
◆発売 2018.4.27
◆定価 1,100円(本体1,000円+税10%)
子どもの未来を拓く 自立支援コーディネーター30の実践
多くの子どもたちのより良い育ちを支えるしくみがより一層充実することを期待して、自立支援コーディネーターの取組み実践をまとめました。
◆規格 A4判・152頁
◆発売 2018.7.19
◆定価 1,100円(本体1,000円+税10%)
--6【くらし今ひと】
重なる生きづらさに目を向けて 支援が届きづらい人も安心できる社会のために
性的マイノリティ当事者やそうかもしれないと感じる若者が主に集まる居場所で、学生ボランティアスタッフとして活動するかなでさんに、活動に至るきっかけや社会への想いについてお話を伺いました。
「中野みんなのスペースIrys(アイリス)」ボランティアスタッフ かなでさん
Irysでの活動のほか、大学院でも臨床心理学分野で性的マイノリティに関するテーマを研究している。また、Irysでの活動をきっかけに他団体でも性的マイノリティの居場所事業のボランティアに参加している。
大学で権利についての学びに出会い、当事者意識に気づいた
地方出身ということもあり、高校生まではジェンダーやセクシュアリティの知識を得られる場が全くなく、考えたこともありませんでした。反対に、上京して入った大学はジェンダー論などの授業が充実していて、そうした学びが当たり前に保障され、人目も気にしなくてよいような環境でした。最初に女性の人権や戦時性暴力に関する授業を受けたとき、「人権」そのものの存在やそれが侵害されている環境があること、そうした環境が構造的なもので、訴え出てよいものだということを初めて強く感じました。授業では大学のジェンダー・セクシュアリティセンターも紹介され、学生スタッフがそこを訪れる人の話を聞くなどの活動をしていると知り、自分にも何かできるのではと思いました。そんなときにボランティアサイトで見つけて応募したのが「中野みんなのスペースIrys(アイリス)」のスタッフでした。
そのように積極的に動いたのは、ジェンダーや人権について学ぶうちに自分の中に共感するところや当事者意識があることに気づき、このことを考え続けていきたいと感じたからだと思います。
「困っている人を助ける」ではない 互いが互いの支えになる場
Irysは、メインターゲットを「中野近郊に住んでいる、性的マイノリティ当事者やそうかもしれないと感じる中高生」としつつも、参加の際に年齢や地域による制限はありません。「お互いのあり方を尊重しよう」「言いたくないことは言わなくていい」といったグラウンドルールを守りながら、スタッフとおしゃべりをしたり、本を読んだりお菓子を食べたりと自由に過ごせるオープンデーを偶数月末の土曜日に開いています。活動頻度は高くありませんが、スタッフや、想いを共有できる仲間と会えるセーフティスペースとしてなるべく長くあり続けたいと思っています。
活動の中で参加者の方のお話や悩みを聞くことがありますが、ボランティアは「与える」立場ではない、「困っている人を助ける、教える」意識ではやりたくない、と私は考えています。Irysのスタッフと参加者の関係も固定的なものではなく、何とか日々を生きている個人の姿を参加者の方に見せてもらい、こちらの気持ちが救われることもよくあるのです。
弱い立場に置かれた人に、真っ先に支援が届く社会に
Irysが中高生に焦点を当てているのは、性に関するアイデンティティの自覚が生まれやすい一方で、自分に必要な情報や居場所にアクセスしづらい年齢だからです。他にも、性的マイノリティであることに加えて障害を伴っている、家族を頼るしかないなど、交差的な抑圧を受けている人、弱い立場に置かれた人がいます。そうした人への支援が何よりも先に届く社会であってほしいと願っています。
現在は大学院で臨床心理学を専攻し、性的マイノリティに関するテーマを研究しています。日本の臨床心理学分野で性的マイノリティの存在が想定されていることはまだとても少なく、知識がない医師やカウンセラーもいます。こうした状況を改善するために例えば海外の状況をまとめるなど、今後も研究をさらに深めつつ、Irysのために尽力し続けたいです。
(写真 「中野みんなのスペースIrys」ボランティアスタッフ かなでさん)
(QRコード 「中野みんなのスペースIrys」 Instagram)
以上で、福祉広報2025年8月号を終わります。