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福祉広報 2025年10月 801号 テキストデータ

【表紙】(写真)
“プラチナ美容塾”の会員が定期的にボランティアで訪問している港区の特別養護老人ホームでの一枚。利用者からは「ハンドケアがとても気持ちいい。来るのを待っていた」と歓迎の声があがります。


p.2 ●社会福祉NOW
領域を超えて、多様な人が取り組む地域づくり

p.4 ●み~つけた
キレイを届けて、自分も輝く! 
認定NPO法人プラチナ美容塾(港区)

p.5 ●連載 これからを生きる次世代へ【第1回】
自分軸での生き方を“スケッチ”する
立川市社会福祉協議会 地域活動推進課 地域づくり係 ボランティア・市民活動センターたちかわ
センター長 小山 泰明さん、主任 小林 伸匡さん

p.6 ●福祉のおしごと通信
母子生活支援施設や働く職員の専門性をもっと知ってほしい
社会福祉法人 六踏園 皐月(母子生活支援施設) 心理療法担当 浅香 嘉光さん

p.7 ●Information
ぼらせん通信/マンスリーニュース/ 東社協トピックス/ 東社協の本

p.8 ●くらし今ひと
子どもの立場から伝えたい。つながることの大切さ
れもんさん

 

【目次】

1社会福祉NOW
2み~つけた
3連載 これからを生きる次世代へ 第1回
4福祉のおしごと通信
5Information(ぼらせん通信/マンスリーニュース/ 東社協トピックス/ 東社協の本)
6くらし今ひと

 


--1【社会福祉NOW】
領域を超えて、多様な人が取り組む地域づくり

予測が難しく、激しく変化する現代社会。
人口が減少する中、既存の取組みやつながりだけでは対応できない課題が増えています。
そうした中で生まれている多様な主体による共創。都内の2つの取組みから、その意義や可能性を考えていきます。


■福祉とアートで取り組む、地域共生社会づくり
(社福)足立区社会福祉協議会・NPO法人音まち計画

 超高齢化社会が深化し「望まない孤独」や「社会的孤立」が生まれる中、アートが人や社会にもたらす力が注目され、ケアの領域においてもアートと連携した取組みが近年広がりをみせています。足立区でも、2022年度から(社福)足立区社会福祉協議会(以下、足立社協)とNPO法人音まち計画が芸術と福祉の連携(芸福連携)に向けた取組みを始動。アートを接点に新たな人と人の「縁」を生み出すことをめざしてきた音まち計画と足立社協が連携に至った背景には、双方が抱いていた「福祉」/「アート」の外側にある可能性への期待があります。
地域包括支援センターで、多世代交流の機会創出等を通じて高齢者の介護予防や社会参加支援に取り組んできた足立社協の堀崇樹さん。取り組む中で従来の福祉の枠組みではない多様な主体との連携の必要性や、文化・芸術活動によって拓かれる福祉の新たな可能性を感じていたといいます。音まち計画のディレクター吉田武司さんも福祉領域への広がりを模索しており、それぞれの思いが交わるかたちで、2023年度の芸福連携プロジェクト「うめだアートリンク」の実施へつながっていきました。 

福祉とアートが歩み寄る先に生まれる可能性
“文化・芸術活動を通じた介護予防のきっかけづくり”を掲げた「うめだアートリンク」は、居場所づくりに取り組む団体やアート関係者、福祉施設等、多様な関係者の参加・協力のもとにプログラムが実施されました。地域住民の自主的な活動を支援するものから、社協が主催するものまで計7本。その一つである「アートで多世代交流」は東京藝術大学との共催で、介護予防教室という枠組みの中でアートを通じた地域共生社会づくりを意識した企画。ダンスやパフォーマンスといったアートが介在することで、日常では交わりにくい子どもや障害者、高齢者などが同じ時間や場を共有することにつながりました。高齢者の社会参加を入り口にしつつ、アートで拓く地域共生社会づくりへの可能性を見出した取組みでもありました。全プログラムを通して延べ523人が参加、187人のスタッフ・出演者が関わり、終了後も継続的な取組みが生まれています。

(写真 NPO法人LAND FESの松岡大氏による「アートで多世代交流」の一コマ。(撮影  石原 朋香))
(QR 「うめだアートリンク」報告書)

芸福連携で取り組む地域共生社会づくり
その後も地域からの芸福連携に向けた取組みの相談に応じたり、公開講座や情報交換会なども開いて関係づくりをしたりと、芸福連携の取組みを広げるアプローチを続けてきた足立社協と音まち計画。2025年度からは「芸福連携の実践基盤構築に向けたアートプロジェクト」と題し、「芸福あだち(*1)」とともに、これまでの取組みを続けながら地域共生社会の実現に向けて検討をすすめています。
同じ地域で活動する二者の思いが交差し、動き出した芸福連携の取組みですが、月日を重ねるごとに関わる人やつながりの幅が広がり、寄せられる期待も大きくなっています。そうした中で吉田さんは、「アートも福祉も、自分たちの枠を広げようとする柔軟性が大切なように思います。関わる人のそれぞれの意識が少しずつ変わっていくような働きかけをしていきたい」と話します。発起人である堀さんは、「地域の中で福祉とアートが同じ目線で取り組んでいける、そんなしくみづくりをすすめていけたら」と展望を明かします。どちらも正解がなく、その人らしさを大切にする福祉とアート。その両者が交わることで拓かれる、地域共生社会づくりの可能性をこれからも探し続けます。
(*1)福祉施設や地域団体、学識経験者やメディア等、芸福連携の取組みに関わり、共感した関係者の有志で2025年に発足したグループ。


■多様な主体と描く、誰もがあたりまえのいとなみを続けられる社会
石神井いとなみの起点プロジェクト

練馬区石神井に「地域生活支援拠点」を整備することをきっかけに、2022年に生まれた「石神井いとなみの起点プロジェクト」。拠点の設置主体である(社福)東京都手をつなぐ育成会(以下、育成会)をはじめ、デザイン会社、建築・設計会社、学識経験者等、多様な領域からメンバーが参画しています。地域生活支援拠点とは、障害のある人が慣れ親しんだ地域で安心して暮らし続けていけるように地域全体で支えるサービス提供体制をいい、育成会として馴染みの深い地域で拠点を考えた際、異なる専門性や視点を持つ人と取り組む必要性を感じたといいます。
プロジェクトリーダーである育成会の仁田坂和夫さんは「地域生活支援拠点は5つの機能を担い、それをやっていくだけでも大変なんですけど、それだけでは『本当の拠点』になるには何か足りないと感じました。多様な人が関わることで、私たちだけでは経験できなかった新たな発想やつながりといった“化学反応”が生まれるのではという想いでした」と振り返ります。こうした言葉の背景には重度障害のある人の住まいの場が都内では見つかりにくく遠方だと家族がすぐに会えない現状や、障害のある人と地域とがつながることが難しいという当事者の声があります。2026年春完成の新たな拠点が「本当の拠点」になることをめざし、プロジェクトが立ち上がりました。

福祉の枠を超えて、多様な人とつながっていく
まち歩きから始めたプロジェクトも3年が経ち、「誰もがあたりまえのいとなみを続けていく地域づくりの起点」をビジョンに拠点の準備をすすめながら、地域の多様な人との接続に向けて取り組んできました。近隣の中学・高等学校の探求学習への参画だったり、学生向けに実施した「こまった課?(*2)」の体験だったり。プロジェクトをともに動かしていくからこそ、それぞれの視点や専門性が交わり、新たな発想やつながりが生まれてきた一方で、当初は難しさもあったといいます。プロジェクトの担当者である育成会の福田隆志さんは「はじめの頃、他領域の方々は『障害者』や『強度行動障害』に対してイメージが沸きづらかったと思います。それが今では設計士さんが建築にプラスして福祉の視点から必要な対応を一緒になって考えてくれるようになったのは大きな変化で、大変嬉しい」と話します。

(写真 「こまった課?」を体験する子どもたち。カードを通じて、目に見えない障害についてみんなで考えてみる。)

誰もが慣れ親しんだ地域で暮らすことが「あたりまえに」
拠点となる建物が完成した後も、多様な人が行き交い、共創できるプラットフォームとしてプロジェクトは継続。変化し続ける社会の中で新たな可能性やつながりが生まれ、他の事業所や地域に広がっていくことを意図しています。福田さんはこの間を振り返り、「緩やかでもつながり続ける、発信を続ける、そうした小さな継続の先に可能性があると実感しています。始まったばかりですが、生まれたつながりを大切にしていきたい」と話します。立ち上げから関わる仁田坂さんは、「30年以上障害福祉で働いてきて、やっぱり障害のある人が地域で楽しく生きていってほしいと思っているんですよね。多様な人と楽しみながら、障害のある人も地域でこんなに楽しいことを一緒にできるよって。その関わりしろをつくっていきたいです」と取組みへの思いを明かします。拠点のオープンまであと半年。領域や地域を超えて同じ想いをもった人が共創し、障害のある人もない人も、誰もが暮らしやすい地域づくりを石神井からめざしていきます。
(*2)育成会とデザイン会社のコラボで生まれた、楽しみながら障害を知ることをめざしたカードゲーム。「知らないから怖い」という実体験をベースに生まれたもの。

(写真 拠点のイメージ)
(QR 「石神井いとなみの起点プロジェクト」ウェブサイト)

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2つの取組みからみえてきた、既存の枠を超えて多様な主体と取り組むことで生まれる新たな可能性やつながり。自分とは一見無関係に思えることも、見方や考えを少し変えることで関わりしろがみえてくるかもしれません。予測できない現代だからこそ、一人ひとりが自分の枠をちょっとでも広げてみる。そうした意識の変化が、誰もが自分らしく生きていける社会への大きな一歩ではないでしょうか。

 


--2【み~つけた】
キレイを届けて、自分も輝く! 
港区 認定NPO法人プラチナ美容塾

美容を“学び”、ボランティア活動に“活かす”
認定NPO法人プラチナ美容塾は港区、品川区を中心に活動する美容ボランティア団体です。同じ化粧品会社を定年退職した仲間3人が「若く、素敵に、元気に、年齢を重ねながら社会貢献をしたい」と思い、2014年に設立しました。当初会員は10人程度でしたが、徐々に仲間も増えて、今では約100人になり、活動の規模と幅が広がっています。主な活動は「美容ボランティア養成」と「美容ボランティア活動」。美容ボランティア養成はメイク、スキンケア、パーソナルカラー、アロマ、メンズ肌講座など。ボランティア活動ではプラチナ美容塾のミッションである「学ぶ」「活かす」「つながる」の3つのサイクルを回して、定期訪問をしている高齢者施設、各種講座や地域イベント等で、学んだことを活かしています。会員同士やイベント講座で出会ったたくさんの方々とつながりができることも楽しみの一つです。
参加のきっかけを「体験会に参加した際、みなさんがエネルギッシュで、人生の先輩たちがキラキラしている。自分も頑張ろうと思わせてくれる団体だと思った」と会員のひとりは語ります。

キラキラ輝いているボランティアをたくさんつくりたい
“プラチナ美容塾”という団体名は、プラチナのように永遠に輝いていたい、いくつになっても活動していたいという願いが込められています。高齢者も支えられる側ではなく、支える側になることをめざしたい。ボランティアなので自分たちが楽しく、やりがいを感じられることも大切な目的です。
今後はより多くの世代に、性別に関係なく活動を知っていただけるよう、さらに広報にも力を入れていきます。美容ボランティアといっても会員の多くは美容の仕事をしていた人ではありません。会員それぞれの得意分野を活かし、刺激をし合える仲間を増やしたい。現在はまだ少ない大学生や男性の会員を増やすことで活動をさらに活発にし、キラキラ輝いているボランティアを増やしていきたいです。

認定NPO法人プラチナ美容塾
(QRコード プラチナ美容塾HP)
(QRコード プライマリー講座の詳細 ※プラチナ美容塾のボランティア活動をご紹介し、体験いただく講座です。)

 


--3【連載 これからを生きる次世代へ 第1回】
自分軸での生き方を“スケッチ”する
(社福)立川市社会福祉協議会  地域活動推進課 地域づくり係 ボランティア・市民活動センターたちかわ
センター長 小山 泰明さん
主任 小林 伸匡(のぶまさ)さん

(写真 (社福)立川市社会福祉協議会  地域活動推進課 地域づくり係 ボランティア・市民活動センターたちかわ(左から)センター長 小山 泰明さん、主任 小林 伸匡さん)

子ども・若者がこれからを生きていく上で“福祉”が身近な存在であってほしい。
本連載では、そうした思いで次世代に向けて取り組む団体や地域を取り上げます。
第1回は立川市社会福祉協議会「ボランティア・市民活動センターたちかわ」による大学生を対象とした「Social Sketch Lab.(ソーシャル スケッチ ラボ)」についてお届けします。


(社福)立川市社会福祉協議会ボランティア・市民活動センターたちかわでは、大学生と社協が一緒になって地域課題に目を向け活動する「Social Sketch Lab.」(以下、ラボ)という取組みを行っています。2年目になる2025年は3人のメンバーが参加し、1~2か月に1回のペースで活動しています。

学生の持つボランティア観がきっかけに
ラボは、学生からボランティアをすることに対して「得意なことがない自分には務まらないのでは」、「『ボランティア』という言葉にハードルを感じる」などのイメージがあるという話を聞き、ボランティア観に対して、学生と一緒に研究や試行錯誤をしていきたい、という思いから生まれた取組みです。
「今までもいろいろなボランティアの企画を行ってきましたが、なかなか大学生と継続的な関わりには発展しづらく、大学生を巻き込む新しいきっかけが必要だと感じていました」。そう話すのはラボの立ち上げから携わっている小林伸匡さんです。
大学ボランティアセンターのコーディネーターとも情報交換を行う中で、既存のボランティア以外に自分たちで何か活動を立ち上げたいと考えている学生もいることがわかり、構想の後押しになりました。活動を通して学生自身が自分軸での生き方を描いていくきっかけになればという思いもあり、「Social Sketch Lab.」と名づけました。

「自分軸での生き方を探っていく」
ラボの参加条件は「立川で何かしてみたい大学1~4年生」のみ。社会福祉学を学んでいるかどうかは問いません。そのため、大学、学年、専攻している分野も異なる学生が集まります。「学んでいる分野によってそれぞれの課題意識や地域を見る視点など、濃淡は確かにあります。でもそれは意識の向け方の角度が違うだけ、と捉えています。その足並みを揃えていく上で、いろいろなものを出し合って『見えているものが違うね』と共有することが、そのための一歩だと思っています」と小林さんは話します。
実際に今年のメンバーも大学、学年、専攻分野や住んでいる地域はさまざまです。「考えが違うようで似ているところもあり楽しい」「話がまとまって形になっていくのが楽しい」と参加したメンバーも、境遇の違う3人が同じ時間を共有し活動することに新鮮さと面白さを感じているようです。
「今年で2年目ですが、これだ!と思う手ごたえはまだ見つかっていないように感じます。年度によりメンバーが違い、すすみ方も違います。1年活動してその成果をすぐに見出せる学生もいれば、あの時の経験が今のこれにつながったと5年後10年後にわかる学生もいますが、この1年を大人が一緒に歩んでいくことに価値があると思っています」と小林さん。「単年度で何か結果を出すことよりも、長期的に見て人生の軸になるような1つの活動になってほしい」と、同じくラボの立ち上げメンバーである小山泰明さんは話します。

(写真)

安心して失敗できる社会に
SNSで成功のロールモデルが簡単に手に入るようになった一方、「上には上がいる」ということを当たり前のように見せられ、根拠なく「自分はできる」と何かに挑戦しづらくなり、失敗を経験することが難しい現代。そんな今を生きる若者や次世代の人たちに向けて小山さんはあえて「失敗しようよ」と笑顔で語ります。同時に「失敗した時に責任を引き受ける大人がいる社会が福祉的な社会」とも。
小林さんも失敗しづらい世の中になったと肌で感じているそうで、ラボの活動でも、堂々と自分の生き方をしていいんだよと暗に伝えることがラボに関わる大人としての役割だと見出しています。
ラボのこれからについて小林さんは「何かやってみたいと思っている学生に、立川市に来ればやりたいことができるかもしれない、という印象を持ってもらえれば嬉しいです」と話します。自分より優れた人は山ほどいると感じてしまう中でも自分のやりたいことはどこかにあるはず。それを一緒に探しながらやっていくことが大切だという思いでラボの活動を続けていきます。

 


--4【福祉のおしごと通信】
母子生活支援施設や働く職員の専門性をもっと知ってほしい
社会福祉法人 六踏園 皐月(母子生活支援施設) 心理療法担当 浅香 嘉光さん

(写真 社会福祉法人 六踏園 皐月(母子生活支援施設) 心理療法担当 浅香 嘉光さん)

皐月(母子生活支援施設)で心理療法担当として働く浅香嘉光(よしみつ)さんに、母子と接していて感じることや、施設で働く職員の専門性などについてお話いただきました。

親子関係に興味をもち心理の道へ
学生時代は、高校の教師になることが夢でした。実家が教会を営んでいて「人を助ける」を信条にしているのですが「これから先、助けるべきなのは人の心なのでは」と考え、大学では心理学を専攻しました。在学中、子どもへの虐待問題が世間で多く取りざたされるようになり、「虐待はなぜ起こるのか」「親子とは何か」と考え始めました。そこから親子関係や里親について興味を持ち、母子生活支援施設 皐月でアルバイトをすることにしました。そこで母子生活支援施設で働くことの面白さに目覚め、2015年に職員として入職して今に至ります。入職当初は指導員として、そして現在は常勤の心理療法担当として働いています。
心理療法担当とはいえ、施設内にはカウンセリングやグループワーク専任の心理士が別にいます。私に求められているのは、母親と子どもと、他の心理士や精神科医といった専門職との間を橋渡しする役割です。例えば、普段の何気ない会話や行動から、心理療法担当だからこそ見えてくる課題や視点などをケースカンファレンスなどで専門職と共有したり、専門職からの意見を実際の支援場面でどう生かすかを指導員や支援員と一緒に検討したりしています。また、ケースカンファレンスや各種会議ではファシリテーターや司会を担当することも多く、時には各種会議が円滑にすすむように、事前打ち合わせを提案することもあります。さまざまな専門職と利用者さんとの間を取り持つ“通訳”や、支援の道筋をつくる“枠づくり”の役割を期待されていると思いながら仕事に取り組んでいます。

施設で働く面白さと「男性像」への想い
皐月に入職して10年目になりますが、今でも学ぶことがたくさんあり、母子生活支援施設で働くことの面白さを実感しています。何より母親と子どもの“素の親子関係”を生活を通じて見ることができるのは、母子生活支援施設ならではです。
一方で、男性である私が母子生活支援施設にいる意味を考えることもあります。施設に助けを求める背景で多いのが父親による暴力です。母親や子どもの中には「男の人は怖い」というイメージをもつ方もいます。施設にいる間に、母親と子どもには「男の人は悪い人ばかりじゃない」ということを実感してほしいですし、それを見せていくことを男性職員は求められているのだと思っています。

専門性やスキルをもっと広めたい
東社協では母子福祉部会の活動に参加し、他施設の職員の方とも関わる機会が多いです。そこでいつも話題になっているのが「職員の専門性」です。母子生活支援施設の専門性とは、それぞれの親子のあり方を尊重しつつ、寄り添いながら新しい生活に向けて伴走することではないかと思います。このスキルや専門性をもっと知ってほしいですし、違う分野にも広めていけたら早いうちに母子のSOSをキャッチでき、ケアの幅も広がるのではないでしょうか。母子生活支援施設で働く職員の専門性を他分野でさらに認知してもらうために、自分にできる事は何かを考え続けていきたいです。

 


--5【Information(ぼらせん通信/マンスリーニュース/ 東社協トピックス/ 東社協の本)】
実施報告 ~夏の体験ボランティア2025 in TOKYO~
夏休み中にボランティア体験をしてみませんか?と言うキャッチフレーズのもと初めての方でも気軽に参加できるようなプログラムを企画実施している「夏の体験ボランティア」。福祉施設やNPOの方にご協力いただき、今年は高齢・障害・国際協力・児童・環境など多様な分野から47のプログラムをご用意。昨年度を超える多くの方が参加してくれました!

(写真 東京都内のボランティアセンターと連携し、能登の金蔵地区「祖霊のともしび」で使用する灯ろうに、メッセージを書いて送るプログラムを実施。1,135名が思いを届けました。)
(QRコード 夏ボラサイト)
東京ボランティア・市民活動センターのホームページでは、ボランティアや講座情報等を掲載しています。


マンスリーニュース 2025.8.26~9.25
ピックアップ
(8/27)幼保連携型認定こども園の園児が過去最多を更新
文部科学省が公表した2025年度学校基本調査の速報値によると、5月1日時点で幼保連携型認定こども園の園児は87万6,000人。前年度より1万8,000人増加し、過去最多となった。一方、幼稚園は69万人で、前年度より6万8,000人の減少となっている。

(8/28)2023年度の介護認定700万人超
厚生労働省は2023年度介護保険事業状況報告を公表。要介護と要支援の認定者が2023年度末時点で708万人となり、前年度より14万人の増加で過去最多となった。うち第1号被保険者は695万人、第2号被保険者は13万人となっている。

(8/29)待機児童2,254人で8年連続減少
子ども家庭庁は4月1日時点の待機児童数が2,254人だったと発表した。受け皿拡大などの要因により前年より313人の減少となった。一方、人材不足による利用定員の減少や、待機児童の少ない地域での定員充足率低下もあり、地域分析を強化し、持続可能な保育機能の確保をすすめる方針。


東社協トピックス
「東京の介護ってすばらしいグランプリ2025」を開催します!
多様な介護の現場から「笑顔」を届ける、年に一度のグランプリ!
東京の介護の魅力を広く発信するため、今年も開催します。
今年度のテーマは「介護=笑顔を地域に広げよう」。
介護施設関係者はもちろん、ご利用者、ご家族、地域の皆さま、東京の介護の魅力を伝えたい方からのご応募をお待ちしています。
募集内容の詳細や、応募方法は特設サイトよりご確認いただけます。
【テーマ】介護=笑顔を地域に広げよう
【募集部門】イベント部門/写真部門/コラム部門/レシピ部門
【賞金】最優秀賞 5万円/優秀賞 3万円/入賞 1万円
【応募方法】特設サイトの応募フォームから
【結果発表】2026年2月下旬頃
【応募期間】2025年9月15日~11月11日

(イラスト)
(QRコード 特設サイト)


東社協の本
ご注文は 東社協図書係まで  電話03-3268-7185

社会福祉法人のための規程集 役員会等運営の実務編(CD-ROM付)
社会福祉法人の役員会等の運営において実務担当者が迷いやすい点をわかりやすく整理し、実務の手順をフローチャートにまとめた本です。定款細則等の規程や様式例を掲載し、実務の手引きとしても使用していただけるよう作成しています。社会福祉法人の今後の活動の一助となれば幸いです。
◆規格 A4判・380頁
◆発売 2020.09.02
◆定価 4,400円(本体4,000円+税10%)

重層的支援体制整備事業 実践事例集 ~実施7区市の区市町村社協の取組みより~
「重層的支援体制整備事業」により各区市町村の実情に応じた体制づくりが始まっています。この本は体制づくりを始めている自治体の社協にヒアリングし、ポイントをまとめたものです。この本により重層的支援体制整備事業による取組みを知っていただけると幸いです。
◆規格 B5判・100頁
◆発売 2023.05.12
◆定価 550円(本体500円+税10%)

高齢者福祉施設におけるBCP(事業継続計画)訓練ガイドライン
東社協高齢者福祉施設部会・センター部会大規模災害対策検討委員会で実施したBCP訓練の実施方法等について体系的に整理し、訓練の事例と資料をとりまとめました。
◆規格 A4判・64頁
◆発売 2013.02.22
◆定価 1,047円(本体952円+税10%)

 


--6【くらし今ひと】
子どもの立場から伝えたい。
つながることの大切さ

精神疾患のある親に育てられた子どもとして、思春期を過ごしたれもんさん。れもんさんのこれまでをふり返り、現在の活動や社会に願うことなどを伺いました。
れもんさん
母親の双極性障害発症を機に不登校に。生きづらさを抱えながらも、社会福祉士、精神保健福祉士の資格を取得し、現在は精神科病院で働く。

母親の発症を機に不登校に
母が双極性障害です。私が中学1年生の時に発症しました。それまで、教員の父と教育熱心で責任感の強い母、双子の妹と、ごく普通の生活を送っていました。母の異変に気付いたのは、薬のオーバードーズによる自殺未遂を起こしてからです。すぐに救急搬送され、双極性障害と診断されました。
双極性障害は、気分が高揚する「躁(そう)状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す病気です。診断を受けてしばらくの間は、母が双極性障害という病気だということを、父は私たち姉妹への心理的不安を心配し、教えてくれませんでした。当時は、私のせいだと自分を責め続けました。次第に家にいることが苦痛になり、学校に行っても授業に集中できず、中2から不登校に、そして高校も2度、中退しました。
私が18歳の頃、母の病状が悪化したことで私のメンタルが限界を迎え、精神科に入院します。ある日、病院のベッドでテレビを見ていると、東日本大震災のニュースが流れてきました。その惨状を見て「私より大変な思いをしている人がたくさんいる」と考えたことをきっかけに、療養しながら高卒認定試験を受け、医療系の短期大学に合格。その後、大学に編入して社会福祉士と精神保健福祉士の資格を取得しました。今は、精神科病院で精神保健福祉士として働いています。

「こどもぴあ」との出会い
精神科で働いていると、いろいろな患者さんや家族と出会います。大変なのは私だけではないと共感しながら、あの頃の自分が救われたような気持ちになることもあります。今こうやって支援者として患者さんやその家族の回復に立ち会えることにも強くやりがいを感じています。
働き始めてしばらくして、妹が立ち上げに関わったことから「こどもぴあ」の存在を知りました。「こどもぴあ」は精神疾患をもつ親に育てられた子どもたちが出会う場で、東京に本部があり、家族学習会や自らの悩みや苦労を語る「つどい」などを開いています。初めて「つどい」に参加した時、つながることの大切さを実感しました。
「こどもぴあ」に参加したことで、私と同じような経験をした人ともっと近くでつながれたらいいなと思い、支部を立ち上げました。当事者同士がつどう場だけでなく、精神疾患についての学習会や啓発活動など、多様な活動を細く、長く続けていけたらと思っています。

「知りたい」気持ちに寄り添ってほしい
「子どもの権利条約」に則って、子どもが親の病気について知る権利や聞く権利が保障される社会になってほしいです。子どもにもわかるようにきちんと疾患について説明する義務が社会や大人にはありますし、いつでも相談や質問ができる機会が保障されていれば、子どものメンタルヘルス不調が防げたり、和らげたりする可能性が高まるのではないでしょうか。
病気の啓発や福祉教育もとても重要だと思っています。子どもや若い世代で精神疾患を発症する割合は年々増えています。精神疾患に対する偏見もまだまだあります。小中学校の義務教育のころからみんな等しく、精神疾患や支援などについて知る、学べる機会があったら理解がすすむと思うのです。これからも、当事者の一人として社会に発信できる機会を、無理なく続けていきたいと思っています。


以上で、福祉広報2025年10月号を終わります。

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