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東京都地域公益活動推進協議会

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罪を繰り返してしまう障害者の受け入れ

社会福祉法人武蔵野会(八王子市)

平成25年度に刑務所に入所した24%が知的障害の疑いがあり、軽度の知的障害を含めると45%にもなります。身寄りがなく出所された方は、お金や住むところがなく、誰からも支援を受けられないまま罪を繰り返してしまう方もいます。累犯障害者を受入れている社会福祉法人武蔵野会の取組みを紹介します。

平成26年11月8日掲載

社会福祉法人武蔵野会は「自分を愛するようにあなたの隣人を愛せよ」を法人理念に掲げ、実践事例や理念研修を通して、職員に丁寧に浸透させています。そして、理念の実践は目の前の利用者への支援だけでなく、社会貢献活動に広がりを見せています。

武蔵野会では平成16年に経営改革に着手し、理念経営の実践の一環として、社会福祉法人の使命としての社会貢献事業を検討してきました。「利益を追求する民間企業とは異なり、生きにくさを抱える人の生活を変え、社会を変える使命がある。社会福祉法人が社会貢献活動を行うのは当然の使命」と結論づけました。そして、法人成年後見の推進、地域向け武蔵野会セミナーの実施、HIV長期療養者の福祉施設利用促進、被災地支援ボランティアの継続とできるところからはじめ、平成25年度には累犯障害者の地域生活定着支援に取組んでいます。

刑務所に障害者がいる

武蔵野会は平成21年度に「獄窓記」の著者である山本譲司氏を招いた講演会を開催しました。そこで、刑務所には障害を持つ方や高齢者が多くいる実態を把握しました。社会福祉法人武蔵野会法人本部長の高橋さんは「支援者のいない障害者が満期出所する場合は、刑務所の工賃は少ないため出所時の所持金はわずかで、住むところも決まっていない。福祉的支援がないと、衣食住を求めて罪を犯して再び刑務所に入ることが多い」と話します。

刑務所からの受入れ

武蔵野会は既に入所施設で、数年前から執行猶予中の障害者を受け入れていました。地域での累犯障害者の受入れを中期計画に位置付け、施設長研修を実施し、法人全体で受入れる体制を作りました。また、先行事例の視察による情報収集や、矯正施設退所者の支援を行う東京都地域生活定着支援センターと連携し、福祉の支援を希望する出所予定者と矯正施設内で面接を始めました。

そして、平成25年度に2名の満期出所者の受入れをスタートしました。2人とも知的障害があり、一人は少年院や刑務所を10回近く、もう一人は15回以上入退所を繰り返している人たちです。しかし、凶悪な犯罪は1回もありません。

辛抱強くかかわる

受入れた当初の様子について、高橋さんは「住むところが決まり、自分の生活ができることで安定するようになる。しかし、人間関係を広げるためには辛抱強い働きかけが必要だった」と振り返ります。受け入れてすぐに所在不明になり、函館で発見され、職員が迎えに行ったこともありました。警察や裁判所に苦情の電話を頻繁にかけたり、昼夜にかかわらず救急車や葬儀屋を何度も呼ぶ等の行動が3、4か月間も続きました。これまで人から拒絶されたり、騙されてきた経験があり、まわりの人が自分を受け入れてくれるのか、信頼しても良いのかを繰り返し試すかのような行動がありました。そのたびに、職員が「いつも、あなたを応援していますよ」という姿勢で辛抱強くかかわりを続けました。今では、出所時には、途絶えていた肉親との関係も回復し、それぞれ、定期的な帰省や日曜ごとに食事に出かけるようになりました。

累犯障害者を受入れるには、「対象者と積極的にかかわりを持ち、生きにくさを抱えながら罪を犯した人を理解しようとする姿勢が重要」と高橋さんは話します。

  
2人は別々の施設で働き、住まいはアパートとグループホーム

3つの課題と方向性

累犯障害者の受け入れは、課題は多く支援体制の整備が必要です。

1つ目は、対象者の情報収集と共有です。矯正施設に繰り返し入所している人の情報は断続的で、どのように生きてきたかを把握するのは難しいのです。情報の少ない利用者を早く理解し、統一した支援を行うため、対象者と精神科医や心理士が定期的に面談し、支援者間で情報共有しています。また、対象者の情報は管理職、役職、心理士がタイムリーに把握するため、それぞれに入った情報は逐次メールで周知しています。

2つ目は、支援者がいなくて満期出所した方は、親や親戚が暮らす土地への帰住が困難なことです。そのため、受入れた地域を第2のふるさととして、地域で受入れる体制をつくる必要があります。近隣住民や商店、警察、病院等に協力・理解を求めました。アパートに入居する際には、大家さんに「障害を持つ方だと理解していただき、法人がいつもバックアップする」と不安を取り除きました。一年以上が経過し、地域住民から気軽に声をかけられるまでになりました。

3つ目は、対象者の収入確保です。就労に結びつけるまでの生活保護の申請や、手帳や年金の申請は、安定した生活のため必須です。東京都では刑務所内で、生活保護や手帳の手続きを行うことができないため、出所後に法人で転入手続きや申請を行いました。「刑務所にいる間に手続きが行えると受け入れがスムースになり、受け入れ施設も増える」と高橋さんは指摘します。

受入れ側の体制づくり

受け入れる側の体制づくりも重要です。1法人だけでは受け入れるには負担も多く、受入れる人数に限界があります。高橋さんは今後に向けて、「矯正施設への入り口、入所中、出口に関係する、行政、司法、教育、医療等の関係機関が情報を共有する場をつくり、総合的に支援することが必要。受け入れ側の福祉関係者が情報を共有し、幅広く受け入れられるしくみづくりが急務」と話します。

利用者への支援に加え、社会貢献活動を行うことは、負担だけが多くなるように思いがちです。武蔵野会では、社会貢献活動を行うことが「職員自身の成長につながり、利用者支援の質が向上する」と捉えています。東日本大震災以降、毎月一回、職員がマイクロバスで被災地ボランティアを継続している経験は、職員自身に大きな内的変化をもたらしています。社会に目を向け、様々な困難を抱えた人たちを知り、支援するプロセスは人間としての視野を広げ、成長に繋がります。


南相馬市の高齢者施設職員と一緒に写る
被災地支援ボランティア


Nobuo Takahashi 高橋信夫
社会福祉法人 武蔵野会 理事・本部長

 

社会福祉法人武蔵野会

〒193-0931 東京都八王子市台町1-19-3
TEL:042-623-8509
http://www.musashinokai.jp/

1963年に社会福祉法人として認可。
戦災孤児の救済、保護のための運営開始。
「自分を愛するようにあなたの隣人を愛せよ」を理念に
児童養護施設、障害施設、知的障害者施設、高齢者施設など計24施設を運営。