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生活困窮障害者の地域社会での暮らしを支える―社会福祉法人友愛学園の取組み

社会福祉法人友愛学園(青梅市)

青梅市を中心に事業展開する社会福祉法人友愛学園は、「障害のある人が安心して暮らすことができ、希望に満ちた生活ができるように愛と信頼と行動で支援すること」を目指しています。その理念に基づき、生活困窮障害者が地域社会の中でいきいきと暮らしていけるよう様々な支援に取組んでいます。

平成27年11月4日掲載

青梅市を中心に事業展開する社会福祉法人友愛学園は、昭和32年の開設以来、一貫して障害児者の支援に取組んでいます。法人として知的障害児者の方々が豊かで健やかに生活できるようその生活環境を整え、社会のあらゆる分野の活動に参加していくことを願うと共に、地域社会で暮らす人々にも援助の手を差し伸べることを目指しています。法人が運営している事業所のひとつ「相談支援事業所おおぞら」は、特定相談支援、障害児相談支援、一般相談支援を実施しています。障害を持った方が福祉サービスを利用する時にサービス等利用計画を作成することを主に、施設等利用者の地域移行の相談にも対応しています。

友愛学園では、相談支援事業を通じて、独居を中心とした生活困窮障害者が地域社会の中でいきいきと暮らしていけるよう様々な支援に取組んでいます。

本人の意欲や希望を引き出す支援

Aさんは、自動車運転免許を取得するほどの力があるものの、家庭環境も影響し、ひきこもり気味だった軽度の知的障害者です。仕事を求めて30歳で上京しましたがうまくいかず、その後12年間、手当、年金、生活保護を受給しながら一人で暮らしてきました。持病の為、通院と服薬が必要ですが、本人からは特に困っているという訴えはなく、福祉事務所では、安定した生活を送っているものと判断していました。

しかし、通院が滞っていたことから福祉事務所が介在し通院再開したものの、部屋にはペットボトルや弁当のごみなどが散乱し、足の踏み場もなく、掃除、洗濯がなされていない状況でした。また、洗面、入浴もしておらず、家のガスは、使用しないからもったいないと止めてしまっていました。主治医の判断で訪問看護が始まり、生活改善をするために家事援助サービスの利用につなげたいと福祉事務所から「おおぞら」に相談が入りました。

「おおぞら」の相談員、尾澤栄子さんがAさん宅を訪問してみると、Aさんは食べたい時に食べ寝たい時に寝る生活で、好きなゲームをしたりテレビを見てなんとなく一日を過ごしており、本人としては「困っている」とは感じていません。一方で、尾澤さんがじっくり話を聞いていくと、この生活が良いとも思っていないことがわかりました。清潔に健康に暮らすためには、丁寧な支援が必要と判断され、何度もAさんと話をし、「家事援助を週1回利用して掃除をしてもらうこと」の了承を得て、関係者との調整をしました。しかし、居宅支援事業所の担当者が契約に訪問した時にAさんが腹を立ててしまい、残念ながら契約に至りませんでした。

相談開始から4か月経っても、虫が湧きそうな部屋の状況は改善されず、独居生活を続けるための家事援助サービスの利用や風呂の修理などの提案も拒否。それでも尾澤さんは、「生活をリセットして仕事をしてみよう。もったいない」と、グループホームで暮らし、作業所で仕事をすることをAさんに提案しました。本人も含めたサービス担当者会議を開いて意思確認し、尾澤さんが一緒にグループホームや作業所の見学をして、Aさんは利用することを決めました。さらに本人に寄り添い、支援するうちに「本当は暮らしたい場所がある。食べ物の会社で働いてみたい。やりたいことがいっぱいある」という希望や意欲を表現するなど、変化が見られるようになりました。

尾澤さんは、「傾聴と共感から次の段階が開ける。遠回りでも本人の希望を引き出し、それを実現するためにどうしたらよいのか一緒に考え、時には納得できるまで待つなど時間をかけて丁寧にかかわることが大切」といいます。相談支援事業所として、収入につながるのは、「サービス等利用計画の作成」と「サービス等利用計画の見直し(モニタリング)」だけです。しかし、本人が本当に望む生活につなげるためには、丁寧に本人と向き合い信頼関係を構築して支援していくことが必要だと考え、実践しています。


友愛学園副施設長兼相談支援事業所おおぞらの相談員
尾澤栄子さん

本人参加のサービス担当者会議を重ね共通理解と連携のもとで支援

発達障害、統合失調症の精神障害があるBさんは、入院寸前の褥瘡、薬物依存があり、家はごみ屋敷状態でした。Bさん宅に訪問し始めた頃、近所の方からは、Bさんが火事を出すのではないかと心配する声も聞かれました。

「おおぞら」では、計画相談により、家事援助、移動支援、訪問看護、成年後見制度などのサービスを利用して生活全般を支援する計画を立てました。Bさんの支援には、市の障害者福祉課、成年後見制度の補助人、訪問看護の看護師、家事援助や移動支援のヘルパー、相談支援事業所の相談員といった多くの関係者が関わることから、共通認識を持ち連携して支援していくことが重要となります。このような場合、尾澤さんは、関係者に声をかけてサービス担当者会議を開いています。制度上は、必要に応じて開くものとされていますが、初めの1年間は頻繁な調整・確認が必要と考えて毎月開催し、本人の生活状況が改善されてからは、3か月に1回に変更しました。

本人を含め関係者が毎月集まって効果的に検討を行うためには工夫が必要です。毎回の会議は30分から1時間と限定し、関係者が簡潔に情報提供し、本人が困っていることや要望を話し検討する。本人の「こうしていきたい」という気持ちを大切にし、本人が納得できるまで無理をせず待つ。本人をエンパワメントしていくには、時間や労力が必要ですが事業所の収入につながるしくみではありません。しかし、一つひとつのサービスがばらばらに提供されるのではなく、Bさんの生活を総合的に支えることが大切であり、そのための会議の意義は大きいと考えて実践しています。

また、福祉サービスの利用に限らず、生活改善のために給湯設備や畳の交換、エアコンやIHの設置などが必要でした。業者が自宅を訪れることをBさんは不安に思うために、「いいです」と断ってしまうことがあります。そのため、尾澤さんがその都度Bさん宅に出向いて、一緒に立ち会いました。福祉サービスにつなげるだけではなく、本人に寄り添うちょっとした支援が安心につながり、受け入れることができるようになるなど本人の生活全体が大きく変わっていく様子がうかがえます。

多くの関係者の連携による支援により、Bさんの褥瘡は治癒し、ごみ屋敷の解消、薬物依存の消失等、生活は格段に改善されました。また、入浴、着替え、洗濯などを定期的に行うほか、自分で近所の方に頂き物の果物を配ったり、自治会活動にも参加するなど、社会から孤立した暮らしが地域社会との関わりの中での暮らしへと広がりつつあります。


相談支援事業所おおぞらの事務所

希望に満ちた生活ができるよう愛と信頼と行動で支援

尾澤さんは、これまで関わったたくさんの知的障害がある方に「困ったときにはどうしますか?」と尋ねました。9割以上の方が「何もしない。じっとしている」という回答だったことにショックを覚えたといいます。「相談支援事業所を掲げていても信頼関係が出来ていないと困っている本人が相談に来たり支援を求めてきたりすることは殆どない。本人が理解できるように丁寧にじっくり関わることが大切」といいます。
友愛学園は、法人として「障害のある人が安心して暮らすことができ、希望に満ちた生活ができるように愛と信頼と行動で支援すること」を目指しています。相談支援事業を通じたこのような取組みは、理念に基づいた実践であり、障害者の生活全般を支える支援に特化して長年取り組んできた友愛学園だからこそできる地域での生活を支えるための貢献のひとつだといえるでしょう。

 

社会福祉法人友愛学園

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