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社会福祉法人「大三島育徳会」の生活困窮者就労訓練事業について

社会福祉法人 大三島育徳会 特別養護老人ホーム「博水の郷」

就労訓練事業は法人統括本部内に設置する「地域公益活動室」が、世田谷区の自立相談支援機関である、「ぷらっとホーム世田谷」と緊密に情報交換しながら、行っています。今後、生活困窮者世帯の増加に伴い対象者が増えていくと推察されるため、今後も積極的に受け入れていく予定です。今回は、本法人で受け入れた取組みの中から2つの事例をご紹介します。

平成30年7月13日掲載

Ⅰ 法人の地域における公益的な取組み

本法人の理念は「地域に根差した福祉」を実践することです。そのため地域における公益的な取組みについては、1法人独自の取組み、2世田谷区内における連携による取組み、3都内法人の広域連携による取組み、の3つの層すべてにおいて取組みを行っています。本法人は、地域に根差した福祉事業のさらなる展開を目指しています。

1「生活困窮者就労訓練事業所」の認定

3の都内法人の広域連携による取組みについては、東京都地域公益活動推進協議会が行う地域公益活動である「はたらくサポートとうきょう」(就労支援事業)に参加しています。平成29年5月、東京都より「生活困窮者就労訓練事業所」の認定を本法人が運営する特別養護老人ホーム「博水の郷」が認定を受けました。世田谷区内で事業所認定を受けている唯一の高齢者施設です(平成30年5月末現在)。

 

Ⅱ 事例

就労訓練事業は法人統括本部内に設置する「地域公益活動室」が、世田谷区の自立相談支援機関である、「ぷらっとホーム世田谷」と緊密に情報交換しながら、行っています。今後、生活困窮者世帯の増加に伴い対象者が増えていくと推察されるため、今後も積極的に受け入れていく予定です。今回は、本法人で受け入れた取組みの中から2つの事例をご紹介します。

 

1 Aさん40歳代 男性の事例

(1)就労支援の状況

Aさんは、世田谷区の生活困窮者自立相談支援機関である「ぷらっとホーム世田谷」から、一般就労へ向けての受入れ依頼でした。Aさんは、以前働いていた会社で、給料の未払いやパワハラがあり、強い口調での指導には萎縮してしまうところがあるということでした。

一般就労に向けての就労支援との依頼でしたので、本法人が採用時に行う面接と同じ方法で、面接を実施しました。介護の仕事については、知識がないとのことで、まずは、交通費と昼食は提供し有償ボランティアとして、現場を体験してもらい、様子を見ることにしました。

ボランティアをしているときの本人の様子は、声が小さく、弱々しい感じであった面接時の印象とは打って変わり、挨拶の声もしっかりと出ており、笑顔で職員とコミュニケーションをとっていました。利用者さんへは積極的に自分から声をかけており、笑顔で「楽しくやらしてもらえています」と言っていました。

最終日に本人へ、この仕事をやっていけそうかと聞いたところ、「ほぼ問題ないです」との返答があり、職員にも確認したところ、特に問題ないとのことでしたので、非常勤での採用することに決めました。

入職後の勤務態度は至って良好でしたが、1カ月ほど経過したところで、突然体調不良を理由に1週間ほど休みました。久々のフルタイム勤務が身体的にきつかったということで、Aさんと話し、週3日勤務に変更し様子を見ることにしました。ところが、復帰後のある日、他の職員と口論となったことをきっかけに休みが続きました。

施設からも何度か連絡をとり、ふらっとホームの相談員からも連絡を入れましたが、結果的にAさんは、ぷらっとホームにも行くことができない状態になってしまったとのことです。

 

(2)Aさんのケースから学んだこと

このケースからは、本人からのSOSのサインに気づかなければいけないということを学びました。1週間休んだ時点で、身体的な理由だけでなく、精神的な状況の変化にも気づき、何かしらの配慮をしていればこの結果にならなかったかもしれません。

二つ目は、生活困窮者自立相談支援機関から職員等を受け入れる場合は、働きづらさを抱えている方と認識しなければならないということです。介護ではなく、周辺の仕事、たとえばベッドメイキングや清掃、ゴミ捨てなどから始めれば結果は違っていたかもしれません。

また、一緒に働く職員にAさんの精神的な状況に対する理解を深めておく必要があったと反省しています。

今後は、対象者と積極的にコミュニケーションを図り、本人の精神面を含めた体調を把握することが大切であると思いました。

 

2 Bさん(10代半ば女子)の事例

(1)Bさんの状況

2月頃にぷらっとホームから就労訓練受入れの相談を受けました。まだ10歳代半ばの女子中学生でした。

祖母、父親、妹、弟と本人の5人世帯。父親は働いておらず、祖母の年金で一家5人が暮らしていました。生活保護を受けることは父親が拒否しており、Bさんには、卒業後は働いてお金を稼ぐよう言われているとのことでしたが、本人は学校に行きたいようでした。

そこで、家族に対し、昼間働くということを条件に、夜間定時制高校への進学を働きかけ、どうにか承諾してもらいました。その後、Bさん、ぷらっとホーム職員、施設長、就労訓練担当者で顔合わせを行いました。Bさんは、小柄で、声も小さく、会話もあまり続きませんでした。

(2)就労支援の状況

就労訓練プログラムでは、本人の希望も聞き、2つの目標を設定しました。一つ目は「社会常識を身につける」で、挨拶の徹底、正しい言葉使いの指導としました。二つ目は「基本的な清掃技術の習得」で、補助業務を通して、拭き掃除、掃き掃除の技術を身につけることを支援内容としました。訓練は、基本的に清掃業者の職員の協力を得て、清掃道具の扱い方や清掃の段取りなどを教え、掃き清掃、手摺の拭き清掃、ごみの回収、補助などを行いました。週の終わりには必ず、就労担当職員と反省会の時間を設けることにしました。

訓練は、週5日間、1日5時間で、交通費は実費支給、昼食は法人負担で支給しました。

Bさんの訓練中の態度は良く、職員の指示に素直に従っていました。始めのうちは遅刻もありましたが、根気よく支援したところ、5月の中旬頃には、仕事の10分前に出勤できるようになりました。

1カ月経過の振返りの中でも、本人から「遅刻しないようになった、仕事にも慣れてきた」との話がありました。その話の中で、学校には楽しく通っているようでしたが、給食が食べられないことがわかりました。

この件は、ぷらっとホーム職員に報告し、ケースワーカーに連絡してもらいました。Bさんの世帯は、生活保護の受給を開始していたようで、保護費から給食費を出すよう伝えてもらい、その後、Bさんは給食を食べられるようになりましたが、引き続き、本人の栄養状態に注意を払うことにしました。

そして、約3カ月の就労訓練を経て、8月の上旬に就労訓練は終了となりました。初めて会った頃より身長が高くなり、体格もよくなりました。現在は、レストランでアルバイトとして働きながら、高校に通っているとのことです。

(3)Bさんのケースでの成果

このケースでは、中間的就労から一般就労へつなげることができました。Bさんとコミュニケーションが良好に図れたからだと思います。訓練中、できるかぎり就労支援担当者から声をかけ、会話の機会を持つようにしました。週末には必ず反省会を行い、じっくり話せる時間をつくりました。その結果、徐々に信頼関係を築くことができたと思います。そして、Bさんの抱えている問題を発見し、迅速に解決ができたと考えます。それまでの支援の反省が活かされました。

給食の話を本人から聞いたことから、ぷらっとホーム、区のケースワーカーさんと連携して、本人が給食を食べられるようになったことも成果と捉えています。今回は複合的な問題を抱えているケースであり、本人だけに焦点を当てるのではなく、家族など含め世帯全体を見なければならないことを学びました。

本人の問題は本人だけに理由があるのではなく、家族全体の問題として対応しなければならないということです。家族のことや学校のことで、法人施設だけでは判断できない部分は、ぷらっとホームに報告して対応してもらえたことは心強かったです。

 

Ⅲ 二つの事例に取り組んでの2つの課題

一つ目は、知識、経験不足です。何をするにも試行錯誤の状態でした。本人への関わり方、対応の仕方が適正であるか不安を抱えながら支援をしました。この課題を克服するには、経験を重ねていくしかないと思います。また、研修会等へ参加して、同じ就労訓練事業に取り組んでいく仲間とともに情報や事例を共有していくこともとても大事だと思います。

二つ目は、自立相談支援機関と深く連携し、意思の疎通を図れる関係を築いていくことです。現状では、ぷらっとホームの職員とはすぐに連絡がとれ、相談できる環境にあるので、とても心強いです。

今後は、受け入れる時の情報共有の徹底や、就労訓練プログラムの共同作成などを行っていくことが必要だと考えています。

 

Ⅳ さいごに

働きづらさを抱えている方を受け入れる就労訓練事業では、職場の理解が不可欠です。なぜ支援が必要な方を受け入れなければならないかを職員全員が理解する必要があります。たとえ人手不足や経営が厳しくとも、また、新たに負担を増やしてまで、受け入れる理由を共有しなければならないのです。そのため、職員に対して事前の説明会や研修会を開催しました。理事長が、法人職員全体会議や部課長連絡会、特養内の連絡調整会議にて、「地域における公益的な取組み」を行わなければならない理由や、就労訓練事業の大事さを伝えています。就労支援担当者からも、受け入れるユニット、フロアの職員に改めて、受け入れの必要性を伝えています。

こうした積み重ねにより、働きづらさを抱えた人の受け入れについて職員の理解が深まってきたと思います。社会福祉法人だからこそできる、制度のはざまにいる方の生活問題の解決に向けての支援ができ、本人を支援している職員も、社会福祉法人の職員なのだという実感を得た感じがします。特に、Bさんのケースでは、世帯全体の課題を解決しなければ、本人の課題が根本的には解決しないということを学びました。貴重な経験になったと思います。今後も、受け入れた本人ばかりではなく、家族の置かれた状況と課題を関係機関と共有しながら支援を続けていこうと考えています。