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東京都地域公益活動推進協議会

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要保護児童の居場所作り~「コージープレイス」の取組み~

社会福祉法人大三島育徳会(世田谷区)

居場所作り

就労訓練でかかわったケースから、地域にはさまざまな課題を抱える子どもたちがいることを把握し、子どもの居場所「コージープレイス」を運営している取組みを紹介します。

令和2年8月31日掲載

令和元年10月2日開催「社会福祉法人の地域における公益的な取組み 実践発表会」において発表いただいた内容を編集しました。
発表者 社会福祉法人大三島育徳会 地域公益活動室 室長 坂井 祐氏

 

14歳少年との出会い

社会福祉法人大三島育徳会は、地域に根差した社会福祉の実践を目的として設立されました。地域のつながり、助け合いを大切に、高齢者サービス、障がい者サービスの事業を行い、世田谷区二子玉川を中心とした地区に9拠点15事業所を展開しています。
私たち法人がコージープレイスを始めたのは、一人の少年との出会いがきっかけでした。大三島育徳会では、認定事業所として生活困窮者就労訓練事業を行っていますが、その支援対象者に、中学校卒業を控えた発達障害、学習障害のある14歳の男子生徒がいました。彼は、中学校卒業後は、高校には進学せず、親から家計を助けるために働くように言われていました。要するに生活困窮家庭だったのです。
本人には進学したいという思いがあったため、行政機関が両親を説得し、昼間に働くことを条件に定時制高校に通うことになりました。そこで彼には、社会に出て働く上で必要な挨拶、言葉遣い、社会常識を私たち法人で身につけてもらい、その後一般就労につなげるために、就労訓練を受けてもらうことになったのです。
彼の第一印象は、十分な栄養が摂れていないのか、年齢のわりに背が低く、やせていることでした。声も小さくて聞き取りにくく、会話もあまり続きませんでした。しかし、博水の郷の昼食時では、毎日ご飯をどんぶりで7杯も食べます。おかずもおかわりします。それだけの量が、小さな身体のどこに入るのかと思うぐらい食べるので、皆びっくりしていました。
4か月間の就労訓練後に、就職先がスーパーマーケットに決まり、卒業となりましたが、その間に身長が10センチほど伸びて、体格もがっしりしました。やはり家庭では十分な食事が摂れていなかったと推察されます。

 

子どもの居場所作りを

要保護児童の居場所作りのきっかけ

その少年との出会いにより、この地域にもさまざまな課題を抱える子どもたちがいることがわかりました。そして、そんな子どもたちを見守り、支える場を作らなければならないと考えました。
同時期に、滋賀県の特別養護老人ホームで行っている要保護児童の居場所づくりを見学しました。家庭の中に安らぎがない、子どもらしく大人に甘えられない、学校に行きづらいなど、さまざまな課題を抱えている子どもが、安心して信頼できる大人と過ごせる場所として、特別養護老人ホームは最適だとわかりました。そこで、英語で「居心地の良い場所」を意味する「コージープレイス」を博水の郷で行うことにしました。

 

コージープレイス実施に向けて

コージープレイスの実施に向けて、ぷらっとホーム世田谷(世田谷区生活困窮者自立相談支援センター)、きぬた子ども家庭支援センターと情報交換を目的として、数回にわたってミーティングを行いました。コージープレイスの趣旨や内容を伝え、協力を依頼したところ、快く承諾してくれました。地域の中には支援が行き届かず、つらい状況にある子どもが多くいることがわかり、その中で、このコージープレイスの取り組みが、子どもたちの助けになると言ってもらえました。
コージープレイスの運営は、地域公益活動室が担当することになりました。法人内でも、理事会やさまざまな会議で趣旨、内容について説明しました。法人全体の職員にコージープレイスについて周知し、活動員の募集も行いました。
結果、1名の参加希望があり、地域公益活動室室長と2名体制で活動をスタートすることになりました。支援対象者はきぬた子ども家庭支援センターから紹介してもらいました。小学校4年生男子のY君です。

 

Y君の事例

活動内容

Y君は、発達障害、不安障害、学習障害により、学校で居場所を作れず、ほとんど登校できていない状態です。こだわりが強い、切り替えが悪い、新しい環境を受け入れにくいという、かなり個性の強い子どもでした。好きなことはゲームとサッカーです。保護者からは、家族以外の人との関わり、家庭以外の居場所としての定着を期待されました。少しでも自立してもらいたいという思いが伝わってきました。
活動日は毎週水曜日、時間は18時から20時としました。活動の内容は、17時45分頃に車で迎えに行き、18時頃に施設に到着します。手洗い・うがいの後、職員と一緒に夕食の準備をして一緒に食べます。夕食後はリラックスタイムで、テレビゲームをします。その後、学習支援としてドリルなどを行い、終わってから大好きなサッカーをします。そして、20時頃に施設を出発します。参加費は無料で、費用はすべて法人で負担します。

 

コージープレイスの開催

平成31年1月9日水曜日からコージープレイスを開始しました。Y君が居心地良く過ごせることが一番の目的なので、活動内容にとらわれず、本人の状態に合わせて、時間や内容は臨機応変に対応しました。

コージープレイス 事例1

活動中の様子は、やはりこだわりが強く、自分の意向に沿わないことはやりません。自分中心で物事を進めようとします。口調も荒く、口答えをしてきます。例えば職員同士が話をしていると、割って入り、自分中心の話をし出したり、皆でゲームをしている途中に突然止めて、自分だけ他のゲームを始めたりもします。勉強については集中力が続かず、すぐに投げ出してしまいます。
それでも私たちは、本人の思いを受け入れ、やりたいようにやらせるようにしています。これまで特に大きな問題もなく、本人は毎回楽しそうに過ごしています。

 

 コージープレイスの成果

これまでの成果は四つです。一つ目は、Y君が学校に行く日が増えたことです。コージープレイスに参加する前は、ほとんど登校できない状態でしたが、参加をするようになって、学校に通う日のほうが多くなったそうです。
二つ目は、母親の付き添いなしで登校できるようになったことです。登校するには母親の付き添いが必要だったのですが、父親や友だちと登校できる日も増えました。母親は、コージープレイスが楽しみになることで、気持ちが落ち着き、頑張ろうという気持ちになっていると話していました。
三つ目は、Y君の成長です。当初は挨拶ができない、口調が乱暴といった様子が見受けられましたが、活動中は優しくその場で注意することを徹底した結果、まだまだ不十分ですが、大分改善されました。また、待つこともできるようになってきました。例えば、ゲームからサッカーに気持ちが移り変わった場面でも、周りに配慮して待てるようになりました。年齢に応じた人との関わりが少なかったのかもしれません。保護者以外の大人と関わることで、効果が上がったようです。
四つ目は、法人職員への影響です。法人が行う地域公益活動に参加する職員は、一部に偏っていましたが、コージープレイスを始めてから、地域公益活動への参加を希望する職員が増えました。法人が行う地域における公益的な取り組みが、職員に浸透していることを実感します。

 

コージープレイスの課題

課題は三つです。一つ目は、専門性の不足です。私たち法人は知的障がい者の作業所を運営していますが、発達障害に対応できる専門職が少ないです。Y君の行動に適切な対応ができているのか、不安を感じています。今後は外部からボランティアを募るなどして、対応する予定です。
二つ目は、学習支援が進まないことです。活動中、学習の時間は設けていますが、本人のやる気、集中力が続かないことに加え、保護者からも無理強いしなくていいと言われているため、ドリルなどがなかなか進みません。これに関しても、外部の学生ボランティアの導入などを考えています。
三つ目は、支援目標が決まっていないことです。Y君に対する支援の着地点が定まっていないのです。本人に居心地良く過ごしてもらうことが目的なのですが、これから中学生、高校生、社会人へと進んでいく彼のことを考えて、中長期の支援目標をしっかり立て、支援していく必要があります。きぬた子ども家庭支援センターと協働で、目標設定を明確にするとともに、本人の得意分野を探し、伸ばしていきたいと考えています。

 

今後の展望と抱負

地域にはまだまだ支援を必要とする子どもがたくさんいます。なかには親からの虐待などで、命の危険にさらされている子どももいると思います。現在の課題を克服し、経験を積み、より支援の必要性の高い子どもを受け入れられるようになりたいと思います。また、受け入れ人数も増やしていきたいと考えています。そのためには、2020年4月に開設予定の世田谷区児童相談所との連携が必要です。緊密な連携を取り、対応していきたいです。そしてこれからも地域の課題解決に尽力し、社会福祉法人としての責務を果たしていきたいと考えています。

 

<法人紹介>

社会福祉法人大三島育徳会

「地域に根ざした社会福祉」を法人理念として、平成12年11月に社会福祉法人大三島育徳会を設立。世田谷区二子玉川を中心に、特別養護老人ホーム「博水の郷」、グループホーム「やまぼうし」、世田谷区立玉川福祉作業所、障がい者ケアホーム・グループホーム・ショートステイホーム「いろえんぴつ」、喜多見だんちデイなど15事業所を展開。地域のニーズに沿ったさまざまな福祉サービスを提供している。