地域共生社会の実現に向け、“オール東京の社会福祉法人” による地域公益活動を推進します。

東京都地域公益活動推進協議会

ホーム > 各法人の取組み事例の紹介 > 「コロナ禍の地域公益活動を考える オンライン実践発表会」を開催しました。

このページをプリントします

「コロナ禍の地域公益活動を考える オンライン実践発表会」を開催しました。

コロナ禍の地域公益活動を考えるオンライン実践発表会

東京都地域公益活動推進協議会では、令和2年8月7日(金)に「コロナ禍の地域公益活動を考えるオンライン実践発表会」を開催しました。その様子をご紹介します。

令和2年10月1日掲載

 

コロナ禍の地域公益活動を共有

左上:武者さん、真中上:山田さん、小林さん、
右上:野村さん、右真中:本多さん、真中:斎藤さん、

左真中:中村さん、式地さん、真中下:浦田さん

山田)本日はお忙しい中、ご参加いただきありがとうございます。司会を務めさせていただく情報発信委員会の山田です。どうぞよろしくお願いします。現在、140名以上の方にご視聴いただいています。発表者をご紹介します。前半は、社会福祉法人の取り組みで、松栄福祉会の式地亜矢さん、大洋社の斎藤弘美さん、武蔵野会の野村美奈さんです。後半は、区市町村ネットワークの取り組みで、文京区社会福祉協議会の本多桜子さんと浦田さん、東村山市社会福祉協議会の武者吉和さんです。本日は、実践発表会コーディネーターとして、東京都立大学名誉教授の小林良二さんにもお越しいただいています。

発表を始める前に、実践発表会を開催するに至った経過をお伝えします。東京都地域公益活動推進協議会情報発信委員会は、皆さんに研修やHPなどで、さまざまな情報を発信していますが、コロナ禍の中では、皆さんの活動の様子がわからず、どのように情報を発信すべきかが私たちの課題として上がってきました。コロナのために地域公益活動ができない、人を集められないという意見がある一方で、こういうときだからこそできることを探し、実践している法人、社協もあるという話も耳にして、新型コロナウイルス感染拡大に伴う地域公益活動の状況把握の調査を行いました。

5月22日から6月4日までの間に、地域公益活動に参加している法人、社会福祉協議会にアンケートを配布し、120以上の社会福祉法人、50以上の社協から回答がありました。調査では、約8割は人と会えないため活動を休止している事業があるという結果でしたが、44%は「中止せずに何らかの活動を継続している事業がある」という回答もありました。そこで、こうした活動をしている方々を紹介したいと考え、オンライン発表会を開催することにしました。

社会福祉協議会、社会福祉法人は、目の前の利用者の感染予防対策で頭がいっぱいだったと思いますが、地域の中で、困っている人のためになるような、あるいは、元気を取り戻せるような活動もたくさんあったと聞いています。発表を通して、今後、どのようなことができるかを考える会にしたいと思います。

 

コロナ禍の「みんなのカフェ メリ・メロ」の取り組み
社会福祉法人松栄福祉会 保育士 中村鮎美 氏、管理栄養士 式地亜矢 氏

「みんなのカフェ メリ・メロ」は、地域の空き店舗を利用し、2018年5月にオープンしました。今年で3年目になります。保育士、看護師、介護士、管理栄養士とボランティアスタッフが交代で勤務しています。厨房管理及び金銭管理は、地元の管理栄養士2名に業務委託しています。また、店内では、地域住民の手づくりの品の委託販売や指定就労支援事業所のクッキー販売も行っています。

店内設計は、関わるスタッフがそれぞれの立場から、さまざまな意見を出し合いながら考えました。車椅子の方、高齢者、赤ちゃん、妊婦さんなど、多くの方に安心して使っていただけます。

コロナ禍前のカフェの取り組み

コロナ禍前は、営業時間が10時から16時、客席数が靴を脱いでくつろげる小上がり16席、車椅子で使用できるカウンター3席、屋外テラス8席でした。客層は、小さなお子様連れの母親が50%、高齢者が40%、主にランチタイムに来店するビジネスマンやOLが10%です。また、イベントとして、保育士によるお話会、誕生会、手遊びの会、ベビーマッサージ、管理栄養士による栄養講座などを開催し、そのほかに地域高齢者団体の活動の場としても提供していました。

羽村市では、3月より小・中学校が休校となり、幼稚園・保育園も登園自粛が始まりました。店内飲食による新型コロナウイルスの感染拡大を避けるため、メリ・メロも休業を決断しました。

コロナ禍後に活動を変更した理由

緊急事態宣言時、市内の飲食店では、子供の食事を支援する店舗が多く見られ、保育園の保護者からも食事づくりが大変だという声が多く聞かれました。そこで、メリ・メロでも何かできないかと、理事長、統括園長と協議し、他店舗ではあまり見られなかった夕食支援のお弁当販売を開始しました。

お弁当販売にあたっては、店頭販売と予約受けつけも行い、販売・受け渡し時間を16時から17時までに限定することで、携わる職員数が少なくても対応できるように工夫しました。販売数は50食限定としていましたが、実際には60食ほど作っていました。メリ・メロの厨房は、一般家庭の厨房機器を使用しているため60食が限度でした。管理栄養士と保育士の2名でお弁当づくり、仕上げ、販売まで行いました。

お弁当の内容は、主菜の魚、肉、副菜を毎日ランダムに変えました。管理栄養士の監修により、栄養バランスを考え、さまざまな食材を使用しています。コロナ禍で買い物にも行けない方にも、食の面から健康を維持してもらえる内容としました。チラシは、保育園に勤務する保育士が作成しました。

お弁当販売期間中にアンケートを実施

メリ・メロでは、日頃から不定期にアンケートを実施しています。今回のお弁当販売期間も、地域のニーズを把握するため、アンケート調査を実施しました。アンケート結果からは、「マスク、消毒剤などの物的な不足があった」「友人との交流、会話、娯楽が減ってしまった」「コロナへの感染が不安」「感染症対策などの具体的な方法が知りたい」など、日頃からメリ・メロが大切にしていたコミュニケーション、情報提供の部分が不足している傾向が見られました。

一方、お弁当の販売事業は、コロナ禍での手探りの事業でしたが、栄養バランスのとれた食事の提供ができたことや、週替わりで健康に関する豆知識も入れたことで、少しでも地域の皆様のご要望に応えられたのではないかと考えています。

<お弁当を買った方の反応>
  • 毎日買いに来る方が30%程度いた
  • お昼の弁当は多いが、夕食用はスーパーくらいしかないので助かる
  • 管理栄養士監修なので安心できる
  • 安いので助かる
  • 早くお店を再開してほしい

感染対策してカフェを再開

これまでの情報配信はLINEだけでしたが、弁当販売を行っている自粛期間中に、ホームページの新設やFacebookも始めました。直接会うことができない中で、今後も新しいコミュニケーションツールとして、活用していたいと考えています。Facebookやホームページは職員の手づくりです。メリ・メロの今後について伺ったアンケートの項目では、「今までどおりでよい」という声が一番多く、開店からメリ・メロが取り組んできたコミュニティづくりが間違いではなかったと、嬉しかったです。

6月半ばから、スタッフ全員に感染症対策の周知を行いました。会議を重ね、管理栄養士による衛生研修、店内清掃を行い、7月7日より通常オープンしています。オープンに際しては、日本フードサービスのガイドラインに基づき、検温や連絡先の記入をすべてのお客様にお願いしています。また、店内の座席は半数にして対応しています。オープン後、「感染症対策がしっかりしているのでメリ・メロに来た」「お弁当しか利用したことはなかったけれど、実際に店内で皆さんと交流したいと思って来店した」という声も聞かれ、嬉しく思っています。

今後も、必要な方に必要な支援を届けることを目標に、地域のニーズを把握しながら、目の前にある課題に一つ一つ取り組みながら、運営を続けたいと思っています。最後に、コロナ禍という今までにない経験を通じて、法人職員として地域の方々にどのような取り組みができるのか、改めて考えるきっかけとなりました。これからも、地域の方々に支えてもらいながらメリ・メロを運営していきたいです。

 

コロナ禍の「れいんぼう」の取り組み
社会福祉法人 大洋社 常務理事 斎藤弘美氏

大洋社は、東京で学校の教員をしていた私の祖母が、大正時代に不況で生活に困窮したり、関東大震災で被災したりして、帰る家のないひとり親家庭の方たちを何とかしたいと、自宅を開放して始めた法人です。現在は、大田区と練馬区で子供事業を中心に行っています。

れいんぼうを始めた背景

大田区の二つの母子支援施設において、「れいんぼう」という取り組みを行っています。大洋社では子供どもの未来をつくるために、家族が幸せになるような支援を大切にしてきましたが、そのためには地域が良くなることも重要です。しかし、そうした活動を私たちで行うという視点が足りなかったことから、れいんぼうを始めることになりました。

母子生活支援施設の利用者の方から、施設の退所後に仕事を辞めたとか、子供どもが学校に行っていないとか、話し相手がいないといった話をたくさん耳にして、地域にいるひとり親の方たちにも利用できる何かが必要だと考えていました。人との関わりが少なく、孤立しやすい状況にあると、困ったときに相談できる場がなく、生活困窮に陥りやすくなります。生きる力を身につけるためには、さまざまな人と出会い、体験をしながら、人間関係をつくれる居場所があるとよいなと考えていました。

そうした活動をするには、私たちの母子生活支援施設も孤立せず、地域で仲間をつくる必要があります。そこで、大田区社会福祉協議会を中心に、大田区内の社会福祉法人が集まれる「大田おおた福祉ネット」の開設を応援し、その中で私たちもれいんぼうを始めることになりました。

おおたスマイルプロジェクト3つの「れいんぼう」

れいんぼうは年齢対象別に三つのグループがあります。内容は、学ぶ・食べる・動く・体験するという4つのテーマで、毎年利用する人たちの状況に合わせて企画しています。年齢ごとに課題、サポートしてくれる人や団体も変わりますが、参加者は参加期間中に達成したい目標を立て、将来の夢やなりたい自分に近づくために、さまざまな人たちの協力を得て、社会との接点を持ちながら、スモールステップを体験しています。

足りないものも多いですが、大田区社協を通して、さまざまな方からの支援でまかなっています。例えば、食事は、近隣の社会福祉法人やNPO、企業から支援してもらっています。その他、ヨガやポールウォーキング、遊び体験など大田区内の社会福祉法人の協力で、楽しい思い出をたくさんつくってきました。

 

これまでのれいんぼうの取り組み

2015年度に大田区社協の協力のもとで「Kidsれいんぼう」を開始し、その後、2016年度から「JOYれいんぼう」と「ママれいんぼう」を開始しました。その間、多くの子供どもたちやお母さんがれいんぼうに参加してきましたが、当初は、参加人数が少ない日もありました。最近は、地域の方にも認知されていると感じています。そして、数年前から、地域共生社会をつくっていくには、大人も子供どももお互いに助けたり、助けられたりすることを自然にできることが大事だと考えるようになり、「おおた子供ども民生委員」を開始しました。こうした事業を継続する中で、私も子供どもたちや地域から多くを学び、とても楽しい時間を過ごし、この活動を続けることが重要だと日々、感じてきました。

 

コロナ禍のれいんぼう

ようやく、皆の心が開きかけた頃に、コロナ禍に見舞われました。れいんぼうの活動のテーマは、さまざまな人と出会い、さまざまな体験を通して、生きる力を身につけることです。人と話をしたり、体験したり、皆でつくった食事を一緒に食べることで、人と関わることの大切さを実感していました。ところが、人と会うことができない、話すこともできない、皆でつくった食事を一緒に食べられない状況となり、たくさんの宿題に親子で頭を抱えたり、なかには、リストラされたお母さんもいました。

私は一時期、コロナの前ではとても無力だと感じていました。しかし、職員たちは、新規募集はできないまでも、これまで来ていた子供どもたちに電話をかけて、「どうしている?」「何か困っていない?」と話を聞き続けました。そうして、料理を届けたり、希望に応じて課題を出したり、マスクをつくったり、料理のレシピが欲しいという声に応えたり、さまざまなかたちで関わりを続けてきました。

その姿を見て、オンラインで皆でつながれないかと考えるようになり、ご縁を探していたところ、東京ボランティア市民活動センターの紹介で、株式会社パソナグループを紹介され、ママれいんぼうのお母さん向けに、「オンライン面接講座」を開設することになりました。企画会議を重ね、秋からスタートする準備を進めています。オンライン環境は、まだまだ十分とはいえませんが、工夫しながら、会えなくても孤立しない人間関係が持てるように支援していきたいと考えています。


今後のれいんぼう

今後もまだまだコロナの影響があると思いますが、こんなときだからこそ、これまで支援してくださった方々に、感謝の思いを伝えるために、サンクスカードや手づくりのクールマスク、子供たちがつくった防災マップなどを渡しながら、状況を報告し、せっかくの絆が切れないようにしたいです。

そのためには、れいんぼうの活動を理解してくれる職員や地域の方々の協力がとても大切です。今後も、子供どもたちの未来の可能性が閉じないように、自分たちの心も閉じないように、活動していきたいです。

 

ワンチームでコロナに立ち向かう
社会福祉法人武蔵野会 リアン文京 野村美奈氏

武蔵野会の理念とミッション

社会福祉法人武蔵野会の理念は、「自分を愛するようにあなたの隣人を愛せよ」です。リアン文京は、東京都文京区小日向にあり、子どもから高齢者、障がい者まで、さまざまな事業を行う複合施設となっています。私たちは、「絆社会の実現を目指す」というミッションのもとで、自分、チームのメンバー、利用者、地域社会という4つのベクトルでつながりを深めています。

コロナ禍で法人理念に立ち返る

コロナ禍において、私たちはまず、理念に立ち返りました。連日、報道されるさまざまなニュースで不安になったり、職員の気持ちが揺らいだり、「不要不急とは一体何だろう」「私たちにできるサービスは何だろう」と考え初め、迷うこともありました。そこで、皆で理念についてもう一度考え、私たちの仕事の意義や目的、社会的使命を全体で確認しました。そうすると、これから何をすべきか、そうだ、ワンチームで向かっていこうという気持ちが醸成されていきました。

次に、感染症対策本部を立ち上げました。皆で感染症に立ち向かっていこうと、各事業の代表職員が集まり、週に一度の会議を開き、感染症対策を行っています。今は、全員で集まってはいませんが、ワーキンググループをつくり、手洗いの講習や消毒ができているか、確認し合っています。

 

安全確保とニューノーマル

私たちが大切にしている、4つのベクトルのつながりについて説明します。

一つ目のつながりは、自分です。「自分を愛するように」と理念にあるように、私たちは、まずは自分自身のケアを大切に考えています。ストレスで緊張を感じたら、休憩時間に外へ出て深呼吸をして自分を取り戻すこと、不安にとらわれず、今この瞬間を大切にすることを職員に伝えています。また、私たちには、どういう職員でありたいかなどを記したクレドカードというものがあり、それをもう一度、皆で読み返しました。ふだんから折に触れて読み返したり、研修をしたりしていますが、ここで、私たちが大切にしている価値は何かを思い出し、もう一度、ワンチームで向かっていくという思いを確認してきました。

二つ目は、チームのメンバーです。リアン文京では、開設当初から職員集団を「チームリアン」と呼んできました。皆が役割を持ってコロナ対策を行おう、という意識づけのために、事業ごとにコロナ対策を紙にまとめて紹介しています。施設長は、手紙で職員に「一緒に頑張っていこう」というメッセージを発信しました。また、緊急事態宣言中は、区から休業中の子育てひろばを借りて、職員のリフレッシュのために休憩場所としました。職員の描いた絵を飾ったり、音楽を流したりして、くつろげる雰囲気をつくりました。そして職員たちだけではなく、給食や清掃、送迎などの業者さんもチームのメンバーと考え、感謝の思いを伝えてきました。

三つ目は、利用者です。フィジカルディスタンスや3密緩和をポジティブに捉え、個別支援を進めるきっかけとしました。例えば、活動場所の構造化を行う一方で、花や絵画、音楽、アロマを取り入れて潤いのある空間にしつらえたり、なでると鳴く猫型ロボットを取り入れるなど、利用者さんにとって入所施設でのステイホームとは何かを考え、実現させてきました。

 

四つ目は、地域社会です。リアン文京では100人規模の活動を行ってきましたが、今は、不可能です。そこで、全事業所のオンライン化を進め、栄養士の離乳食相談、介護予防の体操をYouTubeで流すなど、専門職のサービスを提供してきました。また、利用者さんと一緒にフェイスガードやエプロンを作成し、地域の施設へ無償配布も行いました。

 

 

キーワードは新しい「つながり方」

これから私たちが行っていきたいのは、一つ目は、withコロナの地域公益活動の継続です。つながりの再確認と、新しいつながり方を「できることからやろう」が、すべての合言葉です。直接、来なければできないのではなく、来られないなら、どういうつながり方ができるのかをもう一度考えて、取り組んでいきたいです。

二つ目は、ICTの活用と情報リテラシーの促進です。子育て世代からシニアまで情報アクセスの支援を行っていきます。スマホを使えない、パソコンを持っていない、というシニアの方々に、スマホ講座を定期的に行っていくなど、情報がきちんと届くように取り組んでいきたいと思います。

三つ目は、障がい者の社会参加です。コロナ禍においては、障害がある方もない方も、子供も大人もシニアも、皆が当事者です。障がいのある方も、アートの分野など自分の強みを生かし、それぞれができる貢献を考えていきたいと思っています。

四つ目は、withコロナの専門性の発揮です。私たちは、障がい者福祉、高齢福祉を行っていますが、在宅と連携した専門的な個別支援では、引きこもりの方にZOOMで言語療法を始めました。施設に来るのが難しく、つながれなかった方でも、ZOOMならできるなど、コロナ禍を逆手にとって、新しい活動ができました。このようなかたちで、私たちの専門性を発揮していきたいと考えています。また、一時保護所の開設、運営も必要だと考えています。文京区の障がい者の入所施設はリアン文京のみです。社会的な役割として、ご家族が濃厚接触者となった場合、支援する人がいなくなり、行き場がなくなった障がい者の受け入れ体制を文京区と一緒に整え、開設に向けて準備しています。

 

 

 

<社会福祉法人の取組みの質疑応答>

左上:小林先生、右上:野村さん、左下:斎藤さん、
右下:中村さん、式地さん

小林)三つの法人のお話を伺い、素晴らしい取り組みをされていることがよくわかりました。私からは、コロナ禍前とコロナ禍で変わったことを伺いたいと思います。ポイントは次の3点です。発表の中に出てきたこともありますが、地域での公益活動において、これらは特に重要だと考えているため、補足をお願いします。

<3つの視点>
  1. それぞれの事業における変化
  2. サービス利用者の変化
  3. 地域との関係の変化

式地)事業の変化については、コロナ禍前は、お母さんたちや高齢者がくつろいだり、悩みを相談したりというカフェだったので、オープンから夕方近くまで滞在する方もいましたが、コロナ禍では時間制限を設けたため、短時間の対応を余儀なくされました。また、あまり会話をしてはいけないというガイドラインのため、会話よりも飲食で楽しんでもらえるように工夫しています。知識を伝える方法としては、毎週内容が変わる健康まめ知識のチラシをお渡ししています。それから、ベビーマッサージ、離乳食相談、赤ちゃんの計測、お誕生会といった無料イベントを開いていたので、お子さんの成長を毎月楽しみに来られていたお母さん方からは、再開を希望する声が聞かれます。

利用者の変化については、羽村市にはテイクアウト支援として、お弁当が半額になる事業があり、羽村市全域で全戸配布になったチラシで、メリ・メロを知った方も多くいました。緊急事態宣言が解除され、そういう方が来店され、「管理栄養士さんもいて、安心できます」といった声も聞いています。ホームページやFacebookなどの新しいコミュニケーションツールを利用して、広がったつながりを絶やさないように、今後も取り組んでいきたいです。

斎藤)事業の変化については、私たちの取り組みは、皆で一緒にわいわいやって、さまざまな人と関わっていくというやり方で、密になることが多かったため、それが全くできなくなったことは、ショックでした。子供たちも、楽しみにしていたことがなくなってしまい、ストレスを感じているようでした。そこで、何らかの形で、子供たちが成長できることをしたいと考え、オンラインを使って、さまざまな人との関わりの扉を開くようなことを行っています。財源や環境があるわけではなかったので、さまざまな方に協力を呼びかけました。その一方で、子供たちの安全を守るために、オンラインのミーティング機能においては、録音はしない、顔を見せてはいけないなどルールづくりの必要性を感じています。

地域との関わりの変化については、交流ができるようになったところで、動きが止まってしまいました。社協や地域に連絡すると、皆さんもいろいろな思いがあったようで、集まったときには、千羽鶴を折って皆で祈願したいなど、アイディアが出てきました。体験したことを無駄にしないように、地域でつながれる発信をしていきたいです。

野村)利用者の変化については、高齢者では社会的孤立を感じている方、体力的にフレイルが進んだ方が増えてきたように思います。事業の再開後、来てくださる方も増えましたが、人数制限や歌を歌ってはいけないといったさまざまな縛りがあります。健康麻雀は、高齢の男性の良いコミュニティになっていましたが、集まれないことで、それが崩れてしまいました。その代わりに何かできないかと思い、少し距離をとってゲームの麻雀を始めると、非常に喜ばれ、また集まってくれました。つながる方法を変えるなど、工夫をしながら活動しています。

メッセージカードのようなアナログなツールも、非常に有効だと思っています。私たちは、今まで利用してくださった方へ、利用者さんが絵を描いてくれた1,500枚のメッセージカードを送りました。「見たよ」と連絡があり、とても励みになりました。YouTubeを見られない方も多いシニアには、毎週手紙を送っていました。その中に、体操のチラシなどを入れ、「体操日記をつけてください。再開したら、持ってきてください。みんなで励まし合いましょうね」と、相互のつながりを感じられるように、いろいろなことを試しました。コロナ禍において、孤独や社会的孤立を防ぐために、「一人じゃないですよ」と伝えるような取り組みを行ってきました。

小林)皆さんのお話を伺って、集会型のイベントがストップしてしまったことを通して、それに代わる新しい方法やツールを模索しながら、取り組んでおられると感じました。職員、地域の方の協力もあると思いますが、根本に立ち返って、これからどういう方向を模索すればいいのかがわかって、とても良かったです。

後半は、区市町村社協を中心としたネットワークによる取り組みについてご報告いただきます。

 

コロナ禍における文京区地域公益ネットワークの取り組み
文京区社会福祉協議会 地域福祉推進係
地域福祉コーディネーター兼生活支援コーディネーター 本多桜子氏、浦田愛氏

文京区と地域福祉コーディネーター

文京区は、面積12㎢、人口22万人程度で、人口密度の高いエリアです。文京区社会福祉協議会は、施設を運営していない50名程度の規模の小さな社会福祉協議会です。そのうち10名が地域福祉コーディネーターで、地区担当として活動しています。私は全域の担当として、地域福祉コーディネーターを担っています。

文京区内の全社会福祉法人で取り組む「夢の本箱」プロジェクト

文京区は製本所や出版社が多く、本とゆかりの深いエリアです。「夢の本箱」は、古本を活用したプロジェクトで、「本でつなぐ文京の未来」として、文京区内の株式会社ブギの協力を得て、文京区地域公益ネットワークの中で立ち上げました。平成28年に地域公益活動に関する情報交換を行い、平成29年に全法人にアンケート調査をしてアイディアを出していただき、そのアイディアを元に平成30年に夢の本箱プロジェクトがスタートしました。今年度で3年目です。

平成29年度のアンケート調査では、地域公益活動を始めやすい条件として、社会福祉法人を地域の人々に知ってもらえる機会になること、人材が不足している中であまり人手がかからないこと、などの声が上がりました。それら意見とブギ社が提案してくれたアイディアを基に、夢の本箱プロジェクトが始まりました。

夢の本箱プロジェクトは、子供たちが笑顔で夏休みを過ごせるようにしたい、というのが目的です。その仕組みは、まず、個人や法人からの不要になった本を、区内の社会福祉法人の施設の入口などに設置した「夢の本箱」に投函してもらい、その本をブギ社に買い取ってもらいます。買い取り金額に、ブギ社からの一部寄付を載せていただいたお金を財源として、子ども食堂の食事代に充て、夏休み期間の子供の食と居場所を提供します。本箱は、区内の社会福祉法人に22か所設置されています。

文京区地域公益活動ネットワークは、企画・協働推進10法人、広報戦略7法人、財務5法人で構成され、社協は事務局として、会計や企画のサポートを行っています。

本の寄付実績は、初年度は約年間4000冊/20万円、令和元年度は約4000冊/23万円となりました。令和2年2月は251冊/22,520円、3月は346冊/25,633円、4・5月は251冊/7,869円です。


コロナ禍での取り組み「学校休校時の食支援プロジェクト」

夢の本箱プロジェクトによる財源を、コロナ禍による休校となった子供たちの食支援に充てるため、「学校休校時の緊急食支援プロジェクト」が始まりました。

3月の1週目から文京区も休校となり、夢の本箱プロジェクトの財源を使った企画検討が始まりました。第1段階は、社協でつながっている5つの家庭に対し、武蔵野会と三幸福祉会からの寄付を届けながら、ヒアリングを行いました。そこで、昼食の支援が求められていることがわかり、第2段階として、場づくりの支援と弁当の配達を行うことを決めました。3月の段階では、まだ子ども食堂を継続していたため、休校中の子供の居場所づくりのために、合計5回開催しました。食事は、すべて区内の社会福祉法人からパンや唐揚げ、お弁当などを提供してもらい、資金は夢の本箱から拠出しました。

一方で、自宅にお弁当を届けてもらえれば助かるという声もあり、社会福祉法人えんむすびによる10家庭へのお弁当の配達がスタートしました。配達は、学習支援のボランティア、主任児童委員が行いました。

4月には、コロナの感染拡大により、ボランティアが主催する子ども食堂が開催できなくなったことで、第3段階として、常設型の場所――喫茶店等での食事の提供がスタートしました。提供場所は、動坂こども食堂、浩吉カフェ、コナです。兄弟数や利用日数に応じて、必要枚数のチケットを各家庭に配布し、月末にお店から枚数を報告してもらい、夢の本箱から料金を支払う形式としました。

学校休校時の緊急食支援プロジェクトにかかった費用は、第2段階のお弁当配達、場づくり支援は200食/11万円、第3段階の常設型の場所での食事提供は350食/26万円となりました。当初は子供のみを対象としましたが、対象となった家庭21世帯のうち、シングル家庭が17世帯で、大半を占めるなど、こどもだけでなく家庭への支援が必要なことがわかり、利用者を拡大しました。また、飲食店などの実店舗、専門職の方、公的機関など、ネットワークが広がりました。

地域ネットワークの今後

今回の経験を生かし、より地域と一体となり、社会福祉法人のネットワークが拡大できるかという議論を始めたところです。法人のみが主体になるのではなく、社会福祉法人のネットワークが地域を支えていくような取り組みになっていく必要があると考えています。

 

東村山市内社会福祉法人連絡会「お昼ご飯お届け事業」
東村山市社会福祉協議会 武者吉和氏

法人と協力して、お昼ご飯を届ける事業を開始

コロナ禍において、地域でさまざまな出来事があったと思います。東村山市も、東京オリンピックが延期にならなければ、7月14日に聖火リレーが行われる予定でした。走者は、志村けんさんでした。しかし、志村さんは新型コロナウイルス感染により、逝去されました。東村山市全体が大きなショックを受けました。

その中で、社会福祉協議会としては、コロナ禍の中で何ができるか、必要なものは何かを職員会議で話し合いました。その頃、学校が休校となり、お昼ご飯に困っている家庭が多いと報道されたこともあり、社協では、社会福祉法人の施設の協力を得られれば、地域公益事業として、お昼ご飯を届けられるのではないかと考えました。

早速、法人連絡会の幹事会メンバーの4法人に連絡したところ、おおむね了承をいただき、27法人に緊急アンケートを実施しました。発送したのが4月13日で、締め切りまでわずか2日間でしたが、そのうち7法人、12施設から協力できるという返事をいただきました。法人連絡会の代表幹事は、社会福祉法人が一歩踏み出し、地域公益活動によって地域の課題解決に取り組まなければならないと、常々発言していたため、大変な状況の中で、各法人施設も協力を表明してくれました。

5月11日から実施

実施期間は、令和2年5月11日から6月9日、参加法人は、社会福祉法人村山苑のつぼみ保育園、ふじみ保育園、小さい共同体の飛翔クラブです。

社協の役割は、広報、お弁当の配達、会計等の事務全般です。お弁当の実費は300円かかり、それを施設に支払いますが、利用者の負担額は100円として、差額の200円を社協が負担しました。

学校が休校となってから、すぐに取り組むことができず、歯がゆさもありましたが、5月の連休明けには実施すると広報しました。事業を実施するにあたり、法人連絡会の市の担当所管にも相談しました。そして、関係所管には、市の所管からも連絡してもらうなど、協力体制を構築しました。この事業の対象者は、給食がなくて困る小中学生なので、貧困などの理由は問いませんでした。ただ、実際に困っている家庭に届くように、市の生活福祉課に依頼して、チラシ等を配布しました。

利用者は15世帯27名、延べ食数は385食です。内訳は、5月(5月11日~29日、平日15日間)275食、6月(6月1日~6月9日、平日7日間)110食となっています。急なキャンセル等もあったため、5食分は社協職員が買い取り、食べました。

一日当たりの受付数は、20食です。この数が多いか少ないかという議論はあるかもしれませんが、万が一、調理する施設でコロナ感染者が出た場合、他の施設でも対応ができるように、20食限定としました。私たちも初めての取り組みだったため、開始当初の1週間は食数を絞って、15食の提供としました。市内の小学校は6月8日より、中学校は2週目以降から給食が開始されたため、事業はそこまでの期間としました。

総費用は、300円×390食=117,000円、利用者負担額100円×385食=38,500円、職員負担額300円×5食=1,500円、社協負担額200円×385食=77,000円でした。また、パチンコ店のパーラーマイニチ東村山店より、景品のお菓子の寄付があり、お弁当と一緒に配布しました。

栄養価に富んだお弁当

お弁当を紹介します。5月19日のふじみ保育園でつくったメニューは、ミルクパン・魚のパン粉焼き・マカロニサラダ・アスパラ・トマトです。とても栄養価に富んだお弁当をつくってくれました。5月21日のつぼみ保育園でつくったメニューは、ごはん・チーズハンバーグ・切り干し大根の煮物・いんげんのソテーです。5月20日の飛翔クラブでつくったメニューは、ごはん・鶏フライ・煮物です。飛翔クラブでは、利用者さんによる手描きのメニューをつけてくれました。

ふじみ保育園のメニュー、ミルクパン、魚のパン粉焼き、
マカロニサラダ、アスパラ、トマト

つぼみ保育園のメニュー。ごはん、チーズハンバーグ、
切り干し大根の煮物、いんげんのソテー

今後の取り組み

今回の取り組みは、20食でした。困っている家庭はもっと多かったかもしれませんが、私たちも無理をしないように、その食数としました。社協だけでは、お弁当をつくることもできず、活動もできませんが、普段から社会福祉法人のネットワークが構築されているため、緊急的な事業でも、皆さんに対応してもらえました。

今後は、コロナの影響と関係ありませんが、夏休みで給食がなく、食事に困っている家庭向けに、8月11日から21日間、お弁当を配達する予定です。

 

 

 

区市町村ネットワークの質疑応答

 

 

左上:小林先生、右上:武者さん、左下:浦田さん、
右下:本多さん

食事の提供は、特定の法人や団体が行うことになり、それに対して、ネットワークが関わるのは難しい面もあるのではないかと感じました。その観点から、伺いたいことが4点あります。これらの中で、答えられることがあれば、聞かせください。

<4つの視点>
  1. 費用をどのように調達したか。
  2. 配達する人員をどのように調整したか。
  3. 地域との関わりで必要なことはあるか。
  4. どのような課題があったか。

浦田)財源調達に関しては、文京区では夢の本箱という方法を持っています。年間20万円ちょっとですが、古本の売上があることで、安定的な財源の確保ができています。今回、こうした活動をPRすることで、本を集めたり寄付したりすることに賛同してくれる企業もあり、外側に向けて活動をPRすることは、新たな財源の確保につながるのではないかと考えています。

配達の仕組みは、今回はチケット制にしましたが、一時は、主任児童委員さんが届けてくれました。この夏も、一部の家庭には、緊急支援の延長としてサービスを提供していますが、地域の方が配達することは、地域の方が困っている家庭とつながるきっかけになるという意味で良かったと思います。その一方で、地域とつながりたくないという家庭があることもわかりました。そういう意味では、チケット制で、自分が好きなときに行って食事がとれる仕組みも必要だと感じています。

地域との関わりという点では、今回、商店も参加して、ネットワークが拡大しました。しかし、このプロジェクトを一緒にやっているという統一された認識がないことも感じました。今後のネットワークの課題にもつながりますが、せっかく企業や商店、地域、行政が一緒になって緊急支援を進められたので、これをきっかけに皆で同じプロジェクトに参加しているという一体感をどうすれば出せるのかを考えていきたいと思っています。

武者)安定的な財源に関しては、法人連絡会、ネットワークとしては構築できていません。今回の事業は、いくらだったらお弁当をつくれるのか、公益活動として妥当な金額はいくらかなど、法人連絡会のアンケートで意見を募り、300円という金額が妥当だと判断しました。そして、利用者さんには100円を負担してもらい、残りは社会福祉協議会が募金活動など、自主財源として確立している財源を使って賄いました。安定的な財源の確保は、これからの課題です。

配達については、職員が緊急事態宣言中は在宅勤務だったこともあり、在宅勤務中の職員が参加しました。3名体制でしたが、お子さんも、一人より二人で届けたほうが安心できるという声もあり、その体制で配達しました。しかし、夏休みは3名体制が難しく、ボランティアセンターに協力を依頼しました。すぐに手を挙げてくれた方がいため、ドライバー役の職員とボランティアさんが一緒に配達しました。東村山のボランティアセンター推進委員会委員長の大学の先生も配達に手を挙げてくださったので、参加していただきました。

地域との関係は、全体のネットワークの中で、関係を持ったのは2法人3施設でしたが、協力できるという施設、法人は、それ以上にありました。この夏休みも、別法人がお弁当づくりに名乗りを上げています。現在、ネットワークを構築中ですが、普段からエリアごとに法人、団体が一緒にイベントを行ったり、会議や懇談会を開いたりしているため、地域との関係づくりは、難しいことではないと考えています。

小林)法人とネットワークの取り組みを伺い、違った視点から地域公益事業の意義を確認できました。コロナ禍という経験したことのない状況の中でも、さまざまな取り組みをされていますが、リアン文京のように、考えを共有して、具体的な施策に移していくという仕組みができれば、この状況を乗り切っていけるのではないでしょうか。

これからの社会福祉法人も社会福祉協議会も、ネットワークとのつながりがとても重要です。社会福祉法人では専門的な情報を提供して、コロナの対応を考えるなど、協力しながら活動していけば、さまざまな可能性があるのではないかと思います。

また、地域には、人材、財源、何よりもコミュニケーションという資源があります。そこで、新しいネットワークをつくることで、地域公益事業が広まっていくのではないかと感じています。法人も社協も協力して、取り組みを深めていただきたいと思います。

山田)本日は、たくさんの可能性を感じられるお話を聞くことができました。新型コロナウイルスの感染者も増えて、現場は大変です。それでも、困っている方とつながりながら、自分たちのできることを探られているのが印象的でした。これが福祉の原点ではないでしょうか。東京都の地域公益活動推進協議会では、こうした活動を紹介したり、皆さんのご意見をいただいたりしながら、さまざまな活動を進めていきたいと思います。