コロナ禍の「れいんぼう」の取り組み
社会福祉法人大洋社(大田区)
令和2年8月7日に開催した「コロナ禍の地域公益活動を考える オンライン実践発表会」で発表いただいた内容を掲載します。
発表者:社会福祉法人 大洋社 常務理事 斎藤弘美氏
令和2年10月2日掲載
れいんぼうを始めた背景
社会福祉法人大洋社は、東京で学校の教員をしていた私の祖母が、大正時代に不況で生活に困窮したり、関東大震災で被災したりして、帰る家のないひとり親家庭の方たちを何とかしたいと、自宅を開放して始めた法人です。現在は、大田区と練馬区で子供事業を中心に行っています。
大田区の2つの母子支援施設において、「れいんぼう」という取組みを行っています。大洋社では子供の未来をつくるために、家族が幸せになるような支援を大切にしてきましたが、そのためには地域が良くなることも重要です。しかし、そうした活動を私たちで行うという視点が足りなかったことから、「れいんぼう」を始めることになりました。
母子生活支援施設の利用者の方から、施設の退所後に仕事を辞めたとか、子供が学校に行っていないとか、話し相手がいないといった話をたくさん耳にしていました。地域にいるひとり親の方たちにも利用できる何かが必要だと考えていました。人との関わりが少なく、孤立しやすい状況にあると、困ったときに相談できる場がなく、生活困窮に陥りやすくなります。生きる力を身につけるためには、さまざまな人と出会い、体験をしながら、人間関係をつくれる居場所があると良いなと考えていました。
そうした活動をするには、私たちの母子生活支援施設も孤立せず、地域で仲間をつくる必要があります。そこで、大田区社会福祉協議会を中心に、大田区内の社会福祉法人が集まれる「おおた福祉ネット」の開設を応援し、その中で私たちもれいんぼうを始めることになりました。
おおたスマイルプロジェクト3つの「れいんぼう」
れいんぼうは年齢対象別に3つのグループがあります。内容は、「学ぶ」「食べる」「動く」「体験する」という4つのテーマで、毎年利用する人たちの状況に合わせて企画しています。年齢ごとに課題、サポートしてくれる人や団体も変わりますが、参加者は参加期間中に達成したい目標を立て、将来の夢やなりたい自分に近づくために、さまざまな人たちの協力を得て、社会との接点を持ちながら、スモールステップを体験しています。
足りないものも多いですが、大田区社協を通して、さまざまな方からの支援でまかなっています。例えば、食事は、近隣の社会福祉法人やNPO、企業から支援してもらっています。その他、ヨガやポールウォーキング、遊び体験など大田区内の社会福祉法人の協力で、楽しい思い出をたくさんつくってきました。
これまでのれいんぼうの取り組み
2015年度に大田区社協の協力のもとで「Kidsれいんぼう」を開始し、その後、2016年度から「JOYれいんぼう」と「ママれいんぼう」を開始しました。その間、多くの子供たちやお母さんがれいんぼうに参加してきましたが、当初は、参加人数が少ない日もありました。最近は、地域の方からも認知されていると感じています。そして、数年前から、地域共生社会をつくっていくには、大人も子供もお互いに助けたり、助けられたりすることを自然にできることが大事だと考えるようになり、「おおた子供民生委員」を開始しました。こうした事業を継続する中で、私も子供たちや地域から多くを学び、とても楽しい時間を過ごし、この活動を続けることが重要だと日々、感じてきました。
コロナ禍のれいんぼう
ようやく、皆の心が開きかけた頃に、コロナ禍に見舞われました。れいんぼうの活動のテーマは、さまざまな人と出会い、さまざまな体験を通して、生きる力を身につけることです。人と話をしたり、体験したり、皆でつくった食事を一緒に食べることで、人と関わることの大切さを実感していました。ところが、人と会うことができない、話すこともできない、皆でつくった食事を一緒に食べられない状況となり、たくさんの宿題に親子で頭を抱えたり、なかには、リストラされたお母さんもいました。
私は一時期、コロナの前ではとても無力だと感じていました。しかし、職員たちは、新規募集はできないまでも、これまで来ていた子供たちに電話をかけて、「どうしている?」「何か困っていない?」と話を聞き続けました。そうして、料理を届けたり、希望に応じて課題を出したり、マスクをつくったり、料理のレシピが欲しいという声に応えたり、さまざまなかたちで関わりを続けてきました。
その姿を見て、オンラインで皆でつながれないかと考えるようになり、ご縁を探していたところ、東京ボランティア市民活動センターの紹介で、株式会社パソナグループを紹介され、ママれいんぼうのお母さん向けに、「オンライン面接講座」を開設することになりました。オンライン環境は、まだまだ十分とはいえませんが、工夫しながら、会えなくても孤立しない人間関係が持てるように支援していきたいと考え、企画会議を重ねました。
工夫した活動の継続
その後、ママれいんぼうでは、キャリアデザイン講座が開催され、参加者からは「自身のキャリアデザインを改めて考える機会となった」との声を聞くことができました。
また、KidsれいんぼうやJOYれいんぼうでも、それぞれ工夫した活動が行われ、様々な感想があがっています。運営職員も、回を重ねるごとに自分たちの企画力の向上を感じながら、コロナ禍で出来ることを職員ひとり一人が考え、利用者に楽しんでもらうための工夫をしていきました。
コロナ禍におけるれいんぼうの活動
≪Kidsれいんぼう≫
学習:密にならないような配置での学習プログラム
調理:子供たちに食材とレシピを渡し、家庭内で親子で調理
健康:密にならないよう小グループに分かれ、ヨガや盆踊りを実施
体験:オンラインにて子ども民生委員、工場見学などを体験
(参加者の声)
・民生委員の委嘱式は、初めてのオンラインで緊張した
・自分の顔が映っていて面白かった
・エビのことを知れて楽しかった
≪JOYれいんぼう≫
学習:密にならないような配置での学習プログラム
調理:子供たちに食材とレシピを渡し、家庭内で親子で調理
健康:密にならないように小グループに分かれ、ダンスを実施
体験:オンラインバスツアーとクリスマス会を実施(他法人の方も参加)
(参加者の声)
・オンラインだけど久しぶりにJOYメンバーに合うことが出来て嬉しかった。
・送ってもらった食材で家でご飯を作って食べた。
・オンラインバスツアーで皆で旅行に行った気分になれた。
≪ママれいんぼう≫
学習・生活:少人数のグループを作成し、2、3部制に分かれてプログラムを実施
体験:オンラインにてキャリアデザイン講座を開催
(参加者の声)
・自身のキャリアデザインを改めて考える機会となった。
今後のれいんぼう
新型コロナウイルスの感染予防のため、今後もオンラインでの開催を企画していく方向です。課題として、参加していただくためのネット環境を整えていく必要が求められています。また、直接会えない中での他法人とのつながりをどのように工夫していくかの検討も必要です。
こんなときだからこそ、これまで支援してくださった方々には、感謝の思いを伝え、状況を報告し、せっかくの絆が切れないようにしたいと考えています。そのためには、れいんぼうの活動を理解してくれる職員や地域の方々の協力がとても大切です。子供たちの未来の可能性が閉じないように、自分たちの心も閉じないように、活動していきたいと考えています。
令和2年度に開催した「コロナ禍の地域公益活動を考えるオンライン実践発表会」において発表いただいた内容を編集しました。
発表者 社会福祉法人大洋社 常務理事 斎藤 弘美さん