社会福祉法人の使命に基づき、地域における福祉課題の解決に向けて、3層による地域公益活動を推進します。

東京都地域公益活動推進協議会

ホーム > 各法人の取組み事例の紹介 > 就労支援事業~輝いた人生への応援

このページをプリントします

就労支援事業~輝いた人生への応援

社会福祉法人多摩養育園

現実実現のイメージ図

就労支援事業の受付を法人窓口で一元化し、就労者の性格に合った職場、仕事をマッチングしている取り組みを紹介します。就労者、受け入れ先ともにWin-Winの関係を目指しています。

令和元年10月2日開催「社会福祉法人の地域における公益的な取組み実践発表会」において発表いただいた内容を元に編集しました。

発表者: 社会福祉法人多摩養育園 光明高倉保育園 園長 林 昭宏氏
多摩特養老人ホーム 施設長 内藤 昭彦氏

「戦後の復興は、児童の養育から」を掲げて創立

社会福祉法人多摩養育園は、昭和23年の創立です。八王子市を拠点として、府中市、小金井市、あきる野市の20か所で、保育園、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、救護施設、障害者支援施設、地域包括支援センター、介護予防推進センターなど、さまざまな施設を運営しています。職員は正規、有期職員を合わせて約900名で、保育士、介護福祉士など多様な専門職が働いています。
創設者は曹洞宗の住職です。終戦を迎えた昭和20年8月、戦地から八王子市に帰還しましたが、あたりは空襲で焼け野原。人々は、生活を取り戻そうと必死に働いていました。しかし、親兄弟を失った子どもが1人で生きていくには、あまりにも過酷な環境でした。あくまで想像ですが、創設者は、飢えに苦しんでいる子どもたちに、手を差し伸べられる社会でなければ、日本の復興はあり得ないと考えたのかもしれません。「戦後の復興は、児童の養育から」という理念を掲げ、お寺の本堂を無料託児所として開放しました。それが私たち法人の出発点です。それから日本は戦後の復興を果たし、現代社会は豊かになりました。しかし、少子高齢化、貧困家庭、ひきこもり、老人の孤独死など、新たに多くの課題を抱えています。

 

地域支援という新たな理念の下、就労訓練事業をスタート

理想実現のイメージ「地域の大きな家」

そこで、「私たちは、地域の人々が、安心して、輝いた人生を実現できるよう、慈悲のこころで支援します」という新たな理念を掲げ、新理事長の下、地域の福祉の拠点となることを決意しました。20か所の施設が地域の大きな家となり、地域の老若男女、健常も障害もなく、皆が関わり合い、それぞれが輝きながら暮らせる地域を目指します。
たとえば、地域公益事業では、子ども食堂、就労訓練事業、無料塾の場所と軽食の提供に取り組んでいます。
その中から、今回は就労訓練事業をご紹介します。この事業は、平成29年に法人創立70年を迎えるにあたり、あらためて創立当時の理念に立ち返り、地域の人々のつながりを大切にしたいという思いから生まれました。そして、70周年事業として、就労訓練事業に全施設で取り組むことにしました。八王子市もまた、生活困窮者の支援制度に取り組んでおり、私たちとネットワークを組むことで、八王子市の大きな力になると思いました。
取り組みの手始めに、八王子市の現状を把握するため、市の専門家を招き、研修を行いました。八王子市には都内最多の69の社会福祉法人があり、高齢者関連施設、障がい者関連施設、子ども関連施設など、168の施設が運営されています。八王子市では、施設長会や園長会などが組織化されていますが、これらをつなげて安心安全な八王子市を作りたいという構想を持っていることがわかりました。

受入れは法人窓口で一本化

次に、法人として、就労訓練事業をどのように捉え、どのような施策を進めたらよいかを考えました。まず、事業は保育園、高齢者施設など18事業所で行いますが、受け入れは法人窓口に一本化しました。この法人窓口で、事情を把握し、各事業所に振り分けていくという体制です。
そして、18事業所において同じ動きができるように、生活困窮者就労訓練実施要領を作成し、関係書類の書式を統一しました。平成29年1月に、初の対象者を受け入れし、事業を進めながら、体制を整えてきました。現在11名の対象者が、それぞれ目標を持って活動しています。

 

  多摩特養老人ホームでの就労支援事例

多摩特養老人ホームでの就労支援事例をご紹介します。対象者のAさんは51歳。保育士の有資格者で、何度か就労経験はありますが、対人関係が苦手で、いずれも長くは続きませんでした。本人に収入はなく、同居している高齢の両親の年金で生活しています。社会問題化している、いわゆる8050世帯です。現時点では生活に困ってはいませんが、親亡き後の生活を心配して、市に相談がありました。そこで、Aさんには、平成29年7月より私たち法人内の保育園で、八王子市の就労訓練としてボランティア活動を行ってもらうことにしました。
この事業を行うにあたっては、生活困窮者自立支援制度や就労支援事業の内容について、職員一人一人に理解を深めてもうらことが重要だと考えました。そこで、職員に向けて、制度、事業について説明を行い、このような事業こそ社会福祉法人の役割であり、生活困窮者を私たちで支援していかなければならないと伝えました。一般企業では、なかなか仕事に就けない方でも、社会福祉法人の職員のサポートがあれば就労できるかもしれません。また、業務の一部を就労者に合った作業として提供することもできます。私たちが生活困窮者のセーフティーネットになるべきではないか、と職員に問いかけました。

 

就労訓練者を理解して、性格に合った仕事をマッチング

就労体験の受入れに際しても、重要なことがあります。一つ目は、考え方です。事業所として就労者に求めることは何かを考えると、当たり前のことですが、「不必要なことをやってもらう必要はない」ということです。事業所で必要なこと、やってほしいことを行ってもらうことが、お互いの利益につながります。すなわちWin-Winの関係です。やってほしいことを業務として、いかにマッチングできるかが、大きな意味を持ちます。就労者には、事業所で必要なことをいくつか用意することが重要なポイントです。
二つ目は、情報収集です。対象者のAさんがどのような方か等を職員が知っておく必要があります。前述のとおり、Aさんは法人内の保育園で既にボランティアとして活動しています。そこで、保育園の人々とのコミュニケーションから一歩進んで、より多くの人々と関わってもらおうと、訓練所に多摩特養老人ホームを選びました。都内でも、就労訓練を受け入れる保育園は多くはありません。このようなスケールメリットを活かして、ステップアップができるのも、私たち法人の強みです。しかし、Aさんは他者とのコミュニケーションが苦手です。特に男性が苦手で、わからないことがあっても質問ができません。事前アセスメントとして、保育園からのこうした情報は、とても有益でした。
三つ目は、仕事の切り出しです。Win-Winの関係で、Aさんにはどのような業務が合っているかを考えました。作業内容は、単純かつ反復性があって、覚えやすいことが大切です。また、いきなり大人数と関わらなければならない環境は、Aさんにとって負担が大きくなります。そこで、他者との関わりが限定的な場所がよいと考え、まず一階の玄関ホールの掃除から取り組んでもらい、慣れたところで、次は二階、三階、四階のごみ集めという様に段階的に作業を行ってもらうことにしました。

 

就労支援プログラムの作成

PDCAのサイクル

四つ目は、就労支援プログラムの作成です。活動は、次のようにPDCAサイクルを回していきました。

【P】プランニング
物品の準備や施設見学とともに、アセスメント情報から、本人の特徴や苦手なことを把握してプランニングしました。男性が苦手なため、Aさんがボランティア活動を行う保育園に施設長が出向き、顔を見せて、少しでもAさんの心が安定するように配慮しました。

【D】実行
平成30年5月末に就労訓練体験型としてスタートしました。就労は月・木の週2回、10時から12時に設定。保育園のボランティアも、火・水・金で継続することにしました。多摩特養老人ホームで困りごとや悩みごとが出てきたときに、保育園の職員に打ち明けられるようにしたかったからです。その情報をフィードバックしてもらうことで、就労訓練に活かすという狙いもありました。

【C】評価
保育園からの情報も含め、Aさんの困りごと、悩みごと、苦手なことを洗い出しました。

【A】改善
評価をもとに、Aさんが働きやすい業務に改善したり、物品を工夫したりしました。結果的に、全職員が働きやすい労働環境の整備につながりました。

 

働きやすい工夫が全職員の働きやすさに

職員全員の働きやすさにつながりました

具体的には、扉のストッパーを作り、ゴミ捨てカートの底を30センチ上げました。また、業務の指示書を作成して、それを見れば次にやるべきことがわかるようにしました。これによって、Aさんの心の安定につなげていきました。
ゴミ捨ての順路図も作成しました。この効果は大きかったと感じています。というのも、Aさんがコミュニケーションをはかる人数が、段階的に増えることにつながったからです。顔馴染みの利用者や職員が少しずつに増えることで、施設内がAさんの地域社会、コミュニティになっていきました。
この段階に来るまで、毎日連絡ノートで困りごとを聞いたり、就労の意識付けとしてだめなことはだめと伝えていきました。そして、就労開始の半年後、平成30年11月には、非雇用型に移行。活動日を月・火・木・金の週4日に増やし、さらに今年8月からは支援付き雇用に移行しました。最長1年間という訓練期間はありますが、Aさんは、今では多摩特養老人ホームの非常勤職員として働いています。就労する意志がいまだに向上していないという課題はあるものの、本人もやり甲斐を感じている様です。

 

地域の人々が輝いた人生を送れるように、役割を果たす

業務の切り出しで、複数の引き出しを準備して、対象者に合う引き出しを見極め、そのマッチングがうまくいったときに、事業所と対象者がWin-Winの関係へ進んでいきます。対象者のこわばった顔が、少しずつ笑顔になっていきます。職員も対象者を仲間として自然に受入れていきます。このようなビジョンを持って、引き続き就労支援事業を行っていきたいと考えています。
現段階では、法人内の事業に留まっていますが、今後は事業所の所在地である地域を拠点として広げ、そして何より、当事者がやり甲斐を感じながら、輝いた人生が送れるように、役割を果たしていきたいと考えています。

 

<法人紹介>

社会福祉法人多摩養育園

昭和23年、曹洞宗の寺院住職により創立された。戦後、焼け野原だった八王子市内のお寺の本堂を開放して、無料託児所としたのが始まり。現在、八王子市を拠点として、府中市、小金井市、あきる野市の20か所で、保育園、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、救護施設、障害者支援施設、地域包括支援センター、介護予防推進センターなど、さまざまな施設を運営している。