子どもの居場所づくり、「にこにこ清風食堂」の活動を通して
社会福祉法人賛育会
「高齢者だけではなく、子どもたちにも目を向けて欲しい」という言葉から始めた子ども食堂「にこにこ清風食堂」の取り組みを紹介します。利用料は1回100円、おかわりは自由、夕食のほか、遊びや学習支援の場も提供しています。
令和元年10月2日開催「社会福祉法人の地域における公益的な取組み 実践発表会」において発表いただいた内容を編集しました。社会福祉法人賛育会 第二清風園 北川 達三 氏
令和2年10月26日掲載
賛育会の沿革
社会福祉法人賛育会は、1918年に創業者らが、墨田区で母子の無料診療から事業を始めました。地域公益活動の精神が現在にも受け継がれています。町田事業所には1964年開設の清風園と1997年開設の第二清風園という二つの特別養護老人ホームがあり、定期巡回訪問介護看護や地域包括支援センターなどの事業も運営しています。
子ども食堂を始めたきっかけ
子ども食堂を始める大きなきっかけとなったのは、清風園のある金井地区を担当している民生委員から、「地域の高齢者だけではなく、子どもたちにも目を向けて欲しい。清風園らしい活動をしてほしい」という一言でした。
こども食堂 にこにこ清風食堂
清風園は開設以来55年間、町田市金井の町内会の一員として、住民の皆さんとともに歩んできました。地域の方から頼まれると断りにくいという関係ができあがっています。また、私たち法人は、墨田区で地域における母子の安心のために、無料診療からその歴史が始まっています。社会福祉法人として、地域における公益的な取り組みを行う責務もあります。そこで、何とか協力したいという思いから、子ども食堂を始めることにしました。
活動の現状
2016年6月に第1回子ども食堂をスタートして以来、2019年8月15日までに77回開催しています。第1・第3木曜日の17時から19時までの開催です。利用料は1回100円で、おかわりは自由。夕食のほか、遊びや学習支援の場も提供しています。
こども食堂の活動状況
一回あたりの子どもの平均人数は29.7人で、ボランティアは平均11.5人が関わっています。年度が替わると、顔ぶれは多少入れ替わりますが、一度、来てくれた子どもが友だちを誘って来てくれるなどリピーターも多く、地域に根付いていることを実感します。
直近の2019年9月19日は、未就学児も含めて52名の子どもが来てくれました。用意したのは30食でしたが、メニューがカレーだったので、調理担当のボランティアがちょうど良い具合に分けてくれました。
活動のプロセス
2015年12月に民生委員の一言で子ども食堂の検討に入り、2016年1月には施設内に「にこにこ清風食堂」プロジェクトチームを立ち上げました。そして、新聞の折り込み広告でボランティアを募集したところ、調理担当希望のボランティアに保育園の給食調理の経験者がいたことから、そのつながりで調理メンバーが集まりました。
2016年3月と5月にボランティアミーティングを開催し、名称やコンセプト、開催頻度、参加費などについて話し合いました。さらに、遊び担当、会計担当なども決めて、その担当ごとに具体的な方法を話し合いました。ボランティアリーダーとともに、地域の小学校、中学校を回り、子どもたちに子ども食堂に来てくれるように働きかけました。
さらには、玉川大学教育学部中村ゼミに協力を依頼し、毎回2~3名のゼミ生が遊び・学習支援のボランティアとして参加してくれることになりました。教師を目指す教育学部の学生には、学校以外で子どもたちがどのように過ごすかを知る機会になり、その点にメリットを感じてもらえました。
活動資金と財源
設備や人材は、社会福祉法人の強みをフルに活かしています。設備は、デイサービスのスペースと中庭、グループホーム、会議室などを活用しています。人材は、在宅と特養の専門職をプロジェクトチームのメンバーに入れ、ボランティアとの連携をお願いしました。
スタート当初は、資金集めに苦労しました。しかし、実績を積み重ねるうちに、国際ソロプチミスト協会やロータリークラブの慈善団体など、賛同者や団体からの寄付が集まるようになりました。
また、食材は、時期によって集まったり集まらなかったりというバラつきはあるものの、農協、給食委託業者、他法人のデイサービス、二木の菓子、フードバンク、会計士事務所、個人から提供を受けています。
地域、関係機関との調整、関わり方
町田事業所の清風園、第二清風園の管理栄養士が協力して、衛生管理、食材集めなどに関わっています。また、町田市社会福祉協議会と情報を共有し、行事保険(当日参加型)にも加入しています。さらに、町田市子ども生活部と情報交換を行い、町田市子ども食堂ネットワークに加入し、定例会に参加しています。民生委員、小学校、中学校とも情報交換を行っています。
住民との関わりで、大きな柱となっているのがボランティアの存在です。ボランティアのリーダーは、バランス感覚に優れ、職員や学生が主体になる場でも、俯瞰的な視点で、子どもたちの居場所になるような意見を出してくれます。また、小児科クリニックの協力で、落ち着きのない子、仲間に溶け込めない子、女の子の格好をさせられた未就学の男児など、気になる子どもがいると関わりを持って、継続的にフォローしてくれることも大きな力となっています。
ボランティアの皆さんには、それぞれが持てる能力を発揮してもらっており、時間外の作業で負担が大きくならないように心がけています。
課題と効果
注意欠陥・多動性障害と思われる未就学児や、家庭に問題があると思われる子どもたちの参加が増えています。保護者が過剰に子どもに関わって、職員にご意見を伝えてくださることもあります。家庭崩壊をうかがわせるような家庭の子どももいます。このような子どもたちとの関わり方が課題です。
多動傾向のある子どもに対しては、学生にマンツーマンで付いてもらったり、子ども食堂が終わった後のミーティングで関わり方を話し合ったりして接していますが、うまく関われていない部分もあります。課題が大きくなったときは、年2回のボランティアミーティングで、玉川大学の中村教授にアドバイスをもらったり、小児科医に相談したりしています。
そうした気がかりな子どもは、30人のうちの4~5人程度です。多くは問題のない子どもです。子ども食堂に来ることによって、高齢者施設が安心して過ごせる居場所になっています。高校生、大学生や大人、高齢者と過ごすことで、さまざまな世代の大人と会話する機会が増え、社会性が身につくという効果もあります。
また、子どもの送迎をするお母さんにとっては、相談できる機会、他の世代と接する機会が生まれています。
今後の展望と抱負
子どもたちが高齢者と接する機会は、主に食事の時間です。あとは大学生と遊んだりしていますが、どこかのタイミングで、子ども向けに認知症サポーター養成講座のようなものを開き、高齢者の気持ちを理解してもらう場を設けたいと考えています。
私たちは、どのように子どもと関わったら良いか、まだわからないところがあります。その点、教育学部の学生たちは、子どもと関わるのが上手です。今後は、そういった人たちから、職員が子どもへの接し方を教わる機会も設けていきたいです。
そして、地域から貧困の子どもや孤食の子どもが、少しでも減っていくように関わっていきたいです。あるミーティングでは、年末年始の開催が議題に上り、1月2日の開催について話し合ったところ、「そういう時こそ居場所を求める子どもたちがいるから、是非やりましょう」と学生の方から言ってくれました。地域から必要とされる限りは、活動を続けていきたいと思っています。
<法人紹介>
社会福祉法人賛育会
1918年に東京帝国大学学生基督教青年会(東大YMCA)の特別会員有志だった創業者らにより、キリスト教の趣旨に基づき、婦人と小児の保護・保健・救護を目的に、「賛育会」を創立。同年、墨田区で母子の無料診療から事業を開始する。現在は、病院・診療所、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、通所介護、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援事業所、グループホーム、ケアハウス、保育園を運営。全ての事業をキリスト教の「隣人愛」の精神に基づいて行っている。町田事業所には、1964年開設の清風園と1997年開設の第二清風園という二つの特別養護老人ホームがあり、定期巡回訪問介護看護や地域包括支援センターなどの事業も運営している。