地域共生社会の実現に向け、“オール東京の社会福祉法人” による地域公益活動を推進します。

東京都地域公益活動推進協議会

ホーム > 各法人の取組み事例の紹介 > 『住宅確保要配慮者居住支援法人としての取組み』について

このページをプリントします

『住宅確保要配慮者居住支援法人としての取組み』について

社会福祉法人 大三島育徳会

【令和4年度 地域公益活動推進協議会実践発表会 表彰作品要旨】

令和4年度 東京都地域公益活動推進協議会 幹事長賞

『住宅確保要配慮者居住支援法人としての取組み』の発表要旨をご紹介します。(推進協事務局)

令和5年2月21日掲載

発表要旨

※「令和4年度  東京都地域公益活動推進協議会  実践発表会」においてご発表いただいた内容を、事務局で要約しました。

[発表者] 社会福祉法人 大三島育徳会 地域公益活動室 室長 坂井 祐 氏

 

地域に根差した社会福祉の実践を理念に

当法人は、「地域に根差した社会福祉の実践」を理念として、世田谷区内の10拠点で16事業を運営しています。統括本部内に地域公益活動室を設置し、積極的に地域公益活動を行っています。

主な地域公益活動として、生活困窮者就労訓練事業、要保護児童の居場所作り「コージープレイス」の実施、生活困窮者への食支援を実施しています。そして、令和3年9月に住宅確保要配慮者居住支援法人の認可を受け、新たに住宅確保配慮者への居住支援を開始しました。

 

世田谷区内の空き家を活用して居住支援

居住支援を行う理由として、世田谷区内の空き家問題があります。世田谷区には、都内自治体の平均値よりも突出した数の空き家があります。一方、高齢者を中心とした要配慮者は増えています。社会福祉法人として取り組むべきニーズであることから、支援を開始しました。

<世田谷区の空き家数等の状況>  図をクリックすると拡大されます

世田谷区の空家数推移グラフ

世田谷区の高齢単身世帯推移グラフ

 

支援方針は、住み慣れた町・地域で安心して暮らし続けることと、住まいの確保、生活の支援を一体的に提供することです。高齢、障害、生活困窮、建物の老朽化などを理由に転居を迫られ、近隣に条件の合う物件が見つからないため、地方へ引っ越すしかない人は少なくありません。住み慣れた町・地域で生活を続けたいのに、それができない人たちへの支援を行います。また住まいの支援だけではなく、生活支援をセットで行います。これまでの法人の経験とノウハウを生かし、生活全般をサポートします。

住まいの支援のために、近隣の不動産業者、家主に本事業の趣旨をあらかじめ説明し、理解を得ておき、迅速に物件を確保できるように準備しておきます。そして、家主と本法人が賃貸借契約を結び、法人から支援対象者へサブリースするかたちで住居を提供します。相談窓口として専用電話を準備しています。相談に対し、必要に応じて自治体、地区社協などの担当部署につないでいます。

生活の支援は、当法人では定期訪問による見守り、相談対応、介護・医療へのコーディネート、緊急時の対応、通院時の同行などを提供しています。また、弁護士・司法書士等の専門相談、引越し、家財処分、死後の手続きなど関係機関に支援を依頼しています。その他電球の交換や話し相手などボランティアにお願いするような支援もあります。

 

初めての支援の経過

ご本人は学校卒業後就職したものの、心のバランスを崩し休職を余儀なくされました。メンタルヘルスケアが必要な状態でしたが、休職が長引くことや復帰しても再度休職することが想定されました。また家族による援助は期待できず、すぐに生活困窮に陥る可能性が高く、当時暮らしていた住居には家賃的に住み続けられないと想定されたことから、支援の依頼が来ました。

面談で現状を確認し、居住したい地域、間取りなど希望を聞き取りました。そして、本法人の支援方針、内容を説明し、納得してもらった上で支援を開始しました。住まいの確保については、近隣不動産業者へ事前に説明していたため、スムーズに安い物件を紹介してもらうことができました。

住まいの提供は、サブリース契約です。家主から当法人が借り受け、数千円程度加算して支援対象者にサブリースしています。加算した差額は生活支援の人件費、その他の経費に充てています。入居前の清掃、引越し作業、Wi-Fi環境の整備など入居時の支援は外部へ委託し実施しました。

現在、当法人で行っている生活支援の一つ目は相談支援です。定期的に面談を実施し、近況報告、困りごとの相談、今後の方向性などを確認しています。本人の性格に配慮し、気になる点はこちらから積極的にアプローチして、随時面談を行っています。二つ目は、就労支援です。当法人が経営する特別養護老人ホームで非常勤職員として雇用しました。介護の補助業務を担当してもらい、就労訓練を実施しています。今後、生活困窮から脱却し、自立するために就労支援は特に重要だと考えています。三つ目は、通院、申請時の支援です。精神科への受診時に付き添い、医師との情報交換を行っています。各種申請を忘れがちなので、申請の補助、提出時の同行も実施しています。四つ目は、自治体を含む関係機関との連携です。支援対象者と関わる関係機関と連携して支援を行っています。定期的にカンファレンスを行い、情報共有と今後の支援について話し合っています。

 

支援対象者の生活が成立しているものの、課題も

成果は三つあります。一つ目は、支援が継続されていることです。初めての事例であり、次々に起こる問題に試行錯誤しながら支援を行っています。その中で、現在まで支援が途切れることなく継続し、支援対象者の生活が成り立っていることが、まずは成果であると考えています。二つ目は、さまざまな課題が抽出されていることです。計画通りには進まず、実際にやってみないとわからなかった課題を現在進行中で抽出しています。三つ目は、支援対象者からの感謝です。親身な支援の結果、「本当に助かっている」「ありがとうございます」といった感謝の言葉と気持ちをもらっています。

課題は、三つです。一つ目は、複合的な問題への対応です。今回の支援対象者は、住居の問題以外に生活困窮、精神的な症状、家庭環境などの問題がありました。今後の支援においても、支援対象者は問題を複数抱えていることが想定されます。二つ目は、各関係機関との連携強化です。支援対象者には関係機関が複数存在することが想定されます。情報を共有し、支援の方向性を統一するための方策が必要だと感じました。三つ目は、支援件数を増やすことです。支援の希望者は多いですが、今回の件を経験してみて、支援にはかなりの労力が必要であることわかりました。支援件数を増やすには、何かしらの対策が必要であると感じています。

 

近隣の法人との連携により効率的効果的な支援を目指して

課題に対する取組みとして、まずは実績を重ねていきます。ノウハウの蓄積には、さまざまな事例を経験することが必要ですが、そのためには支援件数を増やしていかなくてはなりません。しかし、当法人だけでは人員の問題や対応できない専門分野の問題が発生します。そこで、近隣の複数の法人と連携して支援を行っていきます。人材を提供してもらうことで、支援件数を増やし、さまざまな分野で専門性を向上させます。そして、アセスメントから支援の開始、関係機関との連携を含めた支援の過程、最終的な自立までのプロセスを確立させます。これらの取組みで、より効率的かつ効果的な支援を行っていきます。

「福祉は住宅に始まり、住宅に終わる」という言葉があるように、どのような支援を受けるにもまず安心できる住まいの確保が必要です。これからも地域のニーズに沿った地域公益活動を続けていきます。

このページの先頭へ