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多様なはたらく場の広がりを目指して

社会福祉法人 練馬区社会福祉協議会

令和4年度東京都地域公益活動推進協議会「はたらくサポートとうきょう実践報告会」において発表いただいた内容を編集しました。

令和5年3月30日掲載

自立相談支援機関「生活サポートセンター」の概要

 練馬区社会福祉協議会の生活サポートセンターは、生活困窮者自立支援法に基づいた自立相談支援機関です。平成26年4月に開設しました。5名の職員でスタートしましたが、相談件数の増加に伴い年々増員を重ね、令和4年度は13名の職員体制となっています。

 生活サポートセンターの役割の一つ目は、さまざまな生活課題を抱える人の相談窓口です。離職・減収により家賃や公共料金が支払えない、債務・滞納等の借金があるといった経済的な困り事をはじめ、病気・障害・引きこもり・DVなど相談内容は多岐に渡ります。複合的な課題を抱え、何から手をつけてよいかわからない相談者さんも多く、丁寧なアセスメントを行いながら課題を整理し、優先順位をつけて支援を行っています。二つ目は、課題解決に向けた支援です。生活サポートセンターだけで解決できる課題は少なく、福祉事務所や保健相談所などの行政機関、民間施設、医療機関、弁護士や社会保険労務士等の専門職と連携しながら支援しています。三つ目は、地域福祉に取り組んできた社協の強みを生かし、住民や関係機関と連携し、地域で支える仕組み作りの推進です。

 相談者の年代は20代が最多で18.3%、続いて30代が15.9%で稼働年齢層の20代~50代が6割を占めます。コロナ禍で離職・減収に至った相談者が急増しましたが、非正規雇用やフリーランス、外国籍の人など元々不安定な就労状況に置かれていた層がコロナ禍により浮き彫りになりました。相談を通じて貧困は個人のせいではなく、社会が作り出しているものだと強く感じています。

就労体験を必要とする人とは

 こうした状況下で、中間的就労体験を必要とする人が一定数いることが見えてきました。仕事が決まらない、あるいは長続きしない人の中には、障害の有無に関わらず生きづらさを抱えている場合が多いです。

 生きづらさを抱えた人の特徴として、人との関わりが苦手、不安・緊張を感じやすいことが挙げられます。面談や約束の日が近づくと不安で眠れないと訴える人もいます。また、自分のことをうまく話せない、話がよく理解できない人や、わからなくても聞けずにそのまま失敗体験を繰り返す人もいます。社会経験が少ない、相談できる人がいないという人もいます。その結果、仕事のブランクが長くなり、自信を失い、社会から孤立しています。

 こうした人たちは、地域の中で社会経験や自信をつけられる多様な場所と役割が必要です。今回は、生活サポートセンターから地域の社会福祉法人に就労体験を依頼し、受け入れにつながった事例を報告します。

Aさんの事例

 数年間自宅に引きこもっていた50代男性のAさん。体調不良により入院した際、入院先の相談員が福祉事務所へ生活保護の相談をしましたが、資産があったこと、また本人も就労の意欲があったことから、福祉事務所から生活サポートセンターにつながりました。

 就労のために通院の再開を促し、主治医に相談。就労への見通しがついたことで、生活サポートセンターでの支援が始まりました。仕事のブランクがあり、気力・体力の面からすぐに働く自信がなかったことから、社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームに就労体験を相談しました。

 練馬地区の社会福祉法人ネットワークの中で、生きづらさを抱えた人々の就労体験・居場所作りとして、社会福祉法人の敷地内の畑を活用して野菜を作るなど、日ごろから就労体験の受け入れ先として協力を呼び掛けてきたことが、受け入れにつながりました。受け入れ先では、仕事の切り出しを依頼し、園庭の掃除、片付け、車椅子の手入れ・修繕などを挙げてもらいました。

受け入れ先との連携

 受け入れ先では施設の見学、面談に本人と同席しました。就労体験の内容は、「無理なく継続すること」を目標に、軽作業を週1回、午前2時間程度から開始しました。一日の振り返りで、体験後に作業の内容や感想を日誌につけますが、本人と受け入れ施設の担当者がともに進めました。さらに1カ月後、本人と受け入れ施設、生活サポートセンターの三者による振り返りを実施しました。

 2カ月目の振り返りの際には、本人から「もっと働きたい」という言葉が聞かれ、体験時間を週2回2時間に増やしました。3カ月目の振り返りでは、さらに意欲が出てきたことから、

 週2回3時間に増やし、交通費500円を支給してもらえることになりました。4カ月目以降は、継続して受け入れ先で働きたいというところまで意欲が高まり、週3回3時間まで増やしていきました。

 この間、施設側には仕事が単調にならないように、特別養護老人ホームに併設されたデイサービス、居宅介護支援事業所と連携し、仕事の幅を広げたり職員との関わりを多くしたりする工夫をしてもらいました。

本人の変化と就労体験の効果

 当初は、話をするときにうつむきがちでしたが、相手の顔を見て挨拶ができるようになりました。生活リズムが整ったことで健康的な生活となり、禁煙にも成功しました。人と話す機会が増え、通うことが楽しいと思えるようになりました。

 「ここでもっと働きたい」「自分で就職活動もしたい」という意欲がみられるようになり、最終的には、ハローワークで就職活動を行い、清掃業の一般就労につながりました。就労体験後には、本人から「皆さんには感謝しかない」という言葉が聞かれました。

 受け入れ施設は、初めての受け入れで不安があったものの、本人に配慮しながらも特別な人ではなく一職員として受け入れてくれました。体制が整ったことで、新たに就労体験を必要とする人の受け入れにもつながっています。

 就労体験の効果としては、日々同じ時間に起きる、自宅を出て受け入れ先に通う、人と顔を合わせて話す、一つのことを継続するといった小さな成功体験の積み重ねが、大きな自信につながりました。

 役割がある、役に立っている、社会とつながっている、応援してくれる人がいるという実感は、生きる意欲につながります。人には居場所と役割が必要で、身近な地域で日々通える場所と役割がある就労体験は、生きづらさを抱える人にとって大きな効果があります。また、働き方は人それぞれで、ある人は就労、ある人は就労体験、ある人はボランティア活動、ある人は社会体験のためなどさまざまです。就労がゴールではなく、全てではありません。

受け入れ先に期待すること

 受け入れ先の社会福祉法人の職員は、日々生活支援を必要とする人に専門的な支援をしています。そうした対人援助の専門性を生かした視点や関わりがあれば、地域で生きづらさを抱えた人にとって、大きな安心感や心の支えになります。受け入れ先が地域の身近な場所にあれば、生きづらさを抱えた人が自信と生きる意欲を回復していく可能性が広がります。そうした地域は自然に人が生きやすい町になると思います。

 受け入れを理解し、一緒に応援してくれる法人が地域に一つでも増えることを願っています。それぞれの人に合わせた就労体験の受け入れを一緒に考え、進めていきたいです。

※「令和4年度はたらくサポートとうきょう実践報告会」において発表いただいた内容を事務局
    で編集しました。
    [発表者]社会福祉法人 練馬区社会福祉協議会 生活サポートセンター 相談員 倉科 丈人 氏

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