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「食」を通して地域を支える―社会福祉法人武蔵野の取組み

社会福祉法人武蔵野(武蔵野市)

武蔵野市にあるURサンヴァリエ桜堤団地では高齢化がすすみ、一人で食事をしている高齢者が多くいました。そこで、社会福祉法人武蔵野は、団地自治会と連携し、団地集会室でコミュニティ食堂を開催しています。今号では、「食」を通して地域を支える社会福祉法人の取組みを紹介します。

平成28年2月10日掲載


左側から井口大也さん(調理師)、阿部敏哉さん(統括施設長)、吉川百合子さん(調理師)、五十嵐敬子さん(主任・栄養士)

調理スタッフが地域に出ていく

社会福祉法人武蔵野 桜堤ケアハウスの周辺地域では、コミュニティセンターや団地が主催するお祭りがいくつもありました。桜堤ケアハウスでは、給食調理業務を委託せず直営で行っています。桜堤ケアハウス調理員の井口大也さんは、「美味しい食事を食べると、みんな幸せになる。『食』を通じて地域とかかわりたかった。足腰が弱って施設まで来られない人にも届けたくて、地域に出ていくことにした」と話します。7年ほど前から、調理スタッフ自らがお祭りなどに模擬店を出し、周辺地域の方々と顔なじみの関係を作ってきました。


調理員の井口大也さん。優しい人柄と手際の良さが自慢です

その取組みの成果として、地域の方々とすれ違う際に、それまでの「おはようございます」に加えて「この前のお祭りで買った『肉まん』は美味しかったよ」などの会話が生まれ、地域との距離が縮まりました。地域との「食」を通したつながりは、当初は食事サービスのスタッフのみの活動でしたが、4年前からは桜堤ケアハウスの全職員でかかわるようになりました。

団地住民の課題を把握

桜堤ケアハウスから徒歩3分の場所に、約950世帯が暮らす「URサンヴァリエ桜堤団地」があります。高齢化率は約32%(市全体約21%)です。団地自治会が行った地域の関係機関懇談会では「ゴミの分別やゴミ出しが困難」「隣近所から孤立している」等の団地住民の課題が明らかになりました。

桜堤ケアハウスは、団地で暮らす高齢者の生活課題を共有したいと、自治会事務所内に高齢者向け配食の配達ステーションを設けました。そして、団地住民の中から配達してくれるボランティアを募集することで、日常的に自治会役員や事務員、ボランティアの方々と顔なじみの関係を作りました。

さらに、平成25年度には、団地で暮らす高齢者の生活実態を把握するために、自治会と桜堤ケアハウスとが協働で全世帯にアンケート調査を実施しました。回答した65歳以上の世帯の約半数が80歳以上で、そのうち独居、老齢夫婦のみの世帯が約9割、食事を毎食一人で食べている方は半数以上、そして会食型食事サービスの利用希望は半数程いました。これらをふまえ、「食」を通して住民同士が出会える居場所づくりの必要性を考えました。

団地自治会には、住民同士の親睦を深めるサロン活動がいくつかありますが、自治会活動に関心を持つ住民の減少、担い手の固定化などと役員の負担増が課題でした。そこで、桜堤ケアハウスでは、自治会役員と「コミュニティ食堂」の具体化に向けて話合いをしました。財源は、東京都の「地域の底力再生事業助成」を活用しました。フロアを切り盛りするボランティアスタッフは団地住民から募集し、利用希望者への試食会を行うなど、開店に向けての調整を重ねました。

「火曜」にみんなが「通う」

平成26年9月にコミュニティ食堂「よりあい食堂かよう」をオープンしました。名称は、試食会にいらした方からの提案により、「火曜」と「通う」をかけ、「よりあい食堂かよう」と名付けました。団地の集会室を会場とし、毎週火曜日の正午から午後2時まで開いています。毎回30名程が参加し、ガラス張りの明るい場所で、食事を食べながら会話を楽しんでいます。1食500円で栄養バランスのとれた美味しい食事が食べられます。


彩りの良い栄養バランスもとれています。せともの食器で温かみがあります

参加者は、主に自立している高齢者ですが、介護サービスを利用している方や認知症症状がある方も参加しています。桜堤ケアハウスの在宅介護支援センター職員らが食事中にテーブルをまわりながら、世間話の中から困りごとを聞きだし、介護保険サービスや他の社会資源につなげています。また、12月からは、利用者からの希望で「歌の会(介護予防事業)」が始まります。

安心して参加できる

参加者のAさんは夫婦で参加しています。夫には認知症があり、介護サービスやテンミリオンハウス*も利用しています。Aさんは「『かよう』等のランチを利用することで昼食を用意する負担が減った。スタッフは認知症サポーターの ”オレンジリング“をつけている人もいて安心できる」と話します。

ボランティアスタッフは10名程が登録し、3名ずつローテーションで担当しています。1人月1~2回の活動です。「毎週だと負担感があるけれど、これくらいならちょうどよい」とボランティアの皆さんは話します。急に休む必要ができた場合などは、自治会役員さんらが代理を打診してくれるなど、コーディネートしています。


ボランティアのお子さんも配膳に活躍しています

テンミリオンハウス

武蔵野市が、地域の福祉団体や地域住民に年間1,000万円(テンミリオン)を上限に補助し、ミニデイやショートステイ等、特色ある事業を展開

職員が地域に出るための工夫

桜堤ケアハウスの食事サービス部門では、施設利用者への食事の質を落とさず、職員が地域に出ていくための工夫を考え、通常業務の無駄を洗い出して見直しをしました。当初は、調理スタッフが地域に出ていくことを「大変かもしれない」と躊躇している職員もいました。しかし、実際に「かよう」で調理してみると、地域住民が「美味しい」と直接感想を寄せて、やりがいを感じるようになりました。時間がゆったり流れる食堂の雰囲気の中で、仕事ができるのも楽しさのひとつのようです。

調理スタッフに限らず職員が地域に出ていくことで、今までより地域住民と顔見知りになることができました。「こんにちは」の挨拶から、世間話や地域の話題になり、そして健康・医療・介護の話と不安を早めに把握でき、訪問につながるケースもあります。相談になる少し前の困りごとや悩みをキャッチし、専門職が早めにアプローチできました。

住民が主役、専門職は黒子

「よりあい食堂かよう」の運営について、自治会役員・事務員は会場予約や利用人数の集約、ボランティアスタッフの調整、助成金の申請手続きなどを担い、ボランティアスタッフは利用者のお迎えや料理の配膳を担っています。そして、桜堤ケアハウスは調理スタッフと相談員を派遣し、調理や相談対応、また運営がスムースに行えるようコーディネートを担っています。市の生活支援コーディネーターも「かよう」を通して、住民同士の支え合いづくりにかかわっています。


ボランティアのみなさんと生活支援コーディネーター(左端)

専門職の主導ではなく、団地住民が中心に取組むことで、自然な近所づきあいと顔見知りのネットワークが広がります。桜堤ケアハウス施設長の阿部敏哉さんは、「住民の関係性を壊さないようにかかわるのが大切。専門職の役割は、住民同士の関係づくりをそっと後ろからお手伝いすること」と話します。社会福祉法人武蔵野では、「かよう」の取組み成果を生かし、他地域での展開も検討しています。


ボランティアは優しくそっと住民をささえています


在宅介護支援センターの職員とも話が弾みます

 

社会福祉法人武蔵野

〒180-0001 東京都武蔵野市吉祥寺北町4-11-16
TEL:0422-54-7666/FAX:0422-54-7599
Mail:musashino@fuku-musashino.or.jp

平成4年に設立、6年に現在の法人名に変更。児童、障害、高齢まで様々なライフステージで支援を必要とされる方々を対象に21施設、38事業を展開。「地域社会に役立つ」を基本理念に、福祉サービスを必要とする方の基本的人権を尊重し、その人らしい暮らしが送れるように支援している。