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様々な福祉ニーズを抱える方への「フィッティングサポート」~人としての尊厳を守る~

社会福祉法人 聖ヨハネ会

市の受託事業である配食サービスをご利用頂いていた方が、認知機能の低下で自宅がゴミ屋敷化。近隣から苦情も発生し、包括支援センターが介入を試みたが拒否が強く介入が困難でした。そこで、サービスを受け入れてくれていた当法人が中心になりチームを形成し、役割分担などを決め、ゴミ屋敷の清掃や介護老人福祉施設への入所など必要なサポートを行いました。

平成29年7月28日掲載

1 フィッティングサポート(以下「FS」)の取り組みに至る背景

(1)持続可能な介護保険制度構築のための法的縛り

介護保険サービスは、法律、基準省令、解釈通知、留意事項通知、Q&Aなどによって保険サービスとして枠組みが定められています。そして、この定型化された枠組みは制度改定毎に厳しさを増しています。

その結果、現場では生活者の多様な福祉ニーズと介護保険サービスとのあいだにミスマッチが生じ、さまざまな課題が散見されます。この状況で特に留意すべきは、このミスマッチが本来福祉を必要としている対象者に影響が大きいという点にあります。

それだけに、私たち介護保険サービスの担い手は、保険サービスでは対応しきれない多様な福祉ニーズに対しどう向き合うのか?日頃より問われる状況に身を置いています。

介護保険制度が持続可能な制度としてあり続けるため、その法的縛りを強めれば強めるほど、多様な福祉ニーズへの対応は深刻な課題として浮き彫りになりつつあります。

(2) 認知症等によるケアマネジメントの難しさ

私たち社会福祉法人聖ヨハネ会高齢福祉部門がFSに取り組む背景の2つめは、「認知症等によるケアマネジメントの難しさ」が挙げられます。この難しさを説明するうえで、報告者は『ラポールコスト』と『サービスフィッティングコスト』という造語をつくりました。

①ラポールコスト

『ラポールコスト』は、意思確認や信頼関係を形成する手間に係るコストを意味します。

介護保険制度サービスは、保険給付対象者とサービス事業所が契約を結んで、はじめてサービスの利用が可能となります。しかし、認知症や精神疾患等があると、契約行為自体が難しいためサービスの利用ラインに乗りにくい傾向があります。

そうなると、もっともサービスを必要としている方がサービスを利用できないという皮肉な事態も発生してしまうわけです。したがって、認知症や精神疾患などがあるために契約行為が難しい方々に対し、私たちは契約行為を結ぶための手間や努力を惜しまないように努めなければならないのです。

根気強い訪問による顔馴染みの関係づくりや権利擁護事業などに繋げてからのサービス手続きなどがその一例ですが、いずれも介護報酬の対象外の支援ですので、取り組み自体はケアマネジャーやサービス提供事業者など契約行為を結ぶ事業所に一任されているというのが実態です。

私たち社会福祉法人聖ヨハネ会は、このような実態に対し法人の理念や社会福祉法人の立場から、認知症等によりケアマネジメントが難しいケースに対し、必要な支援が行き渡るよう、たとえ自分たちの持ち出しの支援でも必要があれば、積極的な支援主体となるよう努めているところです。

 

②サービスフィッティングコスト

たとえば、ご利用者様が認知症や虚弱者であるという理由で、デイサービスなどではご利用の「滞在時間の短縮」に取り組んだり、「単独送迎」を行ったり、あるいは「参加できるサービスを新たに創る」など、ご利用者様側のニーズに介護保険サービスがフィットするよう工夫や調整を行っていますが、そこにかかる手間をコストとして捉え、『サービスフィッティングコスト』と呼称することにしました。

なぜ、コストとして捉える必要があるかと言いますと、「ラポールコスト」も「サービスフィッティングコスト」もコストの対象が“多様な福祉ニーズに対する手間”であって、介護保険制度下では介護報酬の適用範囲外の取扱いとなっているからです。

デイサービスでの「滞在時間の短縮」は、認知症や虚弱高齢者の実態に鑑みると必要な支援と考えられますが、デイサービスの介護報酬は滞在時間に応じて設定されています。つまり、長い滞在時間ほど高い報酬設定で、逆に短ければ短いほど低い報酬設定とされているのが実情なのです。したがって、ご利用者様の状態に合わせて時短希望のケースを受入れれば受け入れるほど通所介護事業の収入は目減りし、事業所の収支は厳しさを増す結果となります。

「単独送迎」もいわゆる時短希望のケースにとっては欠かせない支援ですが、事業者がご利用者様のニーズに合わせて「単独送迎」に取り組めば取り組むほど「燃料費」や「人件費」が通常のグループ送迎とは別に発生し支出はその手間毎に増える結果となるのです。

このように、ご利用者様が必要としている支援をサービスとして提供すればそれで良いかというと、介護報酬は利用者ニーズを中心として正当に評価しているかというと決してそうでもない一面があることやそのために事業者はたとえ持ち出しであっても利用者ニーズに応じるのか否かなど、日々判断を迫られている状況から簡単ではない現実があることを私たちは理解する必要があると思います。

こうして2つのコストを明らかにした理由は、私たち社会福祉法人聖ヨハネ会をはじめ多くの社会福祉法人がその公益的立場から、介護保険制度の設計事情による生活者の多様な福祉ニーズと介護保険サービスとのミスマッチをうまくマッチングできるよう現場で対応していることを明らかにしたいと考えたからなのです。

 

(3)法人理念を実践につなげるキーワード探し

『カトリックの精神に基づき永遠の生命を有する人間性を尊重し「病める人、苦しむ人、弱い立場の人」に奉仕します。』というのが、私たち社会福祉法人聖ヨハネ会の理念です。

キリスト教が理念のバックボーンとしてある法人ですので、理念には当然のことながら宗教的な色彩を帯びた表現もなされていますが、キリスト教について知らない職員に「カトリックの精神に基づき…」と語りかけても正直思うように伝わらないというのが現実です。

たとえば、聖書に出てくる「善きサマリア人のたとえ話」をもとに、当会における福祉の実践を「ボン・サマリタン」という言葉で表現していた時期がありましたが、これも聖書を紐解かねば分からないものです。「ボン・サマリタンとはどういうことを指すのですか?」という問いかけを以前職員に対し行ったことがありましたが、明確に応えられる職員は限られていたように思います。

したがって、私たちは理念を連綿と継承してゆくうえで、個人の信仰の有無に関わらずこの理念を分かりやすく通訳してくれるキーワードを探す必要があったのです。

 

以上3つの背景から、私たちは制度や施策など公的サービスの枠組みや営利第一主義の事業所都合のサービス提供事情などからサービスラインに乗らないケースの福祉ニーズに対し『人としての尊厳が守られた生活が営めるよう、個別のニーズにサービスが適合できるよう信頼関係の構築とサービス・フィッティングを行う福祉サポートを「フィッティングサポート」という。』と定義づけることにしたのです。

2 サービス拒否でごみ屋敷の一人暮らし高齢者への支援

(1)きっかけ

本事例は、当法人の配食サービス以外はサービス拒否があった独居高齢者の事例です。

認知機能の低下により自宅がごみ屋敷となり、糞尿を近隣に投棄するなどの行為に及び、ボヤなども発生させたことで、近隣の保育所・住民から苦情が出ました。

そこで、市担当者や地域包括支援センター職員、民生委員などが介入し、助言や必要な支援を提供するように努めましたが、ご本人は聞き入れず次第に体調を悪化させてしまいました。

唯一、配食サービス(市単独事業)の委託を受けているヨハネ会へは、食事の提供で感謝されておりましたので、私たちはこの信頼関係をベースに介護サービスを導入する方針をたて、介入の計画を立案しました。

 

【清掃前】

 

 

(2)チーム形成

本事例を支援するため、法人内は桜町高齢者在宅サービスセンター・小金井市立本町高齢者在宅サービスセンター・桜町聖ヨハネホームの3つ。法人外は、介護福祉課包括支援係・同課高齢福祉係・ゴミ対策課・地域包括支援センターの4つ、計7つの機関(係)で支援チームを形成し、関わることにしました。

 

(3)取り組みのながれ

支援チームによる取り組みの流れは以下の通りです。

①ご本人との面談⇒現状把握⇒信頼関係構築

まずは、ヨハネ会の配食担当者らがご本人と面談をおこない現状把握を行いました。ご自宅へ足繁く訪問をおこない、生活実態の把握に努めるとともに、何より信頼関係の基礎を築くよう努力しました。

②関係機関との情報共有、課題の共通認識にもとづく支援プラン立案

次に支援チームをつくり、チームメンバーと情報を共有し、そのうえで課題の確認と支援プランづくりを行いました。

③ご本人に支援方針、支援計画を説明し、同意を得る。

立案した支援方針と支援計画をご本人に説明しました。それまではどのような提案も拒否してきたご本人でしたが、信頼関係がほぼ築けていたので、荒れ放題となっていた自宅の一斉清掃について首肯していただくことができました。

④FSの表明と職場内有志の募集

介護保険制度の活用に至らず、また、介護保険制度では対応が困難な本事例に対して、当会はFSとして支援することを部門内で表明し、一斉清掃のボランティア協力を募りました。

⑤サービスの調整と一斉清掃の実施

当日一斉清掃が滞りなく実施できるようご本人にはショートステイをご利用いただき、その間にボランティアの清掃チームが片付けに集中できるよう環境を整え、一斉清掃を実施しました。

 

 

【清掃後】

(4)取り組みのポイント
①公的相談窓口が抱える地域の福祉ニーズの課題を社会福祉法人が共有

ゴミ屋敷問題に対し公的相談窓口は、残念ながら具体的な動き出しに欠け、解決への一歩をなかなか踏み出せない状況にありました。

しかし、社会福祉法人が地域公益活動の実践の一環として、具体的かつ実行可能なアプローチとしてご本人とコンタクトをとる窓口役と具体的支援を展開する介入役の両方をFSとして担い、実行したことでそれまでなかなか動き出しが難しかった関係機関が連携して動き出し、課題解決の第一歩を踏み出すことができました。

②食の自立支援事業(受託事業)を糸口とした事

介護保険サービスに対する拒否があり介入が難しい状況にあった本事例に、支援チームが介入を試みる窓口役を担ったのは配食サービスの部門でした。この配食サービスは、食の自立支援事業(受託事業)の一環で夕食のお弁当配達を行っていますが、その特色は「暮らしを守るサービスの連携拠点」として機能している点にあります。

お弁当は手渡しが原則ですので、配達員はご利用者に異変があった場合に、察知することが出来ます。その場合、配達員は食の自立支援事業のコーディネーターに状況を報告することになっています。報告を受けたコーディネーターは、ご利用者様の緊急度に応じて対応しますが、基本は当該ご利用者様の担当である地域包括支援センターや居宅介護支援事業所に状況を伝え、その後のフォローアップを依頼します。

配食サービスだけは気に入って利用されていた本事例は、配達員やコーディネーターとの日頃の信頼関係が概ねできていたので介入の糸口として活用することができたのです。

③サービスや事業の枠を超えて協働する人材を募りゴミ屋敷清掃にあたった事

FSは制度やサービスの隙間を埋める支援とも言えますが、今回のゴミ屋敷ケースの解決に際しては、既述の通り公的機関を含む7つの機関(係)が関わってくれました。

特に、行政は一般的に縦割り傾向が強いと言われますので、庁内連携も勢い難しいと考えられましたが、今回は利用者支援のために社会福祉法人とともに一致し、連携に努めてくださいました。

また、ゴミ屋敷清掃は莫大なゴミ量と家屋の老朽化や汚染状況から、片付けには人海戦術を取る必要がありました。本会高齢福祉部門においてゴミ屋敷清掃をFSとして取り組むことを宣言し、有志を募ったところ、多数の協力を得ることができました。FSは理念を具現化するためのキーワードとして活用したいと考えていましたが、職員がボランティアとして本事例に関わってくれたことで本会理念に触れ、その意義や意味を良く知る良い機会となったと思います。

 

(5)本事例におけるFSの取り組み成果

①FSを社会福祉法人が実施することで、行政・包括支援センターなど地域福祉の総合相談窓口から地域公益活動の拠点としての評価を受け、信頼を獲得し、連携のパイプを強化しました。

②介護保険サービスでは解決しえない様々な課題を抱える高齢者の尊厳ある暮らしを守り、地域の福祉ニーズ(公衆衛生、防災など)を充足しました。

③FSの社会貢献姿勢に共感し、協働してくれる人材を法人内外で募り、縦割りの制度・サービスでは解決しえない地域の福祉ニーズを充足するところまで関わってもらい、問題解決に繋げました。

 

(6)まとめ

本事例の経過と取組み成果からFSの有効性についてまとめると…

< >は、制度の狭間からこぼれ落ちてしまいがちな“非定型的”で“多様性のある”個別の福祉ニーズを持つケースが“人としての尊厳を守り地域で暮らし続けるための方法”として有効と考えられます。< >は、地域において福祉の発展・充実を使命とする社会福祉法人が、その社会的責任を果たすために“法人の理念をひとり一人の職員が行動できるレベルにまで落とし込むためのキーワード”として有効と考えられます。

 

報告者 社会福祉法人 聖ヨハネ会

小金井市立本町高齢者在宅サービスセンター

センター長 山極 愛郎(やまぎわ よしろう)

 

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本人に寄り添う

取組むにあたっては、本人と面談をおこない、現状把握を行いました(アウトリーチによる実態把握)。そして、関係機関との情報共有や課題の共通認識を図り、支援プランを立案しました(チームづくりと合意形成)。その上で、ご本人に支援方針、支援計画を説明し、同意を得ました(説明と同意)。
その後、有志を募集(社会貢献活動の表明と協力依頼)し、サービスの調整と一斉清掃を実施しました(円滑な目的遂行)。

取組み前

取組み後

 

関係者による協働

市役所、包括支援センターなど地域ニーズの受入窓口機関が抱える課題を社会福祉法人が共有し、受託事業(市配食事業)を糸口とし、縦割りのサービスや事業運営の枠を超えて協働する体制を整え介入を行い、問題解決にあたりました。
このことにより、行政、包括支援センターの信頼関係や連携のパイプが更に確かなものへと変化しました。社会福祉法人の社会貢献姿勢により、縦割りの行政や制度では解決しえない地域の福祉ニーズを充足するところまで関わり、問題解決に繋がりました。

 

制度の挟間に取組む

この活動をきっかけに、諸制度や諸サービスの枠組みから漏れてしまう福祉ニーズに対しサービスがフィットできるよう(サービスラインに乗るよう)関わることを「フィッティングサポート」と称し、以後、地域に住まわれる高齢者とその家族の様々な福祉ニーズに応えられる福祉サポートをすべくフィッティングサポートの取組みを展開しています。

 

※平成29年9月12日「社会福祉法人における地域公益活動」実践報告会より