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活動を通じて生まれる交流と地域づくり

おおたスマイルプロジェクト〔大洋社、大田区社協、大田幸陽会、池上長寿園〕

大洋社常務理事の齋藤弘美さんは「法人が事業を始めてから100年近く経つが、時代はよくなったのだろうか」と考えました。社会福祉法人として緊急のニーズに対応し、地域の子育て支援事業にも取組んできました。けれども、緊急対応だけでなく、そうしたニーズを生み出さない予防が必要。そのために必要なのは「地域づくり」ではないだろうかという思いです。そして、それを考えていく答えは、「現場」にあると考えました。

平成28年11月22日掲載

まずは、現場から地域づくりの答えを探す

大正11年に相談事業を開始してからの営みをもつ社会福祉法人大洋社は、大田区で2つの母子生活支援施設を運営しています。

常務理事の齋藤弘美さんは「法人が事業を始めてから100年近く経つが、時代はよくなったのだろうか」と考えました。社会福祉法人として緊急のニーズに対応し、地域の子育て支援事業にも取組んできました。けれども、緊急対応だけでなく、そうしたニーズを生み出さない予防が必要。そのために必要なのは「地域づくり」ではないだろうかという思いです。そして、それを考えていく答えは、「現場」にあると考えました。

そこで、まずは3年間かけて、母子生活支援施設の職員たちで、これからの子ども・若者・ひとり親の未来のあるべき姿を検討しました。職員自身が長年見てきた母子家庭の姿、そこへのかかわりで悩んできたことを出し合い、「生きる力」をつけるためには何が必要かを考えました。齋藤さんは、その検討にあたって大切にしたポイントに「わかりやすく、取組みやすいものを作る」「架空の人の未来ではなく、事例を話し、具体的な人をイメージすることで考える」の2つを挙げています。

こうしてできあがったのが、「生きる力を身につける」ことを目標とした「学ぶ」「食べる」「動く」「体験する」の4つのプログラムの提案です。

図:「生きる力を身につける」ことを目標とした4つのプログラム

さらに、齋藤さんは、地域で暮らしていく「生きる力」を身につけていくためには、地域の理解と協力者を得る中でこそ、それが地域づくりにつながると考えました。それは大洋社という一つの法人だけでは取組めないものです。齋藤さんは、自らが見てきた母子家庭の姿から「高校で中退してしまったり、一回うまくいかないことがあると不安定になってしまう。大人のモデルを知らなかったりもする。何度でもやり直せることを知らない」と感じていました。それは、地域の人たちや社会との接点で育んでいく必要があります。

齋藤さんは最初、大洋社の役員に町会や民生児童委員がいるので、その方を通じて地域に働きかけることを考えました。しかし、『それでは“個”の協力を求めることになってしまう』と思い直し、その時、取組みを一緒にすすめるパートナーとして出会ったのが大田区社会福祉協議会でした。

目的と何が必要かを明確に

大田区社協では当時、区民の寄附で集まった「地域福祉活動積立金」を活用した事業を検討していました。そんな折、平成27年1月、大洋社の齋藤さんから「ひとり親家庭の子どもたちを対象に体験型の学習支援を行いたい」という相談がありました。大田区社協総務課の根本恵津子さんは「明確な目的があり、やりたいことを実現するために何が必要かはっきしていた」とふり返ります。

齊藤さん(右)と、大田区社協の根本さん(左)

実施に向けた最初の課題は、(1)活動場所、(2)運営資金、(3)広報でした。母子生活支援施設を「活動場所」にすることは保安上の課題もあり、困難でした。

相談していく中で、齋藤さんは「社協は、地域の人や組織をよく知っている」と思いました。そこで、地域の理解につなげるためにも、「広報」は社協を通じて地域の人たちに力を借りようと考えました。

根本さんはまず、齋藤さんに「趣意書」を作ることを提案しました。事業を明確なものにして働きかけることが、幅広い人たちと問題意識を共有化するためには必要です。こうして、平成27年3月には、(1)目的、(2)実施体制、(3)対象者、(4)内容などを盛り込んだ「趣意書」ができあがりました。この時に「対象者」として書き込んだのは、該当するエリアの地域で暮らす「ひとり親家庭の小中学生」です。齋藤さんは、取組むべき内容を考えるにあたって「すでに地域に社会資源としてある活動は、そこにゆだねればよい。家族の機能が弱まっている中で、すでにある取組みだけでは実現できないものは何かを考えた」と話します。

平成27年4月には、活動場所の提供をお願いしたい2つの法人「社会福祉法人大田幸陽会」「社会福祉法人池上長寿園」に協力をお願いしました。2つの法人から得られる協力は、活動を展開する中でのちにさらなる広がりを見せますが、最初にお願いしたのは活動場所の提供です。

平成27年6月には、関係機関との調整と広報の準備にとりかかりました。自治会、民生委員児童委員協議会、区特別出張所、区教育委員会へのあいさつ回りです。お願いしたのは、地域のひとり親家庭への広報です。民生委員児童委員からは「最近は、ひとり親家庭を訪ねてチラシを配りに行くのは難しいが、チラシを持っていれば、必要とする方がいるときに渡すことができる」と話してくれました。

このように地域の関係機関の協力を得ていきましたが、齋藤さんが地域づくりの視点から重視したことが一つあります。それは、「協力いただいた結果を目に見える形で、きちんと報告すること」です。「地域にある課題」として捉えてもらうためにも、それは欠かせないことになります。

活動を通じて生まれる交流と地域づくり

平成27年10月には「おおたスマイルプロジェクト」の初の取組みである「れいんぼう大森」、「れいんぼう久が原」がスタートしました。「学ぶ」:漢検の勉強など、「食べる」:学習後の食事づくり、「動く」:園芸活動など、「体験」:さまざまな場所に出かける見学や職場体験など、の4つのプログラムを軸にした活動です。1年間を前期と後期に分けて、半期ずつ募集し、月2回の学習会と調理体験、月1回の身体を動かす活動または体験を行うプログラムです。

図:おおたスマイルプロジェクト

特別養護老人ホームを運営する池上長寿園では、1回目の体験プログラムの後、高齢者も子どもが来てくれたことを喜び、自然と子どもからも「今度、おばあちゃんと食べたい」という声が上がったことから、「一緒に食べる」という交流も生まれました。特養の職員も子どもとのかかわりが生まれ、お互いの法人が他の法人の仕事を見ることは刺激になっています。

また、障害福祉事業所を運営している大田幸陽会が区役所で営業しているカフェを見学に行き、「はたらく」姿のイメージを目にしました。さらに、民生委員児童委員の協力を得て、子どもたちに着付けの体験プログラムを実施し、畑では野菜の栽培に自治会長が指導してくれました。

地域社会の中に自分が所属するという経験から自分たちの将来に夢や目的をもって生きていく力をつけていく活動が始まっています。

一つの活動を大きな流れへ

小中学生を対象にした「れいんぼう」のプログラムは、「生きる力を身につける」ための入口の一つです。齋藤さんは「あきらめないことは、何歳であっても大切」と話します。現在、15~39歳を対象にした「JOY」(資格取得、就労支援、集団生活になじめない方への支援)、「ままれいんぼう」(資格取得、生活力を高めるための体験プログラム)を新たに実施しています。この新しい取組みでも、「生きる力」として「学ぶ」「食べる」「動く」「体験する」をベースにプログラムを作っています。

また、大田区社協では、平成27年7月に区内の社会福祉法人が参加する「大田区社会福祉法人協議会」を発足しています。現在は、区内外の34法人が参加しています。参加法人に「おおたスマイルプロジェクト」の取組みを紹介するなど、勉強会を重ねながら、エリアごとに地域づくりのグループワークをしたりしています。勉強会では「自分たちの出せる強みや資源が十分に整理できていない」という課題も出されました。

平成28年10月29日には、試験的な取組みとしてひとり親家庭等を対象とした「無料法律相談会」を開催しました。例えば、こうした相談会の時に子どもを預かることを保育所でできないかなど、それぞれの強みを出し合いながら、地域づくりにつながる取組みを模索しています。

 

 

大田スマイルプロジェクト

大田区内の社会福祉法人が中心となり、それぞれの法人が有する資源を活用し、地域の福祉的課題に連携して取組むしくみ。一法人では解決が難しい地域の課題について、複数の法人、または地域の方々と協力し合うことで、課題解決につなげていくことをめざしてしている。